俗物語   作:楓麟

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其の捌

008

 

「神原駿河だ」

 

 千石との昼食を終え(とても美味しかった。千石の手作りだそうだが、あまりにも上手なので母親が作ったものなのではないかと疑ったくらいだ)、別れてから(千石からうちに泊まっていくかと誘いを受けた。親が今日は帰ってこないそうで、兄的ポジションの僕としてはちょっと心配だったが断っておいた)、携帯電話を取り出した。

 最終確認だ。

 これだけ情報があるから、そのまま塾に向かってもいいのだが、念の為。

 そして、できれば人手がほしい。

 そうして電話に出たのは、あの神原駿河。

 いつも通り、フルネームで名乗ってきた。

 

「神原駿河。職業は阿良々木先輩の××だ」

「おいいいいいいい!!」

 今凄いこと言ったよね!?

 もうやばいこと言ったよね!?

 

「ん。その声と突っ込みは阿良々木先輩だな」

「いや、まだ突っ込んでないし!」

 突っ込ませて!

 声に出して突っ込ませて!

 

「ていうかお前、自主規制したんじゃなかったのかよ……」

 あーあ。

 言っちゃったよ。

 いやでも放送禁止用語レベルだったから、きっと皆さんには分からないだろう。

 ご想像にお任せ。

 いや、想像しないで……。

 

「今の電話僕じゃなかったら、大変なことになってたぞ」

「ん? ああ、そうだろうな」

 神原駿河。

 同じ高校、直江津高校の二年生。

 バスケットボール部のエースだった。

 もう引退してしまったが、未だファンの熱気は冷めない。

 

「きっと豚箱行きだろうな」

「古い!」 

 表現が古いよ。

 本当に豚箱行きな発言だったかはさておき。

 

「だから阿良々木先輩、どうか私のことを『この卑しいメス豚が!』とは言ってくれないだろうか」

「言わねえよ!」

 神原駿河。

 とんでもないマゾ野郎なのである。

 とてつもなくエロい。

 そして百合。

 どんな後輩だよ。

 もうこんな短い文では説明しきれない。

 

「戦場ヶ原先輩も頑なに拒否するし……どうして誰も理解してくれないのだ。豚の耳に念仏とはこのことだなあ」

「馬の耳だろ!」

 まあ、誰も理解してくれないと思うよ。

 あの戦場ヶ原が拒否るんだから。

 

「王様のみが、馬の耳」

「色々間違ってる!」

 確かに王様オンリーだけど、それは驢馬の耳だ。

 王様の耳は、驢馬の耳。

 

「まあ、王様の話かつ童話シリーズでいくと裸の王様が好きなのだがな」

「やっぱそうきたか……」

「何はともあれ阿良々木先輩。私のことを、この卑しい――」

「言わねえからな!」

 前は『卑しいペットが!』と言ってくれと要求するわ…本当、妹よりMな奴がいるなんて思いもしなかった。

 ああでも戦場ヶ原、こないだ神原のことを「神原猿河」って噛んでたな……。

 これを言うと神原の奴喜ぶかもだから、黙っておく。

 

「卑しいといえば、阿良々木先輩」

「そこから話を展開させるな」

「いや、最近また勘違いをしてしまったのだが」

「あ?」

「こないだ友達が、『あの子本当に彼と付き合うの嫌らしいよ』と言ってきてな、『いやらしい』と勘違いして一人で興奮してしまったのだ」

「知るかよ!」

「ああ、思い出したぞ。あと昔こんなこともあったな。友達が『痴漢だ!』と叫んだとき、『股間だ!』と――」

「もういい分かったやめろ!」

 ロクな結果に終わらなかった!

 いきなり飛ばしすぎだぞ神原後輩!

 

「……で。神原。今暇か? 何してた」

「ああ、今日は珍しく、忙しくてな。いや何、阿良々木先輩の為ならばどんなに忙しくてもいやらしくても駆けつけよう」

 付け加える必要性は皆無だったよな……。

 

「それで、私が何をしていたかというとだな……」

「いや神原いいよ。これ以上お前の評判が下がったら困るから言わなくていい」

「なんと。阿良々木先輩には私なぞの言う事は安易に予想できるということなのだな」

 感嘆する神原。

 いや安易というか。

 たいていエロいことしか考えてないだろ。

 

「しかし阿良々木先輩。私が何をしていたか言わせてもらえないと、話が進まない」

「そうなの!?」

「うむ。聞かないのならば、私はいつものように阿良々木先輩とエロい話をしよう、最終章まで」

「いつものようにって言ってるけど、いつものことじゃないし、別に僕は好きでお前のエロい話に付き合ってるんじゃない」

「これはまたご冗談を。いつもいつも事の発端は阿良々木先輩ではないか。阿良々木先輩が話し掛けてこなければ、私は貝のように口をつぐみ、本性を隠し、ただのスポーツ少女でいられるのに」

「僕が悪いみたいに言うんじゃねえー!」

 それにその台詞を聞いてると、お前は本性を隠しているスポーツ少女みたいに聞こえるぞ。

 初期はそうだったっけ。

 

「じゃあ、聞いてやるよ。何してたんだ」

「うむ。阿良々木先輩と忍野さんとの絡み――」

「あーそういえば神原――」

 大声を上げて阻止。

 今のは辛味の話だな。

 ごめん、僕辛党じゃないんだ。

 

「その忍野の話なんだけど。あのさ、」

「おお、阿良々木先輩も話に乗ってくれるのか。

 実は電話の直前、私はもちろん妄想をしていたのだが――」

「妄想の話じゃねえぞ!」

「――卵を突っ込むところで、ちょうど電話が鳴ったのだ」

 卵?

 突っ込むって、口だよな。

 

「何を仰るか。卵は口に突っ込むのではなく、もう一つの――」

「ごめん神原そこまで付き合うつもりはない!」

 もう終わろうか!

 十分楽しんだろ!

 なあ。

 神原支持率ってどうなってんの?

 僕の方が彼女より低いっていうなら抗議する。

 いや実際そうなんだけど。

 ……何で?

 

「私のことを本当はエロくないのではないかという輩が後を絶たんと言っただろう?

 だから、私の出番がある時はなるたけこういう類の話をしようと思ってな」

「まだそれ気にしてたのか!」

 気にすんなよ!

 お前が気にするところは別にあるだろうよ!

 

「しかし阿良々木先輩、今日は清々しい日ではないか?」

「ん?」

 急に何だ。

 

「社会の窓を開けて、外を見てみよう。ほら、素晴らしい景色が広がっているだろう?」

「だから無理にエロキャラぶらなくていいんだよ!」

 なんか無理に言ってるようにしか聞こえない! ていうか下ネタすぎる。

 

「で。忍野の話だけど。最近、忍野を見かけなかったか?」

「忍野、さん?」

 ぽかんとしているようだ。

 

「いや。忍野さんも、忍ちゃんも、私は見ていない」

「あ、そうなんだ」

 忍は意図して会わせないようにしてるんだけど。

 そうか。

 見てないんだ。

 でも忍野との絡み……いや、辛味は妄想してたんだな。

 時計を見る。

 夕方までまだ時間がある。

 

「なあ神原。ちょっと、頼みがあるんだけど、いいか」

「なんと。阿良々木先輩が私に頼み事だと。それはもう一石を争う事態に違いない」

「なんか戦国時代みたいな展開に聞こえるぞ!」

 一刻だろ。

 器用なミスだな。

 

「阿良々木先輩が緊急事態とあらば、私は本編も伏線も放棄して、すぐさま阿良々木先輩の下に駆けつけよう」

「いや、本編も伏線も無視しないで……」

 僕の為に放棄っていっても、物語事態放棄されちゃ僕も放棄されるようなもんじゃないか。

 

「阿良々木先輩が私を必要としている……全力で走らせてもらう」

「ああ……助かるな」

 急いで来てほしい時には本当に助かるけど。

 あいつが本気で走ったらコンクリートの道路も割れるんじゃないの?

 

「私は阿良々木先輩の為に走るだけだ。信号以外誰も私を止められないだろう」

 うん。

 交通安全第一な感じで、いいよ。

 でもカッコいい台詞がちょっと残念な結果に終わってしまった感が否めない。

 

「では、失礼する」

 という言葉を最後に、神原は電話を切った。

 神原の奴、僕が何を頼みたいかとか、その前にどこにいるかも聞かずに切っちゃったよ……。格好いいけど、大丈夫なのか。

 忠誠心ありまくりだろ。

 でも、本当に助かる。

 人は多いほうがいい。

 もし僕一人で忍野に会ったとしても、僕はきっと自分の目を疑うだろうから。

 そうして僕は、忍野メメが住んでいた廃墟目指して自転車を走らせた。

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