ロット王は愛妻家   作:藤猫

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申し訳ないです、少し忙しく、投稿がのんびりになります。


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余韻

 

 

「・・・・冬ですね。」

 

ベルンの言葉にロットはちらりと外を見た。それに、ベルンもまた同じように視線を向ける。視線の先にはしんしんと降り積もる雪景色がある。

 

「冬だな。」

 

ロットはその言葉に頷いた。ぼんやりと、薪や食料が足りないような村はないだろうかと考える。それに、ベルンははあとため息をついた。

 

「王妃様が嫁いでこられて、かれこれ半年以上過ぎましたね。」

「あー、そうだな。もう、そんなに経つのか。」

 

ほっこりしながらそんなことを言う男にベルンはずいっと顔を近づけた。

 

「半年、ですね。陛下?」

「え、ああ・・・・」

「は、ん、と、し、ですねえ?」

 

自分にそう言って詰め寄ってきたベルンに、ロットはそっと視線をそらした。

 

 

 

ベルンは目の前でそっと視線をそらした主をにらみ付けた。

彼の主人に当たるそれは無駄に育った体を縮めてベルンからそっと視線をそらしている。

無礼であるとかもろもろはベルンはそっと置いておく。何と言っても、彼とて一言二言言っておかなければならないのだ。

「いったいいつになったら、自分の妻に手を出すんですか!?」

「あーあー!!聞こえんぞ!!」

そう言って耳を塞いで顔をそらすロットにベルンは眉間に皺を寄せた。

本音を言うならば、その手を払いのけて耳元で説教の一つでもしたい気分だ。ただ、無意味にすくすく育っているロットに身体面で勝てるなどと思えない。

それでも、そんな欲求に駆られるのも仕方が無い。

ベルンとしては、早くロットに王妃へ手を出してもらわないといけないのだ。

(何人かが五月蠅くなっているというのに。)

ベルンの脳裏には幾人かのやっかいなそれのことが浮かんでいた。

 

ロットがモルガンに手を出していないのは、城の中では何割かが知っている事実だった。

モルガンの近くにいる侍女たちはすぐに察し、そうしてそれを経由して知っているものが少数いた。

それでも、誰もそれについて口を出さなかったのは、ひとえにロットへの良い意味での、悪い意味での信頼故のことだ。

ベルンもまあ、時間が経てば終わるだろうと高をくくっていた。が、蓋を開ければどうだろう。どう見ても嫌いあっていない二人が夫婦になり、数ヶ月。未だに、ロットとモルガンの間に関係はない。

 

(この前、やっと!やっと!気に入りの塔に連れて行って、何かしらの進行があったのかと喜んでいたというのに。)

 

モルガンとキスしちゃったと頬を赤らめた大熊を前にしたベルンの脱力感をきっと多くの人が理解してくれていることだろう。事実、ダイルに横っ腹を殴られて悲鳴を上げていた。

 

(ええ、遠方からやってきた妻を気遣うのは正しいんでしょうが。だからといって、そんな場合でもない。)

 

おかげで、何人かが騒ぎ出しているのだ。

 

(このままだと、側室の話を本当に陛下にする者も出てくる。)

 

ロットの臣下には先王から仕えているものも多くいる。そうして、年頃の娘を持っている存在も。ブリテン島の田舎に当たるオークニーで、一番の婿がねといえばロットなのだ。

それだけでなくなんだかんだで優秀なロットは娘を持つ父親たちには人気であった。

モルガンとの婚姻が出る前は、彼への縁談話は数多くあった。

そうして、モルガンとの関係を知ったそれらの幾割かが馬鹿なことを考え始めている。

 

(だからといって、モルガン妃との関係を突かれた上で跡継ぎの話をされればこちらも無下には出来ない。元より、婚姻とはそういうものですし。)

 

ロットが正妃と関係を持たないというならば、代りの女の話を出すのは忠言には当たるのだ。一方的に処分することは出来ない。元より、ただでさえ人手が少ないのだから、対処というものに困るのだ。

下手にとがめて人手がなくなっても困り、だからといって相手の言うことを素直に聞くわけにも行かない。

 

(陛下に伝えたくなかったが、そうはいっても・・・・・)

 

そんなことを考えているベルンにまるでごまかすようなロットの咳払いが聞こえてきた。

 

「あー、そうだ!お前に一つ、急遽頼みたい仕事があってな!!」

「・・・ごまかすにしても。」

 

ロットはベルンの声を遮るようにして幾人かの名前を言った。それに、ベルンは顔をこわばらせた。それは、ベルンの記憶が正しければ、ロットとモルガンのことで水面下で騒いでいる人間の名前だった。

 

「陛下、それは。」

「何でも皆、己の娘の結婚のことで悩んでいるそうじゃないか。いつも頑張ってくれているからな。良縁を紹介してやろうと思うんだ。あとで候補の名前を渡すから、皆に伝えておいてくれ。」

 

ベルンはめまいがしそうになりながら、それに頷いた。

ロットは確かにさっぱりとした人間だ。楽天家で、気安い。だからといって、含むことがないわけではない。

以前、こんなことがあった。侮った相手が嬉々として計画を立てていると、堂々とその横腹を突いて言うのだ。

楽しそうだな、俺も仲間に入れてくれよ、と。

漏れたということもない、仲間内で、それこそばれる要素もない。けれど、ロットはいつだって訳知り顔で笑う。

今の言葉も、娘の縁談をくだらないことに使うなと言う皮肉であると、それぐらいは察している。

 

(どこで仕入れてくるんだ。本当に。耳のように働く人なんていたか?)

 

ベルンはじっとロットを見た。

 

「・・・・そうですか。私も知りませんでしたが、どこでお知りに?」

 

ベルンの言葉にロットは不思議そうな顔をして、とんとんと己の眼帯を指で叩いた。

 

「どこでなんて、見てればわかることだろう?」

 

 

 

 

(・・・・かさついていた。)

 

その日、臨時の執務が終了したモルガンは、己の自室で休んでいた。別に王妃だからと言って暇なわけではなく、糸を紡いだり、己の夫の服を縫ったり。

が、その程度のことモルガンは早々に終わらせてしまっている。

そんな彼女は塔の上にて、起こったそれについて考えていた。

何か、ロットが言っていた気がする。もちろん、何を言われたかなんて賢しい女王である彼女はそれを覚えている。

男の人への情も、美しいこの国のことも、モルガンの居場所になったことを

覚えている。

けれど、それは最後に己の唇に重ねられた時のことを思い出すと、何もかもが桃色に染まってしまう。

 

(乾燥してた、あと、柔らかかった。)

 

それを思い出すたびに、モルガンはぼふりと何かしらに顔を押しつけて、精神を落ち着けた。そうして、今押しつけた椅子の肘置きから顔を離して妙に熱いほっぺたをむにむにと揉んだ。

 

(そうだ、あれしき、私にとっては些細な児戯。大体、あれは唐突だから予想外で驚いてしまうんだ。)

 

うんうんと頷きつつ、モルガンの脳裏にはかさついた感触が反芻する。それに、モルガンは自分の胸がばくばくとなり出してしまう。

いっそのこと、ごろごろと辺りを転げ回りたい気分だったが、さすがにそこまでするほどプライドがないわけではなかった。

けれど、体の奥底からあふれ出る動揺を押し込めるためにぐっと歯茎に力を入れた。

そうだ、元よりあの程度児戯なのだ。大体、ロットもあの後けろりとしてモルガンを部屋に送り届けたのだ。

そうだ、その程度なのだ。

 

何故、私だけこんなに動揺している?

 

モルガンの中でそんな思いが生まれる。そう思えば、なんだか、たまらなくムカムカとしてきた。そんなことを思っていると、湖の乙女が何の気なしに他の己に言い捨てる。

 

なんて言ってるけれど。私たちにそんな経験あるわけでもないから、ロットの方が上手でしょうねえ。

 

それにモルガン内で、モルガン・ル・フェとモルガンがざわついた。

 

け、経験が何だと言うんです!?男をたぶらかすなんて簡単に決まっているでしょう!?

私に跪かない男なんているはずないでしょう!?

でも、ロット、女の影はなかったけど経験が無いわけじゃないし。そういうイロハは私たちより知ってるんじゃないの?

乙女、あなたはどっちの味方なのですか!?

そうだ!貴様、自分は関係ないというような顔をして!

だって、私は別にこのままでいいかなあって。

よーくーあーりーまーせーん!!!

いいわけあるはずがないだろう!?だいたい、私たちはあれに好きかってされすぎている!この前も、ロットに先手を打たれて、キ、キスされるなど!自ら行くということができないのか!?

なら、あなたがしてくださいよ!?

妖精の私が自らそんなことを請うなどなさけないだろう?

逃げるんですか!?

誰が逃げるなど!?

ねえねえ。

なんですか?

なら、私がしようか?

え?

 

 

(今日も何か考えてこんでおられる。)

 

モルガン付きの侍女である彼女は椅子に座り物憂げな顔をしているモルガン、実際は三人格で醜い争いをしているのだが、そんなことを知るよしなどないだろう。

そんな彼女はモルガンについて心を痛めていた。

というのも、モルガンの侍女であるが故に知っている、ロット王との関係についてだ。

 

(あのへたれめ。)

 

 

その侍女である女は昔からロットのことを知っていた。といっても親しいわけではない。幼い頃から城に上がり、見習いとして経験を積んでいた彼女は次期王であるロットのことはよく知っていた。

人好きのする少年は少々身内としての感覚が強い小国ではなかなかに慕われていた。

愚かでもなければ、強い少年に期待するものは多くいた。大人たちがかわいらしいと思うようないたずらもよくしていた。

彼女も遠目ではあるがロットを眺めていたが、嫌いでは決してなかった。

けれど、いつの頃だろうか。

あるとき、馬に乗って一人で出かけたロットが目に怪我をして帰ってきたと騒ぎになった。けれど、それもすぐに落ち着いて、当たり前のように人前に現れるようになった。

それからだろうか。ロットが城の中の秘め事に精通するようになったのは。

城の女たちが話す噂話に、臣下たちの企み。

侍女である彼女が全てを知ることはなかったが、何かしら、城で起ころうとしたとき波が引くように消えてしまうことぐらいは知っていた。

なんというのだろうか、うさんくさくなったようには思う。

陽気で、明るくて、女子どもに優しいそれは実際の所女たちに人気があるかと言われれば悩む。

実際の所、女たちから熱い視線を受ける要素は相応にある。

礼節のある行動、身分をわきまえているとは言え誰に対しても誠実であり、騎士としての力量。何よりも、滅多にないほどに美しい顔立ち。

最初はロットの妻になりたいと思う女はいた。が、蓋を開ければロットの人気はみるみる下がっていた。

というのも、あまりにもロットというそれは女に対して興味が無かった。

男同士で鍛錬をしている方が気楽というそれは、経験が無いわけでは無いのだが、のらりくらりと貴婦人たちからのアプローチを避け続けた。

強引にことを進めようとすれば、父親に根回しをして縁談を用意し、面倒になるとどうどうと興味が無いと口にするような男だった。

その、一周回って誠実な性格に夢ばかり見ていられない女からの人気はがた落ちした。

 

ロット王?悪い方ではないけれど。

 

というのがロットの評価であった。

だからこそ、ロットに妻ができることがどれほど嬉しかっただろう。侍女になって数年。だというのに世話をする女主人もなくどれほどの年月が過ぎただろう。

嬉しかった。ようやく、己の仕事が果たせるのだと。

やってきた王女は、目が潰れるほどに美しかった。控えめで、ささやかな年下の少女は彼女の感性にがっつりとヒットした。

飾り立て甲斐のあるモルガンは他の侍女からも人気だった。

何よりも、同じ女の立場だ。何も知らない国にやってきた少女が哀れだった。

何よりも、ようやくロットをノックダウンできるような姫が妻としてやってきたのだ。

彼女は今でも覚えている。初めて、モルガンにあった日のロットの表情を。

驚きに満ち、けれど、美しい少女に見とれる少年染みた顔を。

それに城の女たちはざわついた。

今まで、散々に、多くの女たちを袖にし、そんなものより釣りがしたいと放り出し、果ては興味が無いと言い捨てた、その男。

そのままやってしまえと拳を握った女は多かった。

たった一人の女のために政務をおろそかにするような王ではない。そんな信頼もあり、侍女一同はなんとかしてロットの鼻を明かしたいという気持ちだけだった。

 

(だというのに!)

 

初夜の日、ぴっかぴかに磨き上げた少女が綺麗なままに戻ってきた、あの日。

そこにどれほどの誠実さがあろうと、侍女たちにとってはふざけるなと言いたかった。

あの手この手で王妃を飾り立てたが、ロットはまるで初孫をかわいがる祖父のごとき態度である。

 

(とうとう、ほかに女が必要じゃないかなんて話まであって。)

 

ロットの不甲斐なさに怒り狂っていた侍女は青筋を浮かべながら、固く誓う。

その王妃に対して、できるだけ誠実であろうと。

 

(さて、今日もどうにか作戦を考えなくては。)

 

そんなことを思っていた侍女の耳に、ノックの音がした。ちらりとモルガンを見れば、気づいていたらしい彼女は頷いた。

それにドアを開けた。

ドアの先にいたのは、モルガン付きの侍女であった。それは非常に慌てた調子で部屋に入ってくる。

 

「どうしました、はしたない。」

「す、すいません、ただ、あの、すぐにお伝えしなくてはと!」

 

陛下が、王妃様に夜、部屋に来るようにと!

 

その言葉に部屋の中の皆が動きを止めた。それはいつぶりの夜の誘いであったのだ。

 





途中のモルガン三人娘、誰が誰かわかったでしょうか。ご意見いただけると嬉しいです。
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