バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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031 絶望の刻

 

 (ワタシ)には、目が覚めてから行うルーチンがある。

 それは、目の前のテキストの底に埋もれる誰かを起こすことから始まる。

 

 ジジジ。

 白衣を着飾る褐色の男。

 死んだ魚のような目でこちらを覗く、哀れな人間モドキ。

 

 さて、この曇り具合からして今は何回目だろう?

 

 「やあ、■■イ■■■■■■■■。此度の夢はどうだったかね?」

 

 自前の銀髪を搔き上げて、■は活舌の良い『日本語』で寝ている男に質問する。

 

 「ああ、……うん」

 

 それに対し曖昧な返答を男がするのは、当然の反応なのだが……。

 ウム。次にどう対処するべきか悩ましいな。

 

 「──む。その反応は今回も駄目だったようだね」

 

 白々しく、肩をすくめる■を男は哀れむ目で見つめる。

 

 ジジジ。

 哀れなのは、キミの方だろ?

 

 「まあ、大丈夫だとも。次だ、次」

 

 チャンネルを切り替えて、■はいつも通りの会話を楽しむことにした/キキキ。

 

 「……なあ、やっぱり止めないか?」

 

 男は怯えた。

 何を恐怖する必要があると言うのか。

 あの時、キミも承諾したというのに往生際が悪いなぁ。

 

 ジリジリと、確実に。

 息の根を止めるように、後ろへ下がる男を■は追い詰める。

 

 「アハハ。──キミィ、このやり取り、五百六十ニ回目だよ」

 

 そう言って、■は男の心臓に手を伸ばす。

 

 ジジジ。

 

 「「──っが、ぁは、ぁああ」」

 

 痛い。

 というより、寧ろ、熱い。

 ああ、この心臓が引き抜かれる感覚というものは、六百五十通り試しても慣れることはないらしい。

 

 「ありがとう、キミは実に良いサンプルだったよ。……フム。これで、また次の実験に取り掛かれる」

 

 ドサリ。

 全身に力が抜け、その場に倒れる白衣の男。

 ぐにゃりと彼と■の意識が混じり合う。

 

 ジジジ。

 感情のない目で見下ろす■/……痛い。

 その虫を見るような目は、未だに慣れない/痛い。

 

 「本当、これを後数百回は行わなければならないとは、──我事(わがこと)ながら全く、どうかしている」

 

 ゴポリと肺から空気が漏れる/痛い!

 グチャリと身体に植え付けられた臓器が潰される/止めてくれ!

 

 踏み潰したのは、銀髪の狂った科学者さん/痛い、痛い。

 キキキと口を歪ませ、蟻んこ潰しに夢中な■は現状に不満を感じてご立腹/……もう、殺してくれ。

 

 「だが再演算するにも時間の無駄であるのも事実。そして、ルールを破る十三番目の法則なのもまた事実。遠回りな効率であるのは、これ致し方なく──」

 

 グチャアアア!!!

 

 飛び散る臓物。

 弾ける魔導器官。

 

 意識が遠退く中、男の魂が次へのステップへ進むのを感じる。

 

 「何より、ここまでしなくてはワタシたちの悲願は叶えられないのだから仕方あるまい」

 

 そうして『神への頂き』へ、また一歩、『■ェイト■ー=■ェ■ト』は登り詰めていくのだ。

 

 ◇

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 崩れ行く空を背に振るわれる魔槍(ランス)

 ノイズ混じりの騎士の咆哮。

 それを合図に、石像の天使たちがオレたちへ襲い掛かる。

 

 ドクン。

 心臓を高鳴らせ、コンマの世界へと埋没する。

 

 「──光よ!」

 

 真弓さんが光の雨を解き放つ。

 

 「「「■■■■■■■■■■!?」」」

 

 その光に幾つかの天使が巻き込まれ、砕け散る。

 

 「愚者七号! キミは、騎士を相手してくれ! アイツを退けられたら、門は開く筈だよ!」

 

 飛鳥がオレに指示を出す。

 

 「解った!」

 

 その指示に返事をし、こちらを睨む騎士へ瞬時に駆ける。

 

 「■■■■■■■■!!!」

 

 渦を巻く漆黒の螺旋、唸る騎士の領域へオレは踏み込む。

 

 「どぅら!!!」

 

 勢いのまま、赤と青の螺旋を振るう。

 

 ブゥン!

 

 「■■、……■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 するとそんなオレに、待ってましたと言わんばかりに騎士は魔槍(ランス)を突き立てる。

 

 ズゥン!

 力と力がぶつかり、せめぎ合う。

 

 「──ぐぅ!?」

 「■■■■■■!!!」

 

 間隔としては、拮抗した時間は僅か三秒。

 

 ガキン!

 

 「うわぁあああ!!!?」

 

 圧倒的な力の前にオレの身体は吹き飛ばされる。

 

 「■■■■■■!!!」

 

 騎士による魔槍(ランス)の追撃が放たれる。

 

 「ヤバい!?」

 

 それを。

 

 「やらせないよ!」

 

 ジョッキンと事象を切り取り、飛鳥がやり過ごす。

 

 ズガン!

 中庭に叩き付けられる衝撃で、数メートルに及ぶクレーターが出来たのを離れた場所で確認する。

 

 「助かったぜ、飛鳥!」

 

 「良いとも、良いとも。──って、ああ!? もう立て直すのかい!?」

 

 近くに引き寄せた飛鳥に礼を言う。

 だが数秒も経たず、騎士が魔槍(ランス)を構える姿を飛鳥は返事をしつつ捉えた。

 

 ズゥン!

 

 「──っ!?」

 

 その間、コンマ五秒。

 

 「■■■、■■■■!!!」

 

 無慈悲な漆黒の波動がオレたちを襲うが、

 

 「お二人はやらせません! 輝く光の盾(シャイニング・シールド)!」

 

 周囲に光の膜が展開され、その一撃を防ぐ。

 

 「サンキューだ、真弓さん!」

 

 「えへへ」

 

 光の膜でオレたちを守った真弓さんに感謝の言葉を言う。

 

 「──っま、真弓、前!」

 

 「え? ──あ!」

 

 だが、その僅かな隙さえも騎士(てき)の前では無謀そのもの。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 こちらへと魔槍(ランス)を振るっていた騎士は一瞬で真弓さんの懐へ入る。

 

 「──っ!」

 

 ドクン!

 それを見て、慌てて真弓さんの下へ駆け出す。

 

 「駄目だ、愚者七号! 間に合わない!」

 

 けれど。

 

 「ま、真弓さん!」

 

 そんなオレを嘲笑うように。

 ズゥン、と騎士による容赦ない刺突が真弓さんへ繰り出されて。

 

 「きゃあああ!!!」

 

 少女は身体を毬のように弾ませ、吹き飛ばされた。

 

 「真弓さん!!!!!」

 

 グキリと生々しい音を鳴らし、数キロ先まで叩きつけられた彼女。

 その姿は悲惨なもので、とてもじゃないが生きてるとは言い難いものだった。

 

 「テメェ、よくも真弓さんを!」

 

 再び、黒い渦を放たれんと魔槍(ランス)が唸る。

 

 「■■■、■■■■■!!!」

 

 慟哭にも似た騎士の咆哮。

 それに連鎖するように地面の至るところが割ける。

 

 「傷つけやがったな!!!」

 

 一ドットのブレもない動きで、

 常人では目視することが叶わない領域をオレたちは互いの得物がぶつけ合う。

 

 しかし。

 

 「……時間か」

 

 カチリ。

 何かが填まる音が何処からか聞こえると、グニャリと景色が歪む。

 

 「──んな!?」

 

 そして、そのままオレの意識は崩壊する世界から遠退いたのだった。

 

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