バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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013 優しい夢

 

 カタカタと映し出される己の過去。

 それは埒外の罪と罰。

 知らない振りして逃げ続けた代償が描かれて、あーしにそれを教えてくれる。

 無知とは時に残酷で、誰かを傷つける魔法の理だと誰かが言ったのを思い出す。

 

 けれど、そんなものは知らないとあーしは見ない振りして逃げる。

 例え目を逸らし俯くことは叶わずとも、心の螺旋に秘めることで無知のまま居られるとこの時は本気で信じてた。

 

 キキキ。

 キキキ!

 

 だから、それを嗤う黒い影に気付かない。

 過去を見る。

 そうして、あーし──夢野芽亜莉はスクリーンの映像に囚われ続けるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カツン、カツンと二人分の足音が白い大理石の床に響いてる。

 後ろに手を組み、さっきまでのよう舌な振る舞いなど知らないと言いたげに先を行く少女の後を変な対抗心を抱きながら黙々ついていく。

 

 「おっと、着きましたよ。夢野芽亜莉さん、こちらが今後、貴女の居住区になる第三エリアです」

 

 というか案内されて思ったんだけど、此処って見た目は研究所というより病院に近いなぁ。

 何だか、身構えて損した気分だ。

 

 「この第三エリアでは私たちのような『欠落者』を管理し研究されており、この中で有ればある程度の出歩く自由が設けられています」

 

 「へ、へぇ。その『欠落者』ってのはよく解んないけど、それってつまりこの中しかあーしは出歩く権利がないってこと?」

 

 「ええ、そうです。一時はどうかと思いましたが、話が早くて助かります。夢野芽亜莉さんはもうこの研究所から外に出る権利を持ち得ないことを理解させるよう強く言いつけられてましたので、納得して頂けたみたいで良かったです」

 

 ……え? いきなりこいつは何を言ってんの?

 

 「いや、何でよ? そんなの理解出来ても納得出来る訳ないじゃん。あんた何言ってんの?」

 

 こいつ、頭大丈夫か?

 

 「はい? ……だって、抵抗したところで貴女に何のメリットもないでしょう? 外はそこかしらに鉄条網が引かれ厳重に警備されており、研究所内には監視の目がそこら中にある環境下で一体どうやって逃げ出すのです? 万が一逃げ出すことが成功したところで、こんな山奥を年若い少女が歩いて町へたどり着ける筈もないですよね?」

 

 そう思ってたら今度はお前の方こそ大丈夫かと言わんばかりに少女は淡々と仮説を説明しだす。

 

 「──え、いや、あの……ア、アハハ。そ、そんなことぐらい解ってたわよ。これは、あれよ。解った上で敢えてあんたをからかったのよ。うん、そう。そうなの、解った?」

 

 少女の言葉にぐうの音も出なかったので早口に誤魔化すも、こっちに向けられる視線が冷たい。

 

 「……そうですか。理解した上での発言でしたか。それは大変失礼いたしました。私、てっきり貴女の頭がハッピーセットなのかと勘違いしてしまうところでしたよ。ですが、夢野芽亜莉さん。冗談だとしても今後はこのような下手なことを言わない方が良いですよ」

 

 「な、何でよ?」

 

 「なんでも何も既に監視が入ってますし、今後そのような態度を取られてると何らかのペナルティが課せられるかもしれません。そうしたら、貴女も不自由な思いをされると考えてしまうと私も非常に残念でなりません。──ほら、あちらに監視カメラが有るのが見えますよね? このように私たちの周囲には監視が付きまとっていますし、例え監視カメラを掻い潜ったところで数名の職員が日夜目を光らせていますから、余計なことはされない方が懸命ですよ」

 

 「────」

 

 「さて、部屋の案内でしたね。思わぬところで時間を使ってしまいましたが、ちゃんとしますので安心して下さい。えーと、夢野芽亜莉さんの部屋は二階になりますので、あちらの階段を使いましょうか」

 

 そう言って彼女は案内を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「此処が貴女の部屋になります」

 

 終始無言で連れられたところは、窓とベッドに着替えを入れる棚があるだけの殺風景な場所だった。

 それは病院の個室と呼んだ方が良いレベルの内観で、言外に必要最低限の生活しか保証しないと言ってるみたいだった。

 

 「いや、孤児院も似たようなものか」

 

 だが、考えてみればこれも今までと何ら変わりない扱いだったと思い返し、直ぐに気持ちを切り替える。

 こういう時は、妥協は大切だ。でないと、隣の少女が言った通り面倒なことになるのは予想がつく。

 

 「その孤児院というものに住んだことはありませんが、慣れると此処も悪くないですよ」

 

 荷物はそこですと指を差され、ベッド脇にあったパイプ椅子を取り出し座る古本。

 

 「いや、あんたはいつまで居るつもりよ?」

 

 このまま長居でもするつもりなのか、何処からか取り出した黒い本を読み始める古本。

 

 「ん? 一先ず食事の時間までの間は此処に居るつもりですがどうされましたか?」

 

 こちらの事情など勝手知らずにパラパラと頁を捲る姿は、何処かのお嬢様みたいな気品が見えて何だか女として負けた感じがした。

 

 「あー、はいはい。そうですか、そうですか。なら、それまで暫く一人にさせて頂戴よ。別にそれぐらいの自由くらい構わないでしょ」

 

 居座るつもりの少女を強引に部屋から追い出そうと試みる。

 

 しかし。

 

 「はい? ……ああ、もしや夢野芽亜莉さんはまだ勘違いされてますか? 此処に連れて来られた時点でもう貴女には基本的な人権というものが剥奪されているんですよ。仮に私が部屋から出たとしてもまた次の職員が来て監視をするだけです。基本的に貴女は今後一人きりになる状況はないと認識して頂かないと困りますよ」

 

 少女はそんなあーしを冷やかな目で制するのだ。

 

 「……はい?」

 

 「ああ、やっぱりそこまで考えて居られなかったんですね。でも、少し考えれば解る話じゃないですか。私たちは人智を超越した異能の力を持っているんですよ。そんな危険な代物を政府が管理もせず、放置する訳ないでしょうに。まさか、本気で国が最低限の生活を保証してくれるだけとお思いだったんですか?」

 

 淡黄の瞳があーしを見つめる。

 それが何だか虫を観察する機械のようなものに思えて、言い様のない不気味さを感じる。

 

 「う、そりゃもちろん何かあるだろうって考えてたけどさぁ。でも、まさかここまで厳重なものだとは流石に思わないじゃん」

 

 異能の力が何かは知らないが、きっと人体実験か何かの被験者になるのは覚悟はしていた。

 けれど、これはそんな程度の話じゃない。

 これではまるでモルモット兼、囚人の扱いじゃないか!

 

 「うっわー、どーしよ」

 

 一攫千金を狙って逃げ出してみる?

 それは無理だろう。

 この少女が言っていた通り、この施設の厳重な監視の目を掻い潜れる気があーしはしない。

 我慢する?

 今まで自由とはいかないものの、ここまで自由のない生活に自分が耐えられる気は全くしない。

 

 「うーん、うーん」

 

 唸っても考えは纏まらない。

 

 「別に良いではありませんか。どうせ外の生活へ戻ったところで貴女を誰も受け入れてくれませんよ」

 

 「……その言い方はなんか腹立つ。うん、決めた。施設の案内が終わったら、もう金輪際あーしに関わんないで」

 

 「ですから、他の職員が監視に──」

 

 「良い。少なくともあんたよりはマシよ」

 

 古本の言葉に強く拒絶の意思を伝える。

 すると、彼女は押し黙った。

 

 「じゃあ、そーいうことだから」

 

 それから時間が来て、彼女と共に食事しに食堂へと向かった。

 

 「……本当、最悪」

 

 その後も施設を案内する間、ずっと少女の目は心を持たぬ人形のように冷めたものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おはようございます、夢野芽亜莉さん。昨晩はよく眠れましたか?」

 

 次の日の朝、食事をしていたらそんな風に古本が声を掛けてきた。

 

 「あんた、昨日の話聞いてた? もう関わんないで頂戴って、あーし言ったよね?」

 

 のほほんと狸を演じる少女の挨拶を突き放す。

 

 「おやおや、そうでしたか? 私には『明日からも声掛けなさいよね! プンプン』と言ってるものかと」

 

 「そんなことあるわけ無いでしょ! 頭バグってんの、あんた!?」

 

 「失礼ですね。MRIでは正常でしたよ、私の頭」

 

 「馬鹿にしてんのかって言ってんのよ!」

 

 子供みたいな言い訳をする姿に堪えられず突っ込むあーし。

 

 「フフフ。何だか子供みたいですね、私たち」

 

 そんな突っ込みをするあーしに懐かしいものを見たような目を向ける古本。

 

 「は? ……子供みたいも何も世間一般ではあーしたちはまだ子供でしょうが」

 

 何言ってると冷めた目をしていると。

 

 「……そう、でした。子供でしたね、私たち」

 

 それに対し、少女は初めて感情のようなものを露にしたんだ。

 

 「……何よ、それ」

 

 何だか悪いことをしたような気分だ。

 

 「いや、別にあーしには関係ないか」

 

 暗い気持ちを切り換えようと朝食を再開するが、目玉焼きは冷めて味がよく解らなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからというもの、何かとつけて古本はあーしに付きまとってきた。

 朝も昼も夜も、それこそ他の職員があーしを連れて実験のようなことをする以外は何処だろうと声を掛けて来た。

 

 「聞いて下さい、芽亜莉さん! 事件です、事件ですよ、大事件!」

 

 「うーん、人が折角気持ちよく寝てるっていうのに。……んで、何よぉ、古本。あんた、昨日もそう言って寝てるあーし起こしたじゃん。もう食堂のプリンごときで起こさないでって言ってるでしょ、眠いじゃん」

 

 「違います、そうではありませんよ、芽亜莉さん! 良いから起きて下さい! 後、プリンは下らなくないですよ!」

 

 「うーん、むにゃむにゃ。もう食べられないにゃあ」

 

 「そういう貴女だって食い物の夢見てるじゃありませんか!」

 

 「んあああ! こら、人が気持ちよく寝ようとしてるのを無理矢理起こすんじゃない!」

 

 ……ハア。全く、どうしてこうなった?

 

 溜め息を吐くもその答えは誰も返してくれないのであった。

 

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