連続投稿になりますが、よろしくお願いいたします。後、本日は作者の誕生日です。おめでとうございます、と作者の意味合いで評価も感想も下さるとスゲー嬉しいです。
独り暗闇の檻に囚われているのは、黒い髪の少女でした。
「やあ、久し振りだね、『私』。こうして今のキミと顔を会わせるのも何周ぶりだろう。少なくともボクは五十回ほど経ったと記憶してるけど、どうかな?」
したり顔で賢そうに振る舞う少女の四肢には鎖の枷がつけられており、またその顔に『私』としての
だが、目の前の存在が直ぐに掻き消されてしまうほど儚い幻想でしかないことを知っています。
だから、どの面で言っているのか小一時間くらい問い詰めてやりたかったのですが、時間が惜しいので止めておくことにしたのです。
「キミは相変わらず嘘つきだね……まあ、良いか。それについてボクがどうこう言える立場じゃないし、そもそも管轄外だ。だったら、キミたちが好き勝手やろうとも何も問題ない──と言いたいところだけど、大丈夫なのかい? こうしてボクと会話するのも
鎖に繋がれ、身動き出来ないというのに随分と余裕ですね。
「そうでもないさ。あの後、神父に百五十回ほど挽き肉にされて、今では皮肉を言うのもやっとだよ」
嘘つき。
そもそも、貴女たち『幻想』に痛覚など意味ないでしょう。
この繰り返しにおいてそんなものはその辺に浮かぶ埃のようなもの。
まして拘るなんて
「アハハ! それは何かな? 新手のジョークのつもりかい? それならボクたちの感覚はさしずめ、
慈しむような眼差しで檻を見つめる黒髪の少女。
その目は虚空を覗いてるかのように焦点が定まることはなかったのです。
「うん、だからこそ誰もが知りたがる。何故、世界が滅ぶのか。どうしてそれがもたらされるのか。滅びは回避出来ないのか。しかし、それらは誰一人知る術を持たない」
だが、虚空を見つめるその目は、
今を必死で足掻く人の輝きを何よりも理解していたからこそ、少女は語るのを止めないのです。
「何故なら、その領域に誰も足を踏み入れることが叶わないから。それこそがこの物語における絶対な
少女は夢を見ます。
いつまでも、いつまでも空想の世界へ浸ります。
そうして、只一人終わりを願うのです。
まるでそれこそがこの世界で彼女に出来る抵抗だと言うみたいに。
「さて、これにて警鐘の喇叭は鳴り終えた。舞台の幕は開けてて、
夜闇へ静かに告げられた終結宣言に少女は一人酔いしれる。
ジジジ。
貴女の方こそ現実を見た方が良いですよ。
「いいや、キミは知っているとも。だって、彼は諦めなかった。ボクが如何に現実を突きつけようと真実から目を背けなかった。なんだかんだ言って、最後まで
不敵に微笑む少女に影はありません。
幻想でしかない存在の言葉に重みなんかない筈なのに、どうして
「そうとも。何度繰り返そうが無駄さ。『生きたい』と願う意思があるんだから、何度だって彼は物語を終わらせに来るとも」
言葉は出なかったです。
いや、何も思うことはなかったと言い直すべきでしょうか。
だから、何を思考したところでそれは無意味なのです。
「思考放棄の猿に戻るか、
ジジジ。
ワタシは無理やり電源を切った。
幻想である少女はそんな光景を黙って見るしかなかった。
「ソウだね。ソウやって、イツモ
漸く、あの
そうして、再び世界は暗闇に閉ざされるのだった。
◇
赤髪の少女──久留里天音さんと別れた僕はふらふらとさ迷うように自分の居住するエリアへと戻った。
「浮かない顔してどうされました、ジェントルマン」
そうして戻ると、今度は車椅子の少女──リテイクさんが僕へ声を掛けてきた。
「どうも、しないよ」
「嘘ね。何もない人はそんな顔しないわ」
「そんな顔って、どんな顔さ」
「今にも泣き崩れてしまいそうな顔よ」
「そんなことはない! 僕は泣いてなんか……ない!」
「……確かに今は泣いてないわね。でも貴方のそれは何かの弾みで崩れてしまう砂の城のようなもの。だからまた何かに躓くと壊れてしまう」
「…………」
途端に僕は何も言えなくなってしまう。
「そうね。貴方は考え過ぎなのよ」
少女は言う。
優しく諭すように、子供をあやすみたいに。
「だから、余計なことまで考えちゃう。嫌なことを引き摺っちゃう。そりゃあ考えるなとは言わないけど、考えすぎて目の前のことさえ見れなくなったら元もないわ」
きっとリテイクさんの言うことは正しい。
過去ばかり見て今を生きれなくなったら駄目なことぐらい僕でも分かる。
けど、考えてるのはそうじゃない。
僕が僕で、オレがオレじゃないことで本当の『自分』が何なのか知りたいんだ。
「ねえ、七瀬さん」
少女は俯く僕の顔を見つめる。
「貴方が何を悩んでるのか解らないわ。けど、もし助けが欲しいと思ったのなら話ぐらい聞くわよ」
知らない。
誰も本当の僕を知らないし、理解してくれない。
見つけてよ。
見つけて欲しいんだ。
「だから、今は──」
顔がぐちゃぐちゃの少女の姿が頭に過る。
「貴方がこれだと思ったことを信じて進めば良いわ」
「──っ」
本当は解ってる。
それが何を意味するか。
目の前の少女の言葉で記憶を思い出すのか。
「これ、あげるわ」
「……何、これ?」
突然、手渡される黒い箱。
いつか見た、その罅割れたそれはずっしりと重たくて、とてもじゃないが一人で持てるモノじゃなかった。
「名前は知らない。けど、これが貴方の歩む支えになるってことは教えて貰ったわ」
僕の欠落が、この世界でない記憶の一部が抜け落ちるという形で証明する。
人間擬き。
意思のない人形。
考え付くエトセトラが僕を責め立て、尊厳を壊していく。
「……きっと、私の言葉も貴方には何の慰めにもならないし、これからも自分が悪い、自分が考え付かなかったから間違えたと悩むことでしょう」
真っ赤なダイヤが僕を見つめる。
「それでも私は言うわ。貴方は偽物じゃない。貴方は七瀬勇貴という確かな人間なんだと。そして、私たちも今を生きる人間なんだって」
ジジジ。
「あ、あれ?」
目眩がする。
地に足が着いてる筈なのに浮遊感を覚える。
「ああ、それからね」
何かが可笑しい。
というか勝手に膝が曲がるのを止められない。
「……何、これ?」
解らない。
解らない。
突然の目眩もそうだけど、眼前の車椅子の少女が誰なのか思い出せなくなっていることに頭が追い付かない。
「見えてることだけが本当じゃないの。それだけは忘れないで」
「う、ぐぅ……な、何なの、これ?」
曖昧になる。
立っているのか、眠っているのかすら解らない。
「『彼女』はいつだって貴方を見ているし、
目の前が暗くなる。
「でも頑張って。閉じ籠るだけじゃ生きられないんだってことを彼女に証明して上げなさい」
そう言って、少女は微笑んだのだろう。
意識を落とす中、クスクスという笑い声を僕は微かに耳にした。