ロット王は愛妻家   作:藤猫

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さようならと手を振った

 

 

「いきましょう。」

 

消え失せた誰かの影を名残惜しそうに眺めて、ベルンは皆を立ち上がらせた。

 

彼らはゆっくりと立ち上がり、そうして、一人一人がその男に頭を下げた。それに、ランスロットも、モードレッドも、そうして藤丸立香も無言で見送る。

それは葬儀だ。

さようならと、もう、会えない誰かへの決別だ。

さようなら、さようなら、もう、会うことのないあなたへ。

それでも、私たちは、生きてみます。

苦みの走った多くを抱えて、それでも、生きてみます。

どこに行くとは聞かなかった。ただ、彼らは理解しているかのように歩いて行く。

濃い、霧の中を歩いて行く。

その最後尾、そこでベルンは一人、濃い霧を背に微笑んだ。

 

「それでは、私たちは行きます。」

「・・・・あなたたちは、どこに行くの?」

 

立香の問いかけにベルンは淡く微笑んだ。

 

「夢から覚め、現実にかえるのですよ。」

「現実に?」

「ええ。今回、とある方の力を借りて、夢とうつつの境を一時的に曖昧にしたのです。私にも、少々おまけがありましたので、それがあってのことですが。」

「どうして、わざわざそんなことを?」

「・・・・妃様は、お優しい方でした。ですので、民という共有意識に聖杯の欠片の使用権をお与えになったのです。見たでしょう?グリムと言われる私兵を。」

 

ベルンは少しだけ物悲しそうな顔をした。

 

「グリムって、あの?」

「ええ、あれは魔力を使い、一人一人の願う人間の姿、そうして相手の記憶からなる記憶を再現した物です。」

「ですが、なぜ、わざわざそのような。聖杯ならば自分で持っておく方が安全でしょうに。」

「・・・これは協力者、曰くですが。妃様にとって国という概念を強固にするためだったのでしょう。あの方にとって国とは、土地と、王と、そうして、民からなるもの。ならば、それを与えることで概念をより強固にされた、ということです。」

 

それに立香は目を見開いた。

 

「なら、もう。グリムは現れないって事!?」

「復活はしないでしょう。ですので、もう、皆様で城に行かれる事になると思います。私は、もう、行きます。おそらく妃様が気づかれるでしょうか。と、その前に。」

 

ぐるりと、ベルンはロットに目を向けた。

 

「陛下には言いたいことが幾つかあるんですがねえええええええええ!」

「ああ、すまんな。色々と、その、苦労を・・・・」

「ええ!苦労しましたよ!あなたがいなくなったあと、あの駄犬は飯も食わずにカビを生やしましたし!妃様は目が溶けるんじゃないかと言うほど泣かれていましたし!王子たちもめっしょめしょで本当に可哀想なほどに泣かれて!モードレッド様だって、私やダイルとで育てたんですからね!?」

「勉強は見て貰ったもんね。」

「そ、それは。悪いことを・・・・」

「悪いで済ませると!?」

 

ロットは全力で目をそらしつつ、そうして、申し訳なさそうな顔をした。それを見ていたベルンははあとため息を吐いた。

 

「・・・・それでも、こんなに文句を言っても、あなたはあの日に戻ったとして、戦に行ったのでしょう?」

 

その言葉にロットは黙り込んだ。苦い何かの混ざったそれの中で、言葉を持たぬと言うように。

それにベルンはあーあとため息を吐いた、

 

「あなたがいれば、きっと、もっと穏やかに、静かに、ましな何かはあったのでしょうね。でも、そうでなければ存在しなかったものがあるのも事実でしょう。」

 

それが何を射しているのか、すぐに分かった。

黄金の髪に、新緑の瞳。

ロットがいなければ、存在しなかっただろう、末の子。

モードレットはそれに少しだけ、苦い顔をした。

 

「・・・・続くが故にあるものも、滅ぶが故に産まれるものも、どちらもまたあるのでしょう。ただ、言えるのは、我ら凡夫には、もしもなどと考えるだけ詮無きこと。ならば、このまま、いけるところまで行くまでのこと。」

 

ベルンは緩やかに微笑んだ。

そうして、モードレッドを見た。

 

「・・・・モードレッド様、それでは、私は行きます。」

「・・・・ベルン。」

「あなたと過ごし日々は、楽しくありました。ですが、ええ、あなたが死んだと聞いた日、私とて泣いたことをよくよく覚えていますように。」

 

それにモードレッドは黙り込み、ああと頷いた。

謝罪はできない、ごめんなさいとは言えない。それは、あまりにも、不誠実な気がしたものだから。

 

「立香殿、それでは私はここで行かねばなりません。ご迷惑をおかけしました。」

「う、ううん。そんなことは。」

「・・・・ご安心を。心配が一つも無いなどとは言いませんが。それでも、まあ、悪いことだとは思いませんよ。あなただって、そうでしょう?」

 

苦笑の混じったそれに、立香は驚いた。思わず見たベルンは淡く笑ったまま。

 

(過去)を生きる私から、(未来)を生きるあなたへ。どうか、あなたの明日が良き日でありますように。」

 

そう言ってベルンは深々と礼をした。そうして、清々しく笑った。

立香は、その言葉の意味を理解する。

 

彼は今を生きている。この、ブリテンという滅び行く世界で今を、生きている。

立香は、不思議な感覚だった。

ただ、その言祝ぎに立香は微笑んだ。

 

「うん、ありがとう。」

 

微笑む彼はどこまでもただの人だった。ただの、どこまで、人間で。

それはベルン、ただのベルン。

少しだけの奇跡を前借りした、ただの人間だ。だから、彼はもう、自分の役目がここで終ることを理解していた。

 

「陛下。」

「ああ?」

「この霧の奥に進んでください。あなたに会いたがっている方がおられるので。今回の協力者殿です。」

「・・・・わかった。」

 

ベルンはそれにロットたちに背を向けて、歩き出した。その時、ロットはベルンに声をかけた。

 

「ベルン!」

 

振り返った青年にロットは言った。

 

「長く、よく仕えてくれた!さらばだ!」

 

その言葉にベルンは泣きそうな顔で、けれど、微笑んだ。

 

「ええ、陛下!さらば!」

 

さようなら、もういないあなた。さようなら、まだ生きるあなた。

そのまま、生者は去って行く。

生きるために、彼らは足を進める。それでいい、それでいい。

 

立香はちらりと、ロットを見た。

 

(ああ。)

 

それは笑っていた。安堵するように、どこか、己が子の旅達を見るように。

 

(なんだか、泣いている様にも見えた。)

それを立香は口にすることはなかった。

 

 

 

 

 

「・・・別れは済みましたか?」

 

ベルン達を見送った後、後ろから誰かに話しかけられる。そこには、ローブを被った何かがいた。

 

それにモードレッドと、そうしてランスロットが立香の前に躍り出た。

 

「ベルンは言ったのでしょう?」

「あなたは誰?ベルンの言ってた協力者?」

「ああ、そうだ。そうで、ある。」

 

どこか居心地が悪いというように身じろぎをした。

 

「・・・協力者というのなら顔をさらされよ。何を望むのかは知らないが、それは最低限の礼儀であろう。」

 

その言葉に、ぴくりと、それは手を震わせた。そうして、戸惑うような仕草はしたが、けれど、そっと被っていたローブを脱いだ。

それに、皆の顔が見開かれた。

 

そこにいたのは、モルガンによく似た顔立ちをした青年だった。それは、逆説的にアーサーに似ていると言うことで、そうして、モードレッドにも似ていた。

ただ、モードレッドと比べれば明らかに全体的な色素が薄く、そうして女性的な印象を受けた。

それは気まずそうに視線をそらす。

 

(モルガンの関係者、なら・・・・)

「ガへリスか!?」

 

驚いた声を上げたロットが一歩踏み出すと、ガへリスは怯えるように一歩下がる。けれど、少しだけ奮い立つように顔を上げた。

 

「はい、ガへリスです。」

 

そういった青年のローブの中から、リスほどの大きさの何かが躍り出た。

 

「え?」

 

今度はそれに立香が驚いた声を上げる。それは、ふかふかとした、銀の毛並みをした獣で。

 

「なんでフォウ君が!?」

 

驚きに満ちた声に、それは、じっと自分たちを見つめるだけだった。

 

 

 

 

「お久しぶりです。」

「ああ。久しぶりというか、どうしてお前がここに?」

「・・・・母は、この夢の国を作り上げてすぐ、我ら兄妹を召喚しました。ですが、私は、どうしてもそれに納得できず。そのまま、母の元から出奔したのです。」

「なら、ガへリス兄様も、この国を?」

「・・・はい。」

 

ガへリスはどこか居心地が悪そうにその場から視線をそらした。そうすると、その方に乗っていたフォウによく似た生物はガへリスをじっと見る。

 

「でも、兄様はこっちの味方なんだよね?」

「それは、ああ。そのために、俺はここにいる。」

「・・・・何故だ?」

 

口を開いたロットに、ガへリスは目を見開き、そうして、なんと答えていいのかわからないというように視線をうろつかせる。それに、立香は口を開く。

 

「言いたくないなら言わなくていいよ。」

「それは!」

「あなたが味方であるのは事実なんでしょう?なら、ここで味方になってくれる人がいるのはありがたいよ!」

 

ガへリスは何かを騙ることが出来ないように、口を何度も開けては開いてと繰り返す。

そこで、ロットもそれもそうかと頷いた。

 

「まあ、確かにそれもそうだな。」

「ロット王!?」

 

急な切り変えにランスロットの顔が驚愕に染まる。

 

「まあ、お前はこういうとき、敵対するなら素直に攻撃してくる。下手な立ち回りはしないだろう。お前はそういう子だ。」

 

それにガへリスは顔を歪めて、少しだけ泣きそうな顔をする。

ロットはそれに立香を振り返った。

 

「立香、紹介しておくが。これは俺の三男坊のガへリスだ。少し、ズレたところがあるが。まあ、気にしないでくれ。」

「あ、ああ。その、紹介にあずかったガへリスという。あまり、役に立てることは少ないが、出来るだけのことをすると誓おう。」

「おお、そうだ!こいつは罠を張ったり、あと、釣りの愛弟子だ。色々と器用だぞ。」

 

ロットはそう言って嬉しそうにガへリスの頭をがしがしと乱雑に撫でる。それにガへリスは茫然としていたが、みるみるうちに白いその頬が赤く染まる。

 

「え、父様、何その扱い!僕、知らないんだけど!」

「いや、ガレスやアギーは敵対してたし。お前は、あれだ。召喚されたばっかで自分の知らない間に産まれてた息子だからな戸惑いがあったからな!正直、素直にかわいがれる息子の登場にテンション上がってる!」

「何それずるくない!?」

「よっしゃ!来い!」

 

ロットのそれにモードレッドはきゃっきゃと嬉しそうに笑って父に飛びついた。

それにロットは抱き留めて、モードレッド自身の体重と、そうして鎧の重さがあるだろうが男は平気そうな顔で高いたかいをしている。

 

ガへリスは淡く頬を染めて、頭を撫でている。そこで、立香が口を開いた。

 

「あの。」

「ああ、なんだろうか?」

「すみません、その肩に乗ってる子って?」

「・・・これか。これは、気にしなくていい。これは君の知る何かではない。ただの、残りカスだ。それ以下でも、以上でもないからな。害はなさないから気にしないで欲しい。」

「フォウ君じゃ、ないのか。」

 

立香の残念そうな声を聞きながら、ふとしたようにガへリスはランスロットを見た。

 

「ああ、サー・ランスロットも一緒だったな。」

「・・・・ああ。そうだ。その、ガへリス卿。」

 

気まずそうなランスロットの様子に立香は彼と、ガへリスの関係性を思い出そうとした。けれど、それよりも先にガへリスは口を開く。

 

「もし、俺を殺したことを気にしているのなら、そこまで気にしなくていいが。」

 

ランスロットはそれに目を見開いた。

 

「け、卿よ!言っていることの意味はわかっているのか!?」

「わかっているが?いや、もちろん、妹や兄、そうして甥たちを殺したことになにも思っていないわけではない。ただ、俺は俺を殺したことに関しては特に何かを思っていないと言うだけだ。それを罪悪にして意思疎通が取れなくなる方が困るだろう?」

 

平然と言ってのけたそれに、立香も驚いて、思わず問うた。

 

「なんだか、あっさりしてるね?」

「・・・あっさりというか。騎士の死など、そういうものだ。もちろん、俺はあの場で誰のことも守れなかったことも、そうして、それによって悲しませた誰かがいることを恥じている。思うことがないわけではない。だが、俺は、俺自身を殺されたことに関して恨んではいない。」

 

ガへリスは苦みのある顔で立香から視線をそらした。

 

「・・・・あのとき、逃げることも立ち向かうことも出来なかった俺の技量にも問題がある。単純に、サー・ランスロットが強く、俺が弱かった。その弱さをランスロット卿に押しつけることなど出来ないだろう。だから、正直、俺は俺の死に対して何かを思うことはないという話だ。」

 

そう言った後、彼はちらりと戯れているモードレッドとロットを見た。それに立香は、ロットの言った変わり者という意味を理解してああと頷いた。そんな中、ガへリスは呟いた。

 

「・・・・そうか、よかった。」

 

お前は、父に会えたのだな。

いつかに見るはずだった光景を前に、ガへリスは淡く微笑んだ。

 

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