バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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026 きっと、それが一番の大罪

 

 環境が悪いと人間は、卑しく育つものだとよく言われる。

 

 それは、間違いなかった。

 誰よりも自分はそうだったし、そういう人間の最期を多く自分は見てきた。

 

 「おい、ヨナンガ! テメェ、何、仕事サボってやがる!」

 

 よくそう言いながら自分の頭を叩いた雇用主もそうだ。

 

 「ああ、ヨナンガ。愛しい、愛しいヨナンガよ。さあ、早く私にそれを貢いでおくれ」

 

 少ない給料を集る親も。

 誰も彼も自分のことばかりで、救いを求める手を取らない。

 

 「死ね! お前なんて死ねば良いんだ!」

 

 そこらに違法で経営する露店の兄ちゃんも。

 

 「なんて意地汚いの! この穀潰し!」

 

 人の良い教会に住まう聖職者(シスター)の姉ちゃんも。

 

 「薄汚い」

 「死ね」

 「消えろ」

 「頼むから来ないでくれ」

 

 浮浪者も。馬車に乗ったお偉いさんも。自分を好きだと愛を誓った誰かも──。

 

 「「「「た、助けてくれ! 命だけは取らないでくれ!!!」」」」

 

 みんな、最期には決まって命を乞うのだ。

 

 「面白い。実に良い異能を持ってるね」

 

 喧嘩を売ってきた野郎の死体を捌いてる時だった。

 黒いローブの、その男は飄々とした物腰で自分に声を掛けて来た。

 

 「アァン? 何だぁ、オメェ?」

 

 何もかもが目障りで仕方ない自分は、その態度が気に食わなかった。

 だから、強気な態度で鬱陶しいと恫喝することにした。

 

 「だが、駄目だ。存分に終わっている。折角の才能もこれではパーというもの。──フム。腐らせるのも忍びないし、どうだろう? ワタシの下僕にでもなりたまえ」

 

 だが、返ってきたのは挑発だった。

 てっきり脅しに屈してくれるものだと思ってたから、その切り返しはないと思ってた。

 

 だって、そうだろ。

 数十人ほどの死体処理をしていたヤツの挑発を返すヤツが居るとは思わないだろう。

 

 「上等だ!!!」

 

 まあ、それが我と魔導魔術王(グランド·マスター)との出会いだった。

 今にして思えば、自分でも馬鹿な野郎だと自覚してる。

 

 ◇

 

 「キキキキィイイイ!!!」

 

 無数の咆哮とべちゃりと滴る赤黒い何か。

 猿のような身のこなしで化け物たちが宙を舞う。

 

 「──叩き切るぅ!」

 

 一直線に跳躍するそいつらに向け、握った魔剣を振るうと、

 

 「キギィイイ!?」

 

 数匹がその一閃を避けることが出来ず、血飛沫を上げ霧散する。

 

 「キ、キャッシャアアア!!!」

 

 それでも化け物は怯まない。

 一秒、一秒を休む間もなくオレに向かって襲いに来る。

 

 だが。

 

 「させません!」

 

 フィリアによる光の雨が臆することなく向かってくる化け物へと放たれる。

 

 「キキ、ギャ、グゥギャアアア!!?」

 

 数十匹の奇声。

 その悲鳴染みた奇声を掻き消すよう、オレは魔術破戒(タイプ・ソード)で見様見真似の一閃を振るい続ける。

 

 ドクン。

 

 「──ッシャ、オラァアアア!!!」

 

 その度に鼓動する心臓。

 気合を入れなければ倒れてしまいそうな激痛に耐えながら、化け物たちを斬り倒す。

 

 「光よ!」

 

 間合いへ入られる前に攻撃を放ち続けたお陰か、徐々にその数を減らしていく化け物たち。

 

 弱い。

 先ほどまでの意味の分からない力は増殖したそれには微塵も感じられなかった。

 

 だから。

 

 「これで、──ラスト!」

 

 残り一匹となった化け物を斬り倒す。

 

 「キキキキキィイイイ!!?」

 

 そうして、同胞(エイプ)と呼ばれた化け物は一匹も残さず消滅した。

 後は、謎の少女を倒すだけ。

 

 そう思い、駆け出そうとした時。

 

 「まあ、とてもお強いのですね、──勇貴さんは」

 

 「──な?」

 

 紺の髪の少女の姿が薄れていくのが見れた。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 それを嘲笑うように、影絵たちが嗤い出す。

 

 「でも、本当に良いのです? 飛鳥などにかまけてしまって」

 

 陽炎のように、ゆらゆらと消えていく少女目掛けて一閃する。

 

 「無駄です。私はもう此処には居ません。残滓を斬ったところで、私という人間のコードは消滅することはないんです」

 

 クスクス笑う誰か。

 真実を知る故の傲りか、少女は口許を押さえて声を押し殺している。

 

 「クスクス。では、また次があるのなら、その時を楽しみにしていて下さいね」

 

 ゆらゆら。

 ゆらゆら。

 

 そうして、言いたいことだけ言って少女は煙のように姿を消すのだった。

 

 ◇

 

 「一体、何だったんだ?」

 

 謎の少女が消え、呆然とする。

 何の目的が有って、オレの前に現れたのかとか考えても考えても答えが出ない。

 

 「というか、彼女は誰だ?」

 

 オレを知ってて、何より■■飛鳥のことを回収するとか言って襲おうとしていた。

 真弓さん以外にも、今の現状がどうなってるのか解ってるような口振りをしている。

 

 「本当、何なんだ?」

 

 いや、それよりも今は──。

 

 「そうです、そうです。そんなことを考えるより、最愛の人との感動の再会なんですよ? キスの一つや二つするべきところでしょう」

 

 ……。

 

 「あれ? 何です、その目は? だって、恋人との再会は涙を流しながら抱擁が定番だって言うじゃないですか!」

 

 いや、漫画やアニメじゃそうだろうけどさ。

 うーん、いや、でも。

 

 「さあさあ、早く! 好き! 愛してる! か~ら~の~抱擁のあまりのベーゼを!」

 

 両手を広げながら、歩み寄るフィリアにたじろぐオレ。

 

 「んーちゅっ(ハート)」

 

 「止めい!」

 

 パシン!

 

 「ふんぎゃっ!」

 

 目を瞑りながら、こちらに飛び込んでくるフィリアを思わず叩き飛ばす。

 

 「──っは! わ、悪い! 大丈夫か!?」

 

 そのまま勢いよく転んだ彼女を心配し、傍に駆け寄る。

 

 「大丈夫です……って、アハハ」

 

 起き上がろうとしたフィリアは、オレの顔を見るなり笑い出す。

 

 「な、何だぁ? やっぱり、何処か頭でも打ったか?」

 

 突然笑い出す彼女を更に心配する。

 

 だが、

 

 「いや、違うんです。やっと、憑き物が落ちてくれたんだなって思ったら、嬉しくって」

 

 そんなオレを見て、フィリアはそう言って自分の力で立ち上がる。

 

 「──憑き物?」

 

 何を言い出すんだと思った。

 でも、フィリアは真っ直ぐオレを見続けながら話を続けた。

 

 「そうです。これまで誰かの為に動いて、誰かの為に戦って。そうして、誰かの願いの為に立ち上がろうとする貴方がようやく何気ないことを本当の意味で拒むことが出来るようになったんです。──ええ、それが私は堪らなく嬉しいのです」

 

 頬に涙を伝いながら、フィリアは話す。

 その姿は、今のオレを心から喜んでくれているんだと思えた。

 

 「そっか……ありがと」

 

 でも同時に、悲しんでるようにも見えたのは、きっと気のせいじゃない。

 

 「はい、……ぞうでず、ぞうでずぅ……ぐずぅ──バカ」

 

 喜びに溢れた声が、徐々に啜り泣く声に変わっていたのだから。

 

 「あー、……泣くなよ」

 

 抱き締めることは出来ない。

 多分、オレにはその資格がないだろうから。

 

 「うる、ざい……でずぅ」

 

 フィリアがオレを睨む。

 目は反らさない。

 どうしてか、そうすることだけは駄目だと思った。

 

 だから。

 

 「そうかい、そうかい」

 

 フィリアが泣き止むのを只、見つめ続けた。

 

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