本編をなかなか更新できずにすみません。
やらかしました、誠にすみません。
ちょっと考えてた小咄です。
「・・・・ロット王、その、今いいだろうか?」
「うん?どうかされたか?」
まったりとしたとある日。
その日、ロットは珍しく一人、自室で過ごしていた。
普段ならば、誰かしらが部屋にいる。
例えば、彼の息子達。そうして、カルデアにて親しくなった英霊達。何よりも、彼の隣には殆ど、妻であるモルガンがいる。
といっても、幸いなのか、この頃は何でも友人が出来ているようだ。曰く、手芸や料理などの教室に通っている。
その日、子どもたちはマスターである藤丸立香についていっていた。何でも、素材の調達に向かったのだという。
(・・・素材調達にあの子達でいくのは、戦力過多な気がするが。)
まあ、それはいいだろう。そうして、奥さんは奥さんで何でもお料理教室に行っている。
新しい魚料理を習ってくると言っていたからなんだか楽しみだ。
そんなこんなで、ロットはその日一人だった。
珍しいそんな日は、時折、アルトリアが顔を出したり、また、本当にまれであるがマーリンがやってくる時がある。
ロットはひとまずと、習慣にしている物書きをし始めた。随筆染みたそれであるが、根本的にまめなロットにとっては非常に楽しい。
つらつらと止めどないことを書いていたときだ。
「・・・・すまない。」
「うん?」
部屋にひょっこりと来客がやってきた。
「ロット王、すまない、少し相談があるのだが。」
「ああ、ジークフリート殿か。俺に相談とは、ああ、かまわんが。」
ジークフリート。
ロットと比べることもできないほどの傑物だ。竜殺しとして有名な彼とは仲が良い。
それは、もちろん妻を愛しているという点でのことなのだが。
置かれた机にロットはそっと茶を置く。ジークフリートはどこか、思い悩むような顔をする。ロットはなんだなんだと思いつつ、ジークフリートを見る。
(まあ、大方奥さんのほうなんだろうが。)
思い浮かべる女性は、良くも悪くもジークフリートに関して辛辣だ。まあ、彼女の生涯を知ればそう言いたくなるのもわかる。
夫婦だとか、親友だとか、そんな関係性であっても人は結局個々でしかない。わかり合うにはそれ相応の努力だとか、言葉が必要になる。
(・・・これ以上の思考はやぶ蛇だな。)
「それで、どうしたんだ?」
「・・・その、妻のことなんだが。」
「ああ、おひいさんの。どうした、何かまた喧嘩でもしたのか?」
ジークフリートは基本的に妻の悩みをシグルドに相談している。
(でも、あの英傑殿の妻観はそこそこぶっとんでるからなあ。もうちっと、こう、穏やかな接し方の方がおひいさんには合ってる気もするが。)
といっても、二人の関係性からしてあれぐらいストレートな言動の方がまだいいのだろうか?
「その、だ。ロット王よ。妻のことなんだが。」
あー、はいはい、なんですかなとロットはジークフリートの言葉に耳を傾ける。
それからは、少しの間見事なのろけは始まった。
曰く、どれだけ妻が美しいかとか、賢いかとか、可憐であるかとか。
ロットはそれをうんうんと頷いて聞いた。
人ののろけを聞くのはけっこう好きだ。
「・・・それで、だなんだが。」
「ああ。」
「そろそろ、夏になるだろう?」
「ああ、だなあ。」
ロットの脳裏には、色々とはっちゃけてるアルトリアと、そうして楽しんでいるモードレッド。
(俺のことを前にすると気分が落ち込むから、あんまり会いたくないんだけどなあ。)
そんなことを考えていると、ジークフリートはひどく落ち込んだ顔で言った。
「・・・・その、彼女に、水着を着て欲しくないんだが、どうすればいいだろうか!?」
夏、それは色々と開放的になってしまう季節だ。ロットの身内にも色々いる。それについては別にいい。というか、騎士時代、そう言った方向で無邪気に身内と遊ぶみたいなのが少ないものが楽しんでいるのならそれ以上のこともない。
強いて言うなら、一番にはっちゃけて欲しいアグラヴェインが参加したがらないことだが。
(まあ、一緒に海釣りにはいけたからまあいいか。)
ロットはそんな黄昏れたことを考えながら、目の前の青年を見た。
「あ・・・・そうだな。やっぱ複雑だよな。」
「彼女が、自分で選んだ衣装を否定するのはどうだろうと思う。だが、だが!露出の激しい衣装を着て欲しくないと思ってしまって!」
「そうだな。言いたいことはわかるな。」
「ロット王は、そういったことは思わないだろうか?」
「俺か?俺は、まあそりゃあ思うことは思うが。」
脳裏に浮かんだ女のことを思い出す。
正直に言えば、苦労しかかけてこなかった身だ。甲斐性あった?と聞かれると非常に困る。
幼い子どもを残して、妻に全部を押しつけて死んだのだ。
そう言った意味で、妻を置いていってしまった身としては、ジークフリートの気持ちがわからないわけではない。
「不自由ばかりの人生にさせてしまったからなあ。瞬きの内の、微かな奇跡と運命の慈悲でここにあるのだろう。なら、望むことがあるのならできるだけやらせてやりたい。自由とは、我らの時代で何よりも無縁であっただろうからな。」
まあ、目の前の男の細君はなかなかにアグレッシブな人生だが。
「まあ、それはそれとして、嫌だよなあ。奥さんの露出が激しいの。賢くって、素敵でなあ。おまけに美人だってわかりきってるとなあ。」
「ああ、ああ、そうなんだ!ここには古今東西の英雄達がそろっている!彼女ほどの人ならば、そんな誰かの目に付くのは当然なんだ!」
「そうだなあ。俺も、こうやって英雄の末席にいちゃいるが。奥さんと釣り合い取れてるかって言われるとなあ。」
正直、離縁しますと言われても抵抗できないポンコツスペックである。
が、それはロットの話だ。目の前の男は、伝説も残し、物語を持ち、そうして竜殺し。
(あー・・・ちょっとぐらいは冒険の旅に出ておけば良かったかねえ。)
そんな悔いを残す。
地元に愛されているご当地のヒーローにはなれても、全国放送のヒーローには叶わない部分もあるのだ。
そんなことを考えながら、目の前のそれを見る。
本当に悩んでいるのだろう。
そこまでコンプレックスに思う必要性はないようにロットには感じられるが、それとこれとは別だろう。
「・・・・よし、なら、色々と俺の考えられる対策を提案しよう。」
「対策?」
「そうそう。まず、一つ目。普通に、嫌って言う。」
「嫌と。」
「そうそう、ちゃんと、おひいさんが美人過ぎて不安だとか、なんで嫌なのかを伝えること。それでも着たいとか言うなら受け入れなきゃな。嫌がることはしちゃダメだ。」
「それは、そうだな・・・」
しょぼんとしたジークフリートにロットは指を二本立てた。
「もう一つは、もう着ることは諦めて、常に奥さんにひっついて牽制しまくる。ここら辺が一番堅実だな。」
「・・・・そうか。」
「それで、もう一個。これは確実に水着とか露出の激しいのは着ないだろうがな。」
「!何だろうか?」
「正直、おすすめしないなあ。やったら絶対怒られるし。」
「だが、気にはなるんだが。」
ジークフリートのそれにロットはふむふむと頷いた。
「そうだな、まず同じ部屋に行って。」
「ああ。」
「同じベッドに行って。」
「ああ。」
「そのまま押し倒して。」
「うん?」
「なだれ込んで、痕をめちゃくちゃつけて露出できなくします。」
「す、すまないが、それはだめだ!あまりにも、ダメだ!!」
顔を真っ赤にして叫んだそれに、ロットは頷いた。
そうだね、絶対にこの男には出来ないだろう。というか、実行した暁にはかの姫君に男もろとも自分も霊基まで破壊されそうだ。
「まあ、女性達の情熱を止めるにはそれぐらいは必要だという話だな。」
「・・・そうか。」
しょげたその容姿に、ロットは言った。
「でも、夫婦は夫婦なんだ。なら、素直にそこら辺の心境は吐露した方がいい。伝えられない言葉も、今ならば口に出来るだろう?」
その言葉にジークフリートはこくりとうなずき、決意を固めて部屋を出て行く。それを見送ったロットはその夫婦は上手くいくことを切に祈った。
「ロット?」
ぼんやりと考え込んでいると、また来客、というか部屋の住民が帰ってくる。
「ああ、モルガンか。」
「どうかしたのか?」
「んー、夫婦の在り方について考えててな。」
「なんだ、それは。」
モルガンは当たり前のようにロットの膝の上に座る。それにロットは当たり前のように受け入れて、女が落ちぬようにと腰に手を回した。
それは、夫婦と言うよりは、娘と父という在り方に似ていた。
「まあな、俺ももう少し、物語になるような逸話があればと思ってな。」
「また、おかしなことを。どこぞの、傲慢な愚か者に何か言われましたか?」
「そういうんじゃないが。」
ただ。人の身で、星のような存在達と肩を並べる今に違和感や、いいのだろうかという疑問が残るのだ。
ロットはそう言って、女の手のひらを己の頬に押しつけた。
ああ、美しい、己の星。
生涯をかけて、求めた、美しい流星が己の腕の中にある。それが、どこかで信じられない自分がいる。
「何を言う、お前は誰も出来なかった偉業をなしたではないか。」
モルガンはそう言って、くすくすと楽しそうに笑った。
偉業?
そんなことがあるのだろうか?
「何かあるか?」
「ああ、あるじゃないか。」
モルガンはそう言ってロットの唇に己のそれを押しつけた。出先で食べたのか、香ばしいクッキーの味が微かにした。
「魔女を、キス一つで姫に戻せるのなんてお前ぐらいにしかなせなかっただろう?」
ロットはそれに不満そうな顔をした。そうして、じゃれつくようにモルガンに顔を寄せた。そうして、おもむろに耳を甘噛みする。
「え?」
そうして、ロットはモルガンの耳をなめる。
「きゃ!」
耳元でする湿った音にモルガンは固まった。
「な、なぜ、耳なんだ!?」
予想していなかったらしいそれにロットは笑った。
顔を真っ赤にして、自分を睨む、愛らしい女だ。
何を言うんだ、モルガン。お前が魔女であったことなど、一度としてないだろう。出会った時からずっと、ずっと、その女はロットにとって愛らしい姫君で、そうして、美しい星のまま。
「いいや、あんまりにも愛らしいもんだから。」
ロットがそうやって楽しそうに笑えば、モルガンは不服そうにロットの頬を軽くはたいた。