ロット王は愛妻家   作:藤猫

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短めになります。

感想、評価、ありがとうございます。また、いただけましたら嬉しいです。


疾走

 

柄を握った男を見た。

覚悟したような顔で、その剣を死にそうな表情で見つめる男に心底呆れた。

 

「いやあ、どうだい?自分の国を滅ぼすなんて選択をした気分は?」

 

皮肉気にそういった。けれど、それからすればその反応も仕方が無いのだ。何故って、少なくとも、目の前の男はそれだけでそれにとっても焦がれる夢を叶えることが出来るのだ。

それぐらいは赦されるはずだ。

そうだ、その夢を男は求めた。ただの凡俗なる、人間が叶えるにはあまりにも過ぎたそれを。

だからこそ、その男はひどいことをするのだ。己の愛した国を、民を、滅ぼすのだ。

 

「・・・ああ、そうだ。しかたがない。最後の、あの国のなした責は俺が取らなければ。」

 

ああ、何を言っている。何を、何を、これは言っているのだ。

目を見開いた己のことなど見えていないのだろう、男は幾度も頷いた。

 

「この奇跡には感謝している。俺の国の間違いを、確かに正すことが出来るのなら。それ以上のことはないのだから。」

(ああ、なんてことだ。)

 

笑ってしまうだろう、嗤ってしまうじゃないか!

ああ、だって、そうだろう。

それは何よりも、少なくとも、目の前のそれにとっては真実であったのだから。

 

「ありがとう。これで、俺は、自分のなしたことの責を、王としての責を取ることが出来る。」

 

なんてことだ、この王は。

人の歴史の奴隷、人理の影法師、そんなものに成り果ててまで、それは王としての義務を遂行する気でいることを理解して。

白い竜として招かれたそれは呆れてそれを見た。

 

 

 

ふらりと、その男は立ち上がった。

屈強な体、左右に違う青と緑の瞳。端整な顔立ち、大らかそうな雰囲気。

そうして、夜のような黒い髪。

ふらふらとそれは、鈍色の鎧を纏って立ち上がった。ちらりと、騎士が吹っ飛んでいった方向を見た。

体が軋みを上げた。当たり前だ。

自分には到底、過ぎた力を行使したのだから。

 

さあ、残念ながら君のとっておきの一つは使い果たしたね。

 

頭の奥に響く、その言葉にいいえと、男は首を振る。

残念などではない。使う以外に方法はなかったのだから。その程度なのだ。その程度である事なんて、わかっているのだ。

 

(感謝します。俺のようなものに、力をくださったことを。)

 

それは男の言葉に心底愉快そうに音を響かせた。

 

いやいや、いいよ。同じ父親同士だ。それに、まあ、何でも養父殿も活躍しているようだし。私も良いところを見せたくなっただけだしね。ただ、覚えておいて欲しい。私がこれから君に干渉できるのは、一度だけ。

 

静かなそれに男は立ち上がり、何の変哲も無い、その器たる剣を見た。

 

その剣を鍛え上げる、その時だけだ。

 

わかっていると、男は頷いた。己の宝具になるだろう、その剣。今はまだ、その太陽神に借り受けているものを使っている自分。

その宝具を作り出せないのは、未だ、その材料がそろっていないこと。そうして、自分の覚悟が決まっていないこと。

男は己の手を見た。

成熟した、男のそれ。

 

ああ、すまない。君を隠すためのクラスではあるけれど、やはり安定しないね。今、君はそのままの姿をさらしている。このまま行けば、全てばれてしまうよ。私が出てしまったことで、どうもクラスで被った皮が剥がれてしまったようだ。

 

男はそれにぐっと歯を食いしばった。先ほど、ロット王を名乗った騎士。それは己に宿る神のおかげでなんとか戦線を離脱している。あちらにはランスロットがいる。ならば、ヴィーを追いかけるべきか?

男の脳裏に、少女の声がこだました。

己を呼んだ、少女。自分を呼んだ、自分の妻。

 

ねえ、お願いね。

 

こだまする、こだまする。声が、ずっと、己の中でこだまする。

 

お願いね、(モルガン)のことを、止めてあげてね。約束して、そのためになら、ちゃんと切り捨てることも考えて。

 

男は立ち上がる。

そうだ、いつかはばれるのだ。怯えている暇など無い。

自分は奇跡を願った。凡夫の己には過ぎた願い、己が過ぎ去った世界にもう一度戻ること、そこで、自分のなすことを。

王として、義務を果さねば。

駆り立てられるようにそう思った。あの日、自分は王として義務を果たせたと思っていた。

けれど、それは間違いだった。

自分の行いは、自分の妻を間違いに引き寄せてしまった。自分が悪い、自分は間違えた。

あの日、幸せになって欲しいと思った誰もが、苦しんでいる。

 

そうだ、ならば、自分は、彼女を殺さなくてはいけない。

 

震える、手が、足が、震える。だって、怖いのだ。自分は、ずっと、怖いのだ。

剣を持った。覚悟を決めろと、活を入れた。

そんなことは、ずっと、覚悟の上なのだ。

奇跡を求めたのだろう?

彼女の間違いを正すのだと、王としての義務を果すのだと。

己の妻を殺すのだと、そう、奇跡を望んだのだ。自分は、王として死んだのだ。ならば、義務を果さなくてはいけない。

 

行くんだね。

 

優しい声がした。自分のことをずっと励ましてくれた、その声とはしばらくの間、お別れだ。

 

「・・・はい、ありがとうございます。決着までには行かずとも。それでも、行かなくては。」

 

男はそう言って足に力を込めた。

 

 

 

鎧を纏ったそれは、のろのろと起き上がる。それを女王はじっと見ていた。

認識阻害がかかっていたせいで、敵の顔はよく見えなかった。水鏡には、夢を纏ったオークニーを見渡すことが出来る。

暗い、最低限の設備の王座にて、女王はじっとそれを見ていた。

 

 

その騎士が起き上がると同時に、声がした。それは騎士と女王の間にある繋がりのせいで、肉親という繋がり、ブリテンという古き島の守護者としてあり方が強化され、二人の間には特異な縁が出来ていた。

 

『情けない。あの程度に負けるとは。』

「・・・・申し訳ありません。」

 

その言葉を素直に受け取った。何故って、自分は勝って当然で、それの願いを叶えられない自分には価値がないのだ。だから、それを素直に受け止める。

 

『・・・・乙女め。まさか、ケルトの太陽神を召喚していたとは。』

「すぐに追撃を。」

『いや、すぐに終らせる。』

 

その言葉に彼女は全てを察した。

ああ、あれをするのか。それは自分にとってひどい苦痛だ。けれど、拒否する気も、否定する気も無い。

そう望むのならば自分はそれをなすだけだ。

 

『ああ、赤い竜よ。その首輪を外してやろう。』

「賜りました。そうして、一つ、報告を。」

 

騎士が魔女に一つの報告を終えると同時に、その鎧はまるでメッキのように剥がれ落ちた。そこにいたのは、一人の少女だ。

それは、遠い昔、ブリテンという場所の王が出会った存在そのものだった。

 

淡い黄金の髪、美しい顔、怜悧な瞳。

美しい少女だ、まるで神が作り出したかのようにそれは完璧だった。

けれど、それは、どこまでも人ではなかった。

白い四肢に所々混じる、赤い鱗。その四肢の先はまるで血のように赤く変色し、獣のように鋭い爪で覆われている。

そうして、その頭部から伸びた、金の角。

らんらんと輝く、赤い瞳。

 

「Grrrrrrrrrrrrrrrrrrraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

咆吼が響き渡る。この島に住む者に響かせるように、その、獣の叫びは遠く、高らかに響き渡る。

駆り立てられる衝動に身を任せる。その背中に抱えた翼でそれは飛び立った。

己の下された命令に、敵の排除を持って、それは飛び立った。

 

 

「・・・・まさか。」

 

その魔女は茫然と呟いた。何故って、赤い竜から告げられたそれは彼女にとってまったく見当違いなものだった。

 

ルー神であろうそれの顔は、ガウェインによく似ていた。

 

それは確か、コンラと名乗っていたはずだ。魔女はそれに、それの正体がフロレンスであることを予想していた。

聖杯、それによって授かった知識で己の息子が、遠い未来でルー神と同一視されていることは知っていた。

自分の使っているサーヴァントというシステム上、そういった要素が混じる可能性は十分にあった。

だが、それはコンラというそれが偽名であり、ルー神が真名であるというのならば。

魔女は、哄笑を上げた。

 

「そうか、乙女よ!そうだったのか!」

 

モルガンは素直に己であるそれに感嘆の声を上げた。

モルガン・ル・フェは忌々しげにそう吐き捨てた。

 

自分たちとて、どうにかして彼を己の元に蘇らすことはできないのかと頭を悩ませた。けれど、それはひどく難しい。

己が夫は、善き人であっても、人理に刻み込まれるような物語を持たなかった。あまりにも微かなそれでは彼の姿を捕らえることは出来なかった。

だから、諦めた。

今更、自分なんてものの所に戻ってきてはくれないのだろうと思っていた。

 

「ああああああああああ!乙女よ!乙女!そうか、貴様、その算段がある故に、貴様だけで飛び出したのか!」

 

モルガンは妬ましさでそう喚き始めた。

モルガン・ル・フェは怒りのあまり髪をかき乱した。

 

そうだ!

確かに、ロット王という存在を召喚することは難しいだろう。だが、ロット王という側面を持った存在を召喚することは可能なはずだ。

 

「そうか、独り占めか!ひどい!ひどい!ひどくひどくひどくひどく!!とっても酷いではないか!!」

 

自分自身で何を言っているのだろうか。そんなことを、モルガンは頭の奥で考える。

けれど、そんなことは関係ない。

ただ、ただ、そこには、民のことを考える女王はなく、間違いを犯してまでも国を救おうと足掻く魔女はおらず、子の幸福を願う母はおらず。

そこにいたのは、ただ、ひとり抜け駆けをしていただろう存在への悋気に狂う女がいた。

モルガンは王座から立ち上がる。

今は、彼女が散々に抱えた、義務だとか、意味だとか、使命だとか、祈りだとか、そんなものを放り出してしまった。

 

会えるのだ。会えるかもしれないのだ。

あの人に。あの、優しい人に。会えるかもしれないのだ。

ならば、ならば、今は、今だけは。彼女は、ランスを手に取り、まるで硝子の靴を履いた少女のように走り出した。

 

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