バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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 ハッピーバレンタイン! これでストックは尽きた。後悔はない。


027 見えない本当

 

 「気が付いた?」

 

 「──っ」

 

 ジジジ。

 

 覗き込む顔は見慣れた少女だというのに、いつかに切り捨てた■■■ク先輩の面影と重なった。

 

 「それで貴方さえ良ければ話を聞くけど、どうする?」

 

 紫の髪が風に靡くのを見てると、何故か目の前の少女と何処かでこんな風に話をした気がしてくる。

 

 「……いや、今は止めとくよ。それより古本が何処に居るか知らない? 聞きたいことが出来たんだ」

 

 「──へぇ、そう」

 

 すると、目の前の誰かはその言葉をまるで待っていたかのように妖艶に微笑んだ。

 

 ゾクリ。

 

 ……もしかしたら、今見てるこれも何かの夢なのかもしれない。ああ、きっとこれこそが目の前の少女の言う目に見えない『本当』のことなのかもしれない。

 

 「でも、残念。今、ナコトなら別件で席を外してるわ。恐らく当分はナコトも忙しいでしょう。何せ『彼女』に捕捉されたんですもの。そう簡単に此処へ戻って来ることはないわ。……それに、そろそろ私も仕掛ける頃合いだと思ってたし丁度良いわ」

 

 車椅子の誰かは喋り出す。

 

 「それにしても驚きました。貴方は現状に流される方と思っていたのですが──そうですね、はぐらかすのはもう止しましょうか。今の反応で貴方が夢の中で誰かに会えたと確信しましたし、そう考えたら此処で貴方を繋ぎ止めるのは無理なことです」

 

 クスリ、クスリと目を虚ろに嗤う西洋人形(ビスク・ドール)

 その姿はまるで僕以外の誰かと話してるみたいに感じ、ゾッとする。

 

 「ねえ、君は何を──」

 

 「本当に残念だって思ってるのよ。此処で貴方を始末しないといけないなんて」

 

 瞬間、不可視の力によって僕の身体が壁際まで吹き飛ばされる。

 

 ダンッ!

 

 「──っつぅ」

 

 「ねえ、七瀬勇貴さん。こんなにもクソったれな世界だけど、それでも私にとって此処は大切な世界なの。十八に満たない人生を作り物だと嗤われて、納得出来るわけないの」

 

 グラグラ揺れる三半規管。

 打ち身が良かったのか、それとも脅しのつもりだったのかその場で体勢を立て直せた。

 

 「足を動かせず、けれど念じることで私はあらゆる障害を乗り越えて来たわ。確かにその異能には助けられたけど、それでも辛いと思うこともあった。……ええ。(はた)からみれば汗と涙でいっぱいのよくある笑い話(じんせい)なんでしょうけど、これでも私にとって掛け替えのないモノなの」

 

 僕を見る真っ赤なダイヤ。

 それだけで、彼女が一瞬の目眩の内に記憶にない誰かと再会したことを看破したのだと気付く。

 

 だからといって、吹き飛ばされる理由には考えられないけど。

 

 「……正直な話。君が何をしたいのか全然分からないけど、さ」

 

 理不尽には馴れている。

 痛いのにも馴れている。

 悲しさと空しさでいっぱいだけど、今はどうでも良い。

 

 でも。

 

 「それでも、こんなところでむざむざ殺されたくないから、足掻かせて貰うよ!」

 

 魔術破戒(タイプ・ソード)現実化(リアルブート)する。

 

 「クス。クスクスクス──アッハッハッハ! なーにそれ! 笑っちゃう、笑っちゃう。とーっても愉快で嗤っちゃう!」

 

 狂ったように声を弾ませるリテイクさん。

 その姿に今までの少女らしさはない。

 

 「良いわ、遊んであげる!」

 

 ジジジ。

 

 ────「見えてることだけが本当じゃないの。それだけは忘れないで」

 

 キィン!

 何かが欠ける音がして、不可視の力が僕を再び吹き飛ばす。

 

 「アハハハハ!!!」

 

 するとその場に留まってられないと宙を浮く僕はこれが現実なのか曖昧になっていく。

 

 「──あぐぅ!」

 

 そうして悲鳴染みた笑い声が響く中、身体が地べたへ叩きつけられる。

 

 「う、が」

 

 咄嗟に前を向くと、車椅子の少女が僕の前に立って手を伸ばしてた。

 

 ジジジ。

 

 ────「それをどうして何も持たない私が蔑ろに出来ると言うの?」

 

 声が聞こえる。

 

 「──っあ」

 

 小さなモノ。

 それでいて微かなこと。

 けれど、それは走馬灯のようなゆらゆらと揺らめくだけの蜃気楼。

 

 ────「良いわ。良いに決まってる。だって、■■も■■も■■■■も自分のやりたいことをやってるでしょう? それなのに貴方だけ駄目だなんて可笑しいじゃない。叶えられない願いだとかそんな後付けの理由に貴方の選択を否定する余地はないし、誰も他人の選択を咎める権利なんて持ち合わせちゃいないんだから」

 

 「……あ、違う」

 

 遠い誰かの声が頭に聞こえる。

 それは違うよって目の前の痛みを嘘だって教えてくれる。

 

 目に見えてるだけが本当じゃない。

 それって、今のこれなんじゃないか?

 

 ジジジ。

 

 夢は幻だが、痛みは本物。

 

 「どうしたの? もっともっと、楽しもうよ!」

 

 「──っ」

 

 ボタボタと地面に落ちる何かは生暖かく、ベタベタとしたそれは確かに傷口から流れてる/何処を傷ついた?

 

 「これも──う、そ、なんだ。……ううん、それより質の悪い粗悪品に近いのかな」

 

 「ねえ、こっち見てよ! こっち見て、もっと遊んでよ!」

 

 軋むよう痛む頭に、未だ金切り声を訴える幻聴。

 いつかの再現と言いたげに現実を侵食する何かは僕を掴んで離さない。

 

 「でないと私──」

 

 紫の髪の誰かが地団駄を踏む。

 砂埃が舞う筈なのに、地べたへ叩きつけられた哀れな虫けらは満身創痍の身体であるというのに──。

 

 ドクン。

 偽物の心臓が鼓動する。

 現実を現実じゃないと御託を並べ始める。

 

 ──ミシリ。

 

 何かがひび割れた。

 いびつで、奇っ怪で、それなのに何処か幻想的な美しい夢が悲鳴を上げているのだと理解する。

 

 そして。

 

 「いい加減にしろよ、古本。こんなことされなくても僕は逃げない」

 

 思ったことを口に出すと──

 

 「フフフ」

 

 リテイクさんだったモノが崩れ、パラパラと何かの頁のようなモノが視界を埋め尽くす。

 

 「まあ、恐ろしい。少し試しただけでしょうに」

 

 すると、先ほど居たであろう古本の部屋に僕は立っていた。

 

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