魔の4期生…。
ホワイトルームの最高傑作であるり、綾小路先生の息子である彼のみを示す言葉だが、そこに辿り着くまでに多くの候補生が殺処分をされて来た。
そんな中には、知られざる天才が含まれていたなど綾小路先生と限られた者しか知らないだろうね。3期生に紛れた、凡人を天才にする施設で育った唯一の天才がいた事を…。
ホワイトルームは、天才を羨み嫉妬した大人達によって生み出された魔窟であり、蠱毒を再現した現代の狂気だろう。そんな彼等を嘲笑うかのようにそこに居た天才は、嫉妬に身を焼いた大人によって惨たらしく殺害された。
生前は、
男児としては小柄だったが、膨大な情報を処理できた立夏はホワイトルームで負け知らずだったのだが、自身の稀有な才能をバレない様にひた隠しにしていたけれど、とある理由で立夏の反射速度が神に愛された才能だとバレ、結果的に嫉妬に塗れた血みどろの殺し合いとなって、立夏の短い人生は終わりを迎えた。
ブラックアウトした立夏が目覚めたのは、ホワイトルームとは無関係であり、綾小路家が余り気にしてない中立的な政治家の家系に生まれ直していた。
時間軸は少しずれ、綾小路清隆と同じ年代として性別が変わって世の中に生まれ落ちてしまった。赤子に戻って初めに行った事は、喉が枯れるほど泣き続けた事で、ホワイトルーム3期生に居た好きだった子の死を嘆き、無力感を感じるには十分だった。
私となってある程度整理は付いたけど、ホワイトルームを創って来た者達への恨みは消える事など無かったのは、彼女が腕の中で死に行く様を見ていた記憶が永遠に残り続けるからなのだろうか…。
そんな闇を抱えた私を、家族は大切に育ててくれたし最高の環境も与えてくれた。勉強・運動・財・人間関係など、全てが前世とは違い驚いてはいたけれど、ホワイトルームと比べて良いとこ取りを自身で行い努力を重ねた。
何よりも、四法院 美嘉は女性としては高身長な170㎝と言う恵まれた体格や、前世の数倍はある顔面偏差値によって天才値が更にアップしたと言える。
長い手脚と粉雪の様な綺麗でシミひとつない肌に、四法院家の隔世遺伝であろう白髪と金色の宝石眼は、親にですら完成された究極の美人だと言われている。
※本人は一応お世辞だと思っている
性格は絶世の美女に似合わない、前世を引きずるフランクな性格をしているのだが、それでも天才とは孤独を感じて生きる運命なのか、女友達は嫉妬すら諦めるし、男達は宝くじを買う感覚で犯れたらラッキーと言う扱いで腫れ物だった。
復讐を夢見てしまうが、それでも自分と向き合える友達が欲しくて仕方なかった。そんな私は、天才や秀才が集まりやすいと有名な『東京都高度育成高等学校』へと入学する事にした。
「席を譲ってあげようって思わないの?」
シワの無いレディースーツに身を包んだ女性が、優先座席に座っている人に注意しているようだ。そんな義侠心を持っている様には見えない女性は、真横でポールに捕まったまま困り顔を晒している。
「そこの君、お婆さんが困っているのが見えないの?」
静かな車内では彼女の声は良く通り、周囲の人たちから自然と注目が集まっていた様で、矢面に立たされている男子高生は溜息混じりで足を組み直し、ゴミを見る様な目で相手を見つめていた。
「実にクレイジーな質問だね、レディー」
手に持つ小説の方へ意識を戻そうとした矢先、優先座席に座る人物らしき声が聞こえた。何処かで聞いたことがある声だと思ったが、高円寺コンツェルンの跡取り息子の高円寺六助だった。政財界は横の繋がりが大きく、当然だが父と高円寺父は親交があるのでパーティーで何回か見たことがあった。
「何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい? どこにも理由はないが」
「君が座っている席は優先席なのよ!お年寄りに譲るのは当然の事でしょ?」
「優先席は優先席であって、法的な義務はどこにも存在しない。この場を動くかどうかは、現在この席を有している私が判断することなのだがね。若者だから席を譲る? ははは、実にナンセンスな考え方だよレディー」
「あっあの。もう結構ですから…」
「どうやら君よりも老婆の方が物わかりが良いようだね。いやはや、理解が早くて助かるよ…是非とも老婆は、残りの余生を存分に謳歌したまえ」
この場合、本当に老婆が座りたかったかどうかもかも分からないし、次のバス亭で降りるかもしれない。逆に座るとしんどいって人もいる中で、自身の思い込みで強引に話を進めていた。結局、あのお姉さんの義侠心が裏目に出た結果だろうし、パーティーでも個性を振りまく彼には道理と彼の利益を説かないといけない。彼の利益は社会通念では無く、彼自身のルールに則った利益で無ければならないのだから尚更タチが悪い…。
「あの。私もお姉さんに賛成だよ」
思いがけない方向から狙撃された気分になるが、再度違う人物からの援護射撃が発された。私と同じ制服を着た、自身の可愛さを理解して武器にしてる感がある女の子だった。声を掛けるタイミングなどもっと前から存在したが、これ以降もそれ以前でも無い最適なタイミングで介入する事で、彼女が完全な善意のみで発言した発した様に周りは感じるだろうな。
「お婆さん、さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。席を譲ってあげてもらえないかな?余計なお世話かもしれないけれど、社会貢献にもなると思うよ」
頭は悪くない提案方法だけれど、それが高円寺六助にとっての最適解とは言えない内容で、社会貢献になど興味があるわけがないだろう高円寺は、パチンと指を鳴らして社会貢献に興味無いと言う気なのだろう口を開こうとした。
正直バカバカしい…。
お婆さんを置いてけぼりで女の子も、OLの女性も話を進める姿ははっきり言って自己中な言動だ。それに東京都高度育成高等学校は後2つ先だと言うのだ、これ以上見苦しい光景を見て居たくない。
「お婆さん、私の場所でも良いなら座りますか?」
私の一言はいたって単純で、自身の座る席を譲るなら誰にも迷惑を掛けないし、これ以上自己満足なやり取りの応報を聞かなくて良い。老婆は私の下までゆっくり来ると、丁寧に御礼を言ってから席に座る。
無事では無いが学校前のバス停に辿り着くと、これまた異星人の高円寺六助に話し掛けられた。無駄に彼も記憶力が優れるが故に、私の事も覚えている様なので困りものだ…。
「これは久しぶりでは無いかね?四法院嬢」
彼がいくら傍若無人でも、パーティーに参加する相手にまでレディーやガールを使わない。流石にかなり年下には、ガールを使って居たようだが、それ以外の有象無象には使うと彼の父がお父さんに言っていたらしい。
「お久しぶりです高円寺さん。貴方がこの様な学校に興味があるとは正直意外ですが、冒険心とスカウトですか?」
「Exactly!素晴らしい解答だ。私自身この学校の恩恵には興味が無いが、高校に行かねばならないのであればここ程面白い場所は無いからね?」
「そうですね。この学校には興味が湧きますね」
「君は素晴らしい女性だ…以前の話し、考えて欲しいのだが答えは急がないが、卒業時に是非とも聞かせてくれたまえ」
何を隠そう、高円寺六助が私を認めたせいで彼の父からお父さん経由で私宛に縁談話しが来た事がある。私は、今では一人称を変えて生活しているが、僕と言って過ごしていた時期もあるし、例え前世で好きだった女の子がいても、それは彼女が女の子だったからと言うより彼女だったから何で、未だに性自認に迷走している人間なのだ。まあそれ以前に、彼はハイスペックだが変人だと言う事が大きく影響していて、一度正式に断りを入れている。
「一度お断りしていますが、考えさせて頂きます」
高円寺六助と言う変人と会話していたお陰か、バスに居た計画的偽善者は話し掛けて来れず、一瞬だが忌々しげにこちらを見ていた。クラス表を確認した私は、全ての風景を記憶しながら自分のクラスへと向かった。
教室に向かう中でも多くの情報が散乱していたが、知り得ている情報と照らし合わせたら即座に答えが得られ、私がDクラスな理由に納得するしか無かった。
得ていた情報は入学前とこの時までで得られた内容だが、学校の教育方針と箱庭にしてまで情報統制をする訳、生徒の傾向や環境を考えると答えは自ずと分かってくる。
学校の教育方針は『社会人として優秀な人材の輩出』なのだけど、社会人として『優秀』とはどんな人か…。人当たりが良いけど無能な人間?学力は有るけど応用力が無い頭デッカチ?行動力はあるけれど知識が足りない無鉄砲?善人だけど搦め手に滅法弱い人間?搦め手が得意だけど敵を多く作る人間?答えは簡単だ。欠点を全て排除した人間がこれに当てはまるのだと…。
箱庭にしたのも、学校側は世間的にブラックな内容が普段から含まれているが故に隠している。それらを証明するかの様に大量に設置してある監視カメラと、そんな中でもここは絶対必要だと思った場所が死角になっていると言うチグハグな設置。それらが意図する解答は、悪事を許容している事が誰でも分かるだろう。
生徒の傾向は、クラス表を見ている時や廊下ですれ違う人達を見ていたら直ぐに分かった。Aは平均的模範生であり、理知的な生徒が多く見られる様だ。Bクラスは、主体性より協調意識が強いのか模範生ではあるが、受動的な印象を受ける。
Cクラスに至っては、2クラスと比べると能動的過ぎる様子で、知性より運動能力に長けたクラス構成な気がする。Dクラスの面々は個性が圧倒的に高く、バラエティーに富んでいるが極端に秀でた者が多い気がする。
これらを考えると、私がDクラスに選ばれたのは高円寺六助と同じような内容で、中学時代は友達がほぼ居ない事や優れ過ぎるが故の周囲を置いてけぼりにしてしまうところだろうな…。
それにしても……。
うるさいクラスだな。
私をエロい目で舐め回す男子達に、羨望の眼差しを向けて来る多くの女子生徒達………。
クラスの席順には、あり得ない名前があった。
『綾小路清隆』
何故こんな場所に彼が居るのか?ホワイトルームの上層部が、外部での研修を兼ねる場所が閉鎖的なこの学校を選ぶなどあり得ない。そして最も高い可能性を私は考えた…。
『彼は逃げ出した』
当時の彼は、期待が高い4期生の筆頭だった事もあり何度か模擬戦を繰り返していた。彼はホワイトルームの創設者である綾小路先生と呼ばれる奴の息子で、異常な期待から早々に機械的で無機質な少年になってしまっていた年下の少年だった筈で、自身から率先して逃げる算段をする様な者では無かった。
恐らく、ホワイトルームに居る割とまともな職員が不憫に思い手助けでもしたのだろうな。
そこで最も効率的な復讐を思い付き、今後の展開を予想して彼には早めに接触する事にした。彼がホワイトルーム生であり、本当に逃げ出したのならば上層部は彼を連れ戻そうと探している筈だから、彼をホワイトルームから生涯逃しきり、もっと人間的に変貌させられたら彼等は悔しい思いをするだろう。
最も最高なのは、彼自身がホワイトルームを完全に潰してしまう事が出来たならば、綾小路父は臓物が煮えたぎる思いを味わう事になるだろう。
そんな思考の海で泳いでいると、私の様な特殊な者に声を掛けて来た子が居た。真後ろの座席に座るさっぱりしてそうな子で、見た目はギャル寄りな今時っ子な彼女『松下 千秋』だった。
「えっと、四法院さんであってるかな?私は松下千秋。これからご近所として宜しくね」
「名前を知っている様ですが、一応自己紹介しておきます。四法院美嘉です……松下さんから話し掛けられるとは思っていませんでした」
どう言う方向で向かうか?
-
ボーイズラブ?
-
ガールズラブ?
-
どっちも?