バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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018 ブレブレな僕は決めたんだ

 

 全力で走る。

 

 ────「勇貴さん。空って見たことありますか?」

 

 「ハア、ハア!」

 

 ────「はい、そうです。雨が降ったり、ポカポカな日差しの太陽が出る空のことです。何でも、本当の空には雪というものが降るんだそうです」

 

 グラグラと揺れる寮館を駆け抜けていく。

 

 「──っ!」

 

 フラフラと覚束ない足取り。

 身体はとうに限界だってのに、まだ先を目指そうとしている。

 

 ────「そうみたいです。その冬に降る雪ってやつは途轍もなく冷たいと聞きました。──でも、そんな雪を見たことがないんです、私」

 

 やることがブレブレで、未だ何をしたいのか分からない自分の背を押す火鳥たち。

 

 ────「雪が降り積もった景色は、それは本当に幻想的で美しいらしく。そんな光景を貴方と一緒に見れたら、どんなに幸せだろうと思うんです」

 

 でも。

 

 ────「ええ。此処では出来なかったことを沢山するんです」

 

 フィリアはそんな駄目な僕を見ててくれた。

 弱くて、情けない自分でも誰かの為に立ち上がれる人だって言ってくれた。

 

 ────「はい。きっと楽しくて、胸がドキドキするような、──そんな夢みたいな話です」

 

 そんなことを言ってくれた彼女が必死で僕に夢を託したんだ。

 

 ────「でも、それはこの世界に居たままだと叶えられないんです」

 

 なら。

 

 「まだ、居てくれよぉ──」

 

 疲れた程度で、どうして諦めることが出来るんだ。

 

 ────「きっと次に会う私は、今の私でない私。私の残留データを使って構成された上位幻想に過ぎません」

 

 ドアを開ける。

 

 ────「ですが。それでも、私は託すのです。どうか受け取って下さい。私たちの願い、──いや、(フィリア)の夢を」

 

 「良かった。居てくれたんだ、真弓さん」

 

 「────」

 

 そこには、何とも言えない表情の真弓さんが居た。

 

 「どう、して?」

 

 何故、戻ってきたかを聞きたそうにしてる。

 さっきまで自暴自棄になっていたのに、どうして私を探したのか分からないって顔に書いてあった。

 

 「そこまで、分かってて──」

 

 「夢を! 託されたんだ!」

 

 真弓さんの言葉を遮る。

 この時、僕は思っていれば伝わるからとか、そんなことは考えなかった。

 

 「塞ぎ込もうとした僕を立ち上がらせてくれた。どうしようもない駄目な自分に夢を語った。消えると分かっても、彼女は僕に夢を託してくれたから僕は此処に戻ってきた」

 

 只、僕は最期まで味方で居ようとした少女の為に、言葉にしなければいけないと思ったからしたんだ。

 

 「勇、貴さん」

 

 真弓さんが僕の名前を呼ぶ。

 でも、それはきっと未だに僕じゃない僕を彼女が見てるだけ。

 吹っ切った今でも複雑で、どうしようもなく悔しいけど関係ない。

 

 僕が僕を取り戻すのに、そんな私情を挟んでは先に進めないと割り切るしかないんだ。

 

 「謝らないよ。でも、お互いの為に、もう一度この手を取って欲しい」

 

 信頼の証だと言い、真弓さんへ手を伸ばす。

 

 「それから、藤岡に会って『記憶』を取り戻す手助けを頼みたいんだ」

 

 それを碧眼がジッと見つめる。

 一瞬、手を取ろうか悩む真弓さん。

 

 「なあ、頼むよ。──君だけが頼りなんだ」

 

 僕がそうお願いすると、少女は固唾を呑み──。

 

 「こちらこそ、お願いします」

 

 迷っていた手を取ってくれたのだった。

 

 ドシン、と寮館が揺れる。

 背筋に冷たいモノが伝うと、視界中にノイズが走り出す。

 

 「──っ!?」

 

 見ているモノがあやふやになっていく感覚は、いつも以上に鮮明としており、何処か不吉なモノを感じた。

 

 「この感覚は、『人形男』ですね」

 

 どうやら気配だけで何が起こってるのか真弓さんは分かってるみたいだ。

 

 「──知ってるの?」

 

 「はい。恐らく、この世界最悪の外道魔術師『人形男』、ウェイトリー=ウェストが持ち前の権能(チート)を行使したのでしょう。彼の権能(チート)暴食の権能(タイプ·パイル)はこの世界のモノならばどんな事象さえ改竄してしまう魔導魔術です。……そうですね。■■さんの言葉で説明するなら、プログラムデータを自由に書き換えてしまうと言った方が分かりやすいでしょうか」

 

 切羽詰まったように早口で少女は説明する。

 それだけでウェイトリー=ウェストが如何に危険な男なのか分かってしまった。

 じゃあ、あれか。

 アイツは目の前の起こってることを自分の都合の良いように変えれるってことだ。

 

 「そうです。しかも魔が悪いことに、『ナイアルラトホテップ(外なる神)』が本格的に真世界帰閉ノ扉(パラレルポーター)を開こうとしているんです」

 

 ナイアルラトホテップ?

 真世界帰閉ノ扉(パラレルポーター)

 

 「えーと、ですね。先ず『外なる神』を簡潔に説明するなら、神様みたいな異能()を持った地球外生命体のことをそう呼称しているみたいです」

 

 みたい?

 

 「ええ。その知識に関しては私もそうだと聞かされてるだけなので、いまいち分かってないんですよ」

 

 「そうなんだ」

 

 兎に角、スゲー力を持った奴らってことね。

 ……あ。──と言うことは、ナイアルラトホテップはその『外なる神』の一人って認識で良いのか。

 

 「その通りです。──っと。どうやら、お喋りは此処までのようです」

 

 続いて真世界帰閉ノ扉(パラレルポーター)について聞こうと思った時、それは音を立てやって来た。

 

 「おいおい! 我の話は早々に切り上げたってのに、他の連中は長く話すとはゴミの癖にふてぶてしい奴だ」

 

 天井が崩れる。

 キキキと影絵たちの嘲笑が響く。

 

 「ウェイトリー=ウェスト!」

 

 神様気取りの名前を呼ぶ。

 

 「ククク、そうだとも! 我の名前ぐらいは覚えてるのは常識だよな!」

 

 すると気障男こと、人形男は部屋の壁を壊して現れる。

 

 「さーて、テメェを守るゴミ共はそこの女だけとなった! この意味が分からねぇほど、愚鈍って訳じゃねぇだろう?」

 

 自己愛の塊が、パチンと指を鳴らす。

 すると異形の怪物が奇声を上げ、周囲の壁を壊していく。

 

 「ククク! さあ、殺戮の時間(ショータイム)の始まりだ!」

 

 そうして、最悪最強の魔術師が僕らへとその魔の手を伸ばすのだった。

 

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