バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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019 本当、救いようがない少女たちですこと

 

 「もう! 貸して下さい!」

 

 そう言われた僕は、持っていた銀の鍵──『カダスの鍵』を古本に渡すと彼女は眠っている芽亜莉さんに『カダスの鍵』を(かざ)した。

 するとあれだけ部屋に充満していた黒いモヤが晴れていく。

 

 「──っ」

 

 そうすると、弱々しい、けれど微かな吐息が僕の耳に聞こえた。

 

 「芽亜莉!」

 

 先ほどまで態度とは違い、不安そうに芽亜莉さんを抱き締める古本。

 

 「もう大丈夫です。大丈夫ですから、ね」

 

 「──ぁ」

 

 少女の目に色が戻っていく。

 

 「芽亜莉」

 

 震える声だった。

 心配そうにする古本を見て、あの夢世界(ドリームランド)にいる彼女とは違うんだと分かった。

 

 「おはようございます」

 

 「──っ」

 

 当たり前のことなのに。

 それでも何故か僕は同じだと勝手に決めつけていた。

 

 「……ナコっ……ちゃ、ん?」

 

 「良かった。本当に良かったです。この感じだと、もう自力で目を覚ませそうですね。……一事は目を覚まさない貴女を見て、どうなることかと心配しました」

 

 目の前の光景を見て思う。

 古本は血の通った一人の人間なんだと、目的の為なら何を犠牲にする冷酷な人間じゃないんだと解ったんだ。

 

 「けど、もう大丈夫そうですね」

 

 「……う、ん……うん……あり……が、とぉ」

 

 良かった。

 本当に良かった。

 芽亜莉さんが無事で良かった。

 

 「──ぁ、──っ」

 

 そうして見守っていたら、芽亜莉さんが眠くなったようで目蓋が重そうだった。

 

 「フフフ、もう疲れましたか? 本当、芽亜莉はおねむさんですね。……良いですよ、芽亜莉。もう一度眠ってしまっても。後は全部私たちが片付けておきますから」

 

 そう言って、古本が彼女を強く抱き締める。

 

 「──ぅん、ありが、とぉ」

 

 すると芽亜莉さんはまた深い眠りへ落ちていったんだ。

 

 「────」

 

 でも。

 

 「良かったの?」

 

 「ええ。黒いモヤは晴れましたし、何より芽亜莉の無事は確認出来ました。なら、後はこの第三共環魔術研究所を未だ襲撃してる超大型腐乱死体(フランケンシュタイン)の対処に向かうのが先決でしょう」

 

 気遣う僕に古本はそう言う。

 

 「そう? 正直、僕たちが行かなくても後は他の人たちだけで何とか出来そうに思うけど」

 

 「いえ。現場の最高責任者は私ですので。……それに、超大型腐乱死体(フランケンシュタイン)を先導しているだろう他の負荷蝙蝠(ビヤーキー)は死んでいないと思われます」

 

 「……え? 負荷蝙蝠(ビヤーキー)、まだ居るの? 僕たちが倒したのとは別に?」

 

 アイツはゴキブリか何かなのか?

 

 「兎も角、リテイクたちとは一度合流する方が良いですね。情報交換しないといけませんし」

 

 「……マジかぁ」

 

 もうこっちは戦う余力なんかないよ。

 

 「もう少しの辛抱ですよ──七瀬さん」

 

 「──!」

 

 ……正直、今その笑顔を向けるのは反則だと思う。

 

 「さあ、一階へ降りましょうか」

 

 少女はそう言って僕の手を取り、歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……行ったか」

 

 荒れ果てた部屋に響く少女の凛とした声。

 会ったことのある誰かだと悟られるのを良しとせず、■■は立ち去る彼らを見届けた。

 

 「悪く思うなよ、メアリー。確かに、アンタには色々助けて貰った借りはある。──けど、アタシはまだ諦めるわけにはいかないんだ」

 

 赤い髪が靡く。

 

 「そうだよ。アタシは諦めてないし、忘れてもいない。何の因果でこの記憶が戻ったのか知らないけど、『私』だって兄さんの復活を夢見た一人なんです」

 

 月明かりが少女という曼珠沙華に差す。

 

 「だから邪魔した。惑わした。……でも、それもこれで全部終わる。終わらせる」

 

 澄みきった碧眼で少女は先を見通した。

 借り物の願いと嗤われようと、■■■■■のやることは変わらなかった。

 

 「名のない彼を──四葉兄さんを取り戻す。それこそエラーになろうがバグになろうと関係ない。今度こそ絶対に──」

 

 そう言って、腰まで届く髪を少女──久留里天音は掻いたんだ。

 

 ◇

 

 ゴポゴポ、ゴポゴポ。

 

 夢を見る。

 否、深い闇に堕ちる中で少女は一人夢を見ます。

 

 「────」

 

 誰もいません。

 誰も少女に目も向けないそれに意味はないです。

 

 ゴポゴポ、ゴポゴポ。

 

 暗闇はいつだって変わりません。

 誰に対しても平等に『無』を与えるだけです。

 

 「────」

 

 だから、このように暗闇に囚われた少女が夢を見ることなど本来はあり得ないことなのです。

 

 「──っ」

 

 一体、少女は何の夢を見てるのでしょう?

 優しい夢か、楽しい夢か、悲しい夢か、昔の夢か、寂しい夢か──それともそのどれもに値しない理解出来ない夢か。

 

 人一人、個人の夢を観測することは叶わないけれど。

 出来るとしたらそれは空想の中でしか知り得ない事です。

 

 ゴポゴポ、ゴポゴポ。

 

 「きゃわわわ! きゃわわわ!」

 

 突然、少女を覆っていた暗闇が晴れました。

 世界に光がもたらされたかと思うと、一瞬で悪辣な少女の魔の手が伸びました。

 

 「いけない、いけない。どんなに悪行を重ねようとも、これは──これだけは()()されるわけにはいかねぇんですぅ!! だってこれは私が、ナコっちゃん様だけが知り得る特権──誰にも知られるわけにはいかない真実なんですから!」

 

 ひらひらと虹の花びらが舞う中、そう言って青い髪の少女は眠っていた少女を抱き寄せます。

 

 「あ、あああ、ぁああああああああ!!! 止めろ、止めろ、止めるんだしぃ! それ以上語るな、それ以上囀ずるな、それ以上深入りするんじゃないですぅ!」

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 影絵たちは嗤います。

 少女の必死な抵抗を嘲笑います。

 何故なら、影絵たちに思いやりという機能が備わっていないから出来るのです。

 

 「い、嫌! ナコっちゃん様はナコっちゃん様なの! 他の誰でもない──そう、割れては消える泡沫の幻なの! だから──」

 

 道化師は嘘を重ねます。

 醜く足掻きます。

 その姿は実に哀れで、滑稽で──本当いつまで無駄なことをしてるでしょう?

 

 「や、やめ──」

 

 止めません。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 だって、『私』楽しいんです。

 地を這いつくばる虫けらを潰すのも、夢が崩れる光景に絶望する人の顔を見るのも、全部楽しいことなんだって知ってしまったんです。

 

 だから、明かします。

 故に描写するのです。

 貴女──道化師『古本ナコト』が本来の古本ナコトじゃないという事実を公表するのです。

 

 カチリ。

 

 「──ぁ」

 

 そうして、聖職者の真似事をする道化師の化けの皮は剥がされました。剥がされちゃいました。

 

 「か、語られ、ちゃった。白昼に晒されちゃった。……もう、ナコっちゃん様はナコっちゃん様じゃないって証明されちゃった──どうしよう、どうしよう」

 

 ジジジ。

 

 一瞬、古本ナコトの姿が聖職者の格好をした緑の髪の少女ではなく制服(ブレザー)を着た青い髪の少女へと切り替わります。

 

 ですが、どうかご安心を。

 これも割れては消える──泡沫の幻に過ぎないのであなたたちには何の危害も加えません。

 

 「──っ」

 

 ゴポゴポ、ゴポゴポ。

 

 暗闇に囚われた少女は眠ります。

 目を覚ますことのない夢をいつまでも、いつまでも見続けます。

 

 「嫌だ、嫌だ。絶対に、絶対にあーしは人間になるんだ。人間になって、それから──……あれ? あーし、何で人間になりたいって思ってたんだろう?」

 

 今にも消えそうな、その少女の問いに答えるモノは何もありませんでした。

 その事実はこうして残るのです。

 

 めでたし、めでたし。

 

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