間違えた。間違えた。
アタシはきっと間違えた。
後悔することが多くて、どうしようもない現状に何をすれば良いか解らない。
夢のアタシは間違える。
アタシが夢見たアタシなのにアタシと同じ末路を辿ろうと愚かな選択を選び続ける。
認めない。
アタシは決して認めない。
その事実も。その選択も。その運命も何もかも認めることなんて出来ない。
「あんまりだあんまりだあんまりだ」
誰もいないコントロールルームで独り呟いた。
イ=スの時間干渉の魔術によって、アズマという幻想が此処に居ないことにしてから数分後。
アタシは夢の中で立ち上がる彼を見ては焦る。
障害となる敵は排除した。
アタシと同じような幻想も、|権能(チート)を持っている二人もこの夢には干渉出来ない。
だというのに、アタシの夢を壊そうと下位幻想たちは邪魔をする。
「邪魔だ、邪魔だ、邪魔をするんじゃない!」
そう言いながら、邪魔をする奴らのデータはみんな消去してやった。
一番、プロテクトが固い、名城真弓と自我に固執する如月を真っ先に排除したというのにそれでも彼らは間違える。
この叶うことのなかった奇跡の世界を誰も否定する。
耐えきれなくなったアタシはついに、彼に正体を明かすことにした。
お前の存在は在ってはならないモノだと教えてあげた。
それなのに。
「そう。貴方が先を進めるように。貴方がそれを笑えるように。他の誰でもない貴方の未来を夢見た誰かが私に託した希望なの」
それなのにどうして、立ち上がらせる?
意思のない人形。全てがこちらの意のままに操られるだけのデータ。
パラメータを弄ればどんな人格に早変わりのそんな人間たち。
夢を見た。奇跡を願った。
只、アタシは当たり前の幸福を得ようと現実を足掻いただけ。
それが、この有様。
何て愚かで、醜い存在。憎たらしい。
「――――あんまりだぁ」
地に足がつく。
くしゃくしゃに髪を掻きむしり、どうしようもない現実に涙が出そうになる。
誰もアタシを助けない。
誰もアタシを味方しない。
それがこんなにも悲しい。
「な、何なの!?」
画面越しのアタシ。アタシが創ったもう一人のアタシ。
もしもそんな風に生きれたのならばを考えて作られた夢の自分。
そんな自分もこの夢を可笑しいと認識しだしてる。
この願いは叶わない。叶えてはならない願い。
だとしても届くのならば、目指したって良いだろう?
狂う。狂う。アタシは嫉妬する。
ふざけるなと憤怒する。
「そうだ、兄さんなら何とかしてくれるかもしれない」
間違いだ。
それだけはしてはいけない。
それをしたら、この夢は耐えきれなくなって壊れちゃう。
止めないと。止めないと!
アタシは再び夢の世界に潜ろうとして、そこで気づく。
「な、何だ?」
跳躍、認証不可。
固有魔術、心理情景発動不可。
アクセス権限が解除されていますので使用許諾が下りません。
よって、跳躍出来ません。
機械のガイダンスみたいに少女のアナウンスがコントロールルーム内に響き渡る。
「どういうことだ!?」
モニターに向かって叫ぶ。
キーボードに向かってコードを書き換えようとして。
「――――どういうことも何もそういうことだ」
不意に背後から声を掛けられた。
「――――え?」
後ろを振り返ろうとした。
だが、それは速かった。
抵抗を許さないそれが、そんなアタシの隙を見逃す訳がなかったのだ。
渇いた音。鉄が腹を貫く感触。
突然のことで思考が停止し、それがジャリジャリと音を立てながらアタシの身体に巻き付いた。
瞬きする暇もなくそれがアタシの身体の動きを封じたのはまさに神業と言えるものだったと言えよう。
「隙だらけだぞ、|幻想(アトラク=ナクア)よ。まあ、最もお前は紛い物であるのだから無理もない話か」
ギチギチと身体が鎖に拘束されていく。
「アズマァア!!!」
瞬時に悟る。
コイツはアタシを罠にはめたのだ。
「ふむ。貴様程度が私たちを騙せると思ったか?」
塞がれたない顔でアタシは睨む。
そいつはいつか見た顔の半分を覆い隠した仮面を被っていた。
「残念だったな。コントロール権は我々が奪っておく」
三十センチほどの大きさの杭が空中に現れる。
それが次に何をするのか理解した。
だから、アタシは叫んだ。
「ヤ、ヤメロォオ!!!」
声が嗄れるんじゃないかってぐらい叫んだのだ。
アタシの必死の抵抗も虚しく傍にいた|妖精(コード)を杭が貫いた。
――――ピッギャアアアア!!!
妖精の悲痛の叫びがコントロールルームに響く。
|妖精(タイプ・フェアリー)の|消失(ロスト)が確認されました。
これより、悠久なるアポカリプスが強制解除されます。
聞きなれた少女の声が聞こえ、そこでアタシの意識は一度途絶えるのであった。
◇
掴んでいた|魔術破戒(タイプ・ソード)を離し、その場にいた天音に駆け寄る。
「大丈夫か、天音!?」
想像していたよりも軽い彼女を何度か揺すって、意識の確認をする。
「うぅうう」
そうすると、天音が目を覚まそうと声を上げる。
「良かった! 目を覚まして、本当に良かった!」
今だ焦点が合わない目でこちらを見つめる天音に対して労いの言葉を贈った。
彼女に会ったらどんな顔をすれば良いのだろうと悩んでたのに、倒れている天音の姿を見た時にはそんな考えは何処かに吹っ飛んでしまっていた。
「勇、貴?」
小さな声。
耳を澄まさなければ聞こえないかと思う声量。
「うん、そうだよ。無事で何よりだ」
どうして天音がこんなところで倒れてるだとか、色々な設問をした方が良いのかもしれない。
だが、何故だかこの時はそんなことよりも彼女の無事の方が気になった。
「そっか。アタシ、また能力を使ったんだなぁ」
能力?
「う、うん? それより身体は大丈夫?」
そんな心配する僕に向かって天音はちょっとばかし頬を赤くしながら言う。
「大丈夫よ。まあ、しばらくは無理な動きは出来ないでしょうけど、これぐらいは毎度のことで慣れてるわ。それより、勇貴の方は可笑しいって思わないの?」
何がだろうか?
ひょっとして、今の現状のことだろうか?
「だって、みんなモザイクが掛かったり、変なことを言ったりしてる。挙句の果てに建物中に変な亀裂が入ってたりしてるじゃない!」
力が上手く体に入らないのか、少しふらつきながらも彼女は立ち上がって僕に不安げな顔で詰め寄る。
その姿に、まるで怯えてる子供みたいに感じた。
「もしかして天音もみんなが可笑しくなってるに気づいてるの?」
そんな彼女の姿に目を丸くしながら僕は聞く。
「当たり前じゃない! その様子じゃ勇貴もみんなが可笑しくなってるって気づいてるみたいね?」
「うん、そうだね」
そんな僕の反応に彼女は安心したような顔つきになると、
「じゃあ、情報交換をしましょうか!」
少しだけ活気がある声で元気を取り戻すのだった。
「良いよ」
元気になってくれた彼女を見ると僕はそう返事を返すのであった。
「と言えども。これと言ってアタシが分かってることというか認識出来てることは今のところアタシと勇貴以外の人間はこの異常事態を認知出来てないってことぐらいね」
意気揚々とした天音は悪びれもせず、無邪気に現状がどう認知出来てるのかを話す。
やれ、ノイズが掛かったように他の人たちの顔が見えなくなったとか、さっき口で言っていた通りのことしか分かってないらしい。
「そうなんだ。僕は教室の窓から蜘蛛の化け物が落ちていくのを見かけたから、もしかしたら何か原因がわかるかもって思ってここに来たんだ」
僕がそう言うと天音は何だか、やっぱりと言いたげに誇らしげに胸を張った。
「やっぱり。三階には兄さんが居るもの。実は此処に来たのもアタシ、兄さんなら何とかしてくれるんじゃないかって思って来たの」
僕が此処に来た理由を簡潔に話すと、天音も此処にどうして居るのか話してくれた。
「ってことは、そっかー。勇貴も今、どうしてこうなってるのか分かんないってことね」
残念だなと一言呟きながら、長い赤髪を掻く天音。
「そうなるね。けれど、この先に君の兄さんが居るんだろう?」
天音の兄さんに会えば、何かこの異常事態を何とかしてくれる手掛かりになるんじゃないかと期待する。
「ええ、そうね」
「じゃあ、何はともあれ、今、会いに行く価値はあるさ」
そう言うと、彼女と僕は天音の兄さんが居るとされる教室へと向かうのだった。
次回の更新は8月26日に投稿予定にしておりましたが、あまりにも月姫リメイクが面白く更新が出来ません。
大変申し訳ありません。
月姫サイコー!