バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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030 立ち塞がる者

 

 「ねえ、■■。これが終わったら、私、行ってみたいところがあるの!」

 

 緑の髪を弄りながら、青年に話しかける少女がいた。

 

 「んー? 何だよ、聞いてやるから、恥ずかしがらず言ってみろって」

 

 少女の言葉に■■は聞き返す。

 彼は何でもないよう気丈に振る舞ってはいたが、その顔はリンゴのように真っ赤だったと思う。

 

 「えーっと、ねぇ! スカイツリーってやつ!」

 

 でも少女はそんな彼にニコニコしながら答えるのだ。

 

 「──って、いきなりリアルな地名出してくれるなぁ。……ああ、でも。……行けるんなら、オレも行きてーな」

 

 「うん! そこにデートしようね!」

 

 それは、幸福な記憶で。

 藤岡■■が手放してしまった、大切な宝物だった。

 

 「約束だよ!」

 

 満面の笑みを浮かべる少女はまだ知らない。

 

 ──それが叶わぬ願いだと知る由もなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……む?」

 「──おや? 随分と早かったですね」

 

 その少女は、何の脈絡もなく現れた。

 否、始めから予定調和だと言わんばかりの早業で持っていた本の中へと神父を閉じ込めた。

 

 「──っな!?」

 

 それに、這いつくばった男『ウェイトリー=ウェスト』は呆気にとられて何も出来ない。

 

 「私、ナコっちゃん様こと、二代目残留思念ヒロイン『古本ナコト』でーす。どうか夜露死苦ね!」

 

 少女がそう名乗る。

 それで、彼は少女が何者かを思い出すことに成功する。

 

 「……まさか、貴様は()()()のクソゴミか!?」

 

 クスクス嗤う少女。

 きゃわわわとおどける少女。

 二人の少女が奏でる嘲笑のコントラストが始まった。

 

 「なーに、何ぃ? まーだ、そんな夢見てるのかい、『人形男』ってば?」

 

 侮蔑の視線が突き刺さる。

 虫けらを潰す子供らしさが少女たちの無垢を証明する。

 それを滑稽だと、品定めする誰かの嘆きが聞こえてくる。

 

 「そうですよ、『道化師』。困ったことに、彼はまだ諦めていないのです」

 

 キキキと何処かの影絵たちが囁き合う。

 

 それを見て、男は思う。

 未だ、忘却の彼方に置いてきたそれを求めてるのだ、と。

 途方もない話だというのに、まだ希望を抗う姿にみんな呆れてた。

 

 「何だ、貴様ら!?」

 

 故に、男、ウェイトリー=ウェストは怖じ気づく。

 彼もこの影絵世界に身を投じた年月はそれなりだったが、やはり真性には勝てないと知っていた。

 

 ──だから。

 

 「や、止めろ! これ以上、我に近づくな!」

 

 遠ざけようと、権能(チート)の力を込めようとして。

 

 「きゃわわわ! それは無理って話だよ、『人形男』! 流石のナコっちゃん様も前払いが済んだ契約は、止められねーんだぜ!」

 

 パラパラと本の頁が捲れる。

 

 「前払いを済ませた? 出鱈目を言うでない! 我がいつ貴様と契約を交わした!?」

 

 すると、自身の姿が落書き染みた身体へと書き換わる。

 

 「きゃわわわ! 覚えてねーなら、それで良いさ! どのみち、お前の結末は決まってんだからね!」

 

 「バカな。……バカな、バカな、──そんなバカな話があって堪るものか!」

 

 ……皮肉なものだ。

 そこらの幻想たちをゴミ同然に扱っていた男がそれ以下の何物にされるのだから、とんだ嗤い話にもなりはしない。

 

 「それでは、おやすみ。おやすみ」

 

 パタリ。

 修道女の本が閉じると、ウェイトリーの姿はその場から消えてしまうのだった。

 

 「クスクス。それでは、始めましょうか」

 

 学生服の少女が宣言する。

 

 「ええ、ええ! 私たちの願いを叶えましょうか!」

 

 くるり、クルリ。

 モニター中に映る二人の姿は、歪な影絵となっていく。

 

 「そうしましょう、『道化師』さん。──私たちのより良い明日の為に頑張りましょう、ね」

 

 二人の人影は踊り出す。

 まるで、少女たちのワンマンライブが開かれたみたいな陽気さを見せていた。

 

 「キキキ。そうですね、そうですねぇ! どのみち、私たちは止まれないのですから」

 

 ポツリ、と呟くように口から漏れた言葉は本当か。

 我々がそれを知るのは、まだ早い──。

 

 ◇

 

 乱雑に入り乱れる足音。

 自己投影(タイプ·ヒーロー)によって出来た道を駆け抜けると、無事に中庭へとたどり着いた。

 

 「とうとう、来ちまったな」

 

 何処までも伸びる鉄塔を見上げる。

 禍々しい威圧を出す魔の宮殿(バンデモニウム)への門は今も固く閉ざされている。

 

 「まあ、そうだよな。簡単には()()()()()()()()よなぁ」

 

 蜘蛛やらゾンビの大群、挙げ句に正体不明の影たちと来て、今度は石像で出来た天使の群れがそこにいた。

 

 そして。

 

 「────」

 

 兜を被った黒いローブの騎士が、その中心に佇んでいる。

 

 「■■■■!」

 

 男が何を言ってるのか聞き取れない。

 だが、その鬼気迫る気迫に肌がひりひりしたのは確かだ。

 

 「──っ」

 

 ズキリ。

 頭が痛む。

 

 ────「別にお前の所為じゃないんだ、気にするな」

 

 ズキリ、ズキリ。

 また欠けていた何かが脳裏に掠めた。

 

 「知ってる」

 

 カチャカチャと音を立てる相手の魔槍(ランス)

 狩りで使われるような振り回すことに簡易な武器でなく、馬上試合で使われるような相手を突くことに特化した王道武装がこちらへと向けられる。

 

 「オレ、アンタを知ってるぞ」

 

 名前は知らない。

 けれど相対した時に感じるオーラは何処か懐かしく感じた。

 

 「■■■■……!」

 

 兜越しにオレを射抜く視線がそうだと言わんばかりに鋭く。

 

 「あー。……(いず)れそうなるとは思っていたけど、実際になるとではやっぱり違うものなんだね」

 

 後ろにいる飛鳥がポツリと呟く。

 何かを隠しているような、そんなニュアンスが口調には込められてる。

 

 「アイツのこと、飛鳥は知ってるのか?」

 

 その呟きに思わず聞き返す。

 

 「……知ってるよ」

 

 重苦しく、罪を告発するみたいに返事をする飛鳥。

 

 「よく知ってるいるとも、何故なら彼は──」

 

 飛鳥が騎士の正体を言おうとした瞬間、

 

 「きゃわわわ! きゃわわわ! 別に、別にもうアンタには関係ない話でしょうが、アスアス!」

 

 ──聞き覚えのない少女の声が何処からともなく響き渡った。

 

 「──っ!?」

 

 ズゥン!

 砂煙が舞う。

 

 「でもでも! アンタがそれをもう一度選んだってことは敵対するってことでファイナルアンサーって訳なんだしぃ──」

 

 未だ姿を見せない、明るい声色の少女。

 

 「此処で、そいつらと一緒に心中するってことで了承したってことよね!」

 

 ピシリ!

 放たれる死刑宣告に、耐えきれず空に罅が入った。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 すかさず咆哮する騎士。

 振るわれる魔槍(ランス)を合図に、石像の天使たちが一斉に起動する。

 

 「ッハ! 誰だか知らねーが、オレたちの邪魔するってんなら、ぶっ飛ばす!」

 

 魔術破戒(タイプ·ソード)を振るい、

 

 「行くぞ、二人とも!」

 

 後ろの二人にそう告げる。

 

 「はい!」

 「──ああ!」

 

 二人はそんなオレに頷き、戦闘態勢を取るのだった。

 

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