ロット王は愛妻家   作:藤猫

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頑張って投稿していきます。短めです。


願いの否定

 

「父上!」

 

無邪気な声がした。

まるで、それ以上のことなんてないように、それは自分を見ていた。

その笑みは、いつかに、日だまりの中で自分を目指して駆けてきたいつかのように・

 

ああ、変わっていないのだと。

五月の鷹は、どこまでも軽やかで。

 

 

 

「父上、ああ、本当に、父上なのですね!?」

 

その声は、藤丸立香が覚えている太陽の騎士を考えると、非常に幼い。

甘ったれで、駄々をこねるような、そんな声。

改めて見たガウェインは、立香の記憶の上から全て違っていた。

太陽のような黄金の髪は、まるで月のように淡い色に。纏う鎧は、白銀からは遠く、鉄の色を纏っていた。

それは、喜色満面にロットのことだけを見つめていた。それに、ロットは物悲しげな顔になる。

ランスロットも、そうしてモードレッドもその場に不似合いそうな、ひどく驚いた顔をしていた。

だって、そうだろう。

二人の記憶にあるガウェインは、言っては何だが、ひどく頼もしい男だった。

少し、デリカシーのない所はあれど、兄として頼りになるような人だった。けれど、今、父であるロットのことを見つめるその顔はひどく幼く見えた。

子どものように、少年のように。

いいやと、ランスロットは思う。

 

彼は、ずっと、息子なのだ。愛された、いつかの、幼い少年。

 

「ああ、父上!本当に、おられたのですね!ダイルから話は聞いていましたが。それに、モードレッド!お前も来ていたのかい?よしよし、おいで、兄様と行こう。」

母上が待っているよ。

 

それは、どこまでも柔らかく、行こうとこちらを誘っていた。

それに、ロットが口を開こうとした、その時だ。

 

「・・・・・それにしても、父上。何故、それと共にいるのですか?」

 

ゆっくりと、それこそ、まるで。

日が西に傾くように、月が雲に隠れるように、花が風に散るように。

ゆっくりと、ほころんだ笑みが、すっと引いていく。

軽やかな感情が消え失せて、能面のような無表情に成り果てて、それは自分を見ていた。

がちゃんと、鎧の音がした。一歩、自分たちに近づいてくるのを理解した。

ロットはそれに、息を吐く。

 

(立香、わかってる?)

 

そっと囁かれたモードレッドのそれに立香は頷いた。

ガウェインはまるで壊れた人形のように、冷え冷えとした声音でひらすら、ロットのことを見つめている。

 

「ああ、もしや、手土産でしょうか?ええ、それは、何と言っても父上にとっても仇のようなもの。ですが、父上のお手を煩わせることもないでしょう。私が、始末をいたします。」

父上?

 

幼子のように、やはり、柔らかくて甘ったれな声でガウェインはロットに手を差し出した。

 

それにロットはふうと息を吐いた。

そうして、物悲しげな顔をした。

 

「・・・・いいや、それは無理だ。」

「理由は、お聞きしても?」

 

ロットはそれに少しだけ笑いたくなった。

淡い、月の光が、きらきらと男に降り注いで。

起っているその様は、己の妻によく似ていた。

 

「俺は、魔女を殺しに来たんだよ。ガウェイン。」

 

その言葉に、ガウェインは口元を引きつらせ、そうして、哄笑を上げた。

 

「ふ、ははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

びくりと、モードレッドが肩をふるわせた。

ガウェインは見開かれた眼のままに、口元だけは大きく歪ませてけらけらと笑った。

 

「ああ、ああ、ああ!世迷い言だよ、戯言だと、ずっと信じていたというのに!あなたが、母を殺す!?ありえない!あり得ていいはずがない!!」

「・・・・いいや、本当だ。」

 

それにガウェインは笑うことを止めて、見開かれたその瞳でロットを見つめる。ただ、ロットだけを見つめる。

 

「あなたが、それを言うのか?あなたが、私に、託すと、守れと、そう言った、あなたが!我らの祈りも、願いも、ささやかなる残光さえも、ことごとく壊したその男を連れて!!」

 

その言葉と共にガウェインの持っていた剣が、光を、いいや、月光が、集まっていく。

 

「ああ、嘘だ!そうだ、嘘に決まっている!いいや、あなたは父か?いいえ、父上だ。私が間違うはずがない。母上が間違うはずがない。ならば、何かに惑わされているのでしょう!決めました。理解しました!」

 

構えた剣が、光を集める。そうして、構えて、ガウェインは微笑んだ。

 

「ならば、余計なものは殺しましょう。

四肢を奪ってなおも、母上の元にお連れしましょう!」

「モードレッド!ランスロット!」

 

その言葉にモードレッドとランスロットが構えを取る。

 

ガウェインが剣を構えて、振り下ろす。

 

月光に誓う、勝利の剣(エクスカリバー)

 

銀の光が、自分たちに向かってくる。それと同時に、ランスロットとモードレッドが剣を構える。

 

悪魔の行いし、愚かなる愛(クラレント・ブリテン)

縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)

 

三つの閃光がぶつかり合う。

それに、ロットは近くにいた立香を抱え、そうして、後方に飛んだ。

 

「・・・・おいおい。」

 

互いの宝具によって地面がめくれ、衝撃で瓦礫が宙を舞った。それにロットが茫然としながら、その場に降り立つ。

 

「さすがに、二人がかりの宝具で隙も見せないって、成長しすぎじゃないのか、長男?」

 

 

 

戦いは、はっきりと言おう。

けして、優位なものではなかった。

円卓で最強と言われた騎士と、アーサー王と一騎打ちした末子、そうして一国を守った騎士、それらが全員で向かってなお、ガウェインは圧倒的だった。

 

「・・・無駄だ、私は今、陛下の剣であるエクスカリバーを借り受けている。太陽の加護を反転し、月の加護を受けた私に勝てるはずがない!」

 

それにモードレッドが苦い顔をした。

 

「やっぱり、あれって陛下のエクスカリバーかあ。」

「・・・・ガへリスから、性質が反転していると聞いていたが。」

 

苦々しい言葉と共に、構えを取る。ロットは隣立つランスロットに視線を向ける。

 

「・・・ランスロット、力を入れろ。」

 

それにランスロットはどこか、震えるように、揺れる剣を持つ手に力を入れた。

 

アグラヴェインの時と同じだ。

いつかに、彼から、自分は、殆どのものを奪った。

弟妹、子どもたち、奪って逃げ出した自分を彼は殺した。

その時のことを思い出す。思い出して、どこか、体が震える気がした。

 

サーヴァントは、己の逸話を持ち、そうしてそれに引っ張られる。

正直に言えば、三人が苦戦しているのは、己にまつろう土地などの後押しの他に、ランスロットの弱体化が確実に影響している。

 

サー・ランスロット。

 

言葉を思い出す。それは、ガウェインに勝てるかわからない自分たちが、密かに躱した会話だ。それを、マスターさえも知らない。

ロットと、ガへリス、そうしてロットとの会話。

 

なぜ、ここに自分があるのか。

 

「お前は、もう、わかってるんだろう?」

 

 

父が目の前にいる。

それだけでガウェインは嬉しくてたまらなくなる。

 

(父上だ。)

 

幼い頃に、手加減混じりに、それこそ、戯れのようにして貰った剣の指導を思い出す。

それは、ガウェインにとって、日向の指す柔らかな記憶の話だ。

けれど、高揚していた感情は、すぐに消え失せる。

 

どうして?

頭の中でその感情だけが反芻する。

だって、そうだろう。

 

どうして、父は、母と敵対するのだろうか?

だって、父は言っていた。手紙で、自分に託した。

 

国のこと、母のこと、弟妹達のこと。

どうして、なんで?

 

幼い子どものように、ただ、ガウェインは縋るように父を見る。打ち合った剣は重く、強い。

 

「父上、何故ですか?何故、この国を、いいえ、母上を否定されるのですか?守れと、頼むと、あなたが言ったのでしょう?それならば、何故、父上はそちらに立つのですか!?モードレッド、お前もだ。何故、兄の元に来ない?母上を悲しませる?どうして、何故!」

 

思い出す、思い出す、自分が召喚されたとき、母の、疲れた顔を。母の、悲しげなそれを。そうして、王であることを放棄して、竜として偽りの名前を被る王のことを。

間違えてしまったから。

 

国で起きた悲劇を知ったとき、ガウェインはただ、己を恥じた。

茫然と、己の顔を見て、己を通して父を見る母のことを思い出す。

 

もしもを、どれだけ不毛と理解してなお、考える。

もしも、もしも、自分だけでもどこまでも理性的に、ランスロットを許して、国を維持し続ければ。

ブリテンが限界であったことも、心のどこかで理解している。

けれど、もしも、自分が理性的でさえあれば。

 

王までも全てを失うことも、母が孤独になることも、末子を悪魔にすることも、妻と娘が苦しい目に遭うことも。

 

なかったはずなのに。

 

「・・・・永遠など存在しない。」

 

打ち据えた剣を振りきって、構えを取った父を見る。まるで、鏡合わせのような父を見る。

 

「いいか、器と中身、どっちが大切かなんてわかるだろう。大事なのは中身だ。船員の存在しない船に意味が無いように。民を生かすことが出来ない国に意味は無い。それならば、それはもう寿命なのだ。国があるから人があるわけではない。人が生きるために国がある。」

 

それならば。

 

「オークニーは滅びなくてはいけない。」

 

ガウェインはそれに、目を見開いた。

 

「嘘だ!!」

 

叩きつけるようなその声は、幼い子どもが必死に出す嘆きに似ている。

 

「父上がそんなことを言うはずが無い!父上が、この国を見捨てるはずがない!ここは、ここは、ここだけは、優しいはずだ!ここだけは、安寧とした場所であるはずだ!」

 

ガウェインの悲痛な声が、当りに響く。

だって、そうだろう。

だって、この国の、この国で過ごした時間だけは確かにガウェインにとって優しい残光だったのだ。

 

「仕方が無いと飲み込んでいいはずがない。そうであるとしても、耐えなくては行けない、否定しなくてはいけない。まだ、ここで、生きているものがいるのだから!」

 

ガウェインは、モードレッドのことも、ランスロットのことも、そうして、後ろに立つマスターのことさえも忘れ果てた。

ただ、男は父を見る。

いつかに、自分を導いてくれた人、そうありたいと思った父。

 

「この国を見捨てるあなたは、いいえ、母上を切り捨てるあなたは、私の父などではない!あっていいはずがない!私は、復讐者!忘れることなど有りはしない、永遠に、己が手から失われた者を、失ったことを、忘れることはない!」

 

ガウェインがまた、宝具の構えをとることを理解して、ロットは息を吐く。

そうして、彼は真っ直ぐにガウェインの元に走った。

 

(それでいい、それで。)

 

ロットは姿勢を低くして、剣を構えず、ガウェインの元に飛び込んだ。何故か、まるで首を差し出すようにやってきた父のことをガウェインは驚いて見つめる。

それに、ロットは己の羽織ったマントを開いた。

それに、ガウェインは目を見開く。

 

「・・・我が身を隠せ、夜のとばり。我が罪を覆え、沈黙よ。」

罪を隠せし、愚かなる沈黙 (サイレント・シン)

 

ロットのマントから古びた短刀を持ったガへリスが真っ直ぐとガウェインに向かって躍り出た。

 

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