バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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010 信じてくれるか分かんないんだけどさ

 

 ジジジ、ジジジジジジ。

 

 友達。

 勤務、学校あるいは志などを共にして、同等の相手として交わっている人。友人。

 

 友情。

 共感や信頼の情を抱き合って互いを肯定し合う人間関係、もしくはそういった感情のこと。友達同士の間に生まれる情愛。しかし、それはすべての友達にあるものではなく、自己犠牲ができるほどの友達関係の中に存在する。

 

 Wikipediaの友達、友情の項目、参照。

 

 ジジジ、ザー、ザー。

 

 反吐が出る妄想。

 何度もそうしては、同じことを繰り返す愚者を見つめる男。

 乱雑に切りそろえた青い髪を掻きながら、モニター越しに映る二人を眺めてはそんな感想を抱いた。

 

 「懲りない連中だ。何度そうしたところで貴様はあのお方への供物なのだと何故、理解が出来ないのか。つくづく理解に苦しむ」

 

 カタカタカタ。

 

 白衣の男は取り戻したアクセス権を駆使して、分散していたオートマンに埋め込んだ疑似粒子を向かわせる。

 

 エラー、エラー。

 対象への干渉を受け付けません。

 レン高原より来たりて終焉を待つ蜘蛛より伝言を受信しました。

 確認なされますか?

 

 突如、機械的なガイダンスがコントロールルームに流れた。

 

 「ぐぬぬ。何だと? あの女め、さては気づいてたな」

 

 すぐさま、先ほどまで来訪していた少女の意図に気づいたが、毒を吐くぐらいしか男には出来なかった。

 

 「ふん、まあ良い」

 

 カタカタカタカタ。

 

 レン高原より来たりて終焉を待つ蜘蛛からの伝言を再生します。

 

 モニター一面に広がる、蜘蛛の群。

 その蜘蛛たちの中心に玉座に座る黒いスーツの女。

 

 「ハロォウ、エブリデイ! アズマボーイ、お元気でちゅかー? アタクシ様は元気にやってまーす!」

 

 相変わらずこちらの空気を読まないその態度に、呆れと通り越して関心してしまう振る舞いをしている。

 

 「アズマボーイとしては、テメェは引っ込んでろよーナチャ様ってカンジーなんだろぉうけどさー。こっちもこっちの事情がアルンデェスよぉう」

 

 口調の所々に語尾を長ったらしい巻き舌は相手にすれば相手にするだけ、かんに障るのだった。

 

 「まあ、それもそれもアタクシに譲ってチョーダイなぁあ」

 

 ワガママで、痛々しい言動の女は嗤う。

 

 「っつーことで、ヨロシクゥウ! じゃあーバイバァアイ!!!」

 

 頼みごとという名の一方的な要求。

 完全に自身を格下と見ている女に対し、男は苛立ちながらも何もしない。

 何をするにも自分には何の干渉も出来ないということは外なる神が容認した事実なのだと言い聞かせた。

 

 それが、何も出来ないことへの逃避なのだと悟りながらも彼にはそうすることでしか自己を保管することが出来ないのだ。

 

 ピーガガガ、ピーガガガ!

 

 電波が視聴領域を越えました。

 アトラク=ナクアの権能(チート)の使用を確認。

 これより、静かなるディストピアから悠久なるアポカリプスへと移行致します。

 

 いつか聞いた少女の、機械的なアナウンスがコントロールルーム中に響きわたった。

 

 ◇

 

 それは、宇宙より彼方より来たモノ。

 それは、全ての文明を築く何か。

 それは、自由気ままに世界を滅ぼす存在。

 

 果ての世界に寡黙な男がいる。

 その男は世の中というものが心底嫌いだった。

 思い通りにいかない人生に嫌気がさしていたと言っても過言じゃない。

 

 生きていても良いことがないなんてよくみんな言うけど、それでも彼は割り切って生きてきたつもりだ。

 

 でも、誰も彼を見ちゃいない。

 彼もまた誰も見ちゃいない。

 

 いや、本当は誰もが彼を見ていたし、彼もまた誰もがを見ていた。

 

 ただ、それが一方通行で気づかなかっただけだったのだ。

 

 物語は綴られる。

 後のない自分の気を少しでも晴らす為に。

 八つ当たりでしかない、それでも誰もが好意を以て接してくれるんじゃないかと期待して。

 

 でも、それは果たされない。

 

 何故なら人は見たいものしか見ないのだから。

 

 ◇

 

 不器用に手を差し伸べられた火鳥の手を掴む。

 インテリを思い浮かべる魔術師の手にしてはゴツゴツとした分厚いモノだった。

 温かい、人間の熱が篭ったそれに触れると何だか勇気が湧いてきそうな気持ちになる。

 

 「応よ。つっても、オレも友達は累のヤツぐらいしかいねーんだけどな」

 

 頼りになりそうでならなさそうな言葉。

 それでも場を和まそうと告げられた火鳥の優しさだ。

 

 「僕も。僕も男友達って言えるのは火鳥と累ぐらいしか居ないかな」

 

 「ガハハハッ。知ってる」

 

 他のクラスメイトたちとは、喋っていても何処か溝がある感じがして友達と呼べる間柄でないのはどうやら火鳥から見ても明らかだったらしい。

 

 そんな僕らの不器用さをハリネズミのジレンマという話を思い浮かべた。

 いや、ハリネズミじゃなくヤマアラシが正しい言い方だったかもしれない。

 有名な心理学用語で、ドイツの哲学者が執筆した本の逸話が元になったのだとされている。

 

 冬の寒い日に、ヤマアラシの群れが互いの体をくっつけて温め合おうとしたけど、双方の針毛が刺さり痛くてすぐに離れてしまう。離れると寒いからまた体を寄せ合うけど、やはり針毛が痛くてくっついていられない。ヤマアラシたちはくっついたり離れたりを繰り返し、いい距離を見つけることができた。

 

 確か、そんな内容だった筈だ。

 

 だから、互いに距離を置いてた。

 けれど、距離を詰めなくては分からないこともある。

 

 そして、その距離を詰めなくてはいけない時は、きっと今なんだ。

 

 「多分、信じてくれるか分かんないんだけどさ」

 

 全部は信じてくれないかもしれない。

 自分自身でさえ信じられない状況なのに、他人はもっと疑うことだろう。

 けれど、友達ってのは頼り頼られるものだと、何処かの書物に書いてあった。

 幻想でしかないそれを信じてみるのも、きっと悪くない。

 

 「先ず、リテイク先輩にはこの黒い箱を貰ったんだ――――」

 

 人間嫌いの彼がここまで言ってくれたのだから、寧ろ、今ここで信じなかったら何時、誰かを信じるというのだ。

 

 ◇

 

 「ふーん。この世界が造られた夢の世界ねー」

 

 「信じて、くれるの?」

 

 カチカチ、カチ。

 自分でも話していて荒唐無稽な話だと思った。

 というより、話が飛び飛びで自分でも訳が分からないと思う。

 

 意思がどうとか、自分という存在がみんなとは違う世界から来た人間だとかそんなことを言ってきたら、迷わず病院を勧める自信がある。

 

 「全部を信じられるかと言ったら、信じるなんて出来ねー。だが、お前が何かヤバいことになってるっていうのは伝わった」

 

 火鳥は、友達の話だしな、と言うとケラケラと笑った。

 

 「先ず、世界がどうとか人の意志が操られているとかの話は置いておく。正直、名城の嬢ちゃんが厨二病を発症してるって与太話にしか聞こえねー。問題はお前を襲ったとされてる人食い蜘蛛だろう」

 

 やはり、全部を信じてくれる訳じゃない。

 それでも、少しは信じてくれるっていうのだから有難い話だ。

 

 「うん」

 

 「ここ最近、夜に生徒が数名、行方不明となってる話が出てる。お前を襲ったってさせるのは、この噂の怪物と見て間違いはなさそうだ。オレたちのクラスにはそういう揉め事に関しての相談窓口みてぇなことをしている嬢ちゃんがいるし、上手くいけばそいつが何とかしてくれるかもしれねーしな」

 

 火鳥はそう矢継ぎ早に喋ると、行くぞと言って森から出ようと先に進む。

 

 しかし、相談窓口みたいなことをしている人なんか僕のクラスに居たっけ?

 

 そう疑問に思っても、心当たりが思いつかなかった。

 

 




 次回の更新は8月19日の午後8時から午後23時の間を予定しておりますが、もしかしたら更新が間に合わず8月20日の午前8時から午後12時の間になるかもしれません。
 その時は何卒、ご了承ください。
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