森に取り残された僕。
熊さんにでも出会ってしまわないか不安です。
どういうことだ?
「えーと、此処は森か?」
虫の鳴き声、鳥の鳴き声、木々が風に靡き葉っぱが擦れる音。
「うーん。……まさに、大樹海! 山賊王に僕はなる!」
虫の鳴き声、鳥の鳴き声、木々が風に靡き葉っぱが擦れる音。
「何やってんだろー、僕ー」
言っててなんだけど、顔が真っ赤になっていく。
恥ずかしい。
羞恥のあまりになんだか悶えて来た。
「いや、本当にさっきからお前、何やってんだ?」
突然、背後から声がかけられる。
「うおっ!!!」
ドテン!
バナナの皮に滑って転ぶみたいに思い切り尻餅をついた。
「ビックリしたぁ…」
尻餅をついた体勢から首だけを後ろに向く。
「えーっと。……何時から見てた?」
怪訝そうな顔をした火鳥がそこにいた。
「バカ面したオメェが、リテイク先輩と森に入ってくとこからかなー」
それって今の恥ずかしいやり取り全部見てたってことだよね!?
穴があったら入りたい気分だよぉ!!!
「んで? お前、本当に何してんの? もしかしてさっき何かリテイク先輩から手渡されてたモノが何かの呪いのアイテムだったとかそういう類のもん貰ったのか? だとしたらバッチィから生徒会長とかにでも押しつけとけよ。嬉嬉としてそいつを持ってリテイク先輩に喧嘩売りに行くだろうからよ」
他人事のように笑う火鳥。
毒づいた彼を相手にするのはなかなかに面倒くさい。
「い、いや、別に良いよ。それより、ごめん。実は帰り道が解んなくなっちゃってさ。良かったら教えてくれない?」
今がどういう状況下は解らないが、自分が知っている場所さえも帰れなくなっている現状に彼が来てくれたことは正に渡りに船だ。
「んあ? アア、良いぜ。お前のバカさ加減も見れたことだしな」
はいはい。
「ありがとー」
心の親友に感謝する。
「明日、学食お前の奢りな!」
前言撤回。どうやら、彼は心の親友ではない只の金の亡者だったらしい。
ちくせう!
◇
森を抜けたら、そこにはいつもの中庭が見えた。
大きな鉄の柱、それを中心にするかのように幾つモノ柱がグニャグニャと交わって建てられたオブジェが有った。
魔法陣とか、そこはかとなく描かれている、魔術的な意味合いでは意味があるのだろうそれは、一般ピーポーな僕にはちんぷんかんぷんでいまいち何がしたいか解らない。
「いつ見ても、これが何の用途で此処に建てられたのか解んないよねー」
気づくとそんなことをボヤく。
でも何故だか、自然とそんな言葉が出てくるのだから不思議だ。
「オレも専門ではないから詳しいことはよく解らんが、名前だけは知ってるぜ」
先導していた火鳥が立ち止まっていた僕を見かねてなのか、そんなことを言い出した。
「へぇ。なんて名前なの?」
何やら自信満々だったので聞いてみることにした。
「お? 珍しいな。お前がそんなことに興味持つだなんてよー」
ケラケラと笑いながらも彼は言葉を続ける。
「『交信の杖』って魔導魔術カジってる連中は言ってたな。何を呼び寄せるだとかは別に興味もなかったんで聞いてなかったが、それだけは流石のオレも覚えてらー。そーいや、一時期、あれを建てる為に多くの生徒の命が犠牲になったとも噂されてたっけ。まあ、オレは真偽は知らねーけど、ゴシップ好きのヤツらが騒ぎ立ててた鬱陶しかったな」
人間嫌いで他者と関わることが好きでない彼でもそのオブジェの名前は有名らしい。
僕自身も今まで興味もなかったから、その手の話題は聞かないようにしていたが、聞いた途端、何故か妙な胸騒ぎがして仕方がなかった。
――――キミは一度失った大切な存在に会えるとしたら手を出してみたいと思わないかい?
心の何処かが引っかかる。
何か、大事なモノを見落としてるような感覚がした。
「そう、なんだ」
かろうじて、そんな言葉を言えた自分を褒めてやりたい。
「ありがとう、助かったよ。明日はちょっと控えめなメニューで頼むね」
これ以上、この場にいるのも何となく気が引けたので此処で火鳥と別れることにした。
手に持った購買で買ったであろうパンの詰め合わせの中から、適当に一つ見繕っては手渡す。
「そいつぁ、お前の態度次第だなー」
あいよ、と返事をする火鳥。
二人して、アハハハと笑い合った。
僕は知らなかった。
全てが出来すぎてることに何の疑問も持たなかったのだ。
◇
始業のチャイムが鳴り響く。
……どうしてか解らないが、どうやらリテイク先輩から黒い箱を貰った日に時間遡行をしたみたいだ。
みたいだという表現を使ったのは、火鳥と別れてから他の生徒に話を聞き回ったことで今日が何日の何時なのかを知れたことが大きかった。
それが分かった僕は、取り合えず教室に戻って前回と同じように授業に出席することにした。
「どういうことだ? 何で、僕にそんな超能力が備わってるんだ? 今まで無かった筈なのに、どうして?」
混乱してボソリとそんなことを呟いてしまう。
いかん、いかん。少し整理しよう。
先ず、真弓さんを助けてから二日後の朝に何故か僕に疑いを掛けてきたのは、どうしてか。
推測は立てれるが、どれも決定的なモノにはなれないので飛ばそう。
黒い箱をあの魔導書が名乗った名前の人物、藤岡飛鳥がリテイク先輩経由で僕に渡したのは何故か。
僕に渡して彼女に何のメリットがあるのか解らんのでこれも飛ばそう。
黒い箱を貰ってからの五日間に瑞希ちゃん(?)が僕を(理由は解らないが)襲ってきたという記憶がある。
さっきまで体験したことが白昼夢とは思えないほどリアルに感じた。
これに関しては僕の主観的意見な為、現実に起こったことかどうかの判別が難しい。
そして何より。
「藤岡飛鳥が無くなってる?」
そう、何故だか持っていた黒の魔導書が無くなってる。
これがどういう意味か分からない。
だが、もしかしたらヤバい状況なのかもしれない。
あの魔導書が無かったら、後、二日後に来るであろう瑞希ちゃんを倒せない。
つまり詰むということだ。
「うおぉお! もしかしなくてもヤバい状況じゃないかー!」
考えたらあまりに状況のヤバさに思わず頭を抱えてしまう。
「どうしたのかね、七瀬くん。授業中ですぞ、静かにしたまえ」
禿の黒スーツ先生が黒板に何やら落書きジミタ記号を書き記していると、そんな僕を見かねて注意した。
「す、すみません」
授業中だというのに声を荒げてしまった僕はその事実に気づくと素直に謝罪した。
「よろしい。授業は真面目に受けるように。君はなんて言ったって、あのお方に選ばれた人間なのだからもっとよく頑張って授業に取り組むように。それでは、授業を再開する」
そう言うと、先生は落書きを描くのを再開した。
ん?
何か可笑しくないか?
あのお方って誰?
というか、選ばれたって何に?
そのことに誰も疑問を持ってるようなこともなく授業は進められていった。
蝶が舞う。
何処かの砂漠で砂嵐が起こるように僕と世界の認識がズレていく。
「キャハハハ! キャハハハ! 本当に嗤える野郎だこと!」
誰かが僕を嘲うのに気づけない。