ポケモンに転生した少年の独り言。
僕は転生者である。
ちなみに転生したのはポケモンだった。
どうせなら人間がよかったんだけどな。
だってポケモンの世界だよ?原作知ってる身からすれば、好きなポケモン連れて旅とかしたいじゃん。
個人的には初めて触れた作品のガラル地方か、古きよき初代のカントーが好きだ。
まだ全部の世代プレイしてないからあと分かるのはジョウト、ホウエン、シンオウくらいしか知らん。
あーあ、転生者知識フル活用してジムチャレンジとか荒らしてみたかったな。せっかく記憶持ってるんだから、そういう『俺ツエー!スゲー!』なことしたかったのに。
マイナーポケモンだけ詰め込んだネタパ作って相手を圧倒したり、伝説に手を出してあわゆくばゲット出来たらどんなに楽しいことやら。
まあ成ってしまったものはしょうがない。
もしかしたらワンチャン、ジラーチかアルセウスに頼んだらいけるかも。
……なーんてコト、考えていたんだけどなぁ。
とあるトレーナーと出会ったことで、その野望はあっさりと諦めることになる。いや、不本意だという訳じゃなくて、互いに同意の上でこうなったんだけどさ。
僕があてもなくさ迷い直ぐに出会った彼女は、野生のポケモンに襲われていた。近くにポケモンは居ないし、そもそもベルトにモンスターボールが1つも付いてない。
正直、信じられなかったね。だって大抵のシリーズでもポケモンを持たない内は草むらに入ってはいけないっていわれてるし、それを破る人なんていたんだ……って呆れたくらいだから。
どうしようかな~、とは思った。でも迷ったのはコンマ1秒程度で、僕の体は直ぐに動いて彼女を助けるべく襲いかかるポケモンを迎撃した。
相手のレベルが高かったのか、物凄く苦戦したしボロボロになった。けど、初めての戦闘で勝てたなら上出来じゃない?誇っていいよね?
そして助けた女の子はほぼ瀕死状態で動けなくなった僕を抱え、全力疾走でポケセンへ運んでくれた。
お互いに命を救い救われた立場だった。
まあ、それだけが理由じゃないんだけどさ。いずれは人間にって考えていたけど、この子みたいな善良なトレーナーなら、うん。手持ちに加わってやるのも、まあ、やぶさかではないかなーって思った。
もちろん、彼女がトレーナーとして失格だと判断したら直ぐにでもボールを破壊して逃げるつもりだった。それは杞憂に過ぎなかったけれど。
端的に言えば、トレーナーガチャで大当り引きました。
なんだろう、課金ガチャ1回だけ回して限定SSレア出たみたいな。
彼女は常にポケモンの事を気遣い、優しさ溢れる笑顔で接してくれる。バトルもちゃんと僕らの長所と短所を理解した上で戦略を練ってくれる。
例え負けたってよっぽど僕たち自身に非がない限りは怒らないし、むしろ「次は勝てるよ、がんばろう」と励ましてくれる。
しかも可愛い美少女ときた。
最高かよ。
ポケモンになったせいか、人間の女性に対して性的な感情を向けるような事は無くなったけど、それでも可愛い女の子がトレーナーだぞ?
普通に嬉しいわ。
…………バトルの時だけ、めっちゃ眼光鋭くなって怖くなるけど。まあ些細な事だ。
最初はポケモンとして、トレーナーとして錬度も低く負けっぱなしだった僕ら。けれど、1つの地方を巡り、バッジを一通り集めた頃になれば、いっぱしのトレーナーとそのパートナーとしての貫禄がついたと思うんだ。
1人と1匹だった旅もそう。次第に仲間も増えて賑やかになったし、スタートから出遅れ差がでてしまったという2人の幼馴染みと双子の兄だと言う人にも追い付いた。
僕たちの進んだ道程は、決して楽しいばかりの旅ではなかった。
バトルに負けて落ち込んだ。リベンジできて喜んだ。
一緒に食べるご飯は美味しかった。
ポケモンの技を受ければ当たり前だけど痛みがあって、それが嫌だとバトルするのを拒みたくなったのは何回あったことやら。
強くなる度に飛び上がるほど嬉しくなって、ハイタッチをした。
……。
質の悪いトレーナーがいた。
バトルに負けた際は心ない言葉をかけられた。
明らかに戦闘不能になってるのに必要以上に痛め付けられ、心が折れそうになった。
仲間を奪われかけた時だってあった。
悪の組織と対峙し、幾度となくボールを構えた。
僕ではなく、彼女に攻撃を向けられ怪我をした時は怒りで目の前が真っ赤になった。
辛いことも、悲しいことも、怒りに震えた日だって少なくない。どちらかといえば苦難の多い旅だったろう。
それでも僕は彼女のパートナーであり続けた。
彼女は僕のトレーナーであり続けた。
彼女は、強くなった。
具体的には「もうこれ四天王どころかチャンピオン普通に倒せんじゃね?」ってくらい。
うんうん、これは前世の知識をそれとなーく夢に見るように細工した甲斐があったもんだよ。けど、ここまで強くなれたのは彼女の天性の素質とたゆみ無い努力の賜物だろう。
彼女に勝てるのはもう、彼女の兄くらいかもしれないね。
こうなると、そろそろ外の地方へ行くのも良いかもしれない。そこなら強いトレーナーもわんさかいるだろうし、僕も彼女も満足できるはず。
あ、どうせならガラルかカントー行きたい。いや、ジョウトも捨てがたいなぁ。
アニメや映画オリジナルの街とかもあるのかな?
一番好きなのはアルトマーレだったんだけど、もしかしたら水上レースに参加できたり!
どうしよう、ただの妄想なのにワクワクしてきちゃった。
ふと頭上に影が差す。
「あら、アンタこんなところに居たのね。もう出発するんだから片付けなさい」
おっともうそんな時間だったか。
現実に引き戻された僕はポケセンに置かれてた旅行雑誌を元の場所に戻し、急いで彼女の肩に乗る。
快適だけど妙に落ち着かない、という理由でボールには彼女に捕獲されたあの日以降は一度も入ってない。気分はサトシのピカチュウだ。
「私ね、考えたの。アイツも兄もここを離れて遠くへ旅立っていった。なら、私もこれを期に外の世界を旅してみようって!」
宝石みたいにキラキラとした彼女の目と僕の目がピタリと合う。初めて出会ったあの日から変わらない、未知に心を弾ませる子供らしい純粋な輝きだった。
「もちろん、付いてきてくれるわよね?」
『トーゼン。それでこそ僕のトレーナーだよ!』
僕は元人間の転生者だ。
トレーナーになりたかったし、原作に介入したい、可愛いヒロインを侍らせたいって欲望があった。
でもそれは人間に転生できず、トレーナーに捕獲された今となってはもう叶わないかもしれない。
だけどさ。ポケモンとしての生も案外悪くないって、今はそう思うんだ。
『僕』のトレーナーである『彼女』が何者なのかは想像にお任せします。