バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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 遅れて投稿。
 ハーメルンに保存してなかったぜ。



014 寝言

 

 「有った、有ったなぁ、そんなことも」

 

 あーしは描かれた日常に思わずクスリと笑みがこぼれる。

 スクリーンの映像はそれほどまでに懐かしい気分にさせ、それまでの陰鬱なことが嘘みたいに思えた。

 

 「ああ、でも」

 

 ジジジ。

 直、この小さな安らぎにも終わりが来るでしょう。

 春の訪れを感じさせるように、不穏な影は伸びているのですから。

 

 ザザザ。

 気付けたのは、些細な違和感。

 じわじわと何気ない日常の中、安心しきった獣の喉元を食い千切ろうと今か今かと待ちわびる理不尽。

 

 それは何処までも醜悪で、聞くのもおぞましい世界の構造であり──誰も望まない、誰も得しない運命の悪戯だった。

 

 「────」

 

 『私』の自我が『あーし』を侵食する中、抜け殻は夢を見る。

 

 「さあ、異星の蝙蝠(ビヤーキー)。惨めで哀れなあーしに『私』を届けて上げて」

 

 混ざり合う意思に違和感はない。

 吐き捨てる文字の羅列に興味もない。

 

 在るのはただ一つ、過去に溺れる愚か者だけだった。

 

 ◇

 

 「なあ、古本」

 

 「何でしょう、芽亜莉さん?」

 

 ここ数日、最早自分の部屋とでも言いたげに居座る不法滞在者は声を掛けるあーしに何だと聞く。

 

 「いや、前々から疑問に思ってたんだけどさ。あんた、普段は何やってんの?」

 

 そう。

 前々から何でと疑問に思っていた。

 国はあーしを管理という名目で拉致監禁をしている。

 だから、普段あーしは実験のようなことを毎日こなしてるが、目の前で気怠るそうにクッキー食ってる少女が何かをしている場面を見たことがない。

 

 「えー、それって話す需要あります?」

 

 「需要って言っても、なぁ。……うーん、普段あんたが何してるかが解れば、あーしの中のフラストレーションは解消されるし有り無しで言えば有るんじゃない?」

 

 「ふーん。相変わらずと言いますか、その覚えたての言葉を使いたがる癖は止めた方が良いですよ、芽亜莉さん」

 

 「う、うっさいなー。今はそれ関係ないでしょ! ──んで、どうなの? 普段、何してんの? 教えなさいよ……ねえってば!」

 

 気怠げに返答を誤魔化そうとする古本から強引に話を聞き出そうとする。

 

 「芽亜莉さん、止めて下さい。今、私はチョコチップを食べるのに忙しいです」

 

 そう言って、何処からか黒い本を取り出してパラパラと読み始める。

 この少女はこうなったら最後、どんなに頼み込んでもテコでも動かない。

 つーか、菓子食いながら本読むのは行儀が悪いんじゃないの?

 

 「……ちょ、ちょっと止めてよ! クッキー、ボロボロと落としすぎだしぃ。それ掃除するのあーしなんだからね!」

 

 そう言って咎めるも、古本は聞く耳を持たなかった。

 

 「フフフ」

 

 全く、初日に見せたあの人形じみた不気味さは何処に行ったのやら。

 

 部屋に職員の人があーしを呼ぶまで、古本は黒い本を読むのを止めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「芽亜莉さん、芽亜莉さん!」

 

 眠っている。

 

 「芽亜莉さん、芽亜莉さん!」

 

 どうやら寝ている■■■を起こそうと古本が揺すっているみたい。

 

 「……ふむ。これは完全に眠っていると見て良いですね。どうぞ、お入り下さい」

 

 ジジジ。

 

 いつからだろう?

 彼女を信頼するようになったのは。

 

 「あ、あのー本当に大丈夫でしょうか? また起きたりしませんよね?」

 

 ザー、ザー。

 

 いつからだろう?

 彼女に愛称をつけたのは。

 

 「それはこちらとしても保証しかねます、ね。まあ、実験に犠牲は付きものと言いますし、貴方たちも覚悟の上でしょう?」

 

 眠り始めた■■■を職員の人たちが囲み出す。

 

 「だとしても、安易に犠牲が出るのを良しとするのは違いますって」

 

 ガシャン、ガシャンと何かの装置が部屋に運び込まれる。

 

 「おい、ブラボーワンはまだか? こちらは直ぐに配置に着いたというのに一体何をもたついてる!?」

 

 繋がれるチューブの重さが現実の非情さを表してるみたいで何だか冷たいと感じた。

 

 「慎重に、慎重にだぞ。また余計な震動を与えて起こすんじゃない──良いな? これは訓練じゃないんだから」

 

 「っ解っております、竹内大尉」

 

 見るもおぞましい虫けらたちは、得たいの知れない機械を取り付けていく。

 

 「こちらブラボーワン、指定位置に着きました。アルファツー、いつでも起動出来ます──指示を」

 

 まるで危険物を扱う動作だとそれを他人事のように眺めた。

 手慣れてるとは思わない。

 装置を取り付ける彼らが何処か冷静でないのは素人目線でも伝わった。

 

 「古本さん、いつも通りフォローは任せます」

 

 「ええ、それでは実験を始めて下さい」

 

 そこからの記憶はない。

 だが、想像を絶するような痛みが身体中に走ったのは何となく理解した。

 

 「──っ」

 

 目の前を弾ける閃光。

 廃になる頭。

 ぐちゃぐちゃと思考回路が崩れていく。

 

 そうして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシャリと鮮血が跳ねた。

 

 映像が一度切り替わる/見ているモノが嘘に思える。

 

 ジジジ。

 

 でも、語られるのは真実で。

 目に映るのは遠い過去の記憶だった。

 

 それを証明するように、スクリーンの中の人生(モノクロ)は淡々と事実だけを映してる。

 

 周囲は煙が上がり、血と肉の焼けた悪臭がそこに居る人間全ての鼻を曲げた。

 

 「キキキ」

 「キキキ!」

 「キィキキ?」

 

 耳障りな鳴き声が木霊する。

 鈴虫の合唱みたいなそれがまるで救いを求めるように手のようなモノを伸ばした。

 

 「──っ!?」

 

 声にならない悲鳴が漏れる。

 そうして伸ばされたそれをパシンと叩き落としてしまう。

 

 「「「「キキキキキキ!!!」」」」

 

 生暖かい感触だった。

 ブヨブヨとしたモノがヌメリとするような感覚だった。

 

 ……気持ち悪い。

 その得たいの知れない化物たちが自分を取り囲んでると思うと身震いが止まらない。

 

 「……何なの、これ?」

 

 暗がりの中、こちらをじっと見つめるナコっちゃんに■■■は問う。

 

 「ねえ、答えてよ。……ねえってば!」

 

 返事はない。

 案山子みたいに無表情で突っ立って、ひたすら冷めた目を向けるだけだった。

 

 「答えなさいよぉ、……ねえ、──答えろよ!!!」

 

 瞬間、激情に駆られ身体に秘めたそれが爆発した。

 

 「──っ」

 

 すると、緑髪の少女は見えない力に弾かれ壁に叩き付けられる。

 

 「あ、ぐぅ!」

 

 衝撃で窓が割れ、パリンと硝子が飛び散った。

 骨の折れる生々しい音も聞こえた。

 少女の苦悶にはしたなくも頬を赤らめた。

 

 「ハア、ハア」

 「────」

 

 ──だというのに、彼女は何の抵抗も見せず口を開くこともない。

 

 「なんで、何も言わないのよ? なんで、何も言ってくれないのよ! そんなことされたら■■■、あんたが酷いことしたって思っちゃうじゃない!」

 

 徐々に煙が晴れていく。

 意識が朦朧(もうろう)とする中、二人は見つめ合う。

 

 「だったら、どうだと言うのです?」

 

 そうしていると、何の抵抗を見せなかった少女が漸く口を開いた。

 

 「──っな」

 

 緑の髪が揺れる。

 

 「ええ、そうです。初めからこうすると決めていました。貴女を通じ、あの世界の彼女とコンタクトするのが我々の目的でしたから。……でも、騙したなんて言わないで下さいね。貴女だって、自分が何してるのか理解してなかったんですから」

 

 「……何してるかって、何よ? 此処に来てから、■■■は何もしてないじゃん。普通に駄弁って、寝て、変な実験のようなものをする繰り返し。特に変わったことは何も──」

 

 「フフフ」

 

 古い西洋人形は可笑しいモノだと言いたげにこちらを指差した。

 

 「何よ? 何がそんなに可笑しいの?」

 

 「ええ、可笑しいですよ。だって、普通の人間は感情のままにこうして人間一人を吹き飛ばせるなんて出来ませんし、しようとも思いません。……そもそも此処へ来てからの貴女の行動は、それはそれは酷いものでした。うつらうつらしたかと思えば、目についた人間を捕まえて誰彼構わず襲い掛かる。笑いながら人間以外の生物へと変えてしまう──そんな人間を人間と思わない所業をする貴女は、ある意味完成された社会不適合者なんです」

 

 ゾクリと背筋が凍る。

 向けられた淡黄の瞳は虫を見るような眼差しをしている。

 

 「あ、ぐぅ」

 

 パチリと意識が切り替わる。

 スイッチが押されたみたいに■■■は『私』に乗っ取られる。

 

 でも、今はそれよりも/……嘘だ。

 

 「おや、また忘れるのですか? 良いですよ、夢野芽亜莉さん。どうぞ、お逃げなさいな。そうして、今を生きることからずっと逃げ続けて下さい。我々はそんな貴女を歓迎します。管理の難しい生物兵器、夢世界(ドリームランド)残留思念(ヒロイン)の一人『メアリー·スゥ·ドリーム』を、ね」

 

 このお喋りをどう黙らすのかを考えなくてはいけない/こんなの出鱈目に決まってる!

 

 ザー、ザー。

 

 スクリーンの映像は途切れない。

 血塗れの身体で、人間じゃないものに囲まれる■■■とそれを淡々と説明するナコっちゃんの姿が映し出されてる。

 

 「……何よ、これ?」

 

 こぼれる問いに誰も答えない。

 知らない記憶を自分のものだと理解していることに疑問が尽きない。

 

 ザー、ザー。

 ザー、ザー。

 

 これは、泡沫の夢にして虚ろな幻。

 劇場に魂を、虚構と現実の狭間へ意識を、狂った影の中を少女の身体が曖昧に融かしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「きゃわわわ! きゃわわわ!」

 

 それを誰も咎めない。

 それを誰も観測出来ない。

 

 「それでこそ、この『私』が態々選んだ甲斐がありますぅ! まさに器として相応しい異能と言えるでしょう!」

 

 深層心理の狭間にて、修道女(メアリー)は嗤うように虹の花弁を散らすのだ。

 

 ◇

 

 「着きました」

 

 前を走っていた古本はそう言って、立ち止まった。

 

 「ハア、ハア! 此処が?」

 

 それに何とか追いつく僕は彼女に聞く。

 

 「ええ。此処が、第五エリア──通称『対魔導用新型兵器開発特化施設』になります」

 

 「そう、なんだ」

 

 胸を張って答える古本に感心する。

 下ろされた隔壁を見た限り、この第五エリアが如何に厳重な扱いをされているのかが見て取れたからだ。

 

 「んで、どうやって中に入るの?」

 

 固く閉ざされた隔壁を壊すわけにもいかないが、だとしても今は急いでいる。

 古本の話では大体の人間は警備に駆り出されていて、マトモに動ける職員は恐らく居ないと思われるので、流石に何か解決策があるのだろう。

 

 「実はこんなことも有ろうかと確かこの辺に解除パネルを仕掛けといたのです」

 

 そうして、床底のタイルの一部を何かすると途端に目の前の隔壁の一つが上がり、入り口が出来上がった。

 

 「おお!?」

 

 思わず感嘆の声を上げる。

 

 「フフフ、どうです? 中々に見応えが有るでしょう? 此処、第三共環魔術研究所にはこのように一定の魔力を使用して起動するギミックが搭載されているんです」

 

 「へぇ~」

 

 「……とは言え、誰でも使用出来るというわけでもありませんが、ね。まあ、今は一刻も早く負荷蝙蝠(ビヤーキー)から芽亜莉を取り返すのが先決なのでこれ以上の説明は止めておきますか」

 

 古本はそう言って、隔壁の中──第五エリアへと入っていく。

 

 「そうだ、ね──って、うわっ!?」

 

 それに続くと、僅か数秒も経たずして隔壁が閉じてしまった。

 

 「フフフ」

 

 自動で動く隔壁に驚く僕を古本は微笑ましいものを見たと頬を弛ませた。

 

 「────! な、何だよぉ?」

 

 ……こうして見ると年相応の少女なんだなと場違いにも思った。

 

 「いえいえ」

 

 そう言って、今度こそ先を行く古本。

 

 「ううう、何か違うような気がするぅ」

 

 目指すのは、対魔導用戦闘飛行機が格納されているだろう──この第五エリアの格納庫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自虐肯定、不可逆設定、青天霹靂開始。

 悪逆否定、倫理機構突破、偏在事象改竄開始。

 

 現れる黒いモヤ。

 隔壁を越え、先を目指す彼らの足取りをただ見つめるそれに意思はない。

 

 「此処(キキキ)何処(キキィ)?」

 

 ただ命ぜられるまま役割をこなす人形。

 発条を巻かれなければ動かないカラクリと何ら違いないそれは問う。

 

 「何であーしこんなところに居るの(キキキキキキィ)? ねえ(キキィ)何で(キキキィイ)?」

 

 答えはない。

 それはこの世界の人間の誰もが自分を置き去りに未来(あす)を見ないのだ。

 

 「助けて(キキキ)

 

 そうして、彼女は語られない。

 騙られないまま、その感情を、心を壊されていく。

 

 そう。誰もが真実に目を向けず、遠い過去ばかりを振り返るだけなのだ。

 

 「キキキ(ナコっちゃん)

 

 黒いモヤは隔壁を見つ続ける。

 微笑む少女はそれを見過ごし、未だ迷い続ける青年は気付かない。

 

 「キキキィイ(ナコっちゃんってば)!」

 

 手を伸ばすように、隔壁を囲うよう広がるモヤ。

 外なる宇宙からの侵略者──否、遥か彼方の来訪者はいつまでも嗤い続ける。

 

 明日を夢見るように。

 希望を願い、足掻くみたいに影は──。

 

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