前世も今世もマッドサイエンティスト ーヴェルデだから仕方がないー 作:ポロンクセマ
★主人公はアルコバレーノの一人、ヴェルデを前世に持つ10歳児。
★いろいろな捏造、キャラブレ、崩壊がありますのでご注意を。
★黒の組織に所属し、コードネームとして〈カルーソー〉を貰っています。
一話 幹部たちとの日常
唐突だが私には前世の記憶がある。
まるでオカルトのようだが、真実なので受け入れる他ない。
いつ思い出したのかはもう忘れた。
この世に生まれた瞬間かもしれないし、物心ついた時かもしれない。
ただ私は漠然と、自分ではない自分を識っていた。
それを当たり前のように受け入れて自分のモノにした。それだけの事だ。
前世の名はヴェルデ。緑色のおしゃぶりを持つ雷のアルコバレーノで、性別は男。
ワニのケイマンを相棒に持つ、科学者だった。
“ヴェルデ”は世界トップクラスの実力を持っていたと言っても過言ではない。
なんせ業界では「ダ・ヴィンチの再来」と謳われ、天才科学者として表社会どころか裏社会にも名が知れ渡っていたのだ。
だがしかし。一部からはマッドサイエンティストと認識されることが多かった。
別に非人道的な事をやっていたわけではない。
ただ人よりも少しばかり探究心が強く、人よりも少しばかり道徳心を欠いていただけである。
むしろ個性的な連中が揃うアルコバレーノの中では常識人だと自負していたが、はて。
教え子に銃をぶっ放すリボーン、弾丸を素手で止める風に比べればはるかにマシな部類だろう。
なんせ私は「実験のためとはいえ、とある少年Tの命を狙って刺客を差し向けたのはちょっぴり悪かったな」くらいの心もちゃんと持ち合わせているのだから。
頭の中に、 研究欲>多少の犠牲 という図式があるだけだ。
科学者あるあるである。
そんな私は何の因果か今世は女性として生を受けた。
容姿はさして変わらず、髪は相変わらずの緑色。前と同じく、視力が悪いのでメガネを日常的にかけている。
男から女になったのはそれなりに驚いたが、性別は二分の一の確率であるのだからこればかりは仕方がない。
成人後に腕力や身長の差は出るだろうが、アルコバレーノの呪いにかかり赤ん坊になってしまった前世に比べれば些細なこと。
そして脳みそは前世の知識を昇華し、さらに蓄えることが可能なそこそこのモノを持っているようだ。
男であろうが女であろうが、私が天才だということに変わりがないようで安心した。
さて、そろそろ時間かな。
私はキーボードを打っていた手を止め、軽く肩と首を回した。
ボキボキと嫌な音がする。
右手で左肩を揉めば10歳とは思えない固さでむなしくなった。
本音を言うならばこのまま研究結果を纏めたいところだが、生憎とこれから人と会う約束がある。
「ベルモットか……長くなりそうだな」
ため息をつきながらパソコンの電源を落として、私は組織から与えられた研究室を後にした。
「はぁい、カルーソー。相変わらずすごい隈ね」
「君は相変わらずキラキラしているな、ベルモット。目が痛い」
「あら。嬉しい事を言ってくれるわ」
待ち合わせ場所である会員制カフェに行くと、彼女は足を組みながら優雅に紅茶を飲んでいた。
たったこれだけで絵になる。さすが世界的に有名な女優だ。
私はウェイトレスにコーヒーを頼んでから席に着いた。
「それにしてもなぜここで待ち合わせなんだ。話があるなら私の研究室に来ればいいだろう」
言外に「外に出たくなかった」という態度を取っても、ベルモットはまったく気にせずに口元を緩める。
組織から幹部の証であるコードネーム〈カルーソー〉を与えられている私は、それなりの研究費も研究室も与えられていた。
広くもないが狭くもない私だけの城は、まあまあ気に入っている。一応ソファーもあるし、客の一人や二人、招き入れても何ら問題はない造りだ。
「だってあなた、こうでもしないと外に出ないじゃない。日がな一日暗い研究室にこもって、食事も睡眠も忘れるほど研究に没頭するなんて、不健康にも程があるわ。倒れた事も一度や二度じゃないでしょう?」
「おかげで監視の目がついたがな。いい迷惑だ」
「困った子ねぇ…」
私が顔をしかめると、彼女はおもむろに手を伸ばした。
そして細く長い指で私の髪をゆっくりと梳いていく。
「髪もボサボサだわ。手櫛で済ませないで、ちゃんとした櫛を使いなさい。私がプレゼントしたものは使ってくれている?買ってあげた洋服は?そんなワイシャツとパンツに白衣ばかりでなく、たまには可愛らしいワンピースでも着てみなさいよ。子供のうちにしか着られない色も型もたくさんあるんだから」
「これが一番動きやすくて便利なんだ。……それよりも何の用だ。雑談なら私は帰るぞ」
ベルモットの手から逃れるように身体を離せば、彼女は呆れたように息を吐いてスマホを取り出した。
「では先に仕事の話をしましょうか。その後は食事とショッピングよ」
「待て。食事はともかくその後は付き合いたくない。君の買い物は長すぎる」
「今日は私のではなく、あなたのための買い物よ。身長が伸びたようだから新しい服を見に行かなくちゃね」
妖艶に微笑む美女。実に楽しそうだ。
好意からくる行動だから拒絶もしにくい。
ああこれは逃げられないと私は運ばれてきたコーヒーを啜った。
「足が重い……」
ようやくベルモットに解放された私はフラつきながら組織に戻ってきた。
散々着せ替え人形にされ抵抗する力も精根も尽きた私は、今、フリルたっぷりのドレスを着ている。
ベルモット曰く、ロリータファッションと言うものらしいが、ゴテゴテしていて動きにくい事この上ない。店員に可愛いと何回も連呼されたが、どの辺がどう可愛いのか分からずさっぱりだ。
着ていたものはいつの間にか処分されてしまったようで着替える事も出来なかった。
「この頭のヒモ、どうやって外すんだ……」
髪に巻き付くように絡むヒモを引っ張りながら廊下を曲がった時、硬いものに鼻をぶつけた。
痛む鼻を押さえながら顔を上げると、見慣れた長い銀髪の男が立っていた。
どうやらこの男の腹付近に顔を突っ込んでしまったらしい。
お前気配読めるだろう。避けろよ、ジン。
非難めいた目を向けると、ジンは私を上から下まで確認するように見つめた。
そして馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「ベルモットにやられたか。すげぇ格好だな」
「いいじゃねぇですか、兄貴。カルーソーだって女の子なんですから。似合ってるぜ、カルーソー。可愛い可愛い」
「ウォッカ、お前もか……」
ジンの後ろから帽子を被りサングラスをかけた男が顔を出す。
私の背丈に合わせるようにしゃがみ込んだウォッカはフリフリの服を興味津々に摘んできた。
おい、触るな。キャンティにセクハラで訴えるぞ。
このジンとウォッカ。
組織での付き合いはほどほどに長いが、私とは特に仲がいいわけではない。
「丁度いい。カルーソー。お前のゴーラ・モスラについて話がある」
「兄貴、ゴーラ・ムスカですぜ」
「あ?ムスカ?」
「ゴーラ・モスカだ、馬鹿ども」
巨大蛾とどこぞの大佐を一緒にするな。
モスカとは旧イタリア軍が極秘裏に開発していた戦闘用のロボットのことだ。
そのスタンダードタイプを組織に用意してもらい、私が独自改造させたロボットがゴーラ・モスカ。
前世とは違ってさすがに人は収納していないし、死ぬ気の炎で動くことはないが、いずれはキング・モスカに進化させる予定がある。
私はこれに特化した技術者ではないが前世に身につけた知識が着実に役に立っていた。
モスカの見た目はガスマスクをつけた巨漢といったところ。
両手の指はマシンガンになっていて、全身から何十発もミサイルを放つことも可能である。
ただ火力が強い分それなりのエネルギーとそれを維持する巨体が必要になってくるため、連れ歩くには少々不便で面倒だ。
今はエコと小型化を考え、設計図を洗い直しているところだが…。
「それで私のモスカがどうしたって?」
私が首を捻ると、ウォッカが言いにくそうに視線を逸らしながら口を開く。
「あー、その……何と言うか…。実は……夜な夜な組織内を徘徊して怖いと、けっこうな苦情が上がっていてな……」
ウォッカの言葉に私は眉間にしわを寄せた。
大の大人、しかも悪の組織に所属する連中が「怖い」って子供か。
「少しばかり試運転しているだけだろう。何が問題なんだか」
「……目が合ったら追いかけてくるとか、口からビームを放つとか、発光しながら警告音を発するとか……いろいろと恐怖を振りまいているようなんだが?」
「私のモスカは熱を探知するからな。大方苦情を言っている連中は夜中にうろついて、モスカに不審者と判断されたんだろう。モスカは組織のために働いたんだな。賢くて可愛い奴だ。そう思わないか?」
「いや、でもビームって……」
「ガトリングではないだけマシだろう」
「……」
「ウォッカ、どうした?」
返事が返ってこないのを不思議に思い、横を向けばウォッカが青ざめた顔で絶句していた。
ふむ。若干顔色が悪いな。風邪でも引いているのだろうか。きっとジンに振り回されていてろくに休んでいないのだろう。哀れな。まぁ同情はしないが。
話が途切れたので、私は手を上げて「じゃぁな」とその場を後にしようとした。
だが背後でチャキと音がする。
振り向かなくても分かる。きっとジンが私に銃口を向けているんだろう。
「あ、兄貴」なんてウォッカの戸惑いの声が聞こえてくる。
「おい、いい加減にしろ。カルーソー。ここはお前のお遊戯場ではないんだ。あの方のお気に入りだからっていつまでもふざけた真似をしていると……」
「分かった分かった。これからはジンにだけ反応するようにインプットし直しておくさ。その長ったらしい銀髪は真っ暗闇の中でも見つけやすいだろうからな」
「おい……」
「精々夜道には気を付けな」
今現在、背後に気を付けなければいけないのは私だろうが、気にせずに足を進める。
どうせ奴の独断で私は撃てやしない。
私の脳みそには価値があるからな。それに子供の体はもろい。
出血多量で死んだり、倒れた衝撃で頭を損傷させても困るだろう。
案の定、ジンは威嚇の発砲すらしなかった。
その代わり盛大な舌打ちが聞こえてきたが、それを無視して私は歩き出した。
「カルーソー。今日はいい天気だ。たまには外に出て子供らしく遊んだらどうだ? 一緒に太陽光を浴びにいこう」
現在時刻は午前6時45分。
侵入者に寝室のカーテンを勢いよく開けられて、私は眩しさに布団を額まで引き上げた。
「スコッチ……頼むから早朝から寝室に乗り込むのは止めてくれ。これでも私は一応レディだ」
「ははは、これは失礼。レディ、目覚めの緑茶はいかがでしょう?」
「……もらおう」
スコッチが持参したお盆には日本茶のセットが乗っている。
急須からかすかな湯気を立てて、湯呑にお茶が注がれていく。
日本茶の良い香りがふわりと広がり、その様をぼうっとした目で私は見つめる。
そう言えばかのボンゴレ、沢田綱吉もよく日本茶を好んで飲んでいたな。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
受け取ったお茶は熱すぎない適温で、喉と腹にじんわりと染み込んでいく。
全て飲み干した湯呑を差し出せば、スコッチがにこにこした表情で受け取った。
そしてようやく回転を始めた脳みそでふと思う。
スコッチ、君はピッキングの特技でもあるのか。
鍵をかけておいたはずなのに、いつのまに開けられたのだろうか。
そもそもモスカはなぜこいつに反応しなかった。
寝室のドアの横にいるモスカは突っ立っているだけでうんともすんとも言わない。
おかしいな。充電はしっかりしているはずなのに。
本当なら侵入者はすべからず抹殺……と考えた時に、はっとした。
そういえば昨日、モスカはジンにのみ反応するようにインプットし直してしまった。
自分の失策に、私は眉間を抑えて盛大にため息を付く。
「それで……今日の“監視者”は君か、スコッチ」
私が脱ぎ散らかしたままにしている服を片付けているスコッチに視線を送ると、彼は驚いたような顔でこちらを振り返る。
「監視者? 何のことだ?」
「……違うならいい」
監視者とは、私を見張らせるために組織が定期的に派遣する人間の事だ。
睡眠も食事も休憩もそっちのけで研究に没頭する私に、人らしい生活を送らせるためのものらしいが……。
やれ野菜を取れだ、やれ子供の睡眠は大事だ、やれ休憩を取れだ、やれ運動しろだ。
倒れたことが一度や二度ではないだけに完全に自業自得なのだが、そいつらが鬱陶しくてしょうがない今日この頃。
「なぁ、前々から思っていたんだが……もしかしてカルーソーは組織に閉じ込められ」
「着替えをするから出てってくれ」
説明するのも面倒で私はスコッチを部屋から追い出した。
◆◆◆
俺の名前は諸伏景光。
組織内コードネームは“スコッチ”。
幼馴染の降谷零と共に組織にスパイとして入り込んでいる、日本の公安警察だ。
そんな俺が初めてカルーソーと会ったのは、組織の幹部に昇格してコードネームを貰ってすぐのことだった。
情報収集のため組織のとある研究施設を訪れた際、白衣を着た小学生くらいの子が廊下を闊歩しているのを目にしたのだ。
「え……? こ、子供?」
「……」
ちらりとこちらを見た少女は俺に興味をひとかけらも示さず、手に持った資料に視線を落としながら俺の横を通り過ぎた。
外見もそうだが堂々としたその態度に、俺は思わず彼女を三度見はしてしまった。
目を丸くしつつも近くを通りがかった研究員を捕まえて彼女の方を指させば、研究員は慣れているとばかりに「ああ」と頷く。
「彼女はカルーソー。組織の幹部の一人ですよ」
「嘘だろう!? あんな子供が幹部!?」
「はは、子供だと思って侮ってはいけませんよ。彼女はとても優秀な科学者です。学校等にも行っていないのに様々な分野に精通し、独学で吸収し、それを活用できるだけの優秀な頭脳があります。そのせいか子供らしくないしコミュニケーションにもやや難がありますが、組織の更なる発展のためには欠かせない人間ですよ」
「へぇ……そんな子がいたのか」
組織に属する研究者は優秀な者が多い。
それもここは組織の中でも中枢を担う様々な研究がされていると聞いている。
厳重な警備体制が敷かれているためにどんな研究をしているかまでは掴めていないが、情報をくれたこの彼も、一般研究者に比べればはるかに優れた人材だろう。
そんな人間が手放しで褒めているという“カルーソー”に俺は強い興味を覚えた。
そして同時に彼女を可哀そうだと思ってしまった。
優秀すぎるが故、組織に利用される少女。
同年代との付き合いも禄に無く幼い頃からここにいるならば、彼女の倫理観が気がかりだ。
彼女は自分の研究がどのように活用され、利用されているか知っているのだろうか。
この組織の闇を知っているのだろうか。
何でもいい。彼女と話をしてみたいと思った。
研究員と別れた俺は拳をぎゅっと握り、カルーソーを追いかけた。
俺と彼女の付き合いはこの日から始まった。
そんなこんなで付き合い始めたカルーソーという少女は、俺が今まで出会ったことのない部類の人間だった。
1に研究2に研究3に研究、4と5にゴーラ・モスカ。なんだゴーラ・モスカって。
組織に求められるがまま研究の世界に足を踏み入れ、このままだと組織の中で一生を終える可能性のある少女。
同年代の子供のようにゲームやマンガやアニメ、遊びに全く興味を覚えず、ひたすら研究に邁進する日々。
情操教育のためにもこれはマズイと、試しに小学生くらいの子どもが喜ぶようなことをしてみたのだが、彼女は全く相手にしてくれなかった。
球技は嫌い。マラソンは嫌い。水泳は嫌い。サイクリングは嫌い。
というより彼女は運動神経が悪かった。
「身体が成長する時期の運動は大切なんだぞ」と説いてもそっぽを向く。仕方がないので散歩を定期的にさせることに決めた。
また彼女はテレビやドラマや映画も好んでは見ない。
美術館に連れて行けば「光学迷彩が……」とブツブツ言い出す始末。
何が楽しくて生きているのだろう、と疑問に感じてしまうくらい欲もなく学問にストイック。
一度、「欲しいものはないか、研究関係以外で」と聞いてみたが、少々悩んだ彼女はぽつりと言葉を零した。
「ペットが、相棒が欲しい……」
子供らしい人間らしい言葉をようやく聞けた俺はほっとした。
それもペットを相棒だなんて。可愛い事を言う。
カルーソーが望むなら犬でも猫でも鳥でも、なんならカピバラでも用意してあげよう。そう思ったのだが……。
「ワニが欲しいんだ。名前はケイマンにする」
可愛らしく微笑んだ少女に俺は頭を抱えた。
「悪い。待たせたな、スコッチ」
着替えを済ませたカルーソーが寝室から出てくる。
俺は回想を振り払うかのように彼女の手を引いた。
「さて、今日はどこへ連れて行ってくれるんだ?」
「今日は水族館に行こう。イルカショーをやってるぞ」
「イルカか……。イルカは地球上で最も知能が高い生物の一つにあげられているな。脳と胴体の大きさの比率が人間に最も近い動物なんだ。いつか解剖してみたい」
「カルーソー、それは水族館では言わないでくれな」
この少女が研究以外の事をしたいと言った時、俺はこの子を広い広い世界へ連れ出してあげたい。そう思った。
★カルーソー
元アルコバレーノの一人、ヴェルデを前世に持つ10歳児。
知的好奇心が強い。学校には通っておらず、組織内の研究職に就いている。
男から女になってしまったが、特に気にせず。
気が付いた時には組織にいて研究をしていた。
組織に対しての忠誠心はなく、自分がしたい研究をするためのスポンサーとしか見ていない。
スコッチの事は「自分にかまう物好きな人」という認識。
★スコッチ
本名、諸伏景光。日本の公安警察。
組織に研究を強要されているのではないか、とカルーソーの事を日々気にしているとてもいい人。
子供らしさが一欠けらもないカルーソーをいろいろと心配して、様々な所へ連れ出している。
その際、見張りが常についている事を知っているため、カルーソーの言った“監視者”とは彼らのことだろうか?と推測している。
「10歳で研究職?コードネーム持ち??はぁ???」となるかもしれませんが、「ヴェルデだから」ですべて丸く収めてください。