バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

117 / 158
034 理由

 

 ザー、ザー。

 ザー、ザー。

 

 「────」

 

 目が覚めたら、暗闇の中にいた。

 そこで僕は黒い泥に足元まで浸かってて、指先一つも動かせない。

 ああ、どうやって此処に来れたのかは解らないけど。

 

 「────」

 

 でも、どうして僕が此処に居るのかは覚えてる。

 

 ドクン。

 心臓が鼓動する。

 まるで、僕の考えを見透かしてるぞと言わんばかりの高鳴りだ。

 

 「……でも、良かった」

 

 そうだ。

 あのまま、彼女たちを魔術破戒(タイプ·ソード)で斬っていたらと思うとゾッとする。

 だから、これで良かった。

 どうしてこの暗闇に僕が堕ちてるのかを考えるよりも安堵の気持ちでいっぱいになる方が何倍もマシだった。

 

 だが。

 

 「……これから、どうしよう?」

 

 事態は何も解決していない。

 寧ろ、遠ざかっただけで進展の一つもない。

 

 ……本当、自分の身体が訳も解らない第三人格に乗っ取られるなんてどうすれば良いのさ?

 これがゲームとやらなら、もう詰んでるとしか言いようがない。

 

 だって──。

 

 ────「どうせキミは『■■■■・■■タ■』へ変わるんだ」

 

 「──あ」

 

 そうか。

 累は知ってたんだ。

 こうなることを知ってて、僕と戦ったんだ。

 ……もしかして、あの聞き取りずらかった言葉は第三人格の名前とかだったりするのか?

 

 「解らない。名前以前に、あいつが何をしようとしてるのか全然解らない」

 

 何でも良い、何か、何か無いのか?

 第三人格に繋がるようなモノが──。

 

 ────「『エンドの鐘』こそ、わっちぃらを生み出す永久機関。第二の『あのお方』の象徴であり、お主の心臓じゃよ!」

 

 「エンドの、鐘?」

 

 ……そう言えば。

 三鬼が消滅する間際にそんなことを言っていた。

 聞いてた時はよく解らなかったけど、もしかして第三人格は僕の心臓に宿ってるってことなのか?

 

 「だとしたら、三鬼が言ってた第二の『あのお方』って人が誰か解れば──」

 

 そこまで言って、ハッと気付く。

 この学園で『あのお方』と呼ばれていた人物が誰なのかを。

 

 「魔導魔術王(グランド·マスター)

 

 そうだ。

 確かクラスメイトたちが噂に尾ひれを付けて話していた。

 でもどうして、そんな人の人格が僕の心臓に宿ってるんだ?

 いや、そもそも今になってどうして魔導魔術王(グランド·マスター)が僕の身体を支配出来るようになったんだ?

 

 この世界には、魔術や異能だとか超常的な力がある。

 だけど、そのどれもが発動までのアクションはあった。

 いきなり、ぽっと出に身体のコントロールを奪うことは出来ないと思う。

 

 ああ、そうだ。

 神様じゃあるまいし、そんな荒唐無稽なこと出来る訳が──。

 

 「神様って言えば、『外なる神』って呼ばれてる奴が居たっけ」

 

 でも、それにしたって突然過ぎる。

 何かある筈だ。

 それに繋がるきっかけを僕たちは見逃してる筈なんだ。

 

 「……整理しよう」

 

 僕の中には、僕と僕の元となったオリジナルとエンドの鐘にある魔導魔術王(グランド·マスター)の精神がある。

 そして、夢の世界が崩壊しかける中で謎の黒い騎士に真弓さんが殺され、時間が巻き戻り──。

 

 「そっから、自分の意志が歪められて最終的に身体を乗っ取られたってんだよねぇ」

 

 解らない。

 あまりに唐突で、それに繋がる過程が無さすぎる。

 僕が今までやってたことと言えば、記憶の概念を取り戻すことやダーレスの黒箱から権能(チート)を得たりしただけ──。

 

 「──あれ?」

 

 そこまで考えて、何かが引っ掛かる。

 見落としてはいけないことが。

 見逃してることがあるような気がする。

 

 ────「魔導魔術師、ダーレス・クラフトが疑似的仮想空間上での()()維持を目的に構成したとされる魔道具(アーティファクト)。『外なる神』への交信の際に構築された術式であり、『静かなるディストピア』を打破する手段だった筈です」

 

 「記憶、記憶。記憶を取り戻そうとしたんだよね、僕」

 

 そう、僕の記憶を。

 自分の記憶を取り戻そうとしたんだ。

 それは真弓さんもそうだった筈。

 

 でも──。

 

 ────「記憶の概念を、取り戻してあげまずぅ!!!」

 

 真弓さんは僕の記憶とは言ってなかったよね。

 

 キーン、コーン。

 カーン、コーン。

 

 何処からか鐘の音が聞こえる。

 

 ────「尚、自身の精神エネルギーの大部分を思うままに変化させ固定させる術はなく。魂の固定化は現段階では実現不可能と呼ばれています。故にダーレスの黒箱などの権能(チート)を施された術式が組み込まれた魔道具(アーティファクト)を通して多大な時間を使えば叶えられなくはないという話もあります」

 

 授業で先生たちが言ってたことが頭に過る。

 今にして思えば、僕という人間の説明だと解る。

 そして、この仮説を裏付ける根拠もある。

 何故なら──。

 

 ────「この世界、この影絵によって創られた夢の中で生まれた魂。それが、勇貴さんの正体で。同時に今、勇貴さんの身体に入っているのが元の転生者、『藤岡■■(ゆうき)』さんの意識です」

 

 フィリアが僕をこの世界で造られた魂だと言ってたじゃないか。

 

 「そうだとしても、いや、仮にそうだったとしても。これまでの僕の行為は──」

 

 つまり騙してた。

 僕を騙すだけじゃなく、オリジナルの彼も真弓さんは騙してた。

 

 しかし、それはあまりに救われない。

 だって、それは此処まで頑張ってきた全部を台無しにするものだ。

 

 「何だよ、それ」

 

 傷付いたとか、そんなものじゃない。

 誰かを信じることが馬鹿らしくなるどころの話でもない。

 もっと根本的な何かが揺らぎそうで、『藤岡■■』という人間の全てを否定するようなものだ。

 

 「何処まで馬鹿にすれば良いんだよ」

 

 腹が立つ。

 何もかもが憎くて仕方ない。

 

 ────「約束する時は、指切りをするもんだって」

 

 でも。

 

 ────「指切りげんまん、嘘吐いたら針千本飲~ます、──指切った」

 

 あの時、見せてくれた顔を嘘だと思えない自分もいる。

 

 「──っ」

 

 暗闇を見る。

 そこには、底の知れない深淵が広がっている。

 

 「う、あ」

 

 動けない。

 動けなくても、そこに見えない壁があるのだと思い込む。

 

 グッと手を握るイメージをする。

 魔術破戒(タイプ·ソード)で壁を叩き斬るのだと強く願う。

 

 「ぁああ、あああ」

 

 どうして、彼女を信じるのだろう。

 どうして、彼女だけを特別視するのだろう。

 何もかもが信じられない『藤岡■■』を知っているのに。

 

 けど、それらは──。

 

 ────「手を伸ばして!」

 

 信じてくれる人は居なかった。

 信じられる人も居なかった。

 

 だというのに必死で僕を助けようと手を伸ばし続けた姿が忘れられない。

 きっと、そういうことなんだ。

 あんなにも自分を顧みず、助けようとしてくれたから僕は彼女を信じるんだ。

 

 「あ、あああ、──ぁああああああ!!!」

 

 筋肉がはち切れそうになる。

 頭をガンガン叩きつけられるみたいに痛くなる。

 

 それを無視して、必死で幻想殺しの魔剣を現実化(リアルブート)する。

 

 すると──。

 

 パリン!

 空想の硝子が砕け散る。

 瞬く間もなく、僕は暗闇から見知れた寮館ロビーへと移動していた。

 

 「────」

 

 鏡があった。

 手を伸ばせば、鏡の中に引き込まれそうな感覚がする。

 

 「返して貰うよ」

 

 鏡に触れる。

 すると、引き込まれるように中へと誘われる。

 

 「──僕たちの記憶をさ」

 

 「…………」

 

 波紋の広がる空の下で、黒髪の少女に指を突き付けながら、そう言った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。