バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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 今日の午前8時から午後12時に更新すると言った手前、投稿が遅くなってしまい申し訳ございません!
 それでは、どうぞお楽しみ下さい。



009 差し伸べられた手

 

 ワラワラ、赤ん坊ぐらいの大きさの蜘蛛に埋もれる僕。

 グチャグチャ、ムシャムシャしてゴックンされる僕の身体。

 その血肉を食べて、蜘蛛たちは奇声を上げた。

 

 「キキキィイ! キキキキキキキィイイイイ!!!」

 

 止めどなく押し寄せる食欲に身を任せ、蜘蛛の怪物は獲物を骨の髄まで頂いた。

 

 「ザマァねーなぁ! ワッラエルわー!」

 

 聞いたことのない女の嗤い声。

 

 そこで途絶える僕の意識。

 

 ――――ダーレスの黒箱を探しなさい、勇貴さん。

 

 しなくてはならないことが頭の中に木霊してた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これ、飛鳥ちゃんが君に渡しておいてって頼まれたの」

 

 ――――ッハ!?

 

 気がつくと、リテイク先輩からダーレスの黒箱を貰っていた。

 手のひらに収まるほどの蓋が開けられない箱を凝視する。

 その中に入っているであろう何かも解らない。

 それが与える恩恵によって、今のところは助かりもしてる。

 これから先の未来、それが僕を苦しめるモノになるかもしれないことが恐ろしくなった。

 

 そこまで考えていると、不意に先ほどまで体験していたことが頭の中に甦る。

 

 死んだ。死んだ。

 今度ははっきりと自分が殺された。

 

 

 「ぅう、あ?」

 

 無数の蜘蛛に体中を齧られ死ぬ。

 その事実に鳥肌が立って気持ち悪い。

 

 ダーレスの黒箱を手に呆然と突っ立てる僕をリテイク先輩は目を丸くして見つめてる。

 

 生きてる?

 僕、生きてる?

 

 あまりの恐怖に身を震わせ、思わず自分の身体を抱きしめる。

 

 「あー。兎に角、ちゃんと渡したから。まあ、頑張って」

 

 リテイク先輩がそんなことを言って、森の奥に立ち去る。

 僕の心配をする素振りも見せない。

 寧ろ、関わり合うの避けるような態度だった。

 

 へなへなと、腰が抜けて座り込む。

 そうしていると、何だかやるせなさで頭がいっぱいになった。

 

 まるで、そんな僕の姿を嘲り嗤うかのように森の奥底から鳥たちの囀りが聞こえた。

 

 カチカチカチ、そんな幻聴も聞こえてきそうな一度目の死に戻りであった。

 

 ◇

 

 ザー、ザーとノイズが掛かり電波が入り組む。

 それは、彼が知らない出来事。

 それは、彼女も知らない夢の記憶。

 

 「ウェサリウス、それは本当なんだろうな?」

 

 眼鏡の少女。

 存在自体が偽物の彼女は、オレンジの髪の少女に問いかけます。

 

 「勿論。お約束しますわ」

 

 簡潔にその問いに答える様子に何の動揺も見せない姿は、魔女を連想されるほどに妖しく見えた。

 

 大樹のように伸びた鉄の柱を中心に六つの細い柱がグニャグニャと歪み交わった魔導兵器。

 それが無ければ、アタシは生まれなかった。

 これが無ければ、そもそもこの夢の世界は創れなかった。

 

 「私が外なる神を取り込んだ彼女を誘導する。そして貴女は今からお渡します秘策で誘導された彼女から『ダーレスの黒箱』の『強奪』の疑似粒子を回収して頂きたいのですわ。そうして頂けましたら、後は私が貴女のお兄さんのアストラルコードを『創造』し適当な下位幻想に定着させて差し上げますわ」

 

 童話に出てくるような真っ黒いローブから少女は何かを取り出して渡します。

 手のひらサイズの羽の生えた人間。

 目元が安っぽい緑のジュエリーの色をしており、汚い葉っぱのようなグリーンの毛だった髪。

 特に装飾のない純白のワンピースがその可憐さを引き立たせていた。

 キャッキャッと人懐っこく、陽気な少女の笑い声を出すイタズラ好きの妖精がアタシの手のひらにやってきました。

 

 「コイツが?」

 

 渡された一匹の妖精が自由にアタシの周りを飛び回ります。

 妖精らしい陽気さで、だからこそ、魔女の言う秘策というイメージには合わなかった。

 

 「ええ。それは、『欺瞞』の妖精(コード)。怠惰を司る『ダーレスの黒箱』による権能(チート)ですわ。モノがモノなだけに胡散臭く見えるでしょうけど、大丈夫。それの能力は保証致しますわね」

 

 飛び回る妖精はやがて、その行為に飽きたのかアタシの肩にちょこんと座るように腰を落とした。

 精霊の一種なのか、それはあまりにも軽く感じてしまい拍子抜けだった。

 そうして肩に座り込んだその『欺瞞』の妖精(コード)は目元を拭いながら、欠伸をした。

 その様子は、まるで誰かの手のひらで踊るに疲れた道化役者ジミていて何処か気味が悪かった。

 

 「最早、彼女は外なる神に逆に取り込まれようとしている。殺すには惜しい駒ですわ。私たちは、彼との再会を約束した仲なんですもの。そのまま意志を剥奪されるのなら、利用出来るところまでは利用するまでなのですから」

 

 夕刻が夜の始まりを告げようとしていた。

 魔女は悦んだ貌で空を見上げるものだから、アタシもそれに習うように見上げた。

 

 ◇

 

 「こうしていても始まらないか」

 

 もし僕が死に戻りをしているという仮定を前提にするのであれば、きっと彼は今も僕を心配して着いてきてる。

 

 「なあ、もしかして火鳥、近くに居るの!?」

 

 近くで見ているだろう火鳥を大きな声で呼びかけた。

 

 「あん? お前、何でオレが此処に居るって解ったんだよ?」

 

 驚いた火鳥が直ぐ近くの茂みからこっちに近づいてきた。

 

 「それは――――」

 

 正直に答えるかどうか、一瞬、考える。

 もし、火鳥も僕が知らないこの世界の真実とやらを知っていて、それを伝えたら真弓さんと同じように自分の身に何かが起きてしまったらどうしよう?

 

 そう思ったら、本当のことを言うのは止めておこうと躊躇った。

 

 「――――只の感さ」

 

 その時の火鳥の表情はこっちからは茂みに隠れてて見えなかった。

 

 「ハ? また、珍しいな、そんな感がお前さんに働くとはよ。いつも地雷に足を突っ込みに行くぐらい察しが悪いのによぉ」

 

 ハハハと乾いた笑いをしながら、駆け寄ってくる。

 良かった、いつも通りの火鳥だ。

 

 「――――おい、さっきリテイク先輩に何言われたか知らねーけどよ。多分、あの人も悪気があって言った訳じゃねーと思うぜ。あんま気にすんな」

 

 僕の姿を見た火鳥は何かを悟ったように気遣ってきた。

 

 「――――気にするも何も、これと言って何か言われたりしてないよ……。どうしたの?」

 

 「どうしたのも何も、お前、自分の顔がどうなってるのか解ってんの?」

 

 不機嫌そうに喋る火鳥。

 

 「どうなってるも何もどうもしちゃいないよ?」

 

 少しでも虚勢を。

 僕は自分の抱えてる現状をこれ以上、最悪なモノにしたくはなかった。

 何故か、彼には相談したくないなと思えてきた。

 

 「顔、真っ青だぞ」

 

 解らない。

 顔が真っ青になってるから何だって言うんだ。

 体調が優れなくなる時とか人間にはあるだろう?

 

 「あのな、勇貴。オレは人間が嫌いだ」

 

 黙って見ていた火鳥が不意に口を開いた。

 突然、何を言っているんだという自分語りを始めた。

 

 それは、いきなりで何したいんだって思えたけど、悪い気はしなかった。

 

 「誰かから聞いてるかもしれないが、オレはちょいと特殊な魔術の家系でよ。ある特殊な条件で自分の身体を炎に変える能力を持ってんだ」

 

 遠い目をした火鳥。

 それは、何を思い出してなのかは解らない。

 記憶のない僕にしてみれば、その過去を思い返すという行為が羨ましくも思う。

 

 「条件さえ当てはまっていれば、燃え尽きなければそれこそ不死身の身体だ。そりゃあ、他の魔術師のヤツラからしてみれば喉から手が出るほど欲しい能力だ」

 

 人間の醜さを知ってる。人間の愚かさを知っている。

 人間が人間に行う度を超した悪逆を知っている。

 

 「中には何でお前なんかがそんなご大層な能力を持っているんだ、と言いがかりをつけては妬むヤツらがオレを虐めて来たよ。毎日のように暴力を振るわれたし、オレの使ったモノは片っ端から壊されて親に怒られたことも有る。両親はそんな虐められているオレのことを一族の恥さらしだなんて邪険に扱う始末さ。オレはさ、世界には苦しむオレを嘲う連中しか存在しないんだって思っちまってたんだぜ」

 

 幼少期にそんな経験をしたのだろうか。

 それとも、それは今も続いてるのだろうか。

 もし、この夢の世界の中でもそれが続いてるのだとすれば――――。

 

 「だからオレは誰も信用なんてしなかった。善意な振りしてオレを虐げるヤツも居たから。でも、そんな暗い日々を生きてる時にある日、ヒョイとバカがやって来たんだ」

 

 懐かしむような顔。

 もしかしたら、今、こうして誰かと笑っていられるのも、そのバカな人のお陰かもしれない。

 

 「そいつはよ、誇りある騎士がどうたらこうたらと宣いながら、虐められているオレを助けたんだよ。後から理由を聞いても、誇りある騎士がーの一点張りで、そいつがオレを助けたのも騎士道がどうとかの訳の解らないことの一点張りだ」

 

 ん? 騎士?

 

 「……言っとくけど、累じゃないぞ。累よりももっと騎士バカだ」

 

 「え? あー、そうなんだ」

 

 累のような人も居たのは驚きだ。

 

 「――――まあ、累のヤツもそいつに憧れてたのは事実だがな。……って、そんな話はどうでも良いんだ。話が脱線しちまったけどよ、つまり、世の中にはそんな善意の塊みたいな連中もいるってことなんだわ」

 

 火鳥は自前の赤髪を搔きながら、手を差し出してはこう言った。

 

 「え?」

 

 その差し伸べられた手を見つめる。

 

 「つまりなー。あー、ックソ! こういう時にどう言うのか分からねーけど、友達ってのは困ってるダチを助けるモノなんだろ?」

 

 少し恥ずかし気に頬を赤く染めながら、それでも僕を真っすぐに見つめてそんなことを言ったのだ。

 

 「――――あ。アハハ! アハハハハハ!」

 

 思わず、腹を抱えて笑ってしまう。

 お腹が痛くなるぐらいに笑えてしまい、どうしようもない。

 

 「な、何だよ、お前!」

 

 何が可笑しいとムキになる火鳥。

 

 「ごめん! ごめんってば!」

 

 笑いながらも、必死で謝る。

 謝りながらも差し伸べられた手を掴んで、

 

 「そうだよね! あー、そうだった。友達ってそういうもんだったね!」

 

 不器用な優しさに目元の涙を拭うのだった。

 

 

 

 

 

 

 





 次回の更新は8月19日の午前8時から午後12時に予定しております。
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