引退してお先真っ暗のライスシャワーを買った。 作:エタノールの神様
トレセン学園近くの商店街には花屋があり、いつも色とりどりの花を販売している。ライスシャワーはトレセン学園在籍時、この店で手伝いをしていたことがあった。
この花屋、ウマ娘たちからの評判が非常によく、花瓶にさす花からプロポーズ用まで取り揃えていて、花を選ぶ際のアドバイスも的確であるためトレセン学園御用達である。
最近はバラの販売数が増えている。何を隠そう、テイエムオペラオーとやらが連戦連勝を重ね、その度にライブにこの花屋で買ったバラを独断で演出に使用するからだ。
そうでなくともフジキセキというウマ娘が普段からいたずら用に買っていくし、バラに限らなければ女帝様はお高い苗を買うし、アグネスタキオンとやらは怪しさ半分面白半分で(ちゃんと調べてから)仕入れた珍妙な外国の花を購入してくれる。
そしてセイウンシャワーもまた、この花屋の常連客である。
彼女は部屋で植物を育てるのが密かな趣味だ。お鍋サイズの小さな温室を使って季節に合わない植物の花を咲かせていることもあるほどに。後に真冬にミニヒマワリを開花させた際、同室のイングランディーレが季節感を失うという事件が起きる。(寮長のヒシアマゾンは苦笑していた。)
そんなセイウンシャワーの好きな植物は大豆である。トレセン学園の雑木林の中をひっそりと1反ほど開墾して栽培するくらいには好きである。
肉が苦手なセイウンシャワーにとって、大豆は今の自分の体を作るのを手伝ってくれた恩人(恩植物か?)なのである。
大豆の花言葉は「可能性は無限大」。彼女はそれを知らないが、芝にダート、障害と三種の神器を使いこなす力の無限大の可能性を、少しづつ手に入れている。
セイウンシャワーは、今日もまたその花屋を訪れた。
「ふふーっふーん♪夏の切り花は萎れやすいというのにここの花屋さんは手入れがいいですなあ♪きれいに咲かせていらっしゃる♪」
彼女が今日花屋を訪れた理由。それは教室の花瓶に生ける花を買うためである。
彼女は商品棚の花を見入っていたとき、店の奥からテレビでよく聞いていた声がした。
「そのね、多肉、ちょっとお高いけど、買う?」
「買う買う、最近は府中も外国人が多くなってきて高級植物を買う人が増えてね、多肉おいてないとこがネットで悪評つけられちゃうの。」
「お姉さまも大変だね。」
「そうなのよ~ちょっと聞いてよ、この前朝店を開けようと思ってシャッター掃除してたら隅っこにゲ○があってね、防犯カメラ確認したら黄色いシャツに黒のチョッキで片方だけ側頭部を刈り上げた変人さんが吐いてたの。ライスちゃんがいた頃そんなひとがトレセンに居た気がするけど気のせいかな?」
「きっと気のせいだよ(スピカさんやっぱり狂ってるなあ)」
覗いて見ると契約ついでに世間話をする店長と憧れのライスシャワーがいた。
ライスシャワーである。彼女、セイウンシャワーの憧れの人。逃げる無敗の二冠馬を一瞬にして捕らえる末脚、無尽蔵のスタミナを以て長距離の覇者となった3000メートル以上負け無しのウマ娘。セイウンシャワーをウマ娘競走へと駆り立てた張本人。さらに言えば運命の(様な何かを感じる)ウマ娘。
一度でいいから会ってみたい、話題は何でもいいからとにかく話してみたい、そう願い続けていたライスシャワーが今、視線の先に、店の奥に居る。
ライスシャワーとお話したい。自分の夢を聞いてもらいたい。でもライスシャワーは店長と楽しそうに世間話(商談とも言う)をしている。
話しかけるのが怖い。大事なお話を遮ってしまったら、それで憧れのライスシャワーに嫌われてしまったら。どうしよう。どうしようもなく怖い。
あぁ、コミュニケーション障害、略してコミュ障の発動条件が揃ってしまった。
花を買いに来ただけなのに。セイウンシャワーには「ついで感覚」で話しかける勇気はなかった。
そんなセイウンシャワーに救いはないのか…
「おっ?シャワじゃねえか。なにやってんだ?」
「シャワちゃん、こんにちは!」
あった、救い。それはたまたま花屋に入ってきてセイウンシャワーに話しかけたこの二人、エアシャカールとファインモーションである。
「こんにちは…おシャカさんファインちゃん」
「誰が仏陀だ!」
「わっ私はそんなこと一言もっ」
何気ない些細な出来事からの小競り合い。あぁ、安心する。これが日常。リスクを犯して憧れのあのウマ娘に話しかけるより、ずっとローリスクで満足できる。
否
セイウンシャワーは満足していない。せっかく憧れのライスシャワーに会えたのに。話しかけるチャンスがあったのに。
エアシャカールとファインモーションが花を見るだけ見て店を出ていったあと、セイウンシャワーはレジへ向かった。
ピッ
ピッ
花束を包む包装に貼り付けられたバーコードが読み込まれ、機械が精算していく。
いつもと違う店員さんなのだろうか。この花屋は店長さんが一人、ときどき旦那さんが手伝って居ることもある。バイトを雇ったという話は聞かない。しかしそんなことも気にならないくらい、セイウンシャワーは落ち込んでいた。憧れのライスシャワーが近くに来ていたのに。話しかけるチャンスがあったのに。
「お会計2658円になります。」
その声はセイウンシャワーを失意のどん底から無理やり引きずりあげた。
その声はセイウンシャワーに困惑、驚き、わずかな歓喜をもたらした。
セイウンシャワーが顔を上げる。
レジ打ちをしていたのはなんと、店長と長話をしていたはずのライスシャワーだった。
「えっと…そのね、話しかけたそうにしてたから、ちょっと、サプライズ。」
支払いを済ませて、ライスシャワーとセイウンシャワーは公園のベンチで話していた。
セイウンシャワーが自分から話をふるのが苦手である様なので、ライスシャワーが話をふる。
トレセンに入学した理由。ライスシャワーを初めて見たレース。周りの圧がすごくて声を出して応援できなかった菊花賞。ネットで知り合った得体もしれぬ急に喋り出すおっさんたちと徒党を組んで応援した最初の天皇賞(春)。自分も、ライスシャワーみたいなカッコいいウマ娘になりたいと考え始めた宝塚記念。
オタク特有の早口で巻くしたててしまったが、ライスシャワーにはしっかり届いた。
「セイウンシャワーちゃんの目標、具体的な目標ってなに?」
「中山大障害、フェブラリーステークス、天皇賞(春)を勝つことです!あとカドラン賞とアスコット金杯も勝ちたいな…ってやっぱり無謀ですよね」
どうせ挑戦するなら目標は高く
両親からそう言われて育ったセイウンシャワーは、バカ真面目に勝ったらライスシャワーに近づけそうな、越えられそうなレースを全部のせにした
「ううん、三刀流、いい目標だね。」
セイウンシャワーが買った花束が少し萎びそうになっているのを見たライスシャワーは、とある提案をした。
それは美浦寮まで競走すること。
レースでないにせよ、ライスシャワーと一緒に走れる滅多にない機会。セイウンシャワーは喜んで了解の返事をして、走り出した。
なお引退後も小学校の運動会に毎年ゲストとして呼ばれて走っているライスシャワーは現役の時とあまり変わらぬ速度で走ることができるためセイウンシャワーはスピード負けした。なお商店街から美浦寮までの距離がもう950メートル長ければセイウンシャワーが勝っていたと思われる。
またライスシャワーと話せてるんるん気分のセイウンシャワーは夏にサザンカを開花させてイングランディーレの季節感を初めて狂わせた。
イングランディーレ「セイウンはセイウンでもスカイ先輩の方が親しみやすい、訴訟」
ライスシャワー「府中から大川農園まで遠いな…」(運転中)
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セイウンシャワー(ウマ娘)パート
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