バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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002 跳躍

 

 ノイズが走る。

 ■■の■に向かう五人の姿がモニターには映っていた。

 

 「オートマン、無事?」

 

 若い青年が意識を暗闇に呑まれないよう、仲間の安否を確認していた。

 

 「無事だ。テメェらの方もその様子だと大丈夫そうだな」

 

 肌が継ぎ接ぎだらけの男は、そう答えると周囲を見渡す。

 

 「しっかし、よぉ。名城のお嬢ちゃんも災難だわな。魔導の残党に目を付けられるのはこれで七度目だぜ? いい加減、連中の諦めの悪さに怒りを通り越して涙が出ちまいそうだ」

 

 継ぎ接ぎの男、──オートマンの悪態も他の四人は馴れたものなのか、そうだなと頷いた。

 

 「連中の諦めの悪さはコックローチ並みのしぶとさだ」

 

 オートマンに呼び掛けた青年がそんな皮肉を言う。

 そうして雑談を交えながら、五人は階段を下っていくのだった。

 

 カチカチカチ。

 聞こえる筈のない秒針が回る音が響く。

 最後を告げる鐘の音が聞こえる前に事を終わらせなければ、きっと彼らの望みは果たされない。

 

 「……深くなってる」

 

 不意に、燈色(ひいろ)の髪の少女が呟く。

 

 「あ? ──そういや、テメェも魔導魔術師の端くれだったなぁ。そっち方面で何か感じるとこでもあんのか?」

 

 それを見て罰が悪そうにオートマンは頬を掻いた。

 

 「……別に何も感じないわよ」

 

 そんなオートマンの言葉に少女は取り繕う。

 少女が何かを隠してるのか、顔つきが陰鬱なものが見えた。

 

 それを少女の後ろにいた■■瑞希(みずき)は無言で見つめる。

 

 「あーっとよぉ。ウェ■リウス。お前の過去がどうだとかオレ様にしてみればどぉおでも良いことだし、気にも留めちゃいねぇえ。昔のことをほじくり返したところで、浮かばれねぇえのはこの中の誰もが同じだぁ。……けどよぉ、それを持ち越されちまったら幾らオレ様と言えども擁護しきれねぇえ」

 

 そんな少女に向かって、オートマンは言葉を投げ掛ける。

 

 「わかって、るわ」

 

 オートマンの言葉に燈色の髪を靡かせ、少女は先を目指す。

 

 「先を急ぎましょう、アズマ」

 

 黒髪の少女が先を促す。

 

 「ああ、そうだな」

 

 画面の住民は気付かない。

 ある少女の顔が真っ黒になっていることに、誰も気付かなかった。

 

 ◇

 

 「応答せよ。こちら、司令部。応答せよ、オートマン!」

 

 中心に備えられたモニターの映像が二転三転と変わる。

 すると、強かな青年の声が部屋中に響き渡った。

 

 「ふむ。順調かい?」

 

 それらを眺めほくそ笑む何者かに、一人の少女が声を掛けた。

 

 「ああ、今のところは順調そのものだ。あれは、お前に対し何の疑問も持ち合わせていない。これ以上にないほど、愚者を演じている」

 

 眉間に皺を寄せる男が白衣をはためかせ、少女の方へ振り向く。

 

 「そう。それは良かったというものさ。アクセス権を奪われた時は流石のボクも焦ったが、その様子なら心配要らないね」

 

 向き直った男を、少女は焦点の合わない目で見つめる。

 黒い髪を指先で弄り安堵する少女に、男は得体の知れない不気味さを感じていた。

 

 「ふん。貴様に心配されるような事は何もない。……それより、貴様はしばらく此処には来るな。思考誘導しているからと言ってもアレに感づかれると厄介だ」

 

 黒髪の少女と相反する白衣の男には、物事を慎重に行おうとする気概が伺えた。

 

 「へぇ。あれに絶対の自信があるのなら、そんなことを考える必要はないのではないかね?」

 

 華奢な少女は口元を歪ませる。

 

 「──ッハ! 外なる神の力は絶対だ。だが、何事にも例外はあろう。あのお方でさえそれに坑うことは出来なかった。ならば事を慎重に行うのは当然のことだ」

 

 高慢な振る舞いで少女の問いに返事をし、再び男はモニターに向き直る。

 盤上の駒を空想し舞台を動かすその姿は、さながら支配者のようだった。

 

 「そうかい、そうかい。ではボクは戻るとしよう。せいぜい、キミの計画が破綻することを願ってるよ」

 

 制服(ブレザー)のスカートを翻し、少女はコントロールルームから出ていく。

 その姿を男は見送りながら、微かな声で呟く。

 

 「そんなことが起こりうるとすれば、その時は貴様を消去してやるさ」

 

 ◇

 

 「おはよう、ユーキ! ……って何時になく浮かない顔してるね。何か悩み事でもあるのかい?」

 

 魔導書と今後の方針を話しながら部屋を出ると、累がやって来るなりそんなことを聞いてきた。

 

 「おー、おはよう、(るい)。別にそんな大したことじゃないよ。只、昨日はバタバタしただろう? それに関して魔導書と話していたところだよ」

 

 累の質問に慌ててそう言うと、

 

 「んー? それは大変だねー」

 

 適当な反応が返ってくるのだった。

 

 「そ、そうなんだよー」

 

 そんな累に、ハハハと相づちを打つ。

 

 「それにしても、ユーキが魔導書持ってるだなんて珍しいね。そういうの興味ないと思ってたのに」

 

 抱えてる魔導書を不思議そうに累は指差した。

 まあ、普段の僕なら絶対に持たないから疑問に思うのは無理もない。

 

 「あー、そうだね。これには訳があるんだけど、……なーに、ちょっとしたサプライズだよ。ほら、二時間目の講師の爺ちゃん先生の話がさ、ちょっと気になってというか。あー、まあ。そんなところ」

 

 あたふたと誤魔化す僕を怪しげに見つめる累だったが……。

 

 「まあ、詮索はしないであげるよ。何て言ったって僕は騎士だからね!」

 

 そんなことを言って何処か行ってしまった。

 なんか騙すようで心苦しかったが、友達なんだしそういう時もあると思って流すことにした。

 

 「……別に騙してる訳ではないだろう」

 

 罪悪感を抱えてる僕を魔導書が労いの言葉を口にした。

 

 ◇

 

 「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 会いたいよぉ、お兄ちゃん!」

 

 モニターを前に少女──、瑞希は身悶えるように権能(チート)を酷使する。

 

 「絶対に諦めない……! 絶対にお兄ちゃんを取り戻してみせるんだから!」

 

 死者は蘇らない。

 それは絶対のルールであり、たとえ神様であろうとも曲げることが出来ない設定。

 

 だが少女はありとあらゆる手を使ってでも、その禁忌を破ろうとしていた。

 

 ピピピ。

 そこで、電子音が小さく鳴る。

 

 「おい、瑞希。なんか変な警告音が鳴ってるぞ」

 

 それに気付いた■■は、忙しくルール改変を行う瑞希に声を掛ける。

 

 「うぇえ? な、なんなの?」

 

 ■■の言葉に訳が分からないという顔でモニターを確認する瑞希。

 だが、どうやら彼女にとっても想定外のことらしく一瞬で顔つきが険しいものを見る目になる。

 

 「何なのって、そいつはアタシの方が聞きたい。何せアタシはコントロールルームの権限なんてものは持ち合わせちゃいないんだからよ」

 

 ■■は悪態をつく。

 瑞希は、そんな■■を見向きもせずモニターに向かってコードを入力していく。

 

 「可笑しい。こんなことはあり得ない! だって、幻想作成なんてコード権限、誰も持っちゃいない筈よ? そんなこと出来る奴が居るとしたら、そんなの──」

 

 そこで二人は気づく。

 幾ら思考の制限が設けられている世界といっても有る程度の考察は出来る故に──。

 

 「外なる神が復活したってところか」

 

 少女たちの身体が沼に堕ちていく。

 底なしの沼に向かって、意識が不安定となる。

 

 ■■のアストラルコードが赦された世界へと戻っていく。

 

 ……。

 …………。

 

 意味もなく場面が変わる。

 ランダムに変わる。

 変わる。

 変わる。

 変わる。

 

 そうして、誰も彼も暗闇に堕ちていく。

 

 「キャハハハ! キャハハハ! サイッコーじゃねぇえか! 本っ当、嗤えますなぁあ!」

 

 喪服みたいな黒いスーツの女が嗤う。

 

 真っ赤な髪の女は美しく、特にシャツからはみ出す豊満な胸元が男を誑かす。

 それを助長させる肉付きの足腰は、ナイスバディなスタイルと呼んでも過言ではない。

 

 「まあ、それもこれもぜーんぶ、テメェが仕組んだこと。つまり自業自得というヤツなんだけどよー。それでもコイツぁ、よく出来てんなぁって関心しちまうぜぇ」

 

 唾が飛びそうなほど女は、早口を捲し立てる。

 

 「あー、笑った。心の底から笑ったのは久々だぜぇ。……良いぜ! そうと決まればアタクシちゃんもお仕事してやろぉうじゃねぇえか!」

 

 すると、ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべた。

 ……きっと女の中では、この現状が面白いものとしか映ってないのであろう。

 

 人の絶望を嘲るのが好きな神様。

 それが、この悪女の正体だった。

 

 「おいおい、そいつをテメェ様が言いますかってーの! そんなのテメェ様だって同じだろぉう?」

 

 場面が切り替わる。

 

 固有魔術:心理情景。

 展開術識の解析完了を確認。

 アストラル粒子、変換完了を確認。

 アストラルコード、変質完了を受諾。

 記憶の抹消をエラーコードと断定、情報の改竄をバグとして固定完了。

 次なる■へ跳躍します。

 

 物語は続く。

 空白(ノイズ)となった名を求め、私は今日も手を差し伸べる。

 

 今はまだ届かなくとも、この手を彼が握ってくれることを信じて。

 

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