バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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022 指切り

 

 夢を見る。

 

 「ハア、ハア」

 

 その夢では、薄暗い鉄格子から絞首台まで歩かされている。

 

 カツン。

 カツン、カツン。

 カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン、カツン。

 

 死ぬのは怖かった。

 でも、これ以上生きるのも無理だった。

 誰もが相応の痛みを負って生きていると言うのに、自分はこの体たらくだったから、こうなった。

 

 「う、ぐ」

 

 気持ち悪い。

 気持ち悪い。

 

 兎に角、気持ち悪くて怖気が走って仕方ない。

 こんなことを我慢しなければ他人と関われないのかと呆れもする。

 

 だけど。

 

 ■■■■には出来なかった。

 世渡りが下手だったとか、人一番不器用だったとか言い訳は幾らでも考え付くのに。

 

 「──っ」

 

 他人と関わることの努力が出来なかったんだ。

 

 「い、やだ。嫌だ、嫌だ、嫌だ。可笑しい。……可笑しいじゃ、ないか。だって、そうだろ。ボクだって努力したんだ。頑張ったんだ。──なのに、こんな結果になるなんて間違ってるだろ!」

 

 絞首台が見えてきた。

 後一歩の距離に立たされた。

 抵抗したけど、それも取り押さえられて意味はなかった。

 

 「嫌だ! ボクは間違ってない! なあ! 間違ってなかっただろ!」

 

 首に縄がかかる。

 合図もなしに地面が足元を離れる。

 

 そうして。

 

 「ぐぅえ!?」

 

 ■■■■の短い生涯は幕を閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジジジ。

 

 ノイズの痛みで、目を覚ます。

 

 「──っつぅ」

 

 微睡みが抜けない。

 苦しさが消えない。

 

 何より、我がことながらあんまりな最期に何もする気が起きない。

 

 「……」

 

 惨めだと思う。

 ■■■■の魂は擦り切れ、記憶の所々が虫食いなのに、それだけは忘れられないでいるのだから。

 

 酷い話だ。

 誰も救いの手を差し伸べない癖に、人を殺すことで自分を守った彼を世間は悪者として晒すのだ。

 

 「本当、──惨めだ」

 

 鏡の前で震える銀の髪の青年を見て、ボクはそう呟いた。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 今日もウルタール猫たちが鳴く。

 いつまでも、永遠に夢を見させようと舞台を整えるが、しかしそれも終わるだろう。

 

 時計の針が動かなくなるのと同じように、彼らも眠る刻が来るのだから。

 

 ◇

 

 「……大丈夫。大丈夫だから」

 

 そう言っても、体の震えが止まることはなかった。

 

 何故かは知らない。

 けれど、『エンドの鐘』の正体がオレを恐怖させているんだと思った。

 

 「────」

 

 真弓さんは何も言わない。

 それは、つまり。

 

 彼女は『エンドの鐘』がどういうものか知ってたから、オレがどういう反応をするか分かってたんだと思う。

 

 「……何なんだろう、な」

 

 知ってたのに、黙ってた。

 

 「本当、何なんだろうな」

 

 どうして?

 どうして?

 

 どうして黙ってたのかを考えると胸が苦しくなっていく。

 

 ドクン。

 

 オレに知られて都合が悪かったから、黙ってた?

 いや、違う。

 そんなことを話せるほど、オレに余裕なんかなかっただろ。

 

 思イ出セ、■■■■。

 七瀬勇貴とシて認知したオマエにそンナコトを話せるダケノ時間が彼女ニハ無カッタ筈ダ。

 

 「──っつぅ」

 

 頭が痛くなる。

 悪魔が必死で何かを隠そうと囁いてくる。

 

 「■■さん」

 

 いつの間にか、彼女がオレの手を握る。

 温かなそれに触れてると気持ちが軽くなる。

 

 ドクン、と心臓が高鳴った。

 

 「──っ!」

 

 咄嗟に、手を振りほどく。

 振りほどいてしまった。

 

 「……あ」

 

 憐みか、同情か。

 それとも悲しさでいっぱいなのか。

 少女は振りほどかれた自分の手を見つめるだけで、そんなことしたオレには何も言わない。

 

 「わ、るい。……けど、今はそれどころじゃないんだろう?」

 

 場違いに空気を換えようと話を逸らす。

 

 「そう、ですね。──そうでした。それどころじゃないんでした。……すみません、■■さん。私、何だか早とちりしてました」

 

 オレの言葉に彼女は謝る。

 

 「そんな、こと、ないよ。……でも、そうだな。記憶、取り戻したら話をしよう。今まで話せなかったこと、隠してたこと、全部話して欲しい」

 

 謝ることないのに、謝る彼女の目が未だに合わせれない。

 なのに、偉そうにオレはそんなことを宣った。

 

 「────」

 

 でも、帰ってきたのは無言だった。

 それは、オレの精一杯の努力も無駄だと言うこと。

 

 いや、これは努力じゃなく他力本願だと言い換えるべきなのに、自分のことがよく分からない。

 

 「……確か、──こうでしたっけ」

 

 そんなことを考えていると、真弓さんが握った拳の小指を突き出して来た。

 

 「──何、それ?」

 

 「何それじゃ、……ないです。これは、貴方が教えてくれたこと、です」

 

 今まで見なかった顔を見たら、

 

 「──っ」

 

 あんなにも不安だったモノが嘘みたいに無くなっていった。

 

 「約束する時は、指切りをするもんだって」

 

 そんなことを当たり前に言う彼女が眩しい。

 

 「そう、だな」

 

 オレは弱い。

 信じることの温かさを知っているのに、ずっと誰かを疑ってばかりいる。

 

 ああ、駄目だ。

 こんなんじゃ、きっと、また誰かの想いを奪っていくのに。

 

 「うん、そうしようか」

 

 でも、彼女の精一杯の勇気に、駄目なりに頑張っていこうと思えた。

 

 「決まりですね」

 

 身を乗り出す少女の小指にオレの小指を掛けていき、

 

 「指切りげんまん、嘘吐いたら針千本飲~ます、──指切った!」

 

 ──そうして、道端に生えた花のような在り来たりの少女の笑みにオレは勇気を貰った。

 

 「ああ、切った。──指、切ったよ」

 

 熱くなる頬に伝う涙。

 弾む心で、流れる滴を拭う。

 

 「そんじゃ、──行くか」

 

 そのまま寮館ロビーの大鏡へと気持ちを切り替え、足を進ませる。

 

 「はい!」

 

 先ほどまでと違い、真弓さんは元気な声で返事をした。

 

 ギュッ。

 先を行くオレの手に誰かの温もりが伝わる。

 

 「──!」

 

 きっと彼女と一緒なら、どんなことでも乗り越えられるな。

 

 ──そう思いながら、オレは鏡に触れた。

 

 キキキ!

 キキキ!

 

 すると引きずり込まれるようにして、オレたちは鏡の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よう」

 「…………」

 

 鏡の中にて、二人の愚者が再会する。

 

 キーン、コーン。

 カーン、コーン。

 

 偽りの世界、無意味な葛藤。

 少女の終わりを鐘が告げる。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 そんなオレたちを遠巻きに影絵たちは嘲笑う。

 

 「約束通り、返して貰うぜぇ──記憶をな!」

 

 指を突きつけながら、黒髪の少女──藤岡飛鳥にそう言った。

 

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