バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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 ごめんなさい。
 こっちでの投稿を忘れてました。


004 まるで能面のような面持ち

 

 この世界には、魔術がある。

 常人なら学ぶことのないそれは、過去現在に至る人類社会において多くの功績を遺した。

 

 科学が発展してない時代には、闇夜に明かりを。医療が発展してない時代には、万能の治癒を。学問が発展してない時代には、日々を円満に過ごす叡智を与えた。

 

 そうして歴史の立役者であり──影の功労者は人目を憚りながらその秘術を一子相伝で受け継いできた。

 

 だが、現実とは非情なもの。

 そんな功労者の彼らは疎まれ今尚、迫害の対象とされている。

 理由はある。

 それは幾度人類社会に貢献しようとも、それ以上に多くの害悪を与え続けたというモノだ。

 

 ────「ひれ伏すが良い、■■。貴様ら醜悪な■■には我らを見上げることすら赦さん」

 

 それは、まだ人類が人類として自覚を持たなかった時──彼らの祖となる者たちが外宇宙(そら)から来訪した地球外生命態(インベーダー)と接触したことが起源だとされている。

 

 ────「戯け! これだから言葉を持たぬ猿は嫌いなんだ。……もう良い、死ね。死んで詫びろ。──ああ、鬱陶しいぞ、毛むくじゃら!」

 

 それとの接触を経て、祖となる者たちは──否、人智を超越した得たいの知れない生命体が魔術の根幹を塗り替えた。

 厄災、人災、天災。

 名を変え、人を変え、時を変え、魔術をあらゆる害悪となって災いへと貶めた。

 

 ────「キキキ。苦しいか? 苦しいだろう? ならばこそ、オマエたちは赦されない」

 

 魔術とは世界を害する悪魔の学問。

 旧くから存在する秘術を人々は旧魔術とし歴史の片隅に追いやり、忘れてしまった。

 そう、忘却されたそれの行き着く先など決まっている。

 伝えられない秘匿は秘匿に在らず、かつて神秘と崇められたモノたちはその奇跡を絶たれるのが運命。

 

 人類を根絶やしにする。

 嫌悪すべき汚物を処理するには、外法が最も効率的だと観測者(奴ら)は知っていたからそうした結果なのだ。

 

 それだけで多くの人々が魔術を嫌うに値するものとなる。

 

 ────「イーッヒッヒッヒ! やはり、バッツは最強! 故に──」

 

 多くの人々を救った魔術は今も尚、歴史の立役者とし旧い時代と共にあった。

 だが同時に、禁忌の神業、悪魔の学問、外宇宙からの恩恵など様々な名を持つそれを人々は、魔導魔術と呼んだ。

 

 此処は、夢と現実の狭間。

 死者との再会を求めた愚か者が造り上げた理想郷(ユートピア)

 

 「奇跡、奇跡。奇跡を求めることでしょう」

 

 そこで、学生服の少女は独り待つ。

 胡乱な世界へ回帰させるべく、今も尚愚か者の頭に囁き続ける。

 

 「ええ、そうです。そうなのです。きっと最期に貴方は彼女との再会を願うのです」

 

 神様は残酷だ。

 いや、この場合は観測者たちと言い直すのが正しいか。

 

 「期待してますよ、古本さん。そして、メ■■ー」

 

 虹の花が舞う。

 紺の髪を靡かせ、深紅の瞳で暗闇(そら)を見続けた。

 

 「ええ、別世界の彼方だろうと貴方は彼女(フィリア)を求めずにはいらないのでしょうから」

 

 そこで年相応に笑う少女を幻想たち(ひと)は皆、『囁き屋』と呼んだ。

 

 ◇

 

 「……話が逸れましたね、すみません」

 

 部屋から芽亜莉さんが飛び出して、古本がそう言った。

 

 「いや、別に良いよ」

 

 それに対し構わないと僕は気遣った。

 

 「そう、ですか」

 

 彼女はうわ言のように返事をした。

 

 「──?」

 

 違和感を覚える。

 いつもなら淡々としている古本なのに、まるでそうじゃないみたいで。

 

 「……ああ、そうです。そう、でした。話を、話をしなくてはいけないのでした、ね」

 

 それなのにどうしてか、今の感情が希薄な姿の方が本当の彼女を見ているかのように思えたんだ。

 

 「えーと、何でしたっけ? 確か、貴方のお母様の話でしたか?」

 

 「いや、違うよ。僕について大事な話、だよ」

 

 「──そう、でした。大事な話でした、ね。いけませんね。貴方と話をしていると思うと、つい浮かれてしまうようです」

 

 彼女の問いを否定すると、うわ言のように喋っている雰囲気がいつもの淡々とした顔へ戻っていく。

 

 「しかし、困りました。どれから話したら良いか、非常に悩みます。この間のように邪魔が入る訳にもいかないですし──さてさて、どう切り込みましょうか」

 

 ドクン。

 あれ? 今、古本は何を言った?

 

 「……ああ、やはり此処でも『エンドの鐘』は起動するようですね。──そうなると、私の仮説が正しいと見ました」

 

 古本の目が細くなる。

 

 「七瀬勇貴さん、以前どうして貴方のことを皆は口を揃えて『藤岡友喜』と呼ぶのかを知っていると私は言ったと思いますが、それについてどう思いますか?」

 

 「……どう思うも何も僕は彼の魂の複製体なんだから、同じ身体を持っているんじゃないの?」

 

 古本がする質問に思ったことを答える。

 

 「そうですね。そう認識するのが普通です。でも、少し疑問には思いませんか?」

 

 「……何を?」

 

 勿体振った言い回しをする彼女に何か嫌なモノを感じる。

 これから話すことは聞いてはいけないような気がしてくる。

 

 「別の人間にする為に生み出された貴方がどうして、藤岡友喜そのままの身体でいる必要があるんでしょう?」

 

 ドクン!

 

 「──え?」

 

 それは何でもないことのようで、実は思いもしなかった言葉だった。

 

 「不思議ですよね。だって、他の人間にしている途中なんですから、身体の何処かは藤岡友喜とは違っていても可笑しくない筈です。でも、そうじゃない。そうじゃないなら、何かが可笑しい。複製体であるだけでは説明がつかないことが貴方の身体には起きている」

 

 少女は嬉しそうに喋ってる。

 初めて感情を知った生物のように頬を赤らめている。

 

 「此処で目覚めた時、いや今も直ぐそこで誰かが寝ている筈なのに、誰もそれに気付かない。いや、気付いてるのに無視してる」

 

 解らない。

 どうして、彼女は嬉しそうなのか解らない。

 先ほどまで話していた人間とは違う──まるで未知の生命体に見えて仕方ない。

 

 「お母様は貴方の退院をたいそう喜んだと聞きました。でも、不思議ですよね。そんなに喜んでいるのなら、どうして貴方と同じ顔をした人間が寝ていることに何の疑問もないんでしょうか」

 

 笑い声が止まる。

 見ているモノが同じなのに同じじゃない奇妙な感覚が僕を押し寄せる。

 ああ、こちらを見つめる少女の目がまるで虫でも観察してるように思えるのは気のせ、いじゃない。

 

 「七瀬勇貴さん。鏡って知ってます? あれって便利なんです。毎朝自分の顔を見ることが出来て私も重宝出来ます。……当然、貴方もそれが何なのか知ってますよね?」

 

 鏡は知ってる。

 見たことがある。

 確か、自分の姿を映し出してくれる道具だ。

 

 「これは貴方を監視してる職員から聞いた話なんですが、目が覚めてから貴方は一度もご自分のお顔を拝見していないそうではありませんか」

 

 「──っ」

 

 ドクン!

 何故か心臓が脈打つのを感じるそれより、古本の言葉が頭に強く残ってしまう。

 

 「ハア、ハア。ハア、ハア」

 

 ドクン! ドクン! ドクン!

 何を言ったのか、どうして今言ったのか、何で僕にそれを聞かせたのか。

 

 いや、そもそも──。

 

 ガシッ。

 

 「これは私が普段愛用している手鏡なんですけど」

 

 肩を掴まれ、僕の手に黒い手鏡が渡される。

 

 「どうぞ、お使いください」

 

 手のひらサイズのそれは軽い筈。

 だけど、この時は自棄にそれが重く感じた。

 

 「……ありが、とぅ」

 

 「いえいえ、お気になさらず。それでお顔を見ていただければ解決ですから」

 

 にこりとする少女を前に、僕は意を決し渡された鏡で自分の顔を見るとそこには──。

 

 「──っ!?」

 

 ──パリン!

 吃驚して、鏡を落としてしまう。

 

 「嘘、だ」

 

 驚いた時に見開いた瞳は碧眼。

 純粋な日本人の藤岡友喜は黒目で、彼と何もかもが違う顔立ちを僕はしていた。

 

 「嘘じゃありません」

 

 古本は言う。

 けれど、これではまるで鏡に映る先に見えたのは、藤岡友喜とは別人の誰かじゃないか。

 

 「残念なことに嘘じゃないんですよ、これは」

 

 驚いて言葉が出ない。

 考えれば、考えるほど納得のいくことだ。

 

 藤岡友喜では僕はない。

 そう、偽物の人間モドキでしかない自分の顔なんて、もう原型を取り留める必要はないんだ。

 

 あれ? ならどうして、母さんは僕を息子の藤岡友喜だと言って抱き締めたんだ?

 ……ああ、いや、そうだ。暗示だ。暗示があるじゃないか。

 僕を藤岡友喜だと誤認させる暗示を掛ければきっと──。

 

 「一応言っておきますが、貴方の姿に関しては暗示を掛けていませんよ」

 

 「──っ!」

 

 じゃあ、どうして?

 

 「どうして目が覚めた貴方をお母様は藤岡友喜と言ったのか、ですね。その疑問には私は答えれません。答えることが出来る人間が居るとするならそれは本人が一番でしょう。────いい加減、入られたらどうです?」

 

 古本が誰も居ないドアに向かって話をしだす。

 

 「入られたらって「お気持ちは察しますが、いつまでもそうしている訳にはいきませんよ、お母様」──え?」

 

 僕の言葉を遮って話す古本。

 だが、その内容に思わず耳を疑ってしまう。

 

 そうしていると、ガラガラと無人のドアが開いていく。

 

 「……お母さん?」

 

 部屋に入ってきたお母さんの顔には生気が見えず、まるで能面のような面持ちだった。

 

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