前世も今世もマッドサイエンティスト ーヴェルデだから仕方がないー   作:ポロンクセマ

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★少年探偵団と初めまして~の回です。

★『甘く冷たい宅配便』に沿ったお話になります。ご了承ください。


十八話 ヴェルデと少年探偵団

 

 緑が生い茂る公園の、簡易的に作られたミニサッカー場にて。

 

「ぜー、はー、ぜー、はー……。もう無理だ……」

 

 私は息も絶え絶えで肩で大きく息をし、近くのベンチに座り込んだ。

 もう嫌だ。指一本、動かしたくない。

 私のぐったりした様子を見て、つい先ほど知り合ったばかりの子供たち+αがわらわらと集まってくる。

 

「緑ちゃん、大丈夫? 疲れちゃった?」

「少し休んだ方がいいかもしれませんね」

「お前、俺らより年上のくせに全然体力ねぇな」

「まったく、この体力のなさ。うちの博士といい勝負だわ」

「運動が苦手とは聞いていたけど、まさかこれほどとは……」

 

 上から順に吉田歩美、円谷光彦、小嶋元太、灰原、江戸川と続く。

 彼らは帝丹小学校1年B組に所属する良い子たち。〈少年探偵団〉なるものを結成し、日夜町の平和のため活動しているらしい。

 また、依頼のない日はこうしてサッカー等をして体力作りに勤しんでいるとか。

 幼いのに大したものだ。偉い事である。

 しかしその活動に私を巻き込まないでほしい。

 

 

 

 私がこんな目にあっている原因は、ほんの40分ほど前────。

 

 

 

 阿笠博士にお茶会に誘われて、お宅にお邪魔したことにある。

 ケーキを注文しているから何も持ってこなくていいと言われたので、ほぼ手ぶらでやってきた私。

 すると先客がいた。

 阿笠家によく出入りしている子供たちで、灰原のクラスメイトだという。

 彼らもお茶会に誘われたようで、「ああ、灰原と仲良くしてくれているんだな」と、ほほえましく思っていたらいきなり「サッカーしに行こうぜ」と誘われた。

 

 どうやらケーキは冷蔵便で来るらしく、到着までまだまだ時間があるとのこと。

 

「いや、せっかくのお誘いだが、私はここで待ってるよ。阿笠博士とおしゃべりをしているから君たちだけで行ってくるといい」

「そんなこと言わずに、せっかく知り合えたんですから一緒に遊びましょう」

「ケーキは腹すかせて食った方がうめぇぞ」

「わーい、新しいお友達! 緑ちゃんって言うの? 可愛い名前! 緑ちゃんも帝丹小学校? 歩美たちより大きいよね。何年生?」

「お、おい、君たち。ちょっ、ちょっと……」

 

 積極的でコミュニケーション力が高い子たちだ。

 右手左手を引っ張られ背中を押され、子供相手に強い抵抗もできずに私は引きずられていった。

 助けを求めるように後ろを振り返れば、阿笠博士はにこやかに手を振り、灰原と江戸川が生暖かい視線を送ってくる。

 三人の表情を見て、私は早々に諦めの息を吐いた。

 

 仕方ない。相手は七歳。ここで拒絶するほど子供でもないし、少しだけ付き合うか。と腹をくくったはいいが……。

 

 

 

「体力お化けか、こいつら……」

 

 

 

 そして冒頭に戻る。

 

 目の前でせわしく行き交うボール。キャーキャー言いながら右に左に走る子供たち。

 元気がよすぎる。まだまだ体力が有り余っているようだ。

 ベンチでぼぅっとその様子を眺めていると、隣に江戸川が座った。

 

「緑ちゃん、そろそろ回復した? ならもう少しあいつらと遊んでみない?」

 

 にこーっと楽しそうな笑みを浮かべる彼を、私はじろりと睨むように見つめる。

 

「……江戸川、君、図っただろう」

 

 私が確信を持ってはっきりと口にすると、ぎくり、と肩をこわばらせる江戸川。

 前も思ったが、探偵のくせに腹芸は苦手らしい。ずいぶんと素直な反応だ。

 

「赤井に頼まれでもしたか? 私に友達を作ってやってくれと」

「いや、あの……」

「別に気負わなくていいんだぞ。あいつらは私に同年代の知り合いがいないことを気にしているが、私自身がそれを全く気にしていない。第一、まだ私は子供だ。これから出会いの樹形図はいくらだって広がっていく。だからこそ急ぐ必要はないし、友達は無理になるものじゃない。だろう?」

「あー……、確かに赤井さんにそれとなく気にかけてほしいとは言われたけどさ。別に嫌々誘ったわけでも、無理にあいつらと引き合わせたわけでもないよ。まぁ、会わせたらあいつらの性格上、うまくいくとは思ったけどね。でもどうしてわかったの?」

「さっき、君が『運動が苦手とは聞いていたけど』と言っていたから。前もって私の情報を赤井から聞かされていたのでは、と思ったわけさ」

「正解。なら次は運動じゃなくゲームにしようか。短時間だけど、あいつらも緑ちゃんが気に入ったようだし、緑ちゃんもあいつらへの感触悪くないでしょ?」

「そうだな……。あの子たちは泣きながら手りゅう弾を投げてくることもないし、カウントダウンで爆発することもない。実に平和的でいい子たちだとは思うよ」

「何の話?」

 

 前世のもじゃもじゃ坊主と弁髪少女に比べれば、大抵の子供は“平和的ないい子”に区分されるからな。

 なんとなく懐かしくなって目を細めると、江戸川が不思議そうな顔をした。

 

「緑ちゃん?」

「いや、悪い。なんでもないよ」

「きゃっ」

「わっ、灰原さん、大丈夫ですか?」

 

 私が言葉を濁した時、灰原がボールを空振って大きく転んだ。

 円谷が慌てて灰原に駆け寄る。

 

「すみません、僕がもっといいパスを出せば……」

「違うわよ。この子がボールの傍に飛び出してきたから蹴れなかったのよ」

 

 起き上がった灰原の足元にすり寄る一匹の三毛猫。

 江戸川はその猫を“大尉”と呼んだ。変わった名前だ。

 どうやら最近、毛利探偵事務所近くを根城にしている野良猫らしい。

 喫茶店ポアロの女性店員によくなついていて、夕方になると餌をねだりに来店するとの事。

 この猫、私より社交上手な気がするな。

 

「あれ、この猫、首輪ついてますよ?」

「人慣れしてるし、もともとは飼い猫だったんじゃねぇか?」

「“大尉”だから大ちゃんだね~」

 

 大尉は子供たちとひとしきりじゃれた後、突然、何かに気づいたように走って行った。

 

「ちょっと、あの子、あのままじゃ車道に出ちゃうわ」

「車に轢かれたら大変ですよ」

「追っかけようぜ」

 

 探偵団は焦ったように猫を追いかける。

 私はというと、彼らが放り出したサッカーボールを回収してしばらくその場で待った。

 しかし戻ってくる気配がない。

 仕方なしに公園の外へ出ると、少し先の横断歩道を渡った反対車線で、猫と子供たちが停車中の宅配クール便トラックの中へと入る姿を目撃する。

 

 そして宅配便は彼らを乗せたまま出発してしまった。

 

 

「はぁ~?」

 

 

 私は口をぱかりと開けたまま、呆けた声を出した。

 白昼堂々、私の目の前で子供たちが連れ去られた。

 

 いや、その言い方では語弊があるか。

 

 たまたま猫がドアの開いた宅配便の冷蔵車に乗り込み、たまたま探偵団がその猫を追い、たまたま業者が猫+子供たちに気づかずドアを閉め、たまたま私がそれを見ていた。

 そして車はそのまま発進した。だけのこと。

 しかしたまたまがすごい。さすがは米花町だ。

 

「おっと呆けている場合じゃなかった」

 

 とりあえずは子供たちに電話をしよう。

 江戸川や灰原がいるとはいえ、小学一年生。しかも冷蔵車だ。寒さと暗さ、そして閉じ込められたことでパニックになっているかもしれない。

 スマホを取り出して灰原にかけてみる。が、繋がらない。江戸川の方もだ。

 サッカーをするからスマホを阿笠家に置いてきたのかもしれないな。

 

「さて、どうするか……」

 

 次のお届け先で彼らが無事に外に出られればいいが、残念ながらここは米花町。

 なぜかは知らないが、ありとあらゆることが事件へとつながる不思議の町だ。

 彼らがこのままなんらかのトラブルに巻き込まれる可能性も否定できない。

 私は眉間にしわを寄せながらため息をつく。

 

 ならばお次は警察に連絡を、と思ったが「1」でタップする指が止まる。

 

 そういえばナンバーが分からない。

 走行する車たちの陰に隠れて、車のナンバープレートは確認できなかった。

 米花町は多くの宅配便が行き交っている。

 日本の警察は優秀だが緊急性も低いし、あのトラックを特定するにはだいぶ時間を有しそうだ。

 

「ふむ、こういう時の降谷だな。身内が権力持ちだと助かる」

 

 彼は中々いい地位にいるようだから、彼に頼めばきっと最優先事項として下も動いてくれるだろう。

 しかしながら……。

 

「出ない……」

 

 何度かの呼び出し音の後、留守番電話に切り替わる。

 一応、景光にも電話したが、応答なし。

 なんなんだ、今日は。どいつもこいつも。

 電波障害でもあるのか。それとも別の事件でも発生したか。

 

 仕方なしに私は走り出した。行先は“安室透”のバイト先、ポアロだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……はぁ…………安室! う、……っ……げほっ……! うぇっ……」

「ヴェルデ!?」

 

 ポアロの目前。

 

 店の外に出ている二人の男女の姿を見つけ、ついに私は力尽きた。

 先ほどまでのサッカー+久方ぶりに自らの足で走ったので疲労感が半端ない。

 喉がひりついて、わき腹が痛い。ついでに叫んだせいで咳きこんだ。

 明日は全身筋肉痛になるかもしれないな。

 

 嫌な想像をしながら地面に膝を折ると、エプロン姿の降谷が急いで走り寄ってくる。

 

「ヴェルデ、そんなに慌ててどうしたんだ。あ、梓さん、すみませんが、この子に水を……」

「は、はい!」

「安室、なぜ電話に出ない~~~~~」

 

 恨みがましい声で降谷のエプロンをつかむ。

 すると降谷は目を丸くしてスマホをズボンのポケットから取り出した。

 ただ単に着信に気づかなかっただけらしい。

 

「えっと、ヴェルデちゃん? とりあえずお水を飲んで」

 

 水を持ってきてくれた店員のお嬢さんにお礼を言って、呼吸を整えてから、経緯を話す。

 それからの降谷は早かった。

 すぐにバイトを早退する旨を伝えて、車を持ってきた。助手席に私を押し込め、発進する。

 

 途中、電柱に引っかかっている小さな紙を回収して「やはりな」と納得したように頷いた。

 

「降谷、一体何を見つけたんだ? それは……レシート?」

「そう。コナン君からのメッセージさ」

「は? そのレシートが?」

 

 私が首をかしげると、降谷はしかるべきところに電話をかけ、宅配業者の配送経路をすぐさま割り出した。

 ルートを確認して先回りできる場所を探す。

 

「相手の油断を誘うためにも、子供連れは正直助かる。ヴェルデがいてくれてよかったよ。ああ、危ないことはないから心配しなくていい。車の中にいてくれるだけいいから」

「君はすでに今回の全容が見えているらしいな、降谷。しかし私にはさっぱりだ。今、どういう状況なのか説明してくれないか?」

 

 私の当然の疑問に、降谷は先ほどのレシートを差し出す。

 

「どうやらヴェルデの心配通り、少年探偵団は事件に巻き込まれたらしい」

 

 くしゃくしゃでところどころ文字がかすれているそれ。

 丁寧に広げれば、文字が不自然に消されているのに気がついた。

 

「ははぁ、なるほど。レシートの特性をうまく利用しているな。アルカリ性を含む液体を使ったのか」

 

 一般的なレシートは感熱紙が利用されることが多い。

 感熱紙は表面に酸性の発色剤が塗られていて、その発色剤が熱で溶けてもう1つの薬に反応する事で文字を浮き出させる仕組みとなっている。

 つまり酸性を打ち消すアルカリ性を含んだ液を使えば、簡単に文字を消す事ができるというわけだ。

 少し歪んだ形をしている【o】の字。これは本来【a】だった字の上部と下部を消して【o】にしたのだろう。

 また、レシートの下部にあるカード番号と電話番号もうまく消され、車のナンバーが示されていた。

 

 しかしあの子たちよくそんな液体を都合よく持っていたな。冷蔵車の中で見つけたのだろうか。

 

「降谷はいつ、彼らの異変に気付いたんだ?」

「ヴェルデがポアロに到着するより先に、首輪にレシートをつけた猫が来店したんだよ」

 

 どうやらその子は探偵団の子供たちが追った猫、“大尉”だったようで、レシートを見つけたのはポアロのお嬢さん。

 ただ、降谷に渡す前にレシートは風に飛ばされてしまったとの事だ。

 

「でも梓さんも字が中途半端に消えているのに気が付いた。彼女が覚えていたのは、【Cor】と【P】。そして【se】」

「【corpse】、死体か」

「ああ。それを俺が聞いて不審に思っていた時、タイミングよくヴェルデがやってきた」

 

 私の話を聞けば、その暗号が誰から発信されたかなんて、自ずと答えは出る。

 つまり猫が夕方に餌をねだりに行くということを見越しての、江戸川が“安室透”に向けたSOSだということ。

 手の込んだメッセージだ。こんな手段しか取れないのであれば、現在彼らは危険な状況に置かれていると想像に難くない。

 

「まったく米花町というところは……」

「それにしても偉いぞ、ヴェルデ。子供たちのためにたくさん走ったんだな」

 

 流れが分かってすっきりしたところで、破顔した降谷が急に私の頭をなでてきた。

 おい、赤信号だからって片手運転やめろ。

 

「あの運動嫌いが友達のために汗だくになって、長い距離を頑張って……。モスカや機械に頼らず自らの足で……。はぁー、感慨深い。今夜は赤飯だな」

 

 しみじみとした声を出す降谷。

 こんな状況なのにどこかうれしそうで、ほっとしたように頬を緩めていた。

 

「いや、感動(?)しているところ悪いが、タクシーがつかまらなかったんだ。あと二キロくらいだし、途中何度か歩いた」

 

 もしかしたらポアロまで30分以上かかったかもしれない。

 私の正直な告白を受けて笑顔から一変、降谷はすっと真顔になる。

 

「体力なさすぎだろう、お前……」

「うるさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

「おい、コナン。猫を行かせてから結構たつけど、助け来ねぇじゃんか」

「あのレシートの暗号が難しすぎたのかな?」

「もしくは途中で首輪から紙が外れたか、だな……。あ、大丈夫だって。もしそうでも次の手を考えるから」

 

 元太と歩美の心細そうな声に、俺はつとめて明るい声を出す。

 俺たち少年探偵団が猫の大尉を追ってクール便のトラックに入り込んでから、数十分が経過した。

 

 はじめ宅配業者の二人が俺たちに気づかずドアロックをかけてしまったので(まぁ普通は子供が乗り込んでいるとは考えない)、次の停車先で降ろしてもらおうと思っていたのだが、なんと冷蔵車の中で一人の男性の遺体を発見した。

 配送員の会話を盗み聞くと、どうやら彼らが起こした成り行き殺人らしい。

 

 見つかったら俺たちも口封じに殺されてしまうだろう。そう考え、猫の大尉を使ってポアロへとSOSを出した。

 

 もし配送員の男たちに見られてしまっても、ごまかせるくらいの暗号文。

 しかし黒の組織の幹部、切れ者のバーボンなら気づいてくれるだろうと、ある一種の信用があったのだが……。

 

 もしかしたら本当にレシートは大尉の首輪から外れてしまったのかもしれない。

 

「……光彦、大丈夫か。具合はどうだ?」

「あ、はい。何とか……」

「私があなたの上着を貸してもらっちゃったから……。私のせいでごめんなさい」

「い、いえ、灰原さんは悪くないですよ。気にしないでください!」

 

 俺は青白い顔の光彦の額に触れる。

 低体温症になってしまった光彦。灰原が温めてくれたおかげで、ゆるやかに体温が戻ってきてはいるものの、時間に猶予はない。

 他のみんなもかなり体温が下がってしまっている。急がなくては。

 

「緑ちゃん、心配してるかな……」

「僕たち急にいなくなっちゃいましたからね」

「そういや、緑ちゃんは俺たちみたいに猫を追っかけてなかったよな。あの時、どこにいたんだ?」

「横断歩道を渡るときにはすでにいなかったような……?」

 

 歩美、光彦、元太がそろって首を捻る。

 俺はその会話を聞きながら灰原に話しかけた。

 

「うーん、緑ちゃんが警察に通報してくれてたら一番手っ取り早いんだが……さすがにないか?」

「ないでしょうね。この子たちだけでなく、私とあなたもいるわけだし、ヴェル、……ではなく緑ちゃんも特に心配はしてないと思うわ。 もし私たちがトラックに乗り込むのを見ていても、普通は次の停車地で降りると考えるでしょ」

「だよなぁ……」

 

 たらればで思考するのはやめよう。俺が次に考えたのは、赤井さんへ向けたSOS。

 

 冷蔵車の中に、ちょうど博士の家に届く予定だったケーキを発見した俺たち。

 宛先にボールペンで〈工藤様方〉と書き加えておく。

 こうすればアガサ博士の家ではなく、工藤家にケーキが届く。

 赤井さんならその宛名の不審点に気づくだろう。

 それに配達伝票の複写の構造を活かし、赤井さんへのメッセージも付け足しておいた。

 

 これでうまくいく。そう思った。だが……。

 

 

「さっきと荷物の配置が微妙に変わっていたから一応、覗いてみたら……まさか子供が入り込んでいるとはな。お前ら、死体に気が付いているだろう」

 

 

 配送員の男、犯人たちに見つかった。

 俺は後ろ手で探偵団を庇うが、長時間冷蔵車にいたせいで手足がかじかんでしまっている。子供たちも同様だろう。

 どう逃げる。どうやってこいつらを守る。

 

 

 頭をフル回転させた、その時────

 

 

 車のクラクションの後、「すみません。このへんの道路、狭くて。道を譲ってもらえませんか?」という耳慣れた声が聞こえてきた。

 

「っ、探偵の兄ちゃん!」

「安室さん、助けて!」

 

 元太と歩美の声に犯人たちが慌てだす。

 犯人の一人は俺たちを人質にして安室さんを脅そうとしたが、安室さんは一瞬で犯人の腹にこぶしを入れた。くたりと意識を失った男。

 そして、もう一人は……。

 

「うがろっ!?」

 

 バチッという電気が弾けるような音と共に、奇妙な悲鳴を上げて前向きに倒れた。

 俺は身を固くする元太たちを下がらせて、そっと外を覗く。

 丸まった男はまるで感電しているみたいに四肢をびくびくと痙攣させていた。

 

 この状況で感電? なぜ?? 漏電??? 突発的な雷か?????? 

 

 俺の頭の中にクエスチョンマークが広がる。

 

「な、なんだ!? あなたにはまだ何もしてませんよ!?」

 

 これには安室さんも想定外だったようで、驚いた様子で男の傍に膝をつく。そして手を触れようとすると、

 

「触るな。万が一、体内に電気が残っていたら君もビリっとくるぞ」

 

 凛とした声がカオスな空間に落ちた。

 俺が声のする方に恐る恐る顔を向けると、実に堂々とした態度の女の子が立っていた。

 

「み、緑ちゃん……」

「やぁ、江戸川。迎えが遅くなって悪かった。子供たちは無事かな? 通報も済ませたしもう大丈夫だよ」

「あ、ありがとう……?」

 

 どうしよう。なんか手放しで喜べない空気がある。

 横を見れば安室さんの顔も引きつっている。

 緑ちゃんは俺たちの戸惑いもなんのその。

 いつの間にか地面をころころと転がっていた、とある丸い物体をひょいっと持ち上げて満足げに笑った。

 

「これは最近開発した卵型スタンガンだよ」

「スタンガン!?」

「軽量で持ち運びも便利。何個も携帯可能。デザインにもこだわりがあって、孵化直前の殻のように切れ込みを作った。今にもひよこが出てきそうで、ユニークだろう? 初見でこれがスタンガンだと認識できる者はほぼいないだろうから、奇襲にはもってこいだ」

 

 意気揚々と性能を説明しだす緑ちゃん。置いてきぼりの俺たち。

 それに全く気付かない(気にしない)彼女は、卵を俺たちによく見えるように、人差し指と親指で支えて顔の位置まで上げる。

 

 カ、カルソウダナー。

 

「手持ちタイプのスタンガンやテーザー銃と違い、対人距離を大きくとれるのが利点で、遠隔操作も可能。あまりにも遠すぎたりノーコンだったりすると力を十分に発揮できないのが難点だが……」

 

 軽く揺らしていた卵をぎゅっと握りこみ、緑ちゃんは考え込むように目をつぶる。

 

「んー……、欠点をカバーするには電力を上げて広範囲タイプにすればいいと思うが、そうすると周りにも被害がいくしな……。ならばこれを最大限に活かせる発射機を別に用意しようか。……いや、手軽さがウリなのに重くなるのはちょっと……。その上、かさばるしなぁ……」

 

 ぶつぶつと思考の中に入り込む一人の科学者。

 そんな緑ちゃんに対し、はっと我に返った安室さんが「なんつー、危ないものを持ってるんだ! 傷害事件になるぞ! 没収だ、没収!! 今、持ってるのを全部出せ!」と彼女の肩を大きくゆすりはじめた。

 

 それに呆気に取られていると、いつの間にか隣にきていた灰原がぼそっと一言。

 

「あんなの序の口よ。きっとこれからも、もっとエグイの出してくるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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