ロット王は愛妻家   作:藤猫

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あああ、やってしまった。本編書かないといけないのに。
我慢できなかった、申し訳ないです。

王妃様も、妖精妃もいないカルデアに来てロットにあったトネリコの話。


幕間 水着の女は波乱を呼ぶ

 

 

「・・・・ああ。」

 

その人に最初にあったとき、そう言って、少しだけ黙り込んだ。

 

「・・・改めて、同郷たる、賢者殿。ご挨拶を。」

 

けれど、すぐにそれは微笑みを浮かべて自分に手を差し出した。

それに合わせるようにそれに手を置けれど、それは触れるように手の甲にキスをした。

ああ、とトネリコは思う。

 

いつか、どこかで読んだおとぎ話。

きっと、そこに出てくる王子様というのは、こんなものではないのかと。

 

 

 

ロットというそれに興味を持たないというのは難しい。元より、好奇心の強いトネリコにはそのまま無視をするなんて出来なかった。

自分の故郷、唯一愛した、雨の氏族、彼らの治める、貧しくとも優しい国の王であった男だ。

そうして、なによりも。

 

(私じゃない私の、旦那様。)

 

それだけでどきどきと、何か、胸が高鳴った。

魔女たるトネリコにとって、少なくとも、オークニーを去った後の少女性が強い彼女にはそれだけでそわそわとしてしまう。

だからといって、積極的に話しかけるなんて出来なかった。

何と言っても、魔女トネリコは初心で愛らしい少女なものだから。

何よりも、彼女が召喚されたカルデアというのは未だに、男の妻である存在も、そうして、自分の未来の姿であるらしい冬の女王も存在しなかったのも大きいだろう。

 

ごめんねええええええ!いつか、いつか、ピックアップが来たら!福袋で狙ったんだけどね!?いろんな方面から突かれてるから、引きたいのは山々なんだけど。

あ、ま、息子さんに、娘さん達、お願い、それは水着用の!!

 

何やらマスターの悲しい声が聞こえた気がしたが、トネリコはそれをそっと思考の隅に寄せる。

ロット自身も、あまり己からトネリコに近づいてくると言うことは無かった。

もちろん、避けられているとかではない。雑談だとか、集回だとかで一緒になれば話はする。

けれど、彼はどこかで線を引いていた。

どこか、トネリコを見つめることを避けているように感じられた。

なんだか、それは面白くない。なんだか、とっても面白くない。

 

「ひどいと思いませんか?」

「ええっと、あなたは、確か。遠いいつかの、母上(若い)でしょうか?」

「括弧の中身は気になりますが、いいでしょう。あなたは、ガウェインですね?いつかの私ではない私の、息子?」

「ええ、そうです。サー・ガウェイン。初めて会ったときに言葉を交わして以来ですね。」

 

にっこりと微笑んだそれは、自分と同じ、太陽のような黄金の髪をしていた。それは、彼女の脳裏に浮んだ男とは正反対の髪の色。

なんせ、トネリコは妖精だ。ならば、生殖行動の末である己の息子というものがピンと来ない。けれど、その男の瞳に浮んだ、慈しみの色は馴染みがある。

それは、いつかに、自分に雨の氏族たちが向けていたものだ。

それは、きっと、柔らかな愛というもので。

トネリコはそれに嬉しくなる。だって、そんな色で自分を見る存在は、きっと、ああ、あの優しい雨に包まれたオークニーの子であることは間違いないのだから。

にっこりと無邪気に笑ったその少女に、ガウェインは少しだけ、一人の王と一人の妃のことを思い出す。

それを隠してガウェインは微笑んだ。

 

「それで、どうかされましたか、果ての国の魔女様。」

「ああ、そうです。ロット王について聞きたいのですが!」

「父、上ですか?」

(ふむ、妖精と言えども、母上は母上なのか。)

 

なんてことを考えてガウェインはトネリコと視線を合わせるように屈んだままに微笑んだ。

 

「それで、どうかされましたか?」

「ロット王は、私のことを何か言っていませんでしたか?」

「それは、何か気になることでも?」

「・・・わかりません。ただ、なんだか私から目をそらすのです。」

 

その言葉にガウェインは少しだけ困ったかのような顔をした。父の気持ちもわかるが、一方的に壁を作られている気分になるトネリコの気持ちも理解できた。

 

「・・・そうですね。魔女様。あなたと、そうして私の母が違うと言えどもモルガンであることは知っておられますね?」

「はい、それは。」

「・・・父は母をそれはそれは愛しておられていましたので。モルガンであれど、妻ではないあなたの扱いを決めかねておられるのです。お許しください。」

 

苦笑交じりのそれがトネリコにはわからない。

だって、魔女トネリコは、まだ、恋を知らないものだから。

 

 

 

ちらりと、図書館でそれを見た。

それは、図書館でも奥まったところで、高い本棚に収まったその席はいろんな目から彼女のことを隠してくれる。

 

(・・・何を読んでるんだろう?)

 

そうやって、本棚の隙間から、これまた広げた本に隠れるように見つめる先には、大柄な男がいた。

ロットは本、というか文章が好きであるそうで、図書館の常連だった。物語の本をよく読んでいるのをトネリコもよく見かけた。

そんな彼にもその時にはよく話しかけられるようになっていた。本が好きだという彼に、おすすめの本を聞いたのがきっかけだ。

それに、ロットはやっぱり少しだけ困ったかのような顔をした。けれど、トネリコが積極的に差し出した本を見れば、それも霧散した。

 

「そうか、それは、是非とも読みたいな。」

 

そういって微笑んだ男に、トネリコは少しだけ今まで感じていた壁が薄くなった感じがした。

 

 

 

 

男の穏やかな声は、どこか、いつかに聞いた窓を叩くかすかな雨だれの音に似ていた。

 

「・・・・おしまい。どうだ、面白かったか?」

「・・・・そうですね、面白かったです。次のも読んでください。」

 

そう言って自分が童話の一つを差し出すと、男は苦笑交じりにまた本を読み始める。

トネリコにとって、男と一番近しいのはきっと、父代わりの雨の氏族の彼だった。

気まぐれねだった読み聞かせを嫌がることもなく、幾度も、幾度もそらんじる。

トネリコはその声を聞きながら、ごろりと横になるのが好きだった。

それは、まるで、いつかにしていた父や母、そうして、姉が自分の側でその声に聞き入っているような心地になった。

 

トネリコは不思議な気分になる。それは、何故、自分に優しいのだろうか?

それは優しい妖精雨の氏族と同郷の人間だからだろうか?

その理由を知りたくて、トネリコはよく男に我が儘を言った。けれど、ロットはそれにはいはいと頷いて甘やかすのだ。

普段ならば人の願いを聞くのが好きなロットを守るために回収に来る子どもたちもトネリコのことだけは放っておくのだ。

 

(何故だろう?)

 

トネリコにはわからない。ただ、男は時折、トネリコから目をそらすときがある。それをそっと、盗み見たことがある。

その瞳は、今まで見たものとはどれとも違う感情があった。

それは、慈しみとは違う、子どもたちに向けるものとは違う。

何か、蜂蜜だとか砂糖だとか、そんなものをドロドロに溶かしたような、熱の籠った甘い何かが宿っていた。

トネリコは、それを、何か、それを見た時、見てはいけない気がした。

何か、胸がカッと熱くなって、とても気恥ずかしい気分になった。

 

(ああ、思い、だしてしまった。)

 

トネリコは男の声を聞きながら、そっと、赤くなった顔を膝に押しつけた。そんなにも恥ずかしくて、落ち着かなくなるのに、その瞳をまた見たいという自分がいた。

 

 

 

「・・・ご挨拶を、救世主殿。改めて俺は、いや、私は遠い、いつかの、オークニーが王、ロット王。あなたのような伝説を持たないが、色々あって英雄の末席に籍を置く凡人だ。何か、所用があれば力になろう。」

 

そう言って男は救世主トネリコに淡く微笑んだ。

男は再臨した自分に出会った時と似たような挨拶をして、そうして、また甲に口づけをした。

ただ、その時、最初とはまったく違うことがあった。

口づけが甲に落とされて、それから手を引こうとしたとき。

ぎしりと、ロットはその手を掴んだままだった。驚いて見上げた先。

救世主トネリコは固まった。

それは、魔女であったとき、一度見たことがあった。

 

それを見たとき、トネリコはまるで魅入られたように感じた。

己を燃やし尽くすかのような熱と、そうして、ドロドロに煮詰まった砂糖のような甘さが己に注がれた気がした。

けれど、すぐにロットの瞳に宿ったそれは霧散する。

 

「・・・いや、女性の手を無作法に掴んでしまったな。申し訳ないな。」

 

そのままロットが去って行く後ろ姿を見つめて、トネリコは熱に浮かされたかのような、クラクラとした感覚でその後ろ姿を見つめる。

喉の奥でくすぶる、何かの存在にトネリコは茫然としていた。

 

救世主としての記憶がある彼女は、恋を知っている。

それは、きっと、いつかに王として支えてあげたかった少年が持っていたのだろう。

それは、ああ、あれは、きっと恋だった。

トネリコには、まだ、それが育ちきっていなくて。ただ、家族に誓った夢のために前しか見ていなかったけれど。

それでも、それは恋で。トネリコはそれに気恥ずかしさとかぐらいで、育ってはいなかったけれど。

これこそが、恋なのだと、トネリコは知っていた。

 

だからこそ、男の浮かべたそれに固まった。

それは、確かに、恋だった。

まるで、どろどろと、甘いだけの、蜂蜜を喉の奥に飲み込んだかのような何かを感じるような、暴力的な甘さ。

 

恋とはもっと、穏やかなはずだ。

愛であるのならば、もっと、柔らかなはずだ。

いつかに、彼女の知った恋はまるで果物のように爽やかな匂いがした。

なのに、それは、ただ頭をクラクラさせるような、甘い匂いがした。

 

(そんな恋、私は知らない!)

 

ああ、自分は、そのいつかの、遠い、自分ではない自分はどんな恋をしたのだろうか?どんな、愛を。

あんな、業火のような愛と恋を与えられて、自分はどうなってしまったのだろうか!?

 

どきどきと、男の顔を見ていると、胸の奥がバクバクとなる気がした。

男の近くにいると、落ち着かない。

けれど、男の近くで、その恋の正体を知りたい自分がいる。

 

 

なのに、なのに、なのに!

 

(あの男は!)

 

そんな思いが膨らむ中、とうとう水妃モルガンとして再臨したそれのことを男は徹底的に避けた。

それこそ、マーリンに頼み込んで、できるだけ避けまくったのだ。

 

「そのお顔は今の父には辛く。」

「か、母様、落ち着いて・・・」

「宝具はダメです!」

 

なんてことを、義理の息子やら娘に、そうして、可愛いバーヴァンシーに止められて渋々治めた。

まあ、こんなに魅力的な自分を直視できないというのなら許してやろう。

その時、納得するモルガンの後ろで彼女を説得したアグラヴェインは皆に称えられていた。

 

 

そうして、それがトネリコに戻ったとき、ようやくロットは少女に近づいてきた。

 

「・・・・なんですか、今更。」

「ああ、そんな顔をしないでくれ。俺も、まあ、奥さんにそっくりな顔だと、色々と複雑なんだよ。」

「この顔は、カルデアにあふれているようですが。」

「揚げ足取らないでくれよ!」

 

そんな軽口が久方ぶりで、トネリコは微笑んだ。

男は、それから、その業火のような感情を外に出すことはなかった。元より、そういったことに長けているのだろう。

けれど、トネリコは段々とじれていた。

ああ、その、その感情を見てみたい。だって、自分だって、モルガンのはずなのだから。

 

「・・・・そんなに、私は似ていますか?」

「うん?誰にだ?」

「あなたの奥さんに、です。」

「そりゃあ、お前さん。彼女はモルガンならば。似ているという言葉では語りきれないな。」

 

苦笑交じりのそれ。どうしようもなく、甘い匂いの混じるそれ。

トネリコは、それに、思わず言ってしまった。その、簡素な、王と名乗るにはあまりにも地味な衣装。その腕を掴んだ。

その時、トネリコはロットの自室で、ベッドの上で我が物顔で占領していた。その脇の椅子で男は当たり前のように本を読んでいた。

 

「・・・なら、私じゃダメですか?」

「は?」

「私も、モルガンです。なら、私でも。」

 

そんなことを言った時、ぎしりとベッドが軋む音がした。それに、トネリコは固まった。

自分に覆い被さる、厚く、そうして熱を持った体にトネリコは固まった。

ロットはそれに淡く笑って、そうして、耳元で語りかける。

 

「・・・・いいのか?」

 

どろどろの、あの、熱を持った暴力的な甘さにトネリコは頬にかっと音が走るのがわかる。

顔が近づいてくる。それに、トネリコは思わず怯えるようにまぶたを閉じた。

 

べし!!!

 

「いったあ!!」

「はあ、トネリコよ。」

 

気がつけば己の上から熱は消えており、呆れた顔をした男が先ほどと同じように椅子に座っている。

 

「二度と、こういうことは止めなさい。うちの奥さんにも失礼だ。そうして、お前さんにだって失礼だぞ。今日はもう、帰りなさい。」

 

その言葉に言い返す気力も無く、トネリコは逃げるようにその場から走り出した。

 

 

それから、トネリコは魔女トネリコの姿になって過ごした。

他人に言われても、この姿が懐かしいとそう言って。

事実、その時の記憶はトネリコという少女が一番に幸せな日々だったのだ。

 

ロットは、自分がいたという妖精達の国にカルデアが向かったときの記憶をよく見るようになった。

 

「いや、確かにモルガンも王妃様のことも引きたいけど。運だし。というか、二人とも限定だから今引いても、無理・・・・!やめて、アグラヴェイン、ガレスというかアルトリアも石もってかないで!!!」

 

なんてマスターの嘆きが聞こえたが気のせいだろう。

気まずくて、何を話せばいいのかわからなくて、けれど、男の挙動を思い出すと、心臓がバクバク鳴って、落ち着かなくなる。

 

(・・・嫌われたのだろうか。)

 

そう思えば、男に近づくのもためらわれた。表面的には取り繕えても、どうしても、何を話せばいいのかわからなくなる。

でも、よかった。

だって、そのカルデアにモルガンはおらず、その熱を知るのは自分だけなのだ。

自分だけ、自分だけの、それ。

だから、それだけで、満足しているはずなのに。

 

 

『うおおおおおおおおおおおおお!!オークニー関係の方々、ようやく王妃様が来てくださいました!というか、バーヴァンシーも来て!お母様も来てくれました!ピックアップ大勝利!!』

 

そんな放送がカルデアに響き渡るまでは。

それにトネリコは召喚されたであろう彼らの元に向かった。そうして、その途中でロットと鉢合わせた。

 

「わ、私もいいでしょうか!違う自分にご挨拶したくて。」

 

それにロットは困った顔をしたけれど、同行を許可してくれた。いいや、考える時間も惜しかったんだろう。

 

「・・・何故、あなたまで。」

「いいだろう。違う己とは言え、自分の夫であった。おまけに、そこまで隠したがる存在に興味がある。」

 

そうして、そんな会話が聞こえて、足早に部屋に入った男の瞳にトネリコは目を見開いた。

 

その瞳。

焦がれるような熱の籠った瞳。まるで、砂糖を溶かしたかのような、甘い色。

自分にさえも、滅多に見ることの出来なかったそれ!

ロットは一歩、近づいた。

それに、いつかの自分も、同じように幸福そうに微笑んで。

 

ああ、ああ、ああ!

(ずるい!!)

 

トネリコはロットの懐に咄嗟に飛び込んだ。そうすると、ロットは思わずそれを抱き留める。

驚愕に染まる自分よりも年かさの女の顔が見えた。

それに、トネリコは、水妃モルガンの挙動を便りに悠然と、微笑んで見せた。

そうして、己を抱き留めた男の頬を両手で包み、そうして、その唇に口づけを落とした。

 

「!!!!!!!!!!!」

 

声にならない悲鳴は誰のものだ?

ただ、一つだけ言えるのは。

 

「遅かったですね、私。でも、ごめんなさい。」

もう、私の物なので。

 

そう言って、淡く微笑み、男の顔を胸に押しつけるように抱きしめた。

ああ、そうだ。

自分だってモルガンなのだ。

ならば、それだって、自分の夫であるはずなのだ。

 

 

「え、ま、王妃様、宝具展開は!え、なんでモルガンも宝具を!?むかついた!?ちょ、まってえええええええええええ!?」

 

 





兄上。
どうかしたのか、アギー、ガへリス?
父上、大丈夫だろうか?
何がだ?
トネリコ殿が来られてから、なんというか、色々我慢しまくって決壊しそうだが。
・・・・私も気づいているが。
この頃、狩りの前の猟犬みたいにとがった目をしているが、本格的に止めた方がいいか?
ガへリス、お前、言葉を選べ!
まあ、縁あって早くにカルデアに来て、そのまま母上も来られず幾星霜ではあるからな。
父上は理性的じゃああるが。
だからといって、あのような年端もいかない。いや、妖精だから年上なのだろうか?
アギー、素面でぼけられても。
どちらかというと、妻として愛したいの他に、様相に甘やかしたいという欲望もあるみたいだが。
・・・ともかく、今は見守ろう。それしかない。

そんな上三人の会話など知らない父親は、一瞬手を出しかけたことを墓の底に持っていく覚悟を決めながら自分に呆れていた。
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