バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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036 嘘じゃない、嘘にしない。その為に──

 

 みんな、よく自分の人生の主役は自分だと言う。

 

 けど、それは間違いだ。

 だって、才能のない奴はいつだって恵まれた奴の踏み台で。

 格のある、──特権階級を持ったエリートたちの食い物にされる世の中なんだ。

 

 オレ、『藤岡■■』は主役じゃない。

 そういう連中の食い物にされるしかない弱者なんだ。

 そう生きるしかオレには選択肢がなかったんだから、卑屈になるのは仕方ないだろ。

 

 別にオレだって、特別を求めた訳じゃない。

 皆が口にする『平凡な人生』とやらを求めただけだ。

 

 しかし、その生涯を絞首台の上で閉ざした。

 

 何故だ?

 そりゃあ、オレにも悪いところはたくさん有ったよ。

 言い訳もするし、人と目を合わせることも出来ないし、何よりよく誰かの所為にして逃げたりしたさ。

 

 何度も直そうと頑張った。

 勉強も出来ないなりに努力した。

 運動もそれなりに勤しんだ。

 

 家族との不仲も──。

 

 父さんは物静かという人ではなかった。

 母さんも淑やかな人でもなかった。

 多分だけど、物心つく前にも些細ないざこざはあったと思う。

 

 けれど、その最期はあんまりなモノだった。

 

 「────」

 

 小さい頃は仲が良かったのに……。

 

 どうしてだろう?

 彼らが喧嘩するようになったのは。

 

 何でなんだよ。

 両親が互いの悪いところをオレに陰口するようになったのは。

 

 幾ら考えても解らなかった。

 仲の良い夫婦に戻って欲しかった。

 小さい頃みたいに三人で何処か遠くに出掛けたりしたかった。

 

 「また行こうね、■■」

 

 唐突に母さんの声が聞こえる。

 俯いていた顔を上げると、そこには二人の人物がいた。

 

 「……あ」

 

 朧げな姿なのに、目の前の人たちをオレは両親と認識してる。

 

 「何だい、母さんも楽しんでくれたのか。じゃあ、また行こうかな。■■」

 

 気付いたら、また夢を見てた。

 成長した自分と両親が何気ない会話をする、そんなありふれた日常の夢だ。

 

 「ああ。二人が楽しんでくれて良かった」

 

 楽しそうだった。

 それは懐かしく、けど、有りもしない妄想だと直ぐに解った。

 

 「う、ううう」

 

 縋りたかった。

 浸っていたかった。

 現実なんか見るのも嫌だった。

 

 でも。

 

 ────「明日が──。明日が、見たいのです」

 

 生きる価値がないオレに。

 

 ────「誰もいない夕暮れの教室で、まだ貴方が貴方の名前を憶えていた頃の話。……ええ、分かっています。もうその記憶さえ思い出せないことは分かっているのです」

 

 彼女は、オレ自身も忘れてしまっている約束を果たそうとしてくれた。

 それはまるで、生きてと言われてるようで。

 頑張ってと励まされてるみたいで。

 

 「──っ」

 

 ────「その願いを分かち合うことが永遠に叶わないとしても。それでも確かに貴方は私たちにそう願って、そう在るべきだと笑ったのです」

 

 ──精一杯の強がり(笑み)で、彼女は背中を押したんだ。

 

 ────「私はそれを叶えたい。それを叶えるためならば、何を犠牲にしても構わない。ですから、お願いです。どうか、私に貴方の記憶を取り戻させてください」

 

 それは、偽りだ。

 それは、オレたちを騙す為の演技だ。

 何度もそう思った。

 

 けど。

 

 ────「約束する時は、指切りするもんだって」

 

 オレたちは知っている。

 一人ぼっちが寂しいことを。

 オレたちは覚えてる。

 些細な気遣いが堪らなく嬉しいことを。

 

 だから。

 

 「戻ら、な、きゃ」

 

 意識は僕になっている。

 自分のことを誰かに任せきりにしちゃ駄目なんだ。

 

 ──だから!

 

 「──っが!」

 

 立ち上がらないと!

 

 「あ、ああ、ああああああ!!!」

 

 でないと、

 

 ────「あ。あああ、ああああああああああ!!! そうですよね! そうでしたとも、そうでしたとも! 解ってます。解ってましたとも! でも。でもでも、だからといって!」

 

 またあの子を泣かせちまう!!!

 

 身体が痺れる。

 身体が熱を発する。

 何もかもが嘘。

 何もかもが歪な物語。

 

 「どうしたんだ!? ■■!」

 

 父さんがオレに詰め寄る。

 現実に帰るなと言っているみたいだった。

 

 「帰らなきゃ! 帰らないと──」

 

 手を払おうとする。

 でも──。

 

 「帰ル? 果タシテ、オマエ二帰ル場所ガアルノカ?」

 

 二人の口から悪魔の声がした。

 

 「──っ!」

 

 驚きのあまり、オレは後ずさる。

 

 「無イ。オマエ二帰ル場所ナド此処以外無イノダ」

 

 キキキ!

 キキキ!

 

 影絵たちが嗤う。

 オレを見て狂喜する。

 

 「あ、ああ、あああああああああああああああああ」

 

 意識が遠退く。

 前へ進む気力が失われる。

 

 ガクン。

 

 「ソレデハ、オヤスミナサイ」

 

 懐かしいような、けれど名前も知らない青年の声を聞き、オレの意識は再び夢に堕ちるのだった。

 

 ◇

 

 ニコリと微笑む少女。

 聖職者にしては邪悪さを滲ませる顔で、彼女は僕へと近づいた。

 

 「きゃわわわ」

 

 脅しだ。

 古本ナコトはこちらの思考を解ってながら、後ずさる僕へグイグイ来る。

 

 「良いね、良いよ、良いって、良い顔してるっていうかー、そそるねぇえ」

 

 パラパラと捲れる本を見て、何故か分からないが異様なモノを感じた。

 

 「きゃわわわ! ソウデスね! そいつがナコっちゃん様の固有能力(アビリティ)だもんね! そりゃあ、警戒するってもんです!」

 

 「──っ」

 

 互いの顔に息がかかる距離まで迫られる。

 ガシリと肩を掴まれる。

 

 「オッと逃げちゃ駄目、駄目! ナコっちゃんから目を逸らさなーいの。そうすれば嫌なことも良いことも()()()()()んだからさ」

 

 ピシリと頭の中で警告音が鳴り響く。

 

 「……え? 忘れ、られる?」

 

 聞いてはいけない。

 この場から離れなければいけない気がするのに、古本ナコトの話に耳を傾けてしまう。

 

 「そう、そーう! 今までも、これからもそうやってナコっちゃん様が忘れさせてあげたんですよー。だから、感謝して頂戴な!」

 

 何を忘れさせたというのか?

 彼女が僕の何を忘れさせたというんだろうか?

 

 「現実逃避ー? でも良いよ。良いって、良いさ、良いぜ、良いに決まってんです! そうやって逃げてくれれば、あの魔導魔術王(グランド・マスター)をも出し抜けるって寸法なんですから!」

 

 パラパラ。

 

 ────「雪が降る中で、『まち』と言う場所で『いるみねーしょん』とやらを眺めながら、私たちはデートするんです。……あ、そうです! デートと言えば、お洒落な『かふぇ』で互いに食べてるパフェをつつき合うとかもやってみたいです。──ええ。此処では出来なかったことを沢山するんです」

 

 忘れてしまう。

 

 ────「わたしだ、って、三木、あ、い、し、て、る、よ」

 

 否、もう既に忘れてしまっている。

 

 ────「死ね! 死んじまえ! テメェなんか誰も見ちゃいねぇんだよ! ココで心なんか壊れちゃえ!!!」

 

 その結果、どうなった?

 

 ────「指切りげんまん、嘘吐いたら針千本飲~ます、──指切った!」

 

 諦める?

 また忘れる?

 

 「良いから! とっと忘れ──」

 

 目の前の少女が叫ぶ。

 身体が動かない。

 どうしようもないのは、明白。

 

 ────「人間ニナりタイっテ願イも、好キダって言ッタヤツと会ウ夢モ、タラレバの未来モ全部無カッたコトにシチマッタノニ! ──それヲ今更意味ガナイと笑えルか!」

 

 でも、だからって。

 飛鳥の願いを切り捨ててまで言った、彼の想いを嘘にして良い訳じゃないだろう?

 

 「──嫌だ!!!」

 

 震える手で、掴まれていた肩を振り解く。

 

 「──っ!?」

 

 それに目を見開き、古本ナコトは驚いた。

 

 「諦めない。……諦めない! 僕は絶対、諦めないよ! 例え、それがどれほど無謀なことでも。叶わない願いだとしても。僕は、──僕たちは『記憶』を取り戻す!」

 

 イメージする。

 誰のモノでもない自分だけの最強の剣を。

 

 「きゃわわわ! 本っ当、諦めが悪いですねぇえ!」

 

 緑の髪が揺れ、その手に持つ本の頁がパラパラと捲れる。

 

 ドクン。

 心臓が鼓動する。

 

 「諦めが悪くて結構! 自分のすることは自分で決める!」

 

 手にした鉄の塊を勢いのまま振るう。

 

 キィン!

 だが、見えない壁に青と赤の螺旋の一閃が弾かれてしまう。

 

 「良いじぇ、良いし、良いって、良いに決まってんしぃい! 無理やりでも忘れさせてやりますよ!」

 

 黒の修道服が靡く。

 唾が出るほどの勢いで古本の口から罵声が飛び交った。

 

 「そして、今度こそクソ神父に真世界帰閉ノ扉(パラレル・ポーター)を開かせてやるんだから!」

 

 すると、はち切れんばかりの声で古本ナコトはそう叫ぶのだった。

 

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