ガウェインとロット。
次は、ランスロットの語り?的なものになります
サーヴァントは所詮は、遠い何時かの影法師だ。
遠い昔にいた誰かの影。
それ故にサーヴァントは自分たちの辿った物語をなぞる。まるで、決まり切った物語を捲るのと同じように。
がきんと、固い鉄がぶつかる音がした。
剣を振い、そうして、互いにそれをぶつけ合う。隙を狙って、相手の体に叩きつけようとして、けれど、それは防がれてしまう。
わかるように、理解するように、全てを知っているように。
「ランスロット!邪魔をするな!」
ガウェインの叫びにランスロットは歯を食いしばって、ただ攻防を続ける。
ガウェインはそれに苛立って目の前のそれをにらみ付ける。
ああ、まただと。
それと、いつかに戦ったとき。
それは、少しだけ、最期に言葉を口にしただけで、何も言わなかった。
弁明だとか、なぜああなったのかなんて、そんなことも言わなくて。
黙り込んで、苦悶の表情を浮かべるだけで。
「お前は、何故、そうやって!」
「ロット王!」
慌てて駆けてきた藤丸立香、そうして、ガへリスやモードレッドの声を聞きながら、ロットはその場に片膝を突いた。
立香はそれにロットの元に駆け寄った。男は、冷や汗を流していた。
「大丈夫?」
「・・・・まあ、無理してないとは言えないからな。」
「父上、面目ございません。」
「いや、いい。どっちかってえと、あっちのほうが本命だったんだろう?」
「本命?ねえ、ランスロットに加勢をしないと!」
それにロットは立香の肩を掴んだ。そうして、申し訳なさそうに微笑んだ。
「すまない、お前は嫌がるだろうと思って言えなかったんだよ。なあ、マスター知ってるだろう?俺たちは、己の物語に引っ張られる。なら、二人が戦えばどうなるか。」
ロットは淡く、微笑んだ。
「ランスロットは、ガウェインを殺すためにこの島に呼ばれたんだ。」
そうであると、夢魔は言った。
それに立香は目を丸くして、ランスロットを見た。
戦う、戦う、戦う。
ガウェインの方が押していることを、彼は自身で理解した。
ああ、やはり、自分の方が今は勝っているのだ。
(ならば、あの時のようにはけしていかない!)
相打ちになったあの時と同じにならないために、手早く事を進める。そうしたら、そうしたら。
(父上に。)
否定を、肯定を、愛を、今度こそ、父は、母と。
(柔らかな、夢の中で。)
「ガウェイン卿。」
そこでノイズが入る。忌々しい。声がして、ガウェインの思考を曇らせる。ランスロットをにらみ付けて、はじいた剣の衝撃と共に距離を取る。
「今更、なんだ。何を語るというのだ?もう、いい、お前には何も期待などしていない。」
ガウェインはそう言うと同時に、剣は構えられ、そうして光が集まる。
「罰を欲しているというのなら、私が下してやろう!」
剣に光が束ねられていく。
それを察した立香たちは退避の動作に入った。ランスロットはそれに目の前の月光の光を見つめた。
(私は、間違えた。)
間違いだらけだったとはいえない。優しいものも、正しいものもあった。けれど、あまりにも、それを覆してしまうような間違いが多すぎた。
死ぬのは恐ろしくない。
自分を殺した誰かを見つめて、言葉を貰って、ここまできて。
(あなたがいるとわかっていた。だから、ここまでたどり着いた。)
なんとなく、理解していた、この島の己の末路。
だから、これでいい。
ガへリスの言葉通り、役割を終えた役者は舞台を去るべきだ。
「我が終焉なるあなた。殺し合うこの愚かしさに救いなどあってならず。」
我が罪の末路
それと同時に、ランスロットの剣にも光が集う。まるで、ガウェインのそれと鏡合わせのように、その光がぶつかった。
「あれは何!?」
「ランスロット卿の物語だ。同胞を殺し、友と相打ちになった、ランスロット卿専用の、ガウェイン兄上への宝具。相手とまったく同じ力をぶつけて、相打ちになる。自爆技。」
ガウェインとランスロットはそのまま無様に倒れ込む。
互いにすでに満身創痍で、それこそすぐにでもその体は砕け散ってしまいそうだった。
「ば、かな・・・・」
「・・・あなたには、存在しないでしょう。あなたは、変質してしまっている。故に、この場では私だけに許された、宝具です。」
「道連れにしたのか。また、私は・・・・!」
「・・・これが、私の役目でしたので。」
ランスロットのそれに、ガウェインはやられたと、自分は間抜けなことにはめられた事実を理解した。
「卑怯者が!また、そうやって、お前は、お前は、私に母上を置いていかせるのか!お前は、お前だけは、したり顔で、何がしたかった!何をなしたかった!」
それにランスロットは恥じ入るような顔をして黙り込む。
ああ、また黙り込むのかとガウェインは歯を噛みしめた。
「ガウェイン。」
それを静かな声が遮った。それにガウェインは目を見開いて、そうして、目の前の男をにらみ付けた。
「・・・・父上、が、そうされたのですか?」
「・・・・そうしなければならないのなら、そうしろと言うこともあるだろう。」
ロットのそれに、ガウェインは叫ぶ。
「どうして、そこまでして、私のことを邪魔するのですか?」
ガウェインは駄々をこねるように、地面に拳を叩きつけた。
「父上は、やはり、怒っておられるのだ!!私が、私が、何も、約束も守れずにおめおめと私心がために行動をしたから!」
その言葉にロットは静かにガウェインのことを見下ろした。ガウェインは変わることの無いロットの仕草に耐えきれなくなって、ただ、わめく。
ぼたぼたと、子どものように涙をこぼした。
「怒っておられるから、だから、このようなことをされるのだ!親不孝者の私の言うことなど聞いてくれないのだ!」
ぐずぐずと泣いて、子どものように駄々をこねるガウェインに、ガへリスはもちろん、立香はモードレッド、そうして、ランスロットも唖然とした。
だって、そうだ。
ガウェインはいつだって、頼れる、かっこいい、騎士で。
その様子にロットは仕方が無いというような顔をして、そっとガウェインの頭を撫でた。
「怒っていないよ。」
「嘘だ!うそだ、父上は、怒っていて。」
「何故だ?だって、お前は俺との約束を確かに守ってくれたじゃないか?」
それにガウェインは目を見開いて、そうして、涙でかすんだ視界の中にいる父を見た。
約束?
どこが?
だって、自分は、何一つ。
「いいや、守ってくれた。お前は俺との、一方的な約束をちゃんとな。」
「大前提が違う。弟妹達を守れというのは、あくまで彼らが大人になるまでだ。騎士になり、戦場に出た時点で、彼らの命は彼らの物だ。戦いに準ずると言うことはそういうことだ。」
厳しい声でロットは言った。けれど、その手は変わること無くガウェインの頭を優しく撫でた。
「モルガンが寂しくないように孫娘を側に置いてくれたことも、母と共にいたいと願っても国のためにオークニーを出たことも。お前はちゃんと、俺との約束を守ろうとしてくれた。本当に頑張ったな。」
お前は、俺の誇りだ。
それは、いつかに聞いたような、父の優しい声音のままで。ガウェインはそれが心底、真実であるのだと。
ロットにとってそうであると信じてしまった。だって、ずっとそうだった。
その声に包まれて、育ったのだから。
けれど、ガウェインには納得できない。
「なら、どうして、ここを滅ぼされるのですか?ここは、母上の、夢だと。あなたは知っているのに。」
叶うことがない夢。
いなくなった人がいて、満ち足りて、優しい夢。
ここにいてくれればいいじゃないか。後がどうなっても構わない。あの子がいても、それでも、やっぱり。
傷ついて、散々にここまでたどり着いた母がそう祈るならば、それだけで。
「・・・ガウェイン。俺はお前に何を教えた?」
唐突に放り込まれたそれに、ガウェインは思わず言葉を返した。
「森の歩き方、安全な水場、狩りの仕方、木の実のありか・・・・」
「そうだな、ガウェイン。俺は、お前に生きる方法を教えた。生きるとは、どんなことだと俺は言ったか。覚えているか?」
それにガウェインは掠れた声で、ロットを見つめて言った。
「・・・たたかい、つづけること、だと。」
遠い昔、ガウェインはロットに言われたことを覚えている。
森の中で飯を取るってのは戦いだ。獲物との知恵比べ、木の実だって他の動物との戦いだし、水場での安全だってそうだ。俺たちは、何かの命を絶対的に喰らって生きる。それは仕方が無いことだ。騎士とてそうだ。勝者の裏には、敗者がいる。それは変えられない。
だから、ガウェイン。
「生きなさい。最期の、最期まで。例え、手足がちぎれても、最後の最後まで足掻いて、生き残ることを考えろ。死にさえしなければ、後は勝手についてくる。後に託すことが出来れば、それでお前さんの勝ちだ!」
今更になって、そうだと。ガウェインは思い出す。
オークニー。
厳しい、冬の、寒い、果ての国。
他の地域よりも、厳しい環境で生きる子どもたちはこう言われる。
生き残れ、と。
「なあ、ガウェインよ。モルガンはこの島の民まで夢の中に引き入れたな。俺は、そうだな。正直な話し、それについては怒っている。」
「民の保護は、王として当たり前のこと!」
「いいや、違う。なあ、ガウェイン。夢で生きる彼らは、彼らだけで生を完結させる。子どもは産まれず、全ては幻影のうちだ。それは、柔らかな終わりを望んでいる。滅びに救いを見いだすなど、けしてしてはならないことだ。」
ロットは、じっとガウェインを見た。
「ガウェイン。確かに敗北した者は哀れにうつる。国がなくなって、行き場の無い者は悲しいだろう。だがな、それでも、俺たちは叫ばねばならない。戦い続けろと、負けるなと!」
「どうしてですか!?辛い思いなどして欲しくない!悲しい事から守ってやりたい!それは、間違いなのですか?」
「・・・・なあ、ガウェイン。」
哀れまないでくれ。
寂しい笑みを浮かべたロットにガウェインは黙り込んだ。
ロットの脳内には、いつかに自分を見た夢魔のことを思い出す。苦しむのは哀れで、だから、このまま、柔らかな最期を願った人でなし。
今、こうやって、永遠の夢を見たいと願う在り方は、彼とどう違うのだろうか、と。
「あまたの苦痛から守ってやりたい、苦しいことから遠ざけたい。それは当たり前の心だ。だが、それは、人の在り方ではない。それは、そうだな、神々の在り方だろう?俺はな、もう嫌なんだ。」
ロットはガウェインのことを見下ろした。
「・・・・あの人は、神様じゃない。ただの、寂しくて、悲しい人だ。なら、終わりが来ないような夢の中で、独りだけ生き続けるのはあんまりにも寂しいじゃないか。」
それにガウェインは何て答えていいのか、わからなかった。
違う、違う、だから、自分たちがサーヴァントの身で戻ってきた。寂しいあの人に寄り添うために、神様のように、独りで佇むあの人の元に、母の元に。
だから、自分は。
「ガウェイン。わかっているだろう。俺たちは、サーヴァント。本人ではないのだと。」
本当の意味であの人に寄り添うことは難しい。ここにいるガウェインは確かにガウェインで、けれど、何かが混ざっている。
だから、自分はそれで、母への愛だけは確かにそうであるのだと信じたのに。
「・・・・いつか、子どもは独り立ちをする。お前が俺からそうであったように。だから、人もそうだ。いつか、自分の足で立って、戦って、勝利し、敗北する。ガウェイン。お前の知る、この島の民は、そんなにも弱かったか?」
「いいえ、そのような、そのようなことなど・・・・!」
「ああ、そうだ。生きていれば、苦しいことも、悲しいこともある。でもな、それを越えた先で生きてて良かったと思えるようなものがある。なあ、ガウェイン。」
お前は、美しいものを見たか?
それにガウェインは、もう、ダメだった。
ぼたぼたと、涙が、ただ、零れて。揺らめく視界の中で、それでもなお、父を見て。
「あり、ました・・・・」
美しいものが、確かに、ありました。
思い出す、生きて、生きて、走って、走って、愚かな終わりを招いてなお、振り返った先にあった美しい、輝かしいものが、確かに、ガウェインにはあったのだ。
「ああ、そうだ。なあ、不幸だった、苦しかった。でもな、幸せだっただろう?生とは、そういうことだ。少なくとも、そうだった。なら、どうして、夢を見ろなんて言える?俺が死んでもいいと思えたのは、生きて、俺と同じように、苦しんで、悲しんで、それでもなお、いつかちゃんと幸せになると、全てを信じたからだ!」
声がする。ああ、声がする。父の、ずっと聞きたかった声が、する。
「お前も未来を信じてやりなさい。お前に星が瞬いたように。この島の民にも、そうして、モルガンにだって。変わること無く、きっと星が瞬くはずだ!」
ロットはがしがしと、いつかに、幼い頃のようにガウェインの頭を乱雑に撫でた。
それが、ただ、懐かしくて。
ああ、そうだ。
ガウェインは思い出す。
自分は、ただ、きっと。
こんな風に。
選んでくれなかったことだとか、母への罪悪だとか、たくさんのことがあっても。
それでも、生きようと、行こうと、足を止めなかったのはきっと。
こんな風に、頭を誰かが撫でてくれた、日だまりの記憶があったからだ。
ずっと、その温かな記憶はガウェインのことを暖めてくれたから。
ガウェインはわんわんと、幼子のように泣いた。ただ、泣いた。
(ああ、きっと、母上も・・・)
ガウェインは涙の中で、ただ、思う。
国を守りたいだとか、それは確かに思っていて。彼女も又、自分と同じように。
この声と、大きな手が帰ってきてくれることだけを願っていたのだと。
それを見ていた立香は言った。
「ガウェイン。あなたは、ずっと、罪だと。自分の人生を、ずっと、罪だと思ってたんだね。でも、咎められない罪には、罰なんて必要なかったんだ。ずっと・・・・」
泣く声がする。それを、ランスロットは見つめる。
泣いて、幼い子どのように泣いて、自分の知るガウェインとはあまりに違って。
それにランスロットは、ああと思った。
(・・・・ガウェイン卿。私は、あなたのように、なりたかった。)