前世も今世もマッドサイエンティスト ーヴェルデだから仕方がないー 作:ポロンクセマ
俺、江戸川コナンもとい工藤新一は、最近知り合った女の子の事が妙に引っかかっていた。
彼女の名前は“緑”。
長い黒髪に緑の瞳を持つハーフ系の顔立ちで、独特な存在感があった。
また黒の組織の幹部であるバーボンと意味深な会話をしていたため、その素性が極めて気になっている。
「もしかしたら組織に潜入していた赤井さんが、何か知っているかもしれない」そう思い、相談をするため久しぶりに自宅に戻って来た。わけだが…。
なんと件の少女、緑ちゃんが我が家のソファーの上でくつろいでいた。
その姿と怒涛の質問攻めに驚いて挙動不審気味になってしまった俺は悪くない。…たぶん。
そして────
「なるほど。アポトキシン4869の一番最初の被害者が、まさか君だったとはね。それはそれは不運だったな、可哀そうに」
俺の話をあらかた聞き終えた緑ちゃんが出した第一声はこれだった。
赤井さんが用意してくれたお茶を飲みながら、緑ちゃんはしみじみと同情めいた声を出す。
鉄パイプで頭を殴られて毒薬を飲まされた上、幼児化。
今は幼馴染の家に居候して、探偵である毛利小五郎の傍で黒の組織の行方を追っている。
不運なんて簡単な言葉で済ませられることではないが、それに反論する気も起きず、俺は緑ちゃんを見つめた。
外見だけならランドセルを背負っていてもおかしくない年頃だが、なんと彼女は組織の元研究員だったという。
俺や灰原とは違い、正真正銘、見たままの年齢だと言うが、はたしてその年で研究職に就けるものだろうか。
赤井さんからの簡単な紹介がなければ絶対に信じなかったに違いない。
「それにしても……一般人に対し、臨床試験も済ませていない薬を使うなんて……アイツは馬鹿なのか?」
緑ちゃんの言う“アイツ”とは十中八九、ジンの事だろう。
随分と気安く言うが、緑ちゃんとジンは組織ではどんな関係だったんだろうか。
聞こうとも思ったが、緑ちゃんが不機嫌を全く隠さず、渋面を作りながら舌打ちをしたのでタイミングを逃した。
なぜかこの子の舌打ちが変に怖い。
「しかも生死を確認せずそのまま放っていくなんて、考えなしにもほどがある。いくら死体から毒物が検出されないシロモノだからって、製作者の意向も確かめず勝手なことを…。せめて貴重な検体として回収すべきだったろうに。なぁ、工藤もそう思うだろう?」
「い、いや…」
「ヴェルデ。そう言う事は本人を前にして言うべきじゃない。ボウヤが困惑するだろう」
赤井さんが呆れ果てた声でひじ掛けに頬杖をつく。
どうやら緑ちゃんは情緒とか気遣いとか道徳観とかそういったものが少し、いや大分欠如しているようだ。
赤井さんの指摘の通り、本人を前にして言う台詞ではない。
というより、もしお持ち帰りされていたら確実に俺の命はなかっただろう。
「まぁ、その安易な行動で自滅の道を進んでいるのならざまぁないな。工藤を敵に回したことによってじわじわと首を絞められていると気付くのは、はたしていつのことやら…」
そう言って緑ちゃんは話をいったん切ったものの、すぐに「あ、そうだ」と何かを思いついたかのように指を鳴らして俺と視線を合わせた。
「東の高校生探偵、工藤新一。なんなら私と組まないか? 君がジンを潰し、組織を壊滅させる気があるというなら、私が科学者として協力してやってもいいぞ」
「協力?」
突然の申し出に、俺は彼女の意図が理解できずに首を傾げた。
「ああ。組織自体に恨みはないが、どうやらジンはまだ私を狙っているみたいだからな。殺られる前に殺ってしまいたい。光学迷彩の実戦も試してみたいし、何なら私のゴーラ・モスカを一体、君に貸し出してもいい」
「ゴーラ・モスカ? モスカって言えば、旧イタリア軍が秘密裏に開発していたロボットがそんな名前だったような…」
「ほうほう、さすが探偵。博識だな。おっしゃる通り。そのスタンダードタイプのモスカに私が改造を加えた戦闘用ロボットが、ゴーラ・モスカだ」
「は? ロボットを改造…?」
なんだかものすごい事を言い始めた。
ロボットを改造、しかも戦闘用になんて…そうそうできるものだろうか。しかもこんな年端もいかない女の子に。
ちらりと赤井さんを見ると特に驚いている様子もなく、平然とした顔でコーヒーを飲んでいた。
つまり緑ちゃんの言っていることは嘘や誇張表現ではない。真実だという事だ。
彼女は俺を置いてけぼりにしたまま、モスカの性能について得意気に語り始める。
「私のモスカはな、賢くて可愛い奴なんだ。熱を感知するセンサーがついてるから、組織にいた頃も侵入者や怪しい動きをしている輩を追っかけたり、ビームを放ったりと、いろいろと活躍していた。まぁ、『怖い』と苦情が来たりもしたが…うん。最後にはジンにしか反応しないようにインプットし直したから問題はないかな」
「いやぁ、問題しかないように感じるんだけど…」
「あとは両手の指がマシンガンになっていて、全身からミサイルを出す事もできるよ。性能も精度もいいから、望んだところに確実に命中させるだけの能力がある」
「マ、マシンガンにミサイル…?」
「空も飛べるから上から攻める事も可能だな。力も強くて成人男性の二人や三人は簡単に持ち上げられるし、その気になればモスカは手でコンクリートも砕くよ」
「……」
謎が謎を呼ぶ、俺の中のモスカ像。
第一、これは現実の話なんだろうか。マンガや小説の話じゃないんだよな。
「進化版のキング・モスカと一緒に使えば組織を簡単に火の海にできる。すごいだろう」
自信満々に胸を張る彼女は、見た目に似合わずかなり過激な性格の様だ。
できることならキラキラした瞳で、そういう恐ろしい事を言わないで欲しい。
「モスカたちはまだ最高火力で戦闘を行ったことがないんだ。さすがの私も一般人にモスカをけしかけるのは気が引けていた。しかし『組織壊滅』という名目の元、使用するなら私の胸も大して痛まない。ふふ、きっといいデータが取れる」
たぶん最後の一言、それが彼女の一番の本音だろう。
「組むか組まないか、答えは急がないから前向きに検討してみてくれ。助力の際は、君にも私の研究に少しだけ協力してもらうことになるが…大丈夫、そう難しいことではないよ。では私はそろそろ帰るとしよう。これ以上遅くなったら保護者に怒られるからな。赤井、今度は手土産を持参するから、また改めてお茶をしよう。では、失礼」
以前とは違って服装に良く合うアイボリーの帽子を目深に被り、緑ちゃんは軽やかな足取りで帰っていった。
俺は手を振って彼女を見送った後、脱力してソファーの背もたれにもたれかかる。
たかだか一時間程度の会話だったのに、何だかものすごく疲れた。
会話の密度が濃かったのもあるけど、何よりあの子のキャラが濃すぎた。
今までお目にかかったことのないタイプだ。
時間的にあまり踏み込んだ話はできなかったが、帰り際に携帯番号を交換できたので、今度日を改めてゆっくり話すことにしよう。
「赤井さん。あの子、思った以上にクセが強いね。いや、我が強いと言えばいいのかな。子どもらしさが全然ないし、話せば話すほど一回りも二回りも離れた大人を相手にしているような気になる。緑ちゃんって昔からああなの?」
俺が後頭部を掻きながら赤井さんを見つめると、赤井さんは苦笑して新しいコーヒーを差し出してくれた。
「ヴェルデは物心がついた時にはすでに組織にいて、研究職に就いていたからな。普通の枠組みからはかなり外れているんだろう。少なくとも俺がコードネームをもらった時にはすでにあんな感じだったよ」
「緑ちゃんのご両親は…」
「彼女は親の記憶はないと言っていたな。組織にいた頃は年長者ばかりに囲まれて、学校等にも行っていないから同年代との交流もなく、研究室にこもりきりだった」
「そっか…」
普通の少女とは程遠い、独特な話し方。
年の割に達観した考え方。
子供には似つかわしくない物事の捉え方。
緑ちゃんと初めて会った時からある妙な違和感は、彼女のこれまでの生き方に全て裏付けされていたのか。
俺は親が有名人で、自身も探偵で、同年代と比べると少々特殊な環境で生まれ育ったかもしれないが、一般的な枠組みから外れてはいない。
両親は愛情深く育ててくれたと思っているし、たくさんの経験をさせてもらった。
悪い事をしたら叱ってくれた。いい事をしたら褒めてくれた。
だが緑ちゃんにそういったものはあったのだろうか。
彼女を叱ってくれる大人はいたのだろうか。甘やかしてくれる大人はいたのだろうか。
少ししんみりしながら、熱いコーヒーの入ったカップを包み込む。
「さっきも言ったが、ヴェルデには年の近い友人がいないんだ。もしボウヤがヴェルデを気にかけてくれたら……俺はうれしいよ」
そう言って目を細めた赤井さんは、なんとなく俺の父さんの雰囲気と重なった。
ちょっとだけ心が温かくなった俺はもう一つ、今一番気になることを口にした。
「あと、あのモスカって…マジ?冗談じゃなく?」
「さすがにあそこまでとは俺も知らなかった。ただ、確かに空は飛んでいたな…」
「うわぁ…」
緑ちゃんからモスカを取り上げたほうがいいかもしれない。
俺はきゅっとなる胃をそっと抑えた。
◆◆◆
~ヴェルデ帰宅後、保護者との会話文~
「お帰り、ヴェルデ。今日は楽しかったか?」
「ただいま景光。ああ、とても楽しかった。有意義で身になる話がたくさんできたし、私の仮説も立証された。君と選んだお土産も先方はとても喜んでくれたよ」
「そうか、そうか。よかったな」
「あと、思いがけず協力者もできそうだ」
「協力者? (阿笠博士の事かな?)」
「呪いや幻術でない、正真正銘の幼児化なんて美味しいよな。大人の被検体はまだ用意できても子供の被検体はさすがに無理だったから…。ふふ。彼は身体が丈夫そうだし、運動神経もよさそうだ。モスカの機動実験や水中訓練とかに付き合ってもらえないかな。光学迷彩の応用の幅を広げてみてもいいし…。想像するだけで気分が上がる。これだから探究の道は止められないんだ」
「うん、何かまた物騒な事を考えているな。あと、これは何だ?」
「胃腸薬だよ。降谷に渡そうと思って、帰りにドラッグストアで買って来たんだ」
「なんでまた…」
「赤井に降谷を労わってやれと言われたから。あとリラックス効果があるというラベンダーティーも一応買った」
「赤井に会ったのか? 最近連絡がつかないが、あいつは今どこで何をやっているんだ?」
「うーん……。口止めされたから詳しくは言えないが、お隣さんを見守りながらお姫様? を護衛しつつ、大学院に通いながら煮込み料理に力を入れているらしいよ」
「は?」
★ヴェルデ
偶然にも赤井に再会。工藤宅にご招待され、コナン君の正体を知ることになる。
組織に特に恨みはないが、自分を狙っているのであれば容赦はない。
相変わらず頭の中は、 研究欲>多少の犠牲 という図式があり、出会ったほとんどの人に道徳観を心配される。
★江戸川コナン
今回ようやく、ヴェルデの正体(性格)を知る。
ヴェルデの身の上を聞いてかなり同情的。しんみりしているが、向こうからは被検体として見られている。やばすぎる奴にロックオンされた。可哀そう。
ちなみにヴェルデのキャラが強烈すぎて、灰原さんの言っていた「カルーソー」=「ヴェルデ」だとはまだ気づいていない。
この話を書きながら、ふと、ヴェルデを劇場版に放り込んだらどうなるかなと考えました。
ストーリーに関われるとしたら『ベイカー街の亡霊』か『ゼロの執行人』、もしくはテレビスペシャルの『ルパン三世VS名探偵コナン』でしょうか。
仮想体感ゲーム機〈コクーン〉は興味津々になるだろうし、IoTテロはノリノリで妨害しそうだし、ヴェスパニア鉱石は絶対に手に入れようと画策しそうです。
でもヴェルデを絡めるとシナリオ破壊を引き起こしそうだなとも思いました。
コナン君はたぶん振り回されて胃が痛くなります。だめだこりゃ。