生きるって何だろう?
楽しいって何だろう?
寂しいって何だろう?
苦しいって何だろう?
そんなことも分からない『私』だけど、この宇宙の法則は知っていた。何なら神様の起源──いや、この地球という
しかし、そんな『私』は未だに誰かの頭の中でしかその存在を許されていない。
ウルタールと呼ばれる街がある。
其処に住まう猫たちは、あらゆる叡知を頭の中に宿している。
時間逆行、世界移動、現実改竄、魂の証明。
いつだって天才と持て囃されてきた超人たちは『影絵』という叡知を求めた。
コインの表と裏。
太陽と月に、光と影で陰と陽。
もし、善悪を区別するなら『
ジジジ。
所詮、この世界の現実など胡蝶の夢に過ぎず、永遠を求める『私』──感情のない影絵には
歯車は何も感じない。
チクタク、チクタクと秒針が回るよう動き続けるしかない。
なのに。
「何故ですか? どうして、こんなに彼が気になるのですか?」
吐き出された問いに誰も答えることはなかった。
◇
「ううう」
目を覚ますと僕は見慣れない部屋にいた。
「どうやら王子様のお目覚めのようだ」
「────」
「ああ、もう! そんな苦虫を噛んだような顔をするなよ。可哀想だろ」
僕の前に二人の少女がいた。
「え、と。あ、貴女たちは誰です? いや、それより此処は何処? どうして僕はこんなところで眠ってたの?」
「おおっと! 出番を貰えたからといってそんな張り切らないでくれ、ジェントルマン。なーに、キミと違って期待に添えるほど達者じゃないんだよ、ボクたちは。申し訳ないが質問には一つ一つ丁寧に答えるが構わないかな?」
「え? あ、はい」
「……そうか、構わないか。ならば好きなよう答えるとしよう、そうしよう! ……おっと、失礼。少し興奮してしまった。何せ、ボクにはこのような経験が無くてね。先ず此処が何処かを説明するなら第三共環魔術研究所の中で、キミは隣のチャーミングな彼女によってこのエリアへと転移させられたのだよ」
赤みがかった黒い長髪の少女は隣の青みがかった黒いツインテールの少女に指を指す。
すると少女は強く僕を睨んだ。
「え? 僕を此処に転移した?」
「そうとも。この隣のチャーミング「スゥーだ」は決してキミを悪戯に巻き込んだわけではない。それはそれは不慮の事故だったし、世界崩壊の危機、予測不可能な事態なそれらを回避するため、わざとキミと彼女の会話に横槍を入れたんだ。すまなかった。だからこの件はどうか許して欲しい、王子様」
この時、僕の頭の中は終始無言を貫くかと思われた少女は圧は強いが、声は可愛らしいなと思うだけだった。
「え、と。事情はよく飲み込めないけど分かった。許す、許すよ。それから説明してくれて、ありがとう。それで、そろそろ君の名前を聞いても良いかな?」
だから思わず空返事並みに言われたことを許してしまった。
「ああ、ボクの名前を聞きたいと? この業界で誰だいと聞かれて答える人間は正直者の皮を被った愚か者と呼ばれるらしいけど、いやはやどうしたものか。いや、どうしよう? どうするべきか……ああ、閃いた。閃いてしまったぞ! そうだ、偽名だ。此処は敢えて偽名を名乗ろう。偽名だと名乗ってしまえばこの場を乗り切ることが出来るし、そうしよう!」
早口に捲し立てる少女。
何処か遠くの方でカツカツと足音もする。
「さてさて、ボクの話に退屈を覚えた且つ、鬱陶しいと思えた頃だろうし、いい加減名乗るとしようか。この愚かで厄介でどうしようもなく惨めな脇役の名を叫ぼうか!」
芝居がかった仕草にスゥーと名乗った隣の少女は何も言わない。
寧ろこっちの方が早くしろと文句ぐらい言っても良いんじゃないかと思うぐらいだ。
「飛鳥。そう、飛鳥。ボクのことは尾張飛鳥と呼びたまえ、王子様」
ゆるりとこちらへ近づく真っ黒い影。
キキキ。
「──っ」
途端に、目に見えない誰かに嗤われてるような気がした。
それでも目の前にいる黒髪の少女──尾張飛鳥は仰々しく振る舞うのを止めなかった。
「ウム、ウム。良いではないか、良いではないか! 実に、実にパーフェクトだとも! 素晴らしい、素晴らしい提案を今思い付いてしまった! これはお近づきの印で何かしなければ親交が深まらないというもので──そうだ、スゥー君! 落ちてたアレを彼に渡してくれ。そうじゃないと話が進まないと見た」
「い、いや、別にいらないです」
なんか願っても叶ったりしない提案のような気もするが、何となく尾張飛鳥のハイテンション振りに反射的に断ってしまった。
「ん? そうかね? 遠慮しなくて良いんだよ? これを手に入れるだけで誰もが救われるハッピーエンドに近付けるんだぜ?」
「何で疑問系? いや、そうじゃなくて──」
「ああ! そうか、そうか! どうやらキミはまた意思の力を欠落したんだね。それじゃあ仕方ない。意思が欠落したんじゃ選ぶなんて出来ないだろうしね」
「──え?」
「おや? その顔じゃ、キミ自身が何を欠落したのか自覚ないって感じだね」
頭が追い付かない。
この少女は何を言ってるんだ?
「そうとも、思考放棄に走るのも無理はない。何せ考えていたものと違うのだから当然だ。そうするとこれから話すことは余計なお節介になるのかな? ……まあ、それも運命だ。受け入れたまえ。フム、驚きが隠せてないキミはどうしてそう思ったんだろうね。不思議だ」
「どうしてそう思ったかなんて、そりゃあ──」
頭の中に過る人達の顔が虫食いのようになっていたからだ。
ジジジ。
「──っつぅ」
頭が痛くなる。
「逃げないで、痛がらないで。話そうとすれば、ボクたちはキミをもっと理解出来る」
「……もっと理解? 君たちは一体何を知ってるの?」
「何を知っているかなど決まってる。この世界の現状だ」
スゥーと名乗った少女が口を開く。
「外なる神に滅ぼされるってこと? それならもう聞いてるよ」
「ふん、聞いてる、か。相変わらずの思考停止でおめでたい。確かにそれは事実なんだろうけど、お前は肝心なことを知らないだろ?」
「肝心なこと?」
「ああ、そうだ。だってお前は外なる神がどうやってこの世界を滅ぼすのか知らないだろう?」
……あ。
「外なる神の端末である『ナイ神父』は確かにこの世界を滅ぼそうとしている。だが、その方法までお前は誰にも聞かされてないし、知らされてない。ほら、そんなんで何を知ったような口を聞くんだって話だろ?」
スゥーと名乗った少女は僕にそう言うと深く溜め息をついた。
「全く、こんなのに世界の命運とやらを託さなきゃならないんだから世も末だな」
「──っ」
「まあまあ! スゥーちゃんも抑えて、抑えて、ね! ほら、王子様にも立場とか考えがあるんだから、そこんところ突っ込むのはちょーっと我慢しようぜ」
「そうか? これでも抑えてる方だぞ。寧ろ、そうやって遠巻きにしてるからそいつも今の今まで気付くことすら儘ならなかったんだ。だったら──」
「だとしても、だよ。此処ではボクたちはただのバグでしかないんだ。迂闊な真似をして
……バグ?
「おっと、すまない。こんな何でも知ってるように見えるボクたちも説明出来ることとそうじゃないことが在るんだ。もし、キミがどんなことをしてでも真実を知りたいと思ったらその時は管理者に聞くと良い。そしたら、彼女も教えてくれるだろう……まあ、最も今はそれどころじゃないだろうけど、ね」
「……うん? それって、どういう──」
ズシン!
近くで何か重たいモノが地に落ちる衝撃がした。
キキキ。
キキキ!
「どうやらお迎えが来たようだね。全く、忙しない人たちだ。何か良いことでも有ったんだろうか?」
続けてバキバキと何かが砕ける音がする。
「ああ、そうだ。肝心なことを言うのを忘れてたよ」
少女が何かを言おうとすると、それを阻止したいと言わんばかりに視界の隅より影が這い寄ってくる。
「愚者七号、また会えてボクは嬉しいよ。きっとこれからもキミは見たくないモノを見ることになるだろうけど、大丈夫。それがどんなに辛く、悲しく、苦しくてもキミなら乗り越えられるさ」
グチャグチャと二人の少女が影に黒く蝕まれていく。
僕はそれを遠巻きに眺めるしか出来ない。
「だから、頑張って。本当とやらに負けないで、真実とやらに逃げないで、フィリアが焦がれた夢を──ボクたちが叶えたかった願いを切り捨ててでも『彼女』に終わりを見せてやってくれ」
キキキ!
キキキ!
目の前がまた真っ暗になる。
そうして、今見てるモノが夢だったことに気付く。
僕は何処に移動もしていない。
それは彼女たちが吐いた精一杯の嘘だった。
「──っあ、ま、待って!」
だから僕はこの時、目が覚めたら見えなかった本当を探そうと思った。
次話の投稿は2月14日を予定してます。そんな作品が面白い、続きが気になる、応援してると少しでも思ってくださったら画面下の☆からポイント入れて頂けると嬉しいです!
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