萌えっ娘もんすたぁ~暁天の拳~   作:阿佐木 れい

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第二話「未踏の歩み」

 ――私を探してくだサイ。

 

 暗闇の中で、少女はそんなことを言っていた。

 ぼんやりとした意識の中、名前を聞くと、

 

 ――ぱるきあ。そう呼ばれていますデス。

 

 ぱるきあ。

 全く聞き覚えの無い名前だ。

 

 ――ああ、そろそろ行かないとデス。どうかよろしくお願いしますデス。

 

 慌ただしく消えていく少女の気配。

 雲を掴むような感覚の中、体が落ちていく。

 真っ暗だった世界には、やがて光があふれ出す。

 

 さながら夜明けのような優しくて暖かい光に全身を包まれたかと思うと――

 

「おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」

 

 気がつけば、僕は赤ん坊の姿になっていた。

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 生まれてから5年が経過した。

 5歳になった僕は、自分が置かれた状況をようやく理解し始めていた。

 僕――京波資基はパルキアなる存在によって別の世界に転生させられ、第二の人生を送っている。

 

 転生した子供の名前は、テネル。

 シンオウ地方と呼ばれる地域のマサゴタウンに住んでいる両親の元に生を受けた。

 

 そうして5年。

 

 両親の愛情をたっぷりに受けて育った僕は、言葉が何とか喋れる程度。

 心の中は17歳(+5歳)なのだけど、体は全くついていっていなかった。

 それに、5歳だから何もできない。

 

 この世界では、どうやら子供が旅をしても問題のない世界らしく、12歳くらいになったら各地を旅する子供が一定数いるらしい。

 僕もそれくらいの年齢になったら旅立つつもりだった。

 何故なら、

 

 ――寛太。師匠、みんな。

 

 死ぬ間際の光景が焼き付いているから。

 突如として現れた謎の男に、道場は壊滅させられた。

 

 師匠も、兄弟子たちも。

 

 そして、僕が目指していた男も、呆気なく敗北した。

 

 僕を転生させたのがパルキアなら、僕を元の世界に戻すことができるはずだ。

 今の両親のことを思えば心が痛むけど、パルキアなら何か良い方法を知っているかもしれない。

 考える時間はいくらでもある。

 

 僕は12歳で旅立つことを目標に、この世界について勉強を始めた。

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

「だめだめだめ、ぜーったいにダーメですぅ!」

 

 12歳の誕生日。 

 旅立ちたいことを告げたら、猛烈に反対された。

 

「えー、でもみんな旅してるよ? 僕もそろそろ旅をしてもいい頃だと思う」

 

「ダメ、ぜーったいにダメ!」

 

 そう言って、母さんはセミロングの茶色い髪を振り乱して言った。

 

「お父さんだって天国で心配しているに決まってるもの。ダメよ、ダメ。テネルには危ないわ」

 

「う、うーん」

 

 父の事を出されると弱い。

 僕を生み育ててくれた両親だったが、2年前に父が海へ出て遭難し、そのまま死亡扱いとなった。

 それ以来、母は女手一つで僕を育ててくれているので、頭が上がらない。

 それに、いざひとりになると寂しいというのもあるのだろう。

 

「なら、もうちょっとだけ」

 

「うん、ありがとうテネル」

 

 母さんが笑う。

 僕はどうにも、その笑顔に弱い。

 

 元の世界に帰る。

 そう心に決めてはいるけれど――日を重ねるにつれて自分の中で迷いが生まれ始めていた。

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 16歳になった。

 正直、いい加減もういいだろうという気持ちが勝った。

 しかし、

 

「だめだめだめ、ぜーったいにダーメですぅ!」

 

 いつかと同じポーズで母さんが反対してきたため、僕は着の身着のまま無言で家を出た。

 こうなったらもう既成事実しかない。

 ひとりだから旅に出られないのだ。

 パートナーとなる萌えもんがいれば、母さんも文句が言えないはずだ。

 

 そう、この世界には萌えもんという人型の存在がいる。

 萌えもんたちと共に歩み、戦い、生きるのがこの世界の日常だ。

 中でもパートナーは大切。

 パルキアを探すという僕の目的に呼応してくれるような奴がいい。

 

「森なら何かいるかな?」

 

 幸い、身につけているのはジャージだ。

 学校で支給されたものをそのまま使っている。動きやすいから、森に入るのにもちょうどいい。

 ボールは忘れないようにいつも"大切な場所"に入れている。完璧だ。

 

「良い萌えもんいないかなぁ」

 

 できれば格闘タイプがいい。

 京波資基として生きていた時は、格闘技ばかりの人生だった。

 毎日毎日格闘技に打ち込んだおかげで神童なんて仰々しい称号まで貰ったけど、実際そこまで格闘技に本気で取り組んでいたわけじゃない。僕には格闘技しかなかっただけだ。

 ただ、今の自分が持っている最大の知識は格闘技だし、だからこそそれを活かせる萌えもんなら、旅はちょっと楽になるに違いない。

 

「ここかぁ」

「ひっ、怖いぃぃぃぃ!」

 

「みーっっけ」

「ひゃああああ、へんたいだあああああああ!」

 

 何故か、萌えもんたちが逃げていく。

 

「うん? 何でだろ。ちゃんと笑顔でいるのに」

 

 口端を指で持ち上げる。

 良い笑顔だと思うんだけどなぁ。

 

「今日は捕まえるまで帰らない。そう決めた」

 

 母さんを見返してやる。

 そして頷かせてやる。

 そんな気持ちで森を彷徨っていると、

 

「名前も姿もわからないのに、どうやって探せっていうんだ」

 

 茂みの奥から、そんな声が聞こえてきた。

 勝ち気そうな、でもどこか弱ったような声。

 萌えもんだろうか?

 期待を胸に茂みを覗き込むと、そこには小さな体を青と黒の体毛で覆った萌えもんがいた。

 

 名前は確か――ルリオ。

 望んでいた格闘タイプだ。

 

 ――やった!

 

 ガッツポーズ。

 でもどうやら少し困っているようだった。

 逃げられない言葉は何があるだろう?

 慎重に言葉を選んで、第一声を放つ。

 

「そうだね、どうしたらいいのか」

 

 ルリオが、ガバッと起き上がって僕の方へ視線を向ける。

 

「にん、げん……?」

 

 その驚き方が、まるで未開人を発見した文明人のようで。

 僕は自然を笑みをこぼしていた。

 

「うん、人間だ。テネルっていうんだ、よろしく」

 

 この子となら、上手くいくかも知れない。

 そんな想いと共に、僕は彼女――ルリオに近付いた。

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 ルリオもパルキアに興味があるようだった。

 詳しくは話してくれなかったけど、それは僕も同じだ。

 同じ目標を持つ相手が手を組む。

 

 ――うん、良いじゃないか。

 

 ところで、

 

「どうして君は泣いているんだい?」

 

「……うっせぇよ」

 

 ボールから出たルリオは、どうしてか膝を抱えて蹲っている。

 僕は何か粗相をしてしまったのだろうか。

 

 いや、何もおかしいことはしていないはず。

 ルリオに有益な情報をあげたし、力になるとも確約した。

 なら何が悲しませて……はっ、そうか!

 

「ごめん、君の名前を決めていなかった! すまない、だから悲しかったんだね」

 

 ルリオは何か異次元の生物でも見るかのような目を僕に向けていた。体にヒルでもついているのだろうか? そんなはずはない。だってジャージを着ているんだから。

 

「どんな名前がいい? 希望が無かったら僕が決めるけど」

 

「いや別にルリオでいいけど」

 

「そうかい? なら、ブリムクリフとか」

 

「オレが考えるから黙っていてくれ」

 

 そう言って、ルリオはうんうん悩み始めた。

 良い名前だと思うんだけどなぁ、ブリムクリフ。

 

 悩むこと数分。

 ルリオはやがて顔を上げ、

 

「ルリオで」

 

「うん? それ変わらなくないかい?」

 

「いいんだよ、別に。面倒くさいし」

 

「じゃあやっぱりブリムクリフ」

 

「それは嫌だ」

 

 むぅ。

 ここで無理を言って信頼関係を壊したくない。

 ルリオは、絶対に譲らないぞという顔をして僕を睨んでいる。

 

 ――次は絶対に負けないからな!

 

 その顔が、かつて見た親友の姿と被る。

 

 ……寛太。

 

 そうなった君は、絶対に折れたりしなかった。

 強く、憧れるほどに。

 

 だから、

 

「じゃあ、ルリオで。よろしくね、ルリオ」

 

「おう」

 

 ニカッと笑う姿も、どこか似ている。

 

「良い笑顔だね」

 

「えっ、キモい」

 

 ルリオはすぐに一歩後ずさった。

 ちょっと無駄が多い動きだった。僕ならもっと速く動く。

 

「さて、じゃあうちに行こうか」

 

 何気なく発した僕の言葉に、ルリオは絶望した表情を浮かべた。

 

「え、お前ん家行くの?」

 

「そうだけど?」

 

「普通に嫌だ」

 

「でも、そうしないと出発できないよ?」

 

「ぐっ、いや、そうかもしんないけど」

 

 ルリオは今まで一番警戒していた。

 はて、ただ家に行くだけなのにどうしてだろうか。

 

「出発前にふたりで親睦でも深めよう。まずは君の体をちゃんと見ておきたいんだ」

 

「――っ!」

 

 ルリオは背を向けて一気に走り出した。

 うーん、逃げるのは速い。

 けど、

 

「戻れ、ルリオ」

 

 ボールから赤い光がルリオへと向かって放たれる。

 

「……ぁぁぁぁあああああ、いやだあああああああ!」

 

 そんな叫びと共に、ルリオがボールの中へ収納される。

 これで良し。

 

「じゃ、無くさないようにしないと」

 

 僕はルリオの入っているボールをもう一度"大切な場所"に収納し、家へと向かった。

 

 

 パルキアを探す旅の期待に、胸を躍らせながら。

 

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