バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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013 健闘を祈る

 

 逆行する世界。

 繰り返される日常は全ての可能性でしかなかった。

 

 私は誰で、何であるのかが解らなくなっていき──。

 

 虚構の世界に融けるアストラルコード。

 輪廻転生とやらがあるのなら、そんな夢を見るのも悪くはなかった。

 

 ────「明日がみたい。どれだけ惨めで、くだらなくとも僕はもう一度生きてみたいんだ」

 

 遠い昔に彼が言った。

 その言葉にどれだけの想いが込められているかは知らない。

 けど、私はそう言った時の彼の顔が好きだった。

 

 ……でも、そんなことも彼は忘れてしまっている。

 私の想いも、会話も、過ごしてきた日々の何もかもを削って生きている。

 

 「私、待ってます。待ってるんです。どれだけ時間が掛かろうとも貴方が此処にやって来るのを待ってるんです」

 

 誰もいない玉座にて、彼の到来を今か今かと私は待ちわびる。

 

 忘れてはならない。

 私は世界のシステムの一部であることも、彼の障害でしかないことも。

 

 「覚えてますか、■■さん。消される筈だった私を貴方は助けてくれたんですよ。もう覚えていないんでしょうけど、……私、忘れられなかったんです」

 

 名前にノイズが掛かる。

 エラーとして認識され、バグとなる。

 それは、この世界において改竄(かいざん)出来ない絶対なルールであった。

 

 世界は愚かしいほどに正しく、残酷で、存在しない幻想(もの)には冷たすぎる常識だ。

 誰かの想いの塊てしかない私たちを世界は受け入れることはない。

 仕方ないことと解っていても、やるせなさを感じずにはいられなかった。

 

 ──嗚呼、でも。

 

 「待ってます。待って、ます。私のヒーローはこんなところで諦めるような人じゃないんです」

 

 そんな世界が綺麗だなんて思えてしまうんだから不公平だ。

 

 ◇

 

 「兎も角、これで能天気なキミでも状況が見えてきたんじゃないかな?」

 

 ぷかぷかと宙を漂う魔導書。

 えっへんとドヤ顔を決めていそうな雰囲気だ。

 

 「あっはっはっはっは。茶々を入れる元気が出てきたみたいで嬉しいよ。……しかし状況の説明は一先ずこれで良いとして、これからどうするか悩みものだね。その上の段階は実際、NGワードを避けつつ説明しているが、だからと言ってこれ以上の説明は相手側も気づくだろうし」

 

 状況って、僕自身が自由に思考することが出来ないってことじゃないのか?

 いや、そんなことより早く名城さんを探し出さないといけないのに──。

 

 「勿論、彼女は助けるとも。だが、今それを実行するにはリスクが余りにも高すぎるのだ。そう、■■■■から外なる神を分断させなければ我々は全滅さ。そうなれば、全て水の泡となる」

 

 それだけは避けなければならないと、魔導書は言いながらブンブンと震える。

 

 「というより、さっきから思ってたのだけどいい加減、ボクのことを魔導書と呼ぶのは止めて貰おうか。ボクには藤岡飛鳥という名が有ってだね。魔導書としての外観は彼女たちの目から欺く為なんだから別にそう呼んでくれても良いのだよ」

 

 しくしくとか本なのに人間くさい。

 

 「──ぅううう! まあ、良い! よくはないけど、この際だ、我慢しよう。さっきも言ったけれど、真弓を助ける前にしなくちゃいけないことが一つある。それをしないことには真弓を助け出したところで同じことの繰り返しだ。えーと、ナイ神父だったか。現在の影絵(エイプ)を所持してるのは?」

 

 影絵(エイプ)

 

 「そう、影絵(エイプ)。って、そうか。影絵(エイプ)についての情報も抜けているんだったね。

  これは失念してたよ、すまない。影絵(エイプ)ってのは一言で表すなら影絵の猿のことだよ」

 

 影絵の猿?

 

 「それって影のことじゃないの?」

 

 「違う。……と言えども、あれを説明すると専門用語マシマシで非常に説明しづらいのさ。ざっくりと説明してしまうと高度な術式で錬られた概念魔術ってものなんだけど。まあ、この時点でキミの頭はちんぷんかんぷんだろう?」

 

 ……ぅう、痛いところを突くね。

 

 「これでもキミとは数週間とはいえども交流が有ったのだ。それぐらいは察せれるさ。まあ、察せれるからこそ、今からキミにして貰うことはとても単純なことだからよく聞いておくんだよ」

 

 なんか、急に子供をアヤす感じな扱いなのだが。

 

 「フフフ、物は言い様だねぇ。神父の姿をしている奴からそのエイプの術式を破戒すること。それがキミの第一にするべきこと」

 

 第一ってやること複数あるの?

 

 「当たり前さ! キミがこれからやろうとしてることはこの世界の神様を相手するってことなんだぜ。それぐらいやれなくて、どうするのさ」

 

 「っふぁ? その神様を相手するとか初めて聞いたんですけど!?」

 

 「そりゃそうさ、キミと再会してから実際、あれのことを初めてそう呼んだのだからね」

 

 なんか無茶苦茶だ、この古本!

 

 「つーか、君みたいなインパクトのある奴は会ったことないし! そもそも術式の破戒ってどうやってするのさ?」

 

 物理で解決できるならリテイク先輩の攻撃でなんとかなる筈だしね。

 

 「──うん。まあ、仕方ないっちゃ仕方ないのだけど結構堪えるものだね。うむ。現実化したエイプに魔術破戒を被せたところでそのエイプが消滅するだけで何の効力もないと思うだろう? 実際はその通りだとも。だが、そうでない魔術的アプローチを介せばそれは解決する。まあ、待て待て。待ちたまえ。それが出来たら苦労しないって思ってるだろうけど、話は最後まで聞きなさい」

 

 茶化すようにけれど淡々と魔導書は語っていく。

 僕が名城さんを助ける為、これからしなくてはならないことを。

 それは、要約するととても単純な話だったけど、実行するには余りにも難しい話だとも思った。

 魔導書、藤岡飛鳥が出したプランは僕がそう思ってしまう程の計画だった。

 

 「さて、そろそろ時間みたいだ」

 

 チクタク、チクタク時間が戻る。

 時間逆行終了の時が近づいた。

 

 「それでは、キミの活躍に健闘を祈る」

 

 もし僕が彼女のいう死者の代用品じゃなかったら、どうしていたのだろうか。

 その心の問いには誰も答えてなんかくれなかった。

 

 カチカチカチ。

 

 ────「さあ、日常を再生しましょう」

 

 何処かで聞いたことある少女の声が頭に響いた。

 

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