バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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021 存在定義確立

 

 屋上に急ぐ僕たち。

 窮地を脱したとはいえ未だ優勢を保つ負荷蝙蝠(ビヤーキー)

 

 「ハア、ハア」

 

 砂埃が舞う第三共環魔術研究所。

 怒号と悲鳴が入り交じる舞台もクライマックス目前。

 

 カン、カン、カン。

 

 「ハア、ハア!」

 

 階段を駆け上がる。

 思えば今日は色んなことがあった。

 お母さんの本音、負荷蝙蝠(ビヤーキー)の襲来、道化師との邂逅など数えればキリがない。

 

 でも、それもこれで全部終わると思うと気が楽になった。

 

 バンッ!

 

 乱暴に鉄の扉を開ける。

 

 「キィーッヒッヒッヒ! 流石だ、流石だ! いや、数多もの世界を繰り返したフーリッシュならこれも当然か!」

 

 するとそこには、見飽きた顔で声高らかに嗤う黒い怪物が待っていた。

 

 「……ん? 繰り、返したって何の──」

 

 「グッド、グッド、グッド! そこに気付くとはベリーグッド! だがそれにバッドが答える必要はナンセンス! そもそも無知蒙昧なユーが知らずとも、所詮このバッドも観測者たちが用意した舞台装置の一つに過ぎないのだ!」

 

 「だから何を言って──」

 

 「何を言うも有るまい。ユーに残されたのはたった一つのニヒリズム。問うことも叶わない世界の終末。キィーッヒッヒッヒ! ならば聴け、滅亡のカウントダウンを!」

 

 問答を煙に撒く『外なる神』の信徒──負荷蝙蝠(ビヤーキー)は爪を研ぎ澄ませ、牙を剥き出し、地を這う僕たちに吠える。

 

 「始めよう。最も愚かなショーの幕開けを、歴史に残る(あがな)いを──人類最期の希望を砕く記念日を!」

 

 黒き翼が夜空に羽ばたく。

 

 「──来ますよ、七瀬さん!」

 

 古本が警告する。

 

 「うん!」

 

 返事をするように青と赤の螺旋の魔術破戒(タイプ·ソード)現実化(リアルブート)し、構える。

 

 「クールなバッドは間違わない! グッドなバッドは失敗しない! パーフェクトなバッドは人類一掃を掲げ、此処で『座標(ユー)』を殺す!」

 

 見るもおぞましい蝙蝠は叫んだ。

 これが最期と言わんばかりに金切り声を上げ、月を背に僕たちへ襲い掛かった。

 

 「さあ、終わりの刻だ──フーリッシュ!!!」

 

 「それはこっちの台詞ですよ、負荷蝙蝠(ビヤーキー)!」

 

 こうして、互いの生き死にを賭けた殺し合いの幕が上がった。

 

 ◇

 

 「グゥ、ルルルゥ……グゥ──ギャ」

 

 砂埃を巻き上げ、崩れるよう倒れる超大型腐乱死体(フランケンシュタイン)

 

 「ハア、ハア。……これで、どうかしら」

 

 「どうだろうな。粗方は処理したと思うが、それでもこの第三フロアから見ての話だ。他のフロアを担当してるヤツに確認してみないことには何とも言えんだろう」

 

 車椅子の少女は呟く。

 それに対し、黒い鎧の騎士は警戒を促す。

 

 「そう、よね。でも、これで屋上に人員を割く余裕が出たんじゃないかしら」

 

 「分かってる。普段なら、それを咎めるところだが今回は異例中の異例が重なっている。──貴殿の好きにしろ」

 

 「あら、貴女はご一緒して下さらないの?」

 

 騎士は突き放した態度を取る。

 

 「必要ない。負荷蝙蝠(ビヤーキー)に後れを取るほど彼は弱くない」

 

 「過信するのは危険だと思うけど」

 

 「過信、か。確かに貴殿がそう疑うのも無理からぬ話だ。──が、これに関しては揺るがぬ事実で何も心配する必要はない。そうだとも。既に観測者たちはこの世界を描写し、繭を通してわたしたちを観測しているのだから」

 

 少女が諌めようとすると、途端に騎士は流暢(りゅうちょう)に語りだす。

 

 「はい、はい。貴女のそれを聞くのは私の管轄外よ。後でナコトに聞かせて上げて頂戴。……それじゃあ、第一フロアに向かうと良いわ。さっき飛鳥が念話で手が空いてるなら応援くれって愚痴をこぼしてたから」

 

 「……ふん、良いだろう。なら貴殿はそこの転送用の魔方陣でも使え。時間短縮になるだろう」

 

 「ええ、そうさせて貰うわ。……一応大丈夫だと思うけど、気を付けて」

 

 「ああ。貴殿もな」

 

 二人の少女はそこで別れ、それぞれの戦場へ向かうのだった。

 

 ◇

 

 「『戦乙女の(ヴァルキリー·)(ティアー)』!」

 

 屋上に氷の飛礫が舞う。

 

 「キィーッヒ、──ッハ! そんな飛礫ごときバッドの敵ではない!」

 

 それを軽々避ける天空の蹂躙者。

 

 ブゥン!

 更に、お返しと言わんばかりに振るわれる爪の一閃。

 

 「ぐぅ──っ!」

 

 それを喉元の寸前で受け流すも、魔術破戒(タイプ·ソード)を掴む手が使い物にならなくなる。

 

 「脆い、脆い、脆い!」

 

 追撃をしようと爪を立てる怪物。

 

 「『拷問処女の鉄檻(カーミュラス·ケイジ)』!」

 

 しかし、それを阻むように古本が次の魔術を発動させる。

 

 「──ッチ!」

 

 負荷蝙蝠(ビヤーキー)を鉄檻が囲む。

 

 「小賢しい真似を!」

 

 そう言って翼をはためかせ、突風が巻き起こる。

 たちまち、現れた鉄檻が軋み出す。

 

 ドクン。

 高鳴る心臓。

 苦しくなる胸。

 

 「──っつぅ、あ」

 

 何かを持ってかれる感覚が激痛となって全身を犯す。

 

 「キィーッヒッヒッヒ!」

 

 一瞬でスクラップと化す鉄檻。

 真紅の瞳を光らせる負荷蝙蝠(ビヤーキー)

 

 「ぐぅ──あ、ぐっ!」

 

 イメージする。

 目の前に見えない壁があると思い込む。

 

 ブゥン!

 ゆっくりと円を描く爪の一閃。

 

 「シャッ!!!」

 

 吐き気がする。

 眩暈がする。

 頭が痛くて仕方ないけど、目の前にどうしようもない壁があると強くイメージする。

 

 ──キィン!

 

 「グギャッ!?」

 

 火花が散る。同時に醜悪な顔が歪む。

 それは負荷蝙蝠(ビヤーキー)の一閃は不可視の壁に阻まれたことを意味した。

 

 「──っ」

 

 一秒もない、その一瞬を逃すものかと僕は迷いなく魔術破戒(タイプ·ソード)へ力を込める。

 

 「『忘却の物語(ミッシング·ローグ)』!」

 

 突如、煙が巻き起こり、この場にいる全員の視界を失わせる。

 

 「ヴァッツ!?」

 

 二度の巻き直しに怪物は目を丸くする。

 三度目の正直を考えない。

 

 ──全てはこの一振に賭けるのみ。

 

 「う、らぁあああ!!!」

 

 星を穿つ魔障の一閃。

 それ即ち、相対する全てを凪払う虹の極光。

 

 「ギィイイイアアア!!!」

 

 夜の屋上に断末魔が響く。

 塵も残さぬ勢いで、その一撃は負荷蝙蝠(ビヤーキー)の身体を損傷させていく。

 

 ──だが。

 

 「グゥ、ガァ……ハア、ハア」

 

 「──っ」

 

 僕はこの一撃に全ての力を出し切った。

 それをしなければ敵を倒すことは叶わないと知っていたから、そうした。

 

 「ち、くしょう」

 

 ドサリと倒れる僕。

 

 分かってた。

 持てる力を全て込めたところで僕では負荷蝙蝠(ビヤーキー)を消滅させるには力が足りないのは分かってた。

 

 「ク、クソ。何ということだ──あの女以外にこのバッドが、クールなバッドが、グッドなバッドが、パーフェクトなバッドが深傷を負うなど!」

 

 怪物は憤怒する。

 幾つかの臓物をこぼれ落としながらも、倒れる僕を憎らしく睨んでる。 

 

 「良い……だろう。今回は見逃そう。否、……撤退してやろうじゃないか。……嗚呼、命拾いしたなぁ、無知蒙昧なユー共よ」

 

 バサリ。

 だが同時に、ヤツは虫けらと嘲笑っていた存在に自身の優位性が崩れたことを理解した。

 

 「逃げるの!?」

 

 「違う、これは戦略的撤退というのだ!」

 

 「同じだよ!!!」

 

 そう、幾ら全身を傷だらけにしようとも怪物は翼を広げる余力を残してた。

 一方、僕はもう虹の極光を放つことが出来ないほど疲れ果てていた。

 

 それはつまり、この場を逃げようとする負荷蝙蝠(ビヤーキー)を仕留める有効打は無いということ。

 

 「『戦乙女の(ヴァルキリー·)(ティアー)』!」

 

 逃がしたら駄目だ。

 此処で逃がしたら、きっと明日にはもっと大勢の負荷蝙蝠(ビヤーキー)を連れてこいつはやって来る。

 ……ああ。そうなったら最後、今の僕たちでは抵抗すら出来ないに決まってる。

 

 「──っつぅ」

 

 考えろ。

 フラフラの身体でもやれることはまだある筈だ。

 

 「それではグッバイ、また明日! キィーッヒッヒッヒ!」

 

 氷の飛礫をものともせず、空へ飛び立つ負荷蝙蝠(ビヤーキー)

 何とか立ち上がっても、それを眺めるしか出来ない僕。

 

 あともう少しだったのに。

 

 「──ギリッ」

 

 悔しさに奥歯を噛むと、突然目の前に魔方陣が浮かび上がった。

 

 「──!?」

 「……これは、まさか」

 

 驚く僕たち。

 

 「諦めるにはまだ早いわよ、お二人さん!」

 

 馴染み深い少女の声が響く。

 

 「リテイクさん!?」

 

 魔方陣から現れるリテイクさん。

 こちらの状況を理解してるのか、彼女は飛び立つ怪物へ直ぐ手を翳している。

 

 「グベラッ!?」

 

 途端に何かに阻まれ、地に落とされた負荷蝙蝠(ビヤーキー)

 

 「──っち、邪魔をするな!」

 

 腹を立てたヤツは、不可視の邪魔をしたであろう少女へ黒き暴風を放つ。

 

 「きゃっ!」

 

 そうして、車椅子ごと吹き飛ばされるリテイクさん。

 

 「──っ」

 

 ドクン。

 一分に満たない時間。

 目を反らすだけの僅かな足掻き。

 

 「──つぅ」

 

 けど、今の僕にはそれで充分。

 

 ドクン。

 耳鳴りがする。

 頭に重く痛みが走るそれは一分一秒に満たない──コンマの世界。

 

 「ヴァッツ!?」

 

 間抜けはそこで気づく。

 この場での報復が間違いであったことを。

 

 「そこだ!!!」

 

 跳躍する。

 スローモーションに描かれるその軌道に怪物は驚愕する。

 

 そう、負荷蝙蝠(ビヤーキー)は全力で僕に意識を集中するべきだった。己を殺す可能性(ジョーカー)へ目を背けるべきでなかった。

 

 「『忘却の物語(ミッシング·ローグ)』!」

 

 再び古本が発動させる魔術は負荷蝙蝠(ビヤーキー)にして見れば何の脅威になりはしなかった。

 

 しかし、この『忘却の物語(ミッシング·ローグ)』は──この意識を向けなればならない相手がいる状況においては必殺の魔術と言える。

 

 「──っ」

 

 煙の先に息を飲む神の信徒。

 

 だが、驚くことなかれ。

 今からお前が相手するのは、幾多の敵を屠った最強の業物だ。よく噛み締めろ。

 

 「──ぁあああ!!!」

 

 月明かりに青と赤の螺旋が敵へ一直線に向かう。

 

 そうして──。

 

 ドスッ!

 コンマ一秒の邂逅を経て、間抜けの心臓を幻想殺しの魔剣が貫く。

 

 「グゥ、──ガァ!!!?」

 

 瞬間。

 身体を震わせ、力尽きるよう慣性の法則のままに屋上の端から共に地へ堕ちる神の信徒。

 

 「は、離せ!」

 

 そんな中、心臓へ突き刺す魔術破戒(タイプ·ソード)を引き抜こうと負荷蝙蝠(ビヤーキー)が必死で踠き足掻く。

 

 「──っ!」

 

 けど離さない。

 いや、絶対離してたまるか。

 ああ、こうなりゃ墜落死上等、不完全急降下結構!

 此処まで来たら屋上からの決死のヒモ無しバンジーと行こうじゃないか!

 

 「ウ、ヌゥウウウ!!!」

 「あ、ぁああああ!!!」

 

 地上およそ二百メートルを切る。

 粉砕玉砕挽肉覚悟の未来へ全力疾走する最中、あわよくば生存を夢見るもそれは今も暴れる負荷蝙蝠(クソヤロウ)が許さない。

 

 空中で何度も回転する身体。

 その度に飛び散る血飛沫。

 

 体力が削られる。

 気力が削られる。

 

 一分一秒と明確な死がやって来る。

 

 「ゆ、赦さんぞ! バ、バッドは完全。バッドは究極ぅ。バッドは──強者なのだ!」

 

 構わない。

 この間抜けを仕止められるのならそれも本望だ。

 

 「それを──それを、それを、それを!!!」

 

 空中落下終了一秒前。

 お決まりの断末魔が怪物の口から放たれる。

 

 「あり得ない──あり得ない、あり得ない、あり得ない! この偉大なる『外なる神』ナイアルラ──」

 

 グチャリ!!!

 だが、そんなお決まりを間抜けが言い終える前に僕たちは地べたをその全身を叩き付けるのだった。

 

 ◇

 

 川辺で遊ぶ子供。

 お父さん、お父さん、ザリガニ捕まえたとはしゃぐ幼い■■。

 両親は笑った。

 それに釣られて、■■も笑った。

 

 ────「やるじゃないか、■■! よーし、父さんもザリガニ捕まえようかな!」

 

 そんなことを言って、お父さんは袖を捲った。

 

 「────!」

 

 頬に熱いものが伝う。

 すると、見えていたものが霞んでいき──そこで僕は夢から覚めることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おや、気が付きましたか?」

 

 気が付くと寝ている僕の顔を緑の髪の少女が覗き込んでいる。

 

 「──ふぇ?」

 

 風が吹く山中で僕たちは傷だらけ──なのに、頭はそれほど冷えていない。むしろ僅かながらの人肌の温もりがあるし、何なら地べたより柔らかい。……何故?

 

 「むむむ。どうやらまだ意識が安定されてないようですね。仕方ありません。もうしばらくこうして居ましょう」

 

 少女は口元を嬉しそうに歪め、そのまま僕の髪を弄り出す。

 

 「…………あ、いや、んま、ちょっ──アダッ!」

 「フフフ、驚きました、か、……え、ちょっ──イダッ!」

 

 漸く古本に膝枕されてるのだと気付いた僕は起き上がろうとし、そのまま覗き込んでいた彼女の額に思いっきり頭をぶつけた。

 

 「イタタ、……もう何するんですかぁ。いきなり起き上がろうとするなんて酷い人ですね。……全く、これでは地べたじゃあんまりだろうと思って膝枕した私があんまりではありませんか」

 

 「ご、ごめん──って、そんなことより何で僕生きてるの?」

 

 額を押さえながらこちらに文句を言う古本へ僕は恐る恐る聞く。

 

 「何でも何も──ああ、そうでしたね。そう言えば貴方は今のご自身の身体がどういう状態なのか知らないのでしたね。それでしたら、まあ確かに驚きますよねぇ」

 

 「──え? 何それ?」

 

 どういう状態になってるとは?

 

 「七瀬勇貴さん。初めてこの研究所で目を覚ました貴方は見たでしょう。同じ部屋のベッドで眠る藤岡友喜さんの姿を」

 

 「う、うん。というか、それについて何の説明も受けていないことに今気付いたよ。ねえ、あれってどういうことなの?」

 

 忘れてた。

 他のことが印象強くて完全に忘れてしまってた。

 

 「今考えるとあれって不思議に思いません?」

 

 「あれ? もしかして今スルーした? スルーしたの?」

 

 フフフと笑う古本。

 それに対し突っ込む僕。

 

 「藤岡友喜の肉体を七瀬勇貴さんの身体として転移する──普通なら本来の藤岡友喜としての肉体と魂は七瀬勇貴さんのそれに上書きされて消えてしまっていると考えますよね。でも、そうしてしまうとあの夢世界(ドリームランド)の名城真弓さんの望みである藤岡友喜さんが報われません」

 

 「ねえ、聞いてる? 僕の話聞いてる?」

 

 「そこで彼女は転移後の世界においても七瀬勇貴さんと藤岡友喜さんが同時に存在可能な状況を造ることにしたんです」

 

 「聞けよ、ペチャパイ」

 

 「うるさいですよ、七瀬さん。──コホン。そう、彼女は藤岡友喜という人間には二つの魂が存在するのは当たり前だと世界に誤認させる為、転移前の藤岡友喜にそうであると条件を確定させる術式を組み込ませたのです」

 

 「……いや、待って。並行世界に干渉するって、真弓さんにそんなことが出来るんならそもそも藤岡友喜の身体に僕を混ぜる必要なくない? それなら彼だけこっちの世界に転移させるのも出来たんじゃないの?」

 

 古本の説明に突っ込みをしてしまう。

 

 「いいえ、貴方と藤岡友喜さんを真世界帰閉ノ扉(パラレル·ポーター)で転移させなくてはならなかったんです。そうしなくては、あの夢世界(ドリームランド)で大罪の王の誕生が確定してしまうでしょうから」

 

 「……大罪の王? そういや、古本はアイツの正体が何なのか知ってる?」

 

 「──いえ、今のところは知りません。知りませんが、……まあ、おおよその予測は出来ます。けど、そんなことより今は貴方たち二人の魂が同時に存在出来る理由の説明が先ですよ。──まあ、雑に説明すれば、この世界の藤岡友喜の魂と貴方の身体の藤岡友喜が同一の存在だと世界に誤認させているんです」

 

 同一の存在?

 

 「いや、藤岡友喜は藤岡友喜なんだから同じに決まってるでしょ──あれ? でも、僕の身体は元を辿れば藤岡友喜のモノなんだし、ううん?」

 

 「そうです。今の貴方みたいに世界自体もエラーを起こしてしまってるんです。いや、そもそも本来同じ魂を持つ人間は一つの世界に存在出来ない。それを無理やり真世界帰閉ノ扉(パラレル·ポーター)で実現させた。故にその障害として、この世界に二人の藤岡友喜が存在するという異常事態を態と生じさせてしまっている」

 

 「う、うん?」

 

 「そんな不安定な状態の貴方たちを応急処置とはいえ、この世界の藤岡友喜と貴方の意識を入れ換えたんですよ。そりゃあ弊害の一つや二つ起きるというもの」

 

 古本は僕に起こっている状態について説明している。

 けど、それに僕の頭が着いて来れずちんぷんかんぷんでいる。

 

 「つまり、同一の存在がいる限り片方がどれだけ傷付こうとも死なないというロジックを無理矢理発生させてしまったいるんです。まあ、『七瀬勇貴』の意識を元の藤岡友喜の身体へと戻せばその特異性も失われてしまうんでしょうけど──それを要約すると、もう一人の藤岡友喜と一緒に殺さないと今の貴方は死なない状態となっているという訳です。……どうです、実にシンプルで解りやすいでしょう?」

 

 息を止めることもなく説明する古本。

 その姿に大変だなぁと思った。

 

 けど。

 

 「いや、ごめん。途中から何言ってるのか全然解らないや」

 

 それでも解んないものは解んないのだ。

 

 「────」

 

 悪びれることもなくそんなことを堂々と言い放つ僕に、少女はこめかみに手を添えるのだった。

 

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