投稿、頑張ります。
また、感想いただけましたら嬉しいです。
夢を見ているのだと思った。
ふわりとした浮遊感。うつらうつらと、布団の中でぼんやりと意識を起き上がらせる感覚。
気づけば、藤丸立香はどこか、城の中にいた。美しい、城の中にいた。
はて、自分が一体どこにいるのか?
そんなことを考えていたとき、そっと、己の肩に誰かが手を置いた。
「・・・見てごらん。」
白く、そうして、たおやかな手がそれを指さしていた。
ああ、女のマーリンだと気づいた。立香はそれに指で指し示された方を見た。そこには、二人の姿があった。
白銀の騎士と、そうして、美しい姫。二人は、まるで隠れるように、密やかに、何かを話していた。
その、男の方には覚えがあった。ああ。そうだ。
それは、最強の騎士で、けれど、たった一人の女のために罪を犯した男で。
(なら、あの、綺麗な人が。)
あの騎士達の物語を全て、終らせた姫君。
「・・・悲しい話だ。誰も、きっと、悪くはなかった。いや、笑えるまでの悲劇だね。」
「マーリンが原因じゃないの?」
何気ないような声音で立香がそう言えば、彼女はゆっくりと目を細めた。いつの間にか隣立っていた女はまるで人間のように微笑んだ。
「まさか。そんな干渉など、人のようなことをするはずがない。」
人のように、いつものように、微笑んでいるのに。
それは、どこか、夢うつつの中でぼんやりとした思考の中で。まるで、それは水面に映る虚像のように空々しい。
「何をしようと、人の始めた物語も、願いも、いつかは終る。なら、それに何かをして、意味があるのかい?結末が変わらないというのなら、それに干渉する事以上の無意味さはないはずだ。」
ほら、とまた声がした。指し示された先に目を向けた。そこには、男がいた。
あの、美しい城。獅子王の白亜の城にいた、しかめっ面の文官。
静かで、けれど、燃えるような目をした男。
彼はその幸福そうな、一時の逢瀬を見ていた。そこには不思議と、憎しみだとか、怒りだとかはなくて、ただ、ただ、静かな瞳をしていた。
立香は、何故か、その目から何か、雫が流れ出ているような錯覚を思った。
けして、あり得ないはずなのに。なのに、そんなことを思ってしまって。
「これは、遠い昔の記憶だ。彼がいくども見る夢。彼が幾度も後悔を重ねる記録のそれ。」
また、場面が変わる。水面が揺れるように、ゆらりと消えて、今度は彼が王妃を糾弾するそれ。
怒りを叫び、否定し、燃えるような目で女を見ていた。
そうして、そうして、あの、悲劇の象徴の、最後に、それは変わって。
「彼は冷徹だった。彼は、冷静だった。彼は、彼は、誰よりも己を律していた。けれど、それは一つの怒りで崩壊する。いやはや、人間とは愚かなことだ。禁忌だと知るというのに、それを止められない。不合理な心に振り回される。」
まるで波紋が広がるようにそれはぼやけて消えていく。
立香はちらりと、女を見た。彼女は淡く微笑んで、そうして立香に言った。
「アグラヴェインという男を、君はどう思う?」
「・・・俺は、殆どあまり関わりは無かったけれど。」
ただ、優しい人だと、皆が言った。堅物で、真面目で、それでも彼の兄弟はアグラヴェインという男を優しいと言った。
優しく、堅物で、そうして、誰よりも潔癖であったのだと、そう言った。
それに彼女は頷いた。
「なら、彼は、あの光景を見て、なにを思ったんだろうね。」
努めて穏やかな声音のそれに立香はずっと思っていた言葉を口にした。
「あなたは、誰?」
当たり前のように綴られたそれに、それはにこやかに答えた。
ずっと、思っていた。それが違ういつかのマーリンであるとして。けれど、立香はそれが本当にマーリンなのか疑問であった。
彼女は、いや、それは、どこまでも何もかもに興味が無いように見えた。
「さあ?君達はいつだって見えているものを真実にするのだろう。なら、私は、君が見ているままの存在だ。」
「それは、マーリンじゃないってこと?」
「君が、そう思うなら。」
「あなたはいつも、俺にヒントはくれるけれど。どうして、事実を指し示そうとしないの?」
それに女は笑みを深くした。それは楽しそうに見えるのに、やはり、仮面のように見えた。
「夢とは、見せるだけだ。それをどう解釈するのか。人に委ねられている。」
「あなたは、夢なの?」
立香はずっと疑問に思っていたことを口にした。女は朗らかに笑い声を上げた。
「だから、見ているままなのさ。でも、違う姿を夢見たいというのなら。それもいいかもしれないね。さあ、藤丸立香、今度は彼の夢を覚めさせてあげるといい。」
君は気づいているだろう。
彼は確かに怒っていた。
彼は確かに憎んでいた。
けれど、それだけではけしてなかった。
「さあ、夢から覚める時間だ。」
「さあ、ここだ。」
その場にいた、全員が見つめた先にはやはり白い教会が建っていた。
オベロン・ヴォーティガーンに連れられてやってきたそこにガレスの時と同じように教会があった。
「アギーはここにいるのか。」
「そうだ。ここが終れば、等々、城に突入することになる。」
「え、このまま?」
「そうだ。今は、あのくそ夢魔がいろいろとお前達のことを隠しているが。ただ、時間は少ない。聖杯の欠片についてすぐに回収して、城に急ぐんだ。安心しろよ、感動の再会はすぐそこだ。」
「すまない、ガへリスは、どこに。」
オベロンのそれに、ロットはそう言うと彼は憎々しげに返事をした。
「・・・くそ夢魔曰く、彼はこちら側だそうだよ。何か仕事を頼んでいるとは聞いている。」
「そうか。」
「それじゃあ、こっちはこっちで別の仕事があるんでね。さっさと退場させてもらう。」
「オベロン殿。」
「あ?」
「礼を言う。」
にっこりと微笑んで、ロットはそう言った。そうして、そのまま教会に向かう。それにランスロットとモードレッドが続いた。立香は思いとどまるようにオベロンに振り返った。
「オベロン。」
「なんだい?」
「ここでお別れ?」
何気ない風に立香は言った。それにオベロンは顔をしかめた。
「当たり前だろ。こっちは無理矢理連れてこられて、そのままなんだからな?やれって言われたことの準備があるんでね。そっちに回らせて貰う。」
「あ、やっぱりそうなんだ。」
「大体、あんなくそ野郎に従ってられるか!」
「でも、協力はしてるんだね。」
立香は何気なくそう言った。それにオベロンは顔をしかめた。
ずっと、疑問であった。オベロンというそれのことを、これでも立香はある程度は知っていると思っていた。
彼の性格ならば、マーリンの言葉なんて絶対に聞くはずがないのに。
「・・・さあ。ただ、今度こそ、この島を滅ぼせると思うと嬉しくてたまらなくてね。」
それは彼らしい言葉のようだった。彼らしく、なにもかもへの嫌悪が見て取れた。
立香は聞こうと思っていたことがあったが、それは胸の内に止めておくことにして、三人の後を追おうとした。
「おい。」
「なに?」
「・・・・あの男はさいっこうの王だ。ああ、私慾もなく、ただ、他人のためだけに生きてる。いや、結構だ。お前がなにも言わなくても、尻の一つでも蹴り飛ばさなくてもいいだろうさ。このままなら、ハッピーエンド。」
いや、まさしく、王子と姫君の再会が叶うだろう。
立香は驚いて目を見開いた。
「俺の言いたいこと、わかるだろ?」
「・・・うん。わかったよ。」
立香はそれに頷いて、三人の方に走っていく。その後ろ姿を見つつ、オベロンはあーあとため息を吐いた。
(きっしょくわるいことしたな・・・・)
オベロンはため息を吐いた。自分でもあまりにらしくないことは理解している。
彼の脳裏には、昨夜のことが思い浮かんだ。
「・・・お優しいことで?」
「ああ、ええっと、オベロン殿か。」
オベロンはその男のことが気にくわなかった。いいや、当たり前か。
正しさのために行動する男。己のことよりも誰かを行動指針とする王様。
愛しい姫君よりも、立場を選んだ王子様。
ああ、全てが気に入らないじゃないか。
遠くで輝く星に会えるのに、彼はそれを拒絶した。ああ、ああ、本当に、気に入らない。
藤丸立香への言葉もまた鼻についた。
皮肉を当てるようにそう言った。彼は穏やかに微笑んだ。男は、いつだって穏やかに微笑んでいる。
「いや、世界なんて大層なものを背負わされて、必死に息を切らす子どもに対してお優しい言葉をかけられるねえ。反吐が出る。」
真顔の彼のそれに、ロットはそっと目を伏せた。
「ああ、だが、彼はそれでも生きたいのだろう。」
「死者は気楽だ。生者の尻を叩くだけですむんだからな。あんたのそれはなかなかに生臭いの叱咤激励だ。所詮、客席からの野次でしかない。」
それに対してロットはそっと、上着を掛けてやった子どもを見た。そうして、その頬を撫でた。
眠りに落ちるそれに、彼はどこかで、いつかに見た子どもたちの姿を幻視していた。
「ああ、だが。それでも、野次でさえも時には走る力になる。オベロン殿。きっと、この子どもは走るのを止めないぞ。」
-たとえ、それがどれほどまでに哀れでも、死者がそれに口を出すものではない。彼が、どれほど哀れでも、どれほど、愛おしくとも-
透けて見えた本音。
淡く微笑んだその顔は、静かなものだった。それはオベロンの心を逆なでした。その顔は、まるで、まるで、オベロンのことを心底優しい者だと思っているかのような顔だった。
ふざけるな、そんなものではない。
己のこれは、優しさなどと表現されて良い物ではない、そんなもので表現することを赦すことはない。
嵐の中で、ただ、輝く星。
届くことはない、果ての星。
それはそんな星への祈りならば。願いならば。
そんな言葉で終らせるようなものではないのだ。
「・・・お前、何がしたいの?」
「なに、がとは?」
人のよさそうな顔だ。カルデアで見た、よく似た騎士を思い出した。それに比べて、その男は、まるで、全てを見透かすような瞳をしていた。
話したことはあまりない。それこそ、マーリンを偽って指示を出した程度で、ヴィヴィアンとの会話が挟まれば、その会話はあまりなかった。
改めて、その男と対峙をした。
「だって、そうだろ。愛した女が願う救いをぶち壊して、そうして、民の願いまで踏みにじって?そんなに正しくあってどうすんの?」
「そうだな。」
見てやろうと思った。男の曖昧な、その本音を。呆れた野郎と思った、それでも、愛した女の願いではなくて、それでも夢を壊すその男のことを。
なのに。
「俺は王でなければならない。そう願われた。そう、あれと思われた。そうであるのなら、そう願われるというのなら。俺はそうでなくてはいけない。俺は、優しい女王の夫だから。だから、彼女を止めなくては。」
オベロンは固まった。ああ、だって、そうだろう。
その男の言葉から見た、真実。その男の本音。
目を見開いた、オベロンは思わず、叫んでいた。
「よーくわかった。お前は、どんな奴なのか。」
ああ、なんてことだろうか。この、この、己の役割を遂行すると、そんな聖人じみた顔をして。
「お前みたいな、かっこつけ、見たことがないよ。」
オベロンはそう言って、呆れたように肩をすくめた。
グレイはその時、いつものように城のある道を歩いていた。自分が城にやってきた数日ほど時間が経った。
(・・・この城は外や夢の中に比べて時間の流れがずれていると言っていたけれど。)
グレイはまったくと言っていいほどに城からの脱出が叶っていないことにため息を吐いた。
城での生活は快適だった。
食事は三食きちんと出されていたし、ダイルという男は頻繁にグレイの元を訪れた。彼はにこやかにグレイに話しかけた。
それが、重苦しい。大事にされればされるほどに、彼らが自分に、違う誰かのことを見ているようで。
それが、彼女にとって故郷のことを思い出させて。
グレイは広い城の中を歩いた。
(綺麗な、ところ。)
夜の城は、ひどく美しかった。全てが眠りについているように静かで、けれど、月光に照らされて白亜の城のようにさえ見えた。常夜の城は、美しいけれど、ひどく寂しかった。
人の気配はない。グレイは、ダイルにほかに人がいないのかと聞いたこともあった。
彼はどこか、寂しそうに言った。
「眠っているのです。皆。」
かつん、と。足音を立てた。いつの間にか、グレイは城の入り口にやってきていた。石造りの扉はぴたりと閉じられていて、グレイの力では開けることは出来ない。
(・・・・ここ以外からは出られそうにない。)
城の、例えば窓から出ようとしても、いつの間にか中に戻っている。ダイルも、そうして、モルガンもグレイのそれに怒らなかった。
モルガンは時折、グレイと話すことを望んだ。拒否できるはずもなく、それに応じた。
彼女はよく話をしていた。
それは、例えば、昔の話がほとんどで。
息子のこと、国のこと、争いの話し、魔術の話。そうして、彼女の夫のこと。
それをグレイはどうすればいいのかわからない。
ただ、彼女の話を聞く。
(師匠がいれば、もっと、何かが出来たのに。)
なぜ、ここにいるのが自分なのだろうか。グレイはそっと、己の腰に目を向けた。そこに下げられた相棒は今はうんともすんとも言わない。
モルガンはグレイが城の中を好きに動き回ることを赦したが、彼女が武器を持つことだけは赦さなかった。ただ、昔からの付き合いであることを訴えれば、魔術礼装として使用は出来なくしたが、持ち歩くことは赦された。
ああ、アッドが、いいや、宝具さえ、使えれば。この扉を破ることが出来るのに。
グレイはぼんやりと、月光のさす城を見た。
綺麗だと思った。やっぱり、そこは、綺麗で。王座を思い出す。月光のさす、寂しい、女王の座る王座のことを。
グレイはこれ以上に美しいものを見たことが無いと思ってしまった。
一人、月光の刺す王座に座る女王は、なによりも美しくて。
「・・・行こう。」
グレイは目的の場所に行くために足を進めた。
グレイは城の奥、人気の無い、闇の濃い部分に足を進めた。暗いところは苦手だ。死んだ者たちがそこにうごめいている気がする。
けれど、グレイが向かう場所は幸いなことにそんなものはいない。
木製の扉にたどり着いた。グレイはそこを開ける。
「・・・・こんばんは。」
「また、来たのですか。」
疲れ切った声が、暗がりからした。グレイは持っていたカンテラの光をそっと掲げた。それによって、ようやく部屋の中が見渡せるようになる。
部屋は、簡素なものだ。机と、そうして窓。大きさだけはあるベッドが置かれている。その、ベッドの上、そこには何かが横たわっていた。
太い、爬虫類の尻尾がばたりと壁に当たった音がした。
「はい、バーサ-カーさん。」
カンテラの光の先、そこには、鱗の生えた肌に、縦に伸びた瞳孔、そうして、竜の羽と尻尾をしたグレイのよく知るブリテンの王の姿があった。
彼女はグレイの訪問になんとも言えない顔をした。
簡素なベッドの上、それは面倒そうに起き上がり、グレイに向き直った。グレイはそれに近くに置いてあった椅子に座った。
「・・・女王から私と会うことは禁じられているのではないのか?」
「私がどうしてもといって・・・・」
誤魔化すようにそう言われて目の前のそれは黙り込んだ。女王がそう言うのならば、自分にはどうしようもないかとため息を吐いた。
そうしてバーサ-カーは、そう呼ぶように言われた、グレイに向き直った。
「今日も、許可を取りに来たのか?」
「・・・はい。」
それにバーサ-カーは呆れたようにため息を吐いた。
グレイが彼女の元に通っているのは、己の宝具を使えるようにするためだった。
グレイの宝具は今のところ、モルガンによって封じられているが、元々はそれは目の前の彼女のものだった。
彼女が承認をしてくれればそれでよかった。だが、モルガン側であるバーサーカーがそんなことを許可するわけがない。
「わかって、います。」
バーサーカーはせめてものグレイの抵抗であることも理解してため息を吐いた。そうして、痛みをこらえるようにうなった。
「ある・・・・」
「違う!」
バーサーカーは目の前の少女を見た。己によく似ている、そうだ、うり二つの顔立ち。けれど、グレイはその顔立ちを恐ろしいとは思わなかった。
鱗に覆われ、角が生え、ドラゴンになりかけたその存在が己と同じ形であると、認識が出来ていなかった。
思わず呼びかけた、その名前を彼女は拒否した。
ぜえぜえと息を荒くするそれは口を開いた。
「・・・今日も、話してくれるか?」
「わかりました。」
グレイは口を開けば、とつとつと話し始める。彼女が生活していた、ロンドンでの話を聞いて、バーサーカーはまぶたを閉じた。
かつかつと、またグレイは城の通路を歩いた。
立香たちを探すために、モルガン達は四六時中グレイの近くにいるわけではない。
ふと、立ち止まった。窓から刺す月光のせいか、微かに誰かがそこに立っているのが見えた。
「・・・今日も、だめだったか。」
「はい。」
グレイは目を伏せ、そうして、申し訳なさそうに言った。
微かに照らされたそれは、顔立ちはよくわからない。ただ、月色の髪をしているのだけはわかった。
「あなたは、拙になにをさせたいのですか?」
その男はグレイをバーサーカーの元まで導いた存在だった。
グレイが城に来てすぐ、彼は彼女が一人になると同時に姿を現した。彼は、自分がヴィーの味方であると言った。
彼は、まるで、ヴェールを纏うように顔がよく見えない。
「私は、しがないアサシンだ。ひどく、恥じ入るような物語しか持たぬ身だ。ただ、これだけはと、その恥を知りながら君の前に立っている。」
城の奥、それこそ、暗闇の中に彼女はいた。アサシンは悲しそうな顔をしていた。
グレイはそれに警戒をした。彼が例え、グレイの味方であるとして、そんなにも堂々と行動できるのかと。
それにアサシンは淡々と答えた。曰く、彼は姿を隠すことが得意らしい。モルガンやラモラックから姿を隠すことは、特に。
「あの方は、多くの後悔を抱えている。壊してしまったこと、亡くしてしまったこと、それら全ての責として、あの人は、王ではなく、守護をする竜であることを望んだ。王権は、女王に渡して。」
この島は、夜に浸っている。
それは、夜明けの約束を持たぬ夜であり、光の希望を忘れた闇の中で、皆が夢を見ている。
アサシンはそう言って目を伏せた。
グレイはアサシンの言葉に従った。信じていいかわからなかったが、それでも、今は信じるしかなかった。
「・・・・あなたに会ったときに伝えたとおりだ。この、島の、現実として貼り付けられた、人々の共通意識を引っぺがすためには、君の宝具が必要だ。この城に入り込んだことは幸運だった。この城こそ、夢をうつつに止めるための楔なのだから。あるいは、全て、手のひらの上なのかもしれないが。」
「あなたは、誰ですか?」
グレイの言葉に、アサシンは目を伏せた。
「君に、名乗る資格など、私にはない。」
彼はそういった。グレイは目の前の無口な人に何を言えばいいのかわからずに口を噤んだ。