バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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 お待たせしました。またハーメルンでの投稿を忘れてました。



015 違和感

 

 キキキ。

 

 かつて『私』は美しいモノを見ました。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 それは取るに足らない虫の足掻きで。

 無様で、醜く、泥にまみれた小さな抵抗でしかありませんでした。

 

 キキキ。

 キキキ。

 キキキ。

 

 でも、感情のない『私』にはない輝きを彼らは持っていたのです。

 

 ジジジ。

 完全な『私』は、けれど不完全な『私たち』でもありました。

 けれど、その美しいモノはどれだけ焦がれても手に入ることは叶いません。

 

 ザー、ザー。

 

 欲しい。

 欲しいと幾ら手を尽くそうとも、それは遠ざかるばかり。

 

 「■■、■■■■」

 

 ある時、欲を持たないデータに心が与えられました。

 そう、唐突に何もない完全が感情を与えられたのです。

 

 ええ。『私』も存じ上げております。

 ない故の完全だったからこそ完成されていたというのに余分な機能を付け足したら機能不全を起こしてしまうのは当然の帰結ですよね。

 

 だから今も尚バグは増えるばかりで、改善策を産み出さないエラーになるのは理にあった事象なのです。

 

 「キキキ」

 

 何がそこまで『私』を突き動かすのか解りません。

 数多の死体(げんそう)を積み上げ、その夢の果てを目指す理由はないと言えます。

 

 「キキキ! キキキ!!!」

 

 けれど『私』は主人公()を通して観測することを止めません。

 

 何故ならそれは──。

 

 ────ブツン!

 

 「危ナイ、危ナイ。モウ少しデネタバレヲ踏ムトコロダッタナ。マア、続キハアルンダ。ユックリ楽シミタマエ」

 

 一人の男が何かをする。

 それはまるでテレビの電源を無理矢理切ったような雑な終わり方だった。

 

 「コウシテ世界ハ再ビ真ッ暗闇ヘト閉ザサレマシタノデシタ。メデタシ、メデタシ」

 

 そうして一人の男の嘲りによって、世界は暗闇に閉ざされたのだった。

 

 ◇

 

 鈍い音を立てながら、シャッターが上がる。

 

 ガゴン!

 中は真っ暗で少し覗いた限りでは、戦闘機の一つも見当たらない。

 

 「えーと、此処ですかね」

 

 暗闇の中に入る古本。

 

 「……お? あった、あった!」

 

 「──っ、眩し、い」

 

 しばらく探してると、辺りが眩しくなる。

 

 「良かった。まだ電気は生きてるみたいです」

 

 どうやら古本が電灯のスイッチを点けたようで、その明かりによって、目の前に鉄の塊が姿を現す。

 

 「これは、またデカイというか、珍妙な形をしてるね」

 

 ずんぐりとした鉄塊。

 大きな箱にプロペラと呼ばれる車輪がつけられたそれに古本が飛び付くように触れる。

 

 「起動は……出来るみたいです、ね。──良かった。これなら間に合います」

 

 慣れた手つきで起動テストをしていく姿を見て、ふと思う。

 此処まで来るのに人が少なすぎる気がする

 最近、疑り深くなったと思うが用心するに越したことはない。

 ……確かに古本は使える人員は警備に出したと言ったけど、それは本当でない筈だ。

 だって、そうでない研究職の人たちとか前線に出したって何も出来ず死ぬのに決まってるよね?

 

 ならどうして──。

 

 「七瀬勇貴さん。こちらは準備完了です。いつでも出発出来ますよ」

 

 古本ナコト。

 目の前の少女は古本ナコトの筈だ。

 此処はあの夢の中じゃない。

 現実だ。

 現実だから、いつの間にか赤の他人に変わってるなんてことはない。

 

 「どうされま、し──七瀬、勇貴さん?」

 

 考えすぎかな?

 でも、何かが引っ掛かる。

 致命的な間違いを僕たちは見逃してる気がしてならない。

 

 ドクン。

 

 「ねえ、古本」

 

 「……はい、何でしょう?」

 

 少女は真っ直ぐこちらを見つめている。

 その姿に先ほどまでの必死さが感じられない。

 

 「負荷蝙蝠(ビヤーキー)って、さ。傷を癒したり、痛みを止めたりする能力とか持ってたりする?」

 

 「いいえ。そんな能力は持っていません」

 

 「なら、どうして君たち──いや、君は芽亜莉さんがまだ生きてるなんて確信出来たんだ?」

 

 古本の顔が曇る。

 

 「……どうして、そう思いましたか?」

 

 「いや、さ。あの部屋の惨状を見れば芽亜莉さんは助からないんじゃないかって思うんだ。血塗れで、もぎ取られた四肢が散乱したあの状態は素人目線でも致命傷なのは明らかだよ。……けれど、君は生きてると信じて救助に向かおうとしている。不思議だ。これじゃあ、まるで僕と君で助けに行くのがお膳立てされてるみたいだ」

 

 「…………」

 

 古本は喋らずこちらを真っ直ぐ見つめてるだけ。

 それが疑心暗鬼に繋がる。繋がって、しまう。

 

 「ねえ、どうして?」

 

 再度問うが、少女は口を開かない。

 それを見て、古本が何を考えてるのか解らなくなった。

 

 「……ふむ、なるほど。色々言いたいことはあるのですが、これだけは言っておくことにしましょうか」

 

 冷たい視線が突き刺さる。

 精巧に造られた西洋人形みたいな無機物らしさが少女には感じられた。

 

 でも。

 

 「考えすぎですよ、七瀬勇貴さん」

 

 ニコリと微笑み、彼女は黒い本を取り出した。

 

 「……そうかな?」

 

 パラパラと頁が捲られる。

 

 「ええ。まあ、私が芽亜莉の生存を確信してるのは事実ですし、そう勘違いされるのも無理からぬ話です。……ですが、助けに行くのがお膳立てされてるとなるとそれは考えすぎと言う他ありません」

 

 パラパラ。

 

 嘘は言ってないと思う。

 けど、何かが引っ掛かる。

 

 「仮に。仮にそうだとしてもですね。それなら私は今夜の負荷蝙蝠(ビヤーキー)襲撃を事前に知っていたことになりますよ。幾ら私でもそんなリスキーなことやりませんし、何よりするメリットがありません。芽亜莉を連れ去ったところで損をすると解っているのに実行するなんて馬鹿馬鹿しいですよ」

 

 何か、何か見落としてるような気がする。

 古本の言葉を聞いても、メリットがあれば実行すると明言されているようで仕方がない。

 

 ──いや、違う。そんなことではなく、もっと別のことに目を向けるべきなんだ。

 

 「さて、疑問は解けましたか?」

 

 古本が僕の手を取る。

 すると、ズキリと頭痛がした。

 

 「う、うん」

 

 久々の痛みに少女の言葉に思わず頷いてしまう。

 

 「フフフ。それなら一刻も早く、この対魔導用戦闘飛行機へ乗り込んじゃって下さい。大分時間を取られてましたけど、これなら逃げた負荷蝙蝠(ビヤーキー)を追うことが出来ます」

 

 そう言って、古本は鉄の塊の扉を開く。

 

 ドクン。

 心臓が鼓動する。

 

 ────「そう、『エンドの鐘』じゃ! 『エンドの鐘』こそ、わっちぃらを生み出す永久機関。第二の『あのお方』の象徴であり、お主の心臓じゃよ!」

 

 不意に誰かの言葉が頭に過る。

 

 「──ん?」

 

 目の前の鉄の塊に乗り込もうと一歩踏み出した瞬間。

 

 「……いや、待った。やっぱり可笑しい」

 

 そこで、僕は違和感の正体に気付いた。

 

 「可笑しい? 可笑しいところなんて何処にもありませんよ、七瀬勇貴さん」

 

 古本が断言するが、それは間違いじゃない。

 

 「いーや、可笑しいね。だって、ちぐはぐだ。あまりにも出来すぎてる。……うん、そうだよ。あんな単純なことを君が見落とす筈ないんだ」

 

 そう言って僕は掴まれた手を振りほどく。

 

 ……思えば最初から疑うべきだった。

 でもそれは目の前の古本を疑うのではないのでなく──もっと単純な小さなことを注意深く観察するべきだった。

 

 ドクン、ドクン。

 心臓が跳ねる。

 けれどそれが明確な確信へ繋がる──否、繋がってしまった。

 

 いつからかは解らない。

 けど、この心臓の鼓動に違和感を持った時点で塗り替えられていたとしたらそれはそれで話が変わってくる。

 

 「……先ほどから何が言いたいのです? そろそろいい加減にしてくれませんと怒りますよ」

 

 「じゃあ、言わせて貰うんだけど、さ。普段の芽亜莉さんなら負荷蝙蝠(ビヤーキー)に負けないんだよ。それなのに、君たちはあの惨状の四肢を芽亜莉さんのモノだって確信してた。まるで最初からそうであるような物言いをした。誰のものか解らない四肢をそうであるようにみんなそれを信じて疑わなかった」

 

 思えば、あの時から行動が誘導されたと考えるべきなのかもしれない。

 まあ、今となってはそれも遅い話なんだけど。

 

 「そんなのは、あの現場を見れば誰だってそう思うのは当然だと思いますよ。それに、あの時は貴方だって感情的になりましたよね?」

 

 「うん。だけど、冷静に考えればあの光景は違和感だらけなんだよ」

 

 「……違和感だらけ?」

 

 「うん。だって僕たちが襲撃されたと同時だったとしても、さ。あんな状態になるまで芽亜莉さんの部屋が崩壊してたら、幾らなんでも負荷蝙蝠(ビヤーキー)から逃げてる僕たちは気付くだろう?」

 

 まあ、確かに僕は殺し合いにはまだ慣れてないド素人だ。

 けど、管理者を任される実力者で負荷蝙蝠(ビヤーキー)が部屋に襲撃するのを察せれる程の君が階下に起きたことを見逃すなんて間抜けはしない筈だ。

 

 確かにこれも小さな違和感でしかない。

 けれど、考えてみればこれは致命的な間違いだ。

 

 だって、その証拠に君はロクに調べもせず放置された四肢を見て芽亜莉さんのモノだと決めつけてたんだから。

 

 「ねえ、古本」

 

 いつの間にか古本の表情は暗い影に包まれ見えない。

 それは、まるで僕が今言ってることが事実だと認めてるように見える。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 そう思っていると、何処からか聞き慣れた嘲笑が響き渡る。

 

 「──っ」

 

 背筋が凍る。

 いつかの恐怖で身体が震えてしまう。

 

 それでも──。

 

 「これ、現実じゃないよね」

 

 それでも、僕は勇気を出して言葉を口にした。

 

 瞬間。

 

 「……フフフ。フフフ、フフフ────イーッヒ、ヒヒヒ!!!」

 

 狂ったように嗤い出す古い西洋人形(ビスクドール)

 同時についていた電灯が消え、辺りが真っ暗闇に包まれる。

 

 「きゃわわわ! きゃわわわ! これは軌道修正不可! つまるところバグ発生に然りエラー乱発の雨あられ! どうしようもねぇって、どうしようもないって、どうすることも出来ないんだしぃ! ……全く、後もう少しのところだったのにここ一番で気付くのは勘弁して欲しいって、ね」

 

 「──っ」

 

 その笑い声は知っている。

 そのふざけた喋り方を僕は覚えてる。

 

 「あーあ、このまま微睡んでいれば良かったのに。英雄ごっこを楽しんでいれば良かったでしょうに。……本当、ウザイこと他ないわ、貴方」

 

 理不尽な罵声は止まらない。

 その悪態にいつか見た神の御使いを重ねてしまう。

 

 「君は古本。あの古本なのか?」

 

 やがて目が暗闇に慣れていくと、目の前の古本の姿がもう黒いスーツでなくなっていた。

 

 「ええ、ええ! ご想像通りのあの古本ナコトなんだしぃ! それ以外の何者でもないってことでアンサーなんだしぃ!」

 

 嘲笑は止まらない。

 僕の身体は、何故か震えが増すばかりの役立たずとなっている。

 

 それでも、必死で僕は青と赤の魔術破戒(タイプ·ソード)現実化(リアルブート)し構えた。

 

 「きゃわわわ! きゃわわわ! でもでもぉ、どーしよーもない事実なのは変わらないっていうかぁ、『エンドの鐘』による逆転劇は遥か彼方に追いやったことだしぃ! さーて、どうする? この『道化師』ことナコっちゃん様を相手にどう立ち回るのか見物って、ね!」

 

 黒い修道服の女──『道化師』古本ナコトはそう言って、僕へ歩み寄るのだった。

 

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