バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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002 君と会う

 

 食堂へ着くと、そこは戦場と化していた。

 

 「「────」」

 

 券売機の前で拳を交え合う者たちがいた。

 おにぎり片手にそれを傍観する者たちもいた。

 だが、傍観にも徹することもなく我先と朝食にありつく者が大半だった。

 

 そんな戦場が腹を透かした生徒たちによって、繰り広げられていた。

 

 「一応、高校なんだけどな、此処」

 

 天音は腕を組み呆れていた。

 一方、僕はそのたわわな胸が強調される良いポーズに涙を流してた。

 

 「そうだねー」

 

 香ばしい匂いが食欲を刺激され、拳を交え合う者の中にクラスメイトがいた気がする。

 うん、そうだ。気のせいに違いない。

 

 居たとしても自ら進んで阿鼻叫喚な戦場に入ったクラスメイトに情けは無用だ。

 

 「もしかして、出遅れた?」

 

 というより、他人事ではなかった。

 この機を逃せば、朝食抜きで授業を受ける羽目になる。

 

 「オー、マイガー!」

 

 そんな未来に膝を抱えて踞ってしまう。

 

 悔しい。

 これでは、人気メニューにありつくどころの話じゃない!

 

 「……嘆くほどのことか?」

 

 隣にいる天音が何か言っているが気にしない。

 今日こそ、僕はあの人気メニュー『ゴールデン・カツサンド』が食べたかったんだ。

 只のカツサンドではない。

 ゴールデンだ。

 あの肉汁がジューシーで、何だかよく分からないマスタードが掛かった朝食限定メニューがこれでは食べられない。

 

 「……こんな場所で何してるんですか、勇貴さん?」

 

 目の前の光景に打ちひしがれていると、後ろから声を掛けられる。

 

 「聞いてくれるのか、名城線!」

 

 聞き覚えのある少女の声に、バッと立ち上がり後ろを向く。

 

 「いや、別に聞きたくないです。私、貴方と違って暇じゃないんで。──だから、邪魔なんで退いて下さい。……それと、私は名城線じゃなくて名城真弓(なしろまゆみ)って名前があると何回言えば解りますか?」

 

 名城真弓。

 それが目の前で僕を蔑む腰まで届く栗色の髪の少女の名前。

 辛辣な言葉を掛けているようで、ちらちらとこちらの様子を伺う姿は今日も可愛い。

 

 「ごめん、ごめん。次から気を付けるよ」

 

 彼女は、天音とは違う意味で目立つ美少女である。

 親しくしてると、クラスの連中に目の敵にされるぐらいの人気者で、僕みたいな一般人には手が届かない高嶺の花という存在だった。

 

 ──というか、ひがみでハブられた時は流石の僕も堪えた。

 素直に嫉妬って怖いなぁと思った。ガクブルだよ!

 

 だから、彼女のことは天音と違い名字で呼ぶことにしてる。

 そうしてるんだけど、目の前の少女はそれが気に入らないらしい。

 それ以前に名城だなんて変わった苗字だから、僕もからかうんだけどね。

 

 「別に、そう変わった苗字じゃないだろ」

 

 何故か心の声が天音に漏れている気がする。

 もしや、遂にテレパシー能力でも開花したのかな?

 

 「口に出してんだよ、馬鹿」

 

 わぁい! 突っ込みありがとう、天音。

 

 「何でもいいから、そこ早く退いてくれませんか?」

 

 ……しかし、何で名城さんは眉間に皺を寄せまくってるんだろう?

 君のその妖精のような翠眼で見つめられると照れちゃうよ。

 

 「ま、待ってくれ、名城線。僕は今、とても大切なことを考えてるんだ!」

 

 冷めたような目で見つめる名城さん。

 彼女からしてみれば、今の僕はシュール以外の何物でもないんだろうけどね。

 

 「だから、私は名城線じゃないと、何度言えば解るんですか!!!」

 

 名城さんの渾身の一撃が繰り出され、パシンと軽快な音が食堂中に響き渡る。

 

 「リア充だ! リア充がいるぞ!」

 「おーい! 此処に我等が宿敵、リア充が現れた!」

 「囲め! 囲んでしまえ、このクソリア充を袋叩きにしてしまえ!!!」

 

 ドッと周囲から集まるハイエナたち。

 しまった、名城さんと話してることに気づかれたようだ!

 

 「あーあ。面倒なことになっちまったな。──しっかし、こいつらも飽きないねぇ。いい加減、七瀬も学習しろよな」

 

 喧騒に呑まれながら、前へ乗り出す形で後ろを見る。

 食堂前で髪を掻き上げる二人の姿は、とても絵になっていた。

 

 「う、うごぉ!」

 

 非モテ共から揉みくちゃにされる。

 未だ呆れた顔をする名城さんを睨む。

 よくも、非モテ男の群れに僕を投げ入れたなと呪詛を振り撒いてやる。

 

 「お、覚えてろよー!」

 

 迫り来る野郎共の洗礼を逃げながら叫ぶ。

 

 「知らないですよぉ、──勇貴さんのバカ!」

 

 張り裂けそうな乙女の嘆きが食堂に響き渡る。

 己を殺さんとばかりに来る男たちからは逃げられそうもない。

 

 「ふん。どうせ、いつもの馬鹿騒ぎだ。直に終わるだろうよ」

 

 面倒だとばかりに券売機に向かう天音の姿は、凛としていた。

 

 ◇

 

 群がる人を押し退けては交渉し、やっとの思いで僕は券売機へたどり着く。

 そうして財布から数枚の硬貨を入れ、適当な食券を券売機から吐き出させた。

 

 ……ああ、これがゲームなら効果音でも流れそうだなぁ。

 

 アホなことを考えつつ、受付のおばちゃんに食券を差し出す。

 数秒後、クリームパンをおばちゃんから渡され、カツカツと飯を頬張る薄情な二人組の席へと向かう。

 

 「うへぇ」

 

 すると、そこには胃もたれしそうな食事風景が展開されていた。

 

 「はふ、はふ」

 

 肉汁が迸る揚げの一品を大きな丼に盛られた思春期ボーイの人気料理の名前は──孫う事なきカツ丼。

 

 「はふ、はふ」

 

 油ギッシュなカツをペロリと平らげるのは、僕らの天音だった。うへぇ。

 

 「なあ、名城。いい加減に朝のアレは止めたらどうだ? 一々面倒で仕方ないぞ」

 

 どんな男よりも漢らしい天音は、対面する少女へ言葉を投げかける。

 

 「そうですか? 元とはと言えば誰かさんの態度に問題があるんです。ええ、本当に悪いのは誰かさんなんですから私は悪くありません。勇貴さんもそう思いますよね?」

 

 必要以上に誰かさんを敵視しする名城さんだったが、僕はそんな彼女よりも目の前の白い居城に釘付けになっていた。

 

 「うへぇ」

 

 胸焼けのする甘い匂いに思わず仰け反る。

 子供なら誰もが好きそうな生クリームで塗り固めた円柱の物体。

 無数のイチゴが施されたそいつの名前は、ケーキと呼ばれる料理である。

 

 ……因みに彼女が食べてるケーキは、間違っても食後に出される代物では決してない。

 パーティで出されるような、ワンホールタイプだ。

 

 それを名城さんは夢中になっている。

 これならば天音の方がまだ食事と呼べる部類だよ。うへぇ。

 

 「アンタの言いたい気持ちは分かるけどよ、アタシには関係のない話だろ、それ。──そもそもアイツと関わるとはそういことになるって端っから分かってんだろうが」

 

 もしかして、今、僕は貶されてる?

 僕って、それくらいの扱いされるレベルだったりする?

 

 ……あれ、可笑しいなぁ。涙で目の前が滲んできた。

 

 「ああ、自覚しろよ」

 

 僕の気持ちを汲み取ったのか、振り向きもせずに天音はそう言った。

 ……うん、彼女は食事に夢中になるような年相応な女の子なのだ。

 

 「負けませんよ、久留里さん」

 

 何故か名城さんはそう言って、手にしたフォークで白い城壁を切り崩す。

 

 きっとそのフワッとした食感が堪らないであろう。

 切り崩したケーキを頬張りながら、そんな訳の解らない宣戦布告をするんだから。

 

 ……こんな風にバチバチと火花を散らすぐらい仲が悪いのなら、一緒に食事などしなければ良いのに。

 

 「七瀬(アンタ)は黙ってろ」

 「勇貴さんは黙っていて下さい」

 

 二人の声が同時に響き渡る。

 かれこれ、僕らの学園生活の朝はこうして迎えたのだった。

 

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