バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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 ジジジジジ! ジジジジジ!

 

 モザイク、切り替え。

 砂嵐、雑音、ノイズ変更。

 電波配信、希望観測。

 選択事象、静かなるディストピア。

 

 ガガガ! ガガガ!

 

 繰り返すこと、数十回。

 巻き戻すこと、幾度。

 

 忘却せよ、忘却せよ。

 

 雪が降る。雨が降る。曇りのち晴れ、時々絶望。

 

 ザーザー、土砂降り。

 ノイズが混じって意味不明。

 

 「日常を再開しましょう。おままごとはきっと楽しいでしょう」

 

 繰り返せ、繰り返せ。

 無限の螺旋を進ませて、彼と私の物語を読みふける。

 

 ────「ふざけるんじゃない! 僕たちは生きている。生きてるんだ! 何で、アンタらの都合で死ななきゃいけない!」

 

 ずっと大切な人。私のヒーロー。

 記憶ない貴方。

 名前が違う誰か。

 

 どんなに焦がれても、遠ざかってしまう関係。

 

 もう嫌だ、もう嫌だ。

 永遠に交わることがないって知っている。

 

 終わりを望め、その死を認めれば誰も救われる。

 

 終演を見たくて仕方のない神様はみんなを騙すので信用がありません。

 

 ザーザー、雨が止まりません。

 夢が終わらない。

 私は死なない。

 それが一番のハッピーエンドだと誰かは笑いました。

 

 「真弓さん!」

 

 誰かに抱きしめられる。

 名前を呼ばれながら、抱きしめられるのは何時ぶりのことだったか覚えてない。

 

 意識がブレる。

 視界は相変わらず、モザイク染みて正直、起き上がるのが大変だ。

 

 「真弓さん、真弓さん、真弓さん! 良かった。本当に良かったぁ!」

 

 でも、彼が喜ぶ顔が見たくて、目を覚ますことにした。

 起きていても嫌なことだらけかもしれない。

 けれど、私を救ったヒーローの安堵した顔を見るのはとてもいい薬だ。

 

 「う、うぅん」

 

 吐息が漏れる。

 私の身体に熱が灯るのを感じながら、彼の姿を見つめる。

 

 銀のブロンドが月明かりを帯びて、幻想的に見える髪。

 澄んだ青の瞳は、海に近いモノで見つめられていると心が癒される。

 

 「おかえり、真弓さん」

 

 ギュッと抱きしめられる。

 心地が良い。

 再び呼ばれることがないと思っていた私の名前。

 その名前で呼ばれると嬉しいような、でもちょっとだけ哀しいような気持ちになった。

 

 でも、やっぱり私を思い出してくれたことが嬉しくて。

 

 「はい、ただいまです。勇貴さん」

 

 本当の名前は空白となってしまうので借り物の名前で我慢します。

 

 これでも我慢強いのですよ、私。

 

 ドクン。ドクン。

 

 心臓が鼓動を上げる。

 

 ドクン。ドクン。

 

 鼓動が響く中、それの姿を見つけた。

 

 ザー、ザー。

 

 誰もそれに気づかない。

 にっこりと嗤う女の姿を誰も見つけられない。

 

 「良いザマですわぁ、良いザマでしょう」

 

 殺し合い、奪い合い、みんな楽しく死になさい。

 そんなことばかりが大好きな神様。

 

 コントロールルームに居もしない幻影がひっそりと嗤っていたのは秘密だ。

 

 ◇

 

 エビカツサンドを食べ終わり、食堂を後にする。

 いつも通りの生活。

 いつも通りに何も知らない平和。

 

 神父との激動の跡形もなく、嘘のように何もなかった。

 

 「昨日の出来事が嘘のようだ」

 

 確かに殺し合ったのに。

 僕らが残したものが存在していたという事実すらもなくなっている。

 

 「そんなものだよ、愚者七号。外なる神はこの世界の認識すらも変えてしまう程の力を持っているんだ。だから、その力が何者かに持ち去られたという現状がどういうものなのかがこれで分かっただろう?」

 

 食事をしていても誰も瑞希ちゃんの話題も出さない。

 聞いてもそんな女子のことなど知らないとさえ言う始末。

 まるで、瑞希ちゃんという存在自体が消滅していたかのようだった。

 

 「さて、となるとこれからどうするかを考えると────」

 

 魔導書が続けざまに何かを喋ろうとすると、そこで真弓さんが声を掛けてきた。

 

 「おはようございます、勇貴さん。今日はいつになく絶好の記憶探し日和ですね!」

 

 「うん、おはよう。そうだね、それも重要だけど、実は真弓さん、聞いてくれ。

  どうやら、外なる神の力が何者かに持ち去られたらしいんだ」

 

 キラキラと眩しい笑みを浮かべる彼女。

 何故だか、彼女を見ると焦っていた自分の心が落ち着いてくる。

 

 「そうなのですか?」

 

 「そうだとも、真弓。キミがこれから幾ら探そうともそれがあの場から持ち出されているのは数時間前にボクが確かめた。だから、確実さ」

 

 「──そうですか。貴方が仰るのなら、それはそうなのでしょうね」

 

 魔導書が肯定する。

 

「何だい、真弓? 何か引っかかる言い方だね?」

 

 だが、真弓さんは何処か訝しげだ。

 

 「ええ。だって、そうでしょう。たった一日。たった一日であの厳重なロックを突破するなんて果たして可能なんでしょうか? 魔術防壁だけなら兎も角、外なる神の力を利用してでの認識操作に干渉するだなんてそれこそ容易な話ではない筈です。

  ……考えたくない話ですが、あの場に居たであろう人物の誰かが外なる神の力に何らかの細工をしたと考えても仕方ないでしょう?」

 

 疑心暗鬼になる空気。

 

 「フム。その通りだとも。そして、そんなことが出来るのは、ボクかキミの二択だね」

 

 亀裂が走る。

 仲が良かったとは言わないが、それでも互いが互いを疑う状況になっている。

 

 「そこまで言えるのなら、この質問に答えて下さいよ」

 

 ドクンと心臓が跳ねる。

 蛇に睨まれた蛙の気分を味わった。

 だって、本当にそう思えるぐらい彼女は鋭い目つきで僕を睨んでいたのだから。

 

 「貴方は誰?」

 

 僕の方を見てそう聞いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドボン!

 

 水底に突き落とされる音。

 服が水を吸って重たくなって身体の自由が徐々に利かなくなっていく。

 

 モゴモゴと息が泡となって吐き出される。

 

 どんなに足掻いても、暗い底に引きずり込まれる感覚は恐怖という感情を呼び覚ませる。

 

 手を伸ばしても救いは来ない。

 

 数秒にして永遠の瀬戸際だが、それも後数秒でカウントがゼロになる。

 

 ボコボコと泡が小さくなっていっては、落とされた人間の溺死が確定したのだった。

 

 人が死ぬ瞬間とは呆気ないモノだ。

 一度しかない死の立ち会いに慎重になれと言いたい。

 

 「ハァイ、カット」

 

 映画監督はそこでリテイクを要求する。

 

 つまり、役者が選択を誤ったということだ。

 映像にするには何かがダメだとダメだしをしたというのが正しいのかもしれない。

 

 あー、何だ。それは、つまり、こういうことだ。

 

 ピー、ガガガ。ピー、ガガガ!

 

 「駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ! 全然、面白くない! つまらない! 駄目だ、駄目だ! こんなのは全然、面白くないよ! やり直しを要求するよ!」

 

 ポップコーンが散乱するよ、客人がブーブー文句を言い出す始末。

 金を返せとヤジを飛ばす始末だ。

 

 つまらない、つまらない。つまらないなら、死んでおけ。

 地の文にまで罵倒されるとは、何て始末だ。

 

 「さて、何処から戻すべきか考えなければいけないなぁ」

 

 繰り返す。何度だって繰り返す。

 つまらない世界を繰り返す。

 

 エタろうが、それは続けられるのならエターナル。

 つまり、永遠だ。

 なら、それは終わりのない物語としての停滞を受け入れることだろう。

 

 神様は願いました。

 自分の人生もこれぐらい、やり直しが出来たら良かったのにと。

 

 リセット。リセット。

 何処までもリセットして一章の何処かに分岐するのだ。

 

 カチ、カチ、カチ。

 物語が書き変わる。

 秒をやめて、時間がオカシく変わってしまう。

 認識が、認識が、今がなくなる。

 

 「■■さん、手を、■ばし、て!」

 

 世界がそこで途切れました。

 

 ◇

 

 切り抜き、切り抜き。

 

 ジョキジョキ──ジョッキン!

 切り抜いたら張り付けて、そこから開始。

 

 ◇

 

 「これ、飛鳥ちゃんが君に渡しておいてって頼まれたの」

 

 突然、先輩がそんなことを言って僕に黒い箱を渡してきた。

 

 「え?」

 

 真弓さんがいなくなった。

 というより、さっきまで廊下にいた筈なのに何で僕は森にいるんだ?

 

 「じゃあ、確かに渡したから。今度は上手くやるんだよ」

 

 リテイク先輩はそう言うと、森の奥底に行ってしまう。

 

 「え? いや、ちょっ、待って!?」

 

 慌てて後を追おうとも、そこにはもう先輩の姿は消えていた。

 完全に森に取り残されてしまい、僕は呆気にとられてしまうばかりだった。

 

 

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