バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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003 お前に殺されて良かったって思うよ

 

 雨が降る。

 詩的な言い回しじゃない、文字通りの雨が降ってる。

 偽りの世界には、雨という概念は別になくて良い。

 だというのに、雨が降っている。

 その雨に何の意味があるかはアタシには解らない。

 理解したいとも思わないけど、それでも何らかの意味があるのだろうと思った。

 

 ピシャ!

 

 何かを弾く。

 雨音にしては何処か変な音。

 

 「嫌だよ! 死ぬんじゃ、ねぇよ」

 

 男勝りの口調は悪い神様が掛けた呪い。

 

 雨が降る中でもアタシはそれをすることを止めなかった。

 止めようとも思わないけど。

 

 「ハハハ。お前でも、そんな顔をするんだな、  」

 

 アタシの名前がエラーとして認識される。

 空白となって抹消されることで、この回想が無意味なものでないと悟る。

 

 「するよ! 兄さんが死んだら、アタシ、もっとスゲーするんだからな!」

 

 神様、神様、どうか叶うのならば兄を死なせないで下さい。

 そう願わずにはいられなかったアタシをお許しください。

 どうか。

 どうか!

 

 それでも、神様は悪い神様なのでその願いは叶えられませんでした。

 知ってます。

 アタシは子供でないのだから知っているんです。

 

 「そりゃあ、嫌だなぁ」

 

 困った顔。

 兄のそんな顔は見飽きてましたが、それでもアタシはまだ見ていたいのです。

 

 「なら、死なないでよ!」

 

 強く揺すります。

 強く抱きしめます。

 血で汚れたって知るものですかってヤツだ。

 

 「いやぁ、これは駄目だ。これは、もう助からない」

 

 悟った顔をする兄はいつもの無表情に戻ります。

 ぶっきらぼうな、そんな兄によく反発していたのは思い出です。

 

 「――――っそんなの!」

 

 悔しくて、哀しくて。

 アタシは言葉に詰まってしまって。

 

 「なあ、  。これで良かったんだ」

 

 そんなアタシを窘めるように兄はこんな最期の言葉を遺すのです。

 

 「生きていたって居場所がないんだ。だからオレはお前に殺されて良かったって思うよ」

 

 最期の力を振り絞ってか、アタシの頬に兄の手が触れます。

 それは、とても優しい兄でした。

 同時に意地の悪い兄でした。

 だって、そんなことをされたら、アタシはそれで良かったんだって思ってしまうのですから。

 

 「ぅうあ」

 

 安らかの顔をして兄は遠い世界へ旅立ちました。

 とてもとても満足げに逝ってしまっては、もう言葉が出なくなりました。

 

 「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 涙が。嗚咽が。感情が。

 ありとあらゆる想いが抑えられなくなったのです。

 

 これは、夢。

 出来の悪い悪夢。

 遠い昔の記憶。

 

 嗚呼、本当に叶うはずのない望みを手に入れた瞬間でした。

 

 そこでアタシの意識は目が覚めた。

 チクタク、チクタク時計が回る音。

 小鳥の囀りは朝の陽気さを演出していて気持ちが悪かった。

 

 「――――ッハ。嫌なもん、見せんじゃねーよ」

 

 先ほどまで居たコントロールルームではなく、自室のベッドから身を起こす。

 どうやら、アタシは今まで寝ていたということにしたいらしい。

 

 「知るか。アタシはアタシがやりたいことをやるだけだ」

 

 たとえ、この記憶がそう設定されただけの記憶であろうとアタシは願いを叶えるだけ。

 失われたモノを取り戻すだけなのだから。

 

 「今は、午前六時か」

 

 さて、今はどうなってることやら。

 

 部屋に備え付けられた鏡に向かう。

 そこに映るのは、いつも通りの気だるげな顔をしたいつものアタシが映るだけだった。

 

 ◇

 

 朝食を食べようと思い食堂へと急ぐ。

 扉越しでも我先に食事にありつこうと絶え間ない喧噪が聞こえた。

 それに対し、胸がムカムカとしてくるが、自分もそんな一員になるのだと意を決してドアを開けた。

 

 「さーて、本日のメニューは何かなー?」

 

 アハハと笑いながら食堂を一目さんに駆けていく親友。

 どうやら親友と言えども食事上には慈悲がないらしい。

 いつものことながら、清々しいまでの切り替えの早さだ。

 

 「この様子じゃ、席が取れるか怪しそうだ」

 

 ガヤガヤと騒がしい食堂。

 昨日までの空気が嘘のようで、狐に化かされたような感覚だった。

 

 「ほーう。活気が良いね。とてもじゃないが、静かな食事には出来なさそうだ」

 

 ボクっ子気取る魔導書がなんか筋違いなことを言い出してる気がするが敢えて放っておこう。

 

 「いや、その思考もこっちには漏れているのだけどね」

 

 そうだった。

 こいつ、エスパーだったよな。

 

 「正確にはエスパーでもないのだけれど。

  ――――まあ、キミに説明するのも億劫だしそういうことにしておくことにしよう。

  それより、キミも早く食事を注文しなくても良いのかい?

  早くしないと、一限に間に合わなくなると思うけど」

 

 そうだった。

 こんな阿保なこと考えてる場合じゃなかった。

 

 「そんなところで突っ立って何してんだよ、七瀬?」

 

 おはようと付け足す少し男勝りな少女の声。

 

 「おっと、天音、おはよう。なーに、これからこの戦場に躍り出るのだから身構えておこうと思って、ちょっと気合入れてたとこ」

 

 やる気パワー注入ってヤツだよ。

 

 「はあ? ……阿保やってないでつっかえてんだ、早く行けよ」

 

 ん?

 

 思わず振り返ると、そこには苦笑した数名の生徒が列を作ってた。

 

 「ありゃま? 気づかなかったよ、ごめん」

 

 礼を言って券売機に向かう。

 

 しっかし、気配がしなかった。

 まさかじゃないけど、みんなステルス機能でも付いてんじゃないのと思わずにはいられなかったのは此処だけの話。

 

 さて、今日はパンの気分なんだ。

 ステーキなんて朝っぱらから食べようとは思わないけど、偶には衣がサクッと揚げられたジューシーなカツサンドを選ぼう。

 

 スタスタとその場を後にした。

 

 

 「……強ち、間違いじゃないんだけどな」

 

 ボソリと天音が何かを呟いたような気がした。

 

 ◇

 

 いざ、カツサンド!

 意を決して千円札を入れて食券を頼もうしたら、売り切れだった。

 

 「な、何なんだよぉ。これが、人間のやることかよ! あんまりだぁあ!」

 

 軽く絶望。ファッキュー、飢えた亡者共め!

 十分の列を並び、空腹との闘いの為に札を握りしめていた僕になんたる仕打ちだと、ぐぬぬと口を噛む。

 

 悔しくなんてないんだからね!

 

 負けた気分で隣のエビカツサンドを注文する。

 

 「まあ、そんなところだろうと思ったよ。しっかし、愚者七号は付いてないね」

 

 愉快そうに、プギャーと指さしてそうなこの古本が陽気に喋りだした。

 どうやら、この魔導書の声は周りの人たちには聞こえないらしい。

 

 「うるさいやい。良いんだよ、エビカツが買えたんだから」

 

 謎理論。

 超絶ヒモ理論とでもいう謎の言い訳で魔導書を小突く。

 

 「や、止めたまえ。八つ当たりは、よくないというものだ」

 

 頼んだエビカツサンドは美味しく頂きましたとさ。

 めでたしめでたし。

 

 「じゃないよ!」

 

 一人突っ込みする僕を誰も咎める者は居なかったとさ。

 

 

 

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