あれから
数十、いや百を越える数にこれといった対抗策もないのか、異能を持たない人間たちは次々に死んでしまう。
右を見ても死体。
左を見ても悲鳴を上げる人間たちで多く、まさに地獄を体現したかのような光景だ。
「リテイク、後どれくらい力は残ってますか?」
古本が口を開く。
「残念なことに、念力を後五回捻り出せるぐらいしか出来ないわよ」
それに対し、リテイクさんは答える。
「そう。その様子だとシスカも限界のようね」
「ええ。でも、そっちの方は私たち以上に深刻そうだけど、これからどうするつもりなのかしら?」
横目で僕を見つめる少女。
「グゥルルルルゥ」
こっちに向かってくる
だが、そんなもの痛くも痒くもないのか平然とした顔で怪物は止まる気配を見せない。
「それは今考えてるところですよ」
「そう。でもあんまり悠長にしてると私たち、あいつらの晩飯になっちゃうわよ」
「分かってます」
蹂躙される人間たち。
それに成す術もない僕たち。
何度も見てきた絶体絶命にフラフラの身体。
「せめて、先導してるだろう司令塔の
古本が呟く。
「
この研究所を襲撃してる
けど。
「……そういや、僕たちを襲ってきた最初の
ふと、そんな疑問が唐突に浮かんだ。
「──あ」
二人がこちらを向く。
「何を言ってるの? 貴方たちが追ってた芽亜莉を連れ去った
リテイクさんは呆れたような口調で言う。
「いえ、違います。リテイクに吹き飛ばして貰った
しかし、それを古本が否定する。
そうして怪物の魔の手が目前に迫る中、僕たちは話を続ける。
「そうなると、そうなるとです。少なくともこの第三エリアを……いえこの一階フロアにいる
ぶつぶつと考えたことを呟く古本。
「そうね。そうなると──」
「……あ、そうか」
そこまで言われたら、僕たちを襲った
「「屋上にいるのか」」
少なくともこの第三エリアに
「だけど、どうしよう? それが分かっても僕たちじゃどうしようもないよ」
歩くのだって相当辛いのに、戦うとなったら僕は足手まといにしかならないし。
それに、古本とリテイクさんが向かったところで消し飛ばすほどの火力がない。
芽亜莉さんは一度意識が回復したけど、直ぐ倒れてしまった。
「フフフ、そうですね。体力が回復しないことには貴方は戦えませんよね。ですが、大丈夫。これを使えば一時的ですが貴方の体力を僅かばかり回復させることが可能なんです」
そう言って、古本が『カダスの鍵』を取り出す。
「ナコト、それは何かしら?」
自信満々の彼女にリテイクさんは説明を求める。
「これは
「……そう。何となく貴女がしようとしてることは解ったわ。けど、それは人道的にどうなのかしら? 第一、ゴルバチョフが戻って来たら、貴女何て説明するつもりなの?」
「ありのままを説明します。私たちは何としても生きなければならなかった。その為に仕方ないことだったと」
「つまり、貴女が全責任取ると言うのね」
「ええ」
「……そう。なら、私から言うことはないわね」
一通りそんなことを話すとリテイクさんは黙った。
「お待たせしました。七瀬さん、申し訳ないのですがもう一度だけ貴方の意識を
「う、うん。そうか、わかったよ。何はともあれ、少しでも体力が戻るのならするにこした事はないし、お願いするね」
僕がそう答えると古本は『カダスの鍵』を翳す。
「ありがとうございます。それでは、どうか良い夢を──」
そこで、僕の意識は閉じた。
夢を見る。
微睡むような、温かいような、優しい夢を見ている。
────「ほら、おいで■■」
お母さんが呼ぶ。
────「■■、どうだ? 父さんの作ったケーキも母さんが作ったのとはまた違って美味しいだろう」
お父さんが笑う。
それは古い記憶──遥か彼方に置き去りにした誰かの思い出だった。
「────」
夢だった。
夢だったんだ。
「────」
そう。それは、手を伸ばせば届きそうなそれは脆く儚い夢に過ぎないんだ。
「なんで、だよ」
どうして何だろう。
どうして
……解らない。
生きることに絶望したあの日から■■■■は眠り続けてる。
どうして生き続けなければいけないのか解らないのに、
「こんな世界、滅びちゃえば良いだろ」
優しい微睡みに掻き消され、この■■■■の独白は届かない。
寧ろ、名前も知らない誰かと意志が混ざり合うことに何も出来ない。
……本当、何の為に生きてるのか解らないや。
────「「ねえ、■■」」
「止めろ、止めてくれよ。もう見たくないんだよ、現実なんてたくさんなんだよ! ──だから、早く
「──ぁ」
よく見知った黒髪の男の子がそう言うと、そこで七瀬勇貴の意識は目を覚ます。
まあ、最初に出迎えたのは、懐かしさも感じられない病室の天井だったけどね。
「おはようございます」
古本が僕の顔を覗くように見下ろしてる。
「う、ううう。……何だろう、嫌な夢を見ていたような気がする」
それほど寒さは感じられない筈なのに、何故か身体が震える。
「目が覚めたばかりで申し訳ないのですが、すみません。貴方の意識がきちんと回復したかどうか幾つか質問しますが、宜しいですか?」
「良いよ、古本」
僕の言葉に一瞬、少女は目を丸くする。
けど、直ぐに何でもないと無表情のものに切り替えて寝ている僕にも解るようにピースサインをした。
「……突き立ててる指は何本見えます?」
答えは勿論決まってる。
「ハイ、チーズとでも言えば良い?」
パシンと良い音が響く。
「真面目に答えて下さい、ね」
この時、紅葉みたいな腫れマークはないものの叩かれるのは痛いものなんだと僕は痛感した。
「馬鹿なこと言ってないで、早く
そんな僕に古本が早くしろと急かす。
「わ、わかったよ。……ちぇっ。ちょっとしたジョークじゃないか」
「何か言いましたか?」
「ないよぉ~」
部屋を出る頃には、身体の震えは止まってた。
けど、それがどうしても嫌な感じがして仕方なかった。
「…………」
もし、この部屋に鏡があったら──いや、硝子に映る自分の姿を見ていたら古本が何をしたのか気付いたかもしれない。
でも、そうする余裕なんかなかった。
だって僕たちは『生きる為に』必死だったんだからさ。