バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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035 壊れた少女、狂った少女

 

 「なあ。どうして、いつも飛鳥はそんなに自信満々なんだ?」

 

 何回目かのループで、そんなことを(キミ)に聞かれたことがある。

 

 「それは、ボクが天才だからさ」

 

 その時は、適当にはぐらかしたけど。

 

 「……そうか。飛鳥は強いんだな」

 

 けど、本当は。

 

 「そうだとも。だから、もっと頼ると良いさ」

 

 只、落ち込んでるキミを励ましたかっただけなんだ。

 

 でも、それは仕方のないことだった。

 だって虚勢でも張らなければ、あの時のキミは壊れてしまうと思った。

 そうなったら、『残留思念(ボクたち)』が影絵の少女(真弓)としてきた全部が無駄になってしまうんだから。

 

 「……ああ、そうさせて貰うよ」

 

 ボクの嘘にキミは笑う。

 でも、その目はいつも陰りを見せていた。

 

 「アハハハ」

 

 ……本当は解ってる。

 キミがボクの嘘に気付いてて、それでも信じようと必死で足掻いてくれているんだってことも。

 

 だから。

 

「よし、着いて来たまえ、(すぐる)!」

 

 そんなキミの願いを手放さないよう、ボクは──。

 

 ◇

 

 「──僕たちの記憶をさ」

 

 指を突き立て、黒髪の少女──藤岡へそう言った。

 

 「…………」

 

 前回のオリジナルの僕がしたように。

 けど、あの時とは違って紛い物の自分が彼女に言った。

 

 それは同じようで。

 けれど違うことだった。

 

 「どう、して?」

 

 藤岡が恐る恐る口を開く。

 

 「どうしても何も、それが必要だから来たんだ」

 

 手を伸ばす。

 藤岡は可笑しなモノを見るような目で、手を伸ばす僕を見つめてる。

 

 「貴方の記憶じゃないでしょ」

 

 当たり前のことを言う。

 でも、それは同時に彼女なりの拒絶だった。

 

 「そうだね。でも、大切なモノなんだ」

 

 それを無視して、早くしろと言う。

 同時に確信する。

 僕の中の第三の、『魔導魔術王(グランド·マスター)』の人格に乗っ取られるのを知ってて黙ってたんだ。

 

 「だから、返して。それは僕たちが背負わなきゃいけないものなんだ」

 

 再度、返せと告げる。

 

 「…………」

 

 それでも、藤岡は僕を黙って見つめるだけだった。

 

 「出来れば、力ずくは嫌なんだ」

 

 解ってる。

 彼女がその『藤岡■■(きおく)』を大切にしてることは、知っている。

 

 だが、それは生きてる人間が背負うべき咎なんだ。

 

 「頼むよ」

 

 そう思い、藤岡の手を取ろうとする。

 

 「……ぃや。いや、嫌、──嫌よ!」

 

 パシン!

 しかし、彼女はその手を振りほどいた。

 

 「渡さない、渡さないよ。これは、傑に託されたんだ」

 

 理解はしてる。

 でも、藤岡はそれをしたくないと癇癪をして邪魔をする。

 

 「だから、──だから!」

 

 ドクン。

 濁った目で僕を見る。

 

 「オマエなンかに、渡シてナるモノか!!!」

 

 力強く彼女が叫ぶ。

 

 「──がぁ!」

 

 すると、僕の身体が見えない力によって吹き飛ばされた。

 

 「ソウダ、渡サナイ! 終ワラセナイ! コノ夢ヲ終ワラセテナルモノカ!!!」

 

 体勢を立て直そうとするも、それを遮るように藤岡の周りに幾つもの魔方陣が具現させる。

 

 「いけない」

 

 急いで魔術破戒(タイプ·ソード)を構えた。

 

 「此処カラ出テイケ!」

 

 だが。

 片言な藤岡の叫びを聞いた瞬間。

 

 「──な!?」

 

 僕は鏡の世界ではなく、一面の虹色に光を放つ花畑へ立っていた。

 

 「此処は?」

 

 見たこともない場所。

 此処が学園の何処か解らない。

 そう思い、辺りをキョロキョロと探していると──。

 

 「きゃわわわ! きゃわわわ! まさか本当に来るとは思いもしませんでしたよ。けれど、ノープロブレム。やっぱりあっちのナコっちゃんの言う通り、一度、『真世界帰閉ノ扉(パラレル·ポーター)』を使うことになるんでしょうけどねぇえ!」

 

 いつか聞いた、名も知れぬ少女の声が後ろから聞こえてきた。

 

 「……誰?」

 

 振り返る。

 

 ザ、ザ、ザ!

 愛しそうに緑のモミアゲを弄る、聖職者の少女が僕の前に歩いて来た。

 

 「まあ、何て酷いお方でしょう! あんなにも愛を囁いて下さったのに、もうお忘れとは嘆かわしく存じ上げます? ……ええ、ええ! それも良いでしょう、良いんです、良いと存じるって決まってんだしぃ、そうしまっショウ!」

 

 滅茶苦茶な日本語。

 だけど、言葉の節々に何処か懐かしさを覚えた。

 

 「改めまして、ナコっちゃん様こと『古本ナコト』は今宵、『道化師』を名乗らせて頂きジャンガリアン! 夜·露·四·苦ね!」

 

 少女はそう名乗ると、ニコリと僕に微笑んだ。

 

 「────」

 

 『道化師』。

 この第二学共環高等魔術園、最強の一人。

 関わったら最後、その身を永遠に本の中の世界へ迷わせることで有名の異能使い。

 

 「は~い、は~い! そうでーす、ナコっちゃん様に喧嘩売る奴はそーいう最期を辿りま~す。後、飽きっぽいことでも有名なのを付け足しといてね!」

 

 ダンスを嗜むように、そんなことを軽快に言う。

 

 「でも、ナコっちゃんは綺麗だろう?」

 

 いつの間にか持っていた本を僕の方へ広げながら、彼女はそう言ってまた微笑むのだった。

 

 ◇

 

 「……ハア、ハア」

 

 ボクが呼吸を乱すのと一緒に空に波紋が広がる。

 

 キキキ!

 キキキ!

 

 すると、何処からともなく影絵たちが騒ぎ出した。

 

 「フン。嗤エルノモ今ノ内ダヨ」

 

 耳障りな裏方だと思うし、目障りな神様だとも思った。

 そんな彼を前に、騙る少女(ボク)も哀れな存在でもあった。

 けど、それよりもいつまでも哀れなマトリョーシカを演じる愚者七号の方が目に余った。

 

 「本当、フザケテイル」

 

 明日なんか来なくて良い。

 このまま永遠の停滞で居られることが『藤岡■■』にとっての幸福なんだ。

 それなのに、どうして辛い現実に戻ろうとするのか意味が解らない。

 

 だが、それも此処までだ。

 今度こそ諦めてくれることを願って、ボクは扉を閉ざす。

 

 ────「持って行け。これを託す為にオレは此処に来たんだ。オートマンの野郎がくれた奇跡も無意味じゃねぇんだってところ見せてやれ」

 

 例えそれが、大好きな人の想いを踏みにじろうとも。

 この記憶こそが、傑たち(彼ら)の願った全てだと信じて──。

 

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