バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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028 死点変更

 

 『夢』のイメージとは、他人によっては様々だ。

 

 キラキラとした希望に溢れたものだったり、人生のどん底を詰めたような汚物だったり色々なものがある。

 

 「これは、……なん、だ?」

 

 揺れる地に、ひび割れていく波紋の空へと光輝く数字の羅列が舞う。

 

 「ハア、ハア!」

 

 何処からか聞こえる幻想たちの悲鳴を背にオレたちは走る。

 

 「頑張れ、飛鳥! 後もうちょいだ!」

 

 息を荒くする飛鳥の手を引きながら、そう叫ぶ。

 

 「ハアハア……わ、……わかっ、て、る……つも、り、……ハアハア、……だよぉ」

 

 毒を交えながらも飛鳥がそう答えると、波紋の空間を抜け、所々が欠けた寮館ロビーへ着く。

 

 「■■(ゆうき)さん!」

 

 そんなオレたちを切羽詰まったように少女が出迎える。

 

 「真弓さん、無事だったか!? いや、そんなことよりこれ! これは、一体何なんだ!?」

 

 安堵の顔を浮かべる真弓さんに急いで何が起こってるか聞く。

 

 「……ああ、そうでした、そうでした! ですがそれより、今はコントロールルームに急がないと──っきゃあ!?」

 

 ガシャン、と周囲の鏡が一斉に砕け、破片が真弓さんへと飛び交う。

 

 「──っぶな!」

 

 それを瞬時に魔術破戒(タイプ·ソード)現実化(リアルブート)して切り払う。

 

 「んぐぅ、……ハアハア。──急ごう。今は此処に居る方が危険だ!」

 

 息を整えた飛鳥が叫ぶように移動を促す。

 

 「──っ、はい!」

 

 それに返事をする真弓さんの手を取り、急いでオレは出口へと向かう。

 

 「ああ! ずらかるか!」

 

 だが。

 

 ガシャン!

 そうしようとした時に地響きする床が抜け、寮館の出口が崩れ、塞がれる。

 

 「「出口が!?」」

 

 ……それを。

 

 ドクン。

 心臓を高鳴らせ、中庭までの道があると思い込む。

 

 そうすることで、塞がれた出口を。

 そう思い込むことで、崩壊する世界の中とコントロールルームへと続く道を現実化(リアルブート)していく。

 

 「──っつぅ」

 

 ドクン、ドクン!

 囁くように、叫び続ける心臓。

 見えてるものは同じなのに、何かが欠けた感じになって吐き気がする。

 

 もう立っているのもあやふやで、イメージするのも朧気なそれを掴むのは、大変骨が折れる作業だ。

 

 「み、道です。道が、出来てます!」

 

 「あ、ああ。こんな状況で、自己投影(タイプ·ヒーロー)現実化(リアルブート)を取り戻せるなんて思わなかった。──けど、これなら!」 

 

 二人から期待の眼差しが向けられる。

 

 「──っ」

 

 それは、きっとこの先に待ち構えてる奴が今までの比じゃないんだという証拠で。

 

 「ああ、──行こう、コントロールルームへ!」

 

 同時にオレたちの長い戦いの終わりを指し示していた。

 

 「はい!」

 「良いとも!」

 

 オレの提案に二人が賛同すると、そのまま道を突き進むのだった。

 

 ◇

 

 「い、嫌だ! 誰か、誰か助けて!」

 「ウワァアアアン! どうして? ねえ、どうして!?」

 「死にたくない、死にたくない! 神様、助け──んが!」

 

 燃え盛る校舎、響き渡る幻想たちの悲鳴。

 崩れ行く地に呑まれる男子生徒たちと文字の羅列を散らす女子生徒たち。

 

 「──ククク」

 

 運命のままに全てが滅んでいく光景(せかい)を前に神父は嗤う。

 

 それは戯れか。

 それとも裁きの采配によるものか。

 神父の嘲りは、天性のモノ故か解らない。

 

 カツカツ、──カツン。

 規則的な足音が響く。

 

 「おや? 何か良いことでもありましたか、『外なる神』よ」

 

 そんな嗤う神父の後ろへ忽然と学生服の少女が現れる。

 

 「キキキ? ──フン、『失敗作』か。別にどうということはないが。……どうかされたと問われるならば、これから来訪する愚者の対応について考えていたとでも言っておこうか」

 

 煙に巻くような神父の発言。

 お前に興味ないと言いたげな冷めた顔に少女は一瞬、顔をしかめた。

 

 「そう、ですか。──てっきり、下らぬ感傷に浸ってるのかと思いましたけど、それなら安心…………失礼、不躾な発言でしたね」

 

 男の傍らに横たわる何かを真紅の瞳が一瞥するが、直ぐ何事もなかったように、そう取り繕った。

 何故なら、闇夜のような黒い瞳が少女の姿を捉えたから。

 それだけで、彼女は自身が敵意を向けられていると察したのだ。

 

 「良い。神であるワタシは寛大である。それ故、貴様には滅びまでの()()を与えよう」

 

 男の黒の修道服が(ひるがえ)る。

 その動作の一つ、一つに畏怖する影絵たち。

 

 「ククク、──キキキ!」

 

 神父が嗤う。

 その顔は、この世全ての悪を体現したものであったが、それも仕方ないことだ。

 本来、神とは気まぐれで克つ、どうしようもない程に理不尽な存在である。

 

 「まあ。それは、それは有難いことで」

 

 故に、少女は笑みを浮かべ受け入れるのだった。

 

 「つまらない。──ああ、本当にお前たちはつまらない」

 

 その姿を一瞥した神父は、再びモニターへと視線を戻す。

 

 「────」

 

 彼は知らない。

 己の視界から外れた少女が憎悪していることも。

 それ故に決定的な見落とし、──間違いを犯していることも何もかも気付かない。

 

 「ああ、そうだろうな」

 

 傍らに伏せられた男は、神父に聞こえない声で静かにそう呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「愚か。……愚か、愚か、愚か! ──それさえも、あのお方に見透かされてるんですもの、嗤っちゃう!」

 

 ひらひらと舞う、虹の花びら。

 ぐしゃぐしゃと楽し気に跳ね回り、秘密の花園を散らす聖職者。

 それは、あまりにも不気味で。

 それは、あまりにも不恰好な役者だと言える。

 

 ──そんな彼女を強いて語るのならば、それは神をも嘲る『道化師』に他ならなかった。

 

 「きゃわわわ! きゃわわわ! 可っ笑しいのぉ、可っ笑しいねぇ……可っ笑しいしぃ、可笑し過ぎてマジ滑稽でっ嗤えちゃうんですぅー!」

 

 緑のもみあげを弄る少女は、何処か遠くの光景を見ているかのように転げ回る。

 それもその筈で彼女は──。

 

 「説明なんて良いって、良いって! 態々こうして顔見せたんですから『  』は引っ込んでてなっつーの、きゃわわわ!」

 

 少女は誰にも語らせない。

 誰に語らせることもなく、言葉一つで新たな物語を紡ぐのだった。

 

 「私、わたくし、私共。うーん、どれでも良いんだけど、やっぱこれかなー、『ナコっちゃん』! うんうん、良いね、良いねぇ。我ながら最高に皮肉な愛称ですこと!」

 

 神に祈るように手を掲げる少女は、厄災にして天災であり、奇天烈にして愚の骨頂。

 まさに、舞台を搔き乱すトリックスターに相応しい役回りだった。

 

 「ちょっと、ちょっと! なーに、最悪って言ってんのよ、このクソ雑魚ゲロカスウンコ垂れ! ナコっちゃんはね、繊細なのよ。ぶち殺すよ?」

 

 そう言いながら、少女は一冊の本を何処からか取り出す。

 

 「どうか神様、仏様。この哀れなナコっちゃん様をお救い下され、と。──まあ、非常に面倒ですけど、お仕事に掛かっちゃいますか!」

 

 すると、少女を中心に風が吹き荒れる。

 

 「全く、これはこれは本当に愉快なことになりそうですねぇ」

 

 黒の聖堂服が靡く。

 同意するように、キキキと誰かが嗤った気がした。

 

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