さて、それでは前回のあらすじ説明です。
● 目的の教室で死体を積み上げる天音の兄さん、久留里四葉を発見。
突如、四葉が乱心(?)したのか天音を殺そうとしてそれを迎撃し魔術破戒で殺してしまう主人公。
● 謎の彼女が本を読み終えて、何か不吉なことを言ってフェードアウト。
それでは、本編をお楽しみください。
ザー、ザーと雨の音。
暗闇に一人、そこに居る僕。
空っぽの心、満たされない自己愛。
誰も見ない。
誰も期待しない。
その事実から逃げて、夢を見る。
眠っては覚め、また眠っては覚める工程を繰り返す。
愚直にそれをする僕を誰も見向きもしなかった。
現実とはそんなものだ。
いつだって、才能にあふれるヤツにしかスポットライトは当たらない。
成功者とはそういう類の人間のことだ。
手の平を見る。
きっとこの手には拭えない罪がこびり付いてる。
それが嫌で、認められなくて僕は逃げたというのに僕はそれを何度も見てしまう。
「嫌だ。嫌だよぉ」
何が。嫌で。何が、どうして――――。
何処までも暗闇の世界で独り上を見上げる。
果てのない暗闇が続くだけの世界が見えるだけだったけど、誰かが見てくれていることを願ってした。
でも当然、何も見えない。
ザザザ。ジー、ジー。
ザー! ザー!
ノイズが激しくなる。
視界が砂嵐になる。
またチャンネルを変えないと、僕の現実はそれで終わってしまう。
また夢の世界に戻ろうと、僕はまた眠る。
誰かが僕を呼ぶ声など届くことは無かった。
◇
鮮血。血がブシャア、と傷口から吹き出す。
クラクラさせて、グラグラと地を踏めない男を前に僕は突っ立てることしか出来ない。
「イヤァアアアアアアアアアアア!!!」
背後から天音の悲鳴。
その叫びを聞いても何が何だか理解出来ない。
男の顔はモザイクだらけで、吹き飛び裂けて散っていく身体はこの世界が現実でないことを伝えてく。
塵となって消滅しようとする四葉。
それを何とか食い止めようと足掻く四葉。
何故、彼はこんな凶行をしたのか理解が出来ないし、どうして僕はそれを迎え撃つという行動に出たのか解らない。
只、そうしなければならないと思って切り倒した。
また殺した。
また誰かの命を奪った。
人殺し。
敵意を自分に向けられた訳でないというのに、僕はそれを行った。
どうして。
どうしてどうしてどうして、と僕の頭の中の誰かは呟いた。
自分が壊れたオーディオみたいで気持ちが悪かった。
「泣くな、天音」
雨の音。
倒れる誰かは天音に言った。
血だらけで、死にかけだというのに男は言葉を必死で紡ぎだす。
その僅かしかない猶予を消費してまで、彼は誰かに言葉を贈ろうとしていた。
「これで良い。これで良いんだ。オレたちは夢。所詮、叶うことのない幻だ。だから、こんな最期で十分、満足できる。悪かった。こうでもしないとそいつがオレを殺さないだろう?」
呆然と見ている。
突っ立って、見てるだけのでくの坊な僕がそこにいる。
僕の後ろにいた天音はいつの間にか、倒れている男を抱き寄せていた。
「どうして? どうしてそんなことをするの? 解らない。解らないよ、兄さん」
後ろから見ているから天音の表情は見えないけど、泣いてるのがよく分かった。
嗚咽が混じる声だったからよく分かった。
「お前は、そればっかりだなぁ」
ゴホッ。ゴホッと咳き込む彼の身体は消えていく。
身体の下半身はもう無かった。
「でもな、天音。これで良い。これで良いんだよ。こうして死ぬのが運命なんだ。それに逆らっちゃいけない」
死体となる男の手を握る誰か。
雨の音は一層激しくなるばかりだ。
「七瀬勇貴、コントロールルームだ。コントロールルームを目指せ。そこに奴がいる」
カチカチカチ。
誰かが物語に干渉しだす。
ノイズが増して視界がまた壊れていく。
いい加減にこればかりだと文句が言いたくなる。
「奴だ。世界を終わらせる鍵を握る奴が待ってる。鍵はお前がよく知ってるモノだ」
鍵が何なのかは言わない。
けれど、それが何なのかは想像出来た。
「――――え?」
ザー、ザー。
消える。消える。消えていく。
モザイクの頭しか残されていない誰かはそれを僕に伝えた。
「奪われた男。憤怒する人形。怒れ、怒れ、憎むな。止めろ。オレは。オレは! クソ、ダメか。もう消える。嗚呼、消えていく。……駄目だ。いや、良かった。バグだ。バグで、エラーになって良かった。邪魔をして良かった。これで、良い。だから。だから――――」
声だけ響き渡る。
世界が塵となって消えていくように視界がブレる。
「だから、天音、泣くな」
声が途絶える。
グラグラと大地が揺れる。
強い地震が起きてとてもじゃないが立ったままでいられない。
「うわっ!」
崩壊する。
何がって全てが崩れていく。
教室の壁が罅割れていって、パキパキと卵の殻が割れる音がする。
目の前に膝をつく天音に向かって手を伸ばそうとする。
そこで天音がこちらに振り返る。
鼻水と涙でぐしゃぐしゃの顔を向けて、あの天音がするような表情を向けている。
チクタク、チクタク。
秒針を逆さまに回りだす。
いつか見た、巻き戻りが始まる。
落書きの世界を書き直し、神様は再び、トライアンドエラーを綴る。
きっと、この時に誰かの繰り返しは始まった。
報われない願いを求めて足掻く少女が生まれたのだった。
幻想は願う。
存在を許されない自身と死んだ を求める。
そこで僕の意識は逆行する為に一度、閉ざした。
◇
妖精の断末魔。
ピギャア、ピギャアと耳障り。
欺瞞を殺して、次のステップは無理やり始める。
「随分と呆気ないものだったな」
目を細める男。
安心する男は鎖を
その為には不必要だと切り捨てた幻想を再生しなくてはならない。
「しかし、ここまでするとは余程の執念だな」
男は嗤う。けれど嗤われてもいる。
見えない誰か。上に存在する上位種が哀れな愚者を嘲っているだけだ。
そのことに男は気づくことは無い。
だってそれ以上の干渉を男は気づけないように設定されているのだから仕方ない。
「ククク。これで、これで漸くだ」
願望を叶えろ。
序章の幕が上がった。
プロローグを更新する時間がやっと来る。
「始まりを。始まりを開始する。再現の夜を、再現の夜を始めよう」
ノイズが混じる。
約束された勝利を掴め。
愚か者は無様でも立ち上がろうとしている。
夢の中であんなにも殺意を向けられて、それを感じられない哀れな実験体を見つめる。
キュルルル。
テープが逆再生。圧縮されたデータを送り込むのは準備万端。
邪魔者は消した。今度こそ、消した。
順調だ。順調に、邪魔な小娘どもは排除した。
「ククク。さあ、舞台の幕は上がった!」
歓喜する男の名前を知る者は居ない。
その目的も何もかもが書き換えられた愚者はこうしてコントロールルームを掌握することに成功した。
だが、男は忘れている。
徹底的に見逃している。
だが、それで良い。
そうでなくては物語は進まないのだから。
◇
堕ちる。
堕ちる、堕ちる、堕ちては、やがて融けていく。
意識を夢に逃がしてく。
散り散りになった記憶の維持をダーレスの黒箱は与える。
余計なことは考える必要はない。
夢の世界に逃げる僕を誰も見ない。
誰にも見られない。
だから、誰も僕を責めない。
暗闇の夢を見る。
身体の半分が沼に浸かっている自分を誰も助けない。
それで良い。これで良い。こんな夢の世界に浸れるのだから、それで良い筈なのに。
ザザザ。
――――ダーレスの黒箱を探しなさい、勇貴さん。
電波が乱れる。
声が聞こえる。
誰も見向きもしない筈なのに誰かは僕を見てくれてる。
――――貴方が救われるにはそれしかない。先に進むには、それを破戒するしかないのです。
救われない。救われない僕。
いつか。
いつかこんな逃げてる僕にも誰かと一緒に笑えることが出来るのだろうか?
――――大丈夫。貴方ならまたたどり着けます。だって貴方は、私の希望。私のヒーローなんですから。
その問いに誰も答えない。
答えなかったけど、でももう答えてくれているような気がする。
矛盾。
嗚呼、とても矛盾してる。
だというのに、どうして僕は独りになることから逃げだそうとしてるのだろう。
ズブズブ。ズブズブ、沼に堕ちていく。
身体はもう暗闇から抜け出せない。
意識はそこで反転する。
嗚呼、夢が覚めて――――。
ふと目が覚める。
ベットから起き上がると、そこにはいつもの僕の部屋が見える。
モノが散らかった、いつも通りの部屋。
「――――夢?」
何処からが夢なのか。
何が現実で、何が本当で、何が正しいのか解らない。
起き上がったというのに、意識はちっとも休まっていない。
「何なんだ?」
天音の兄さんを殺す夢。天音が僕を憎んで、殺す夢。
知っている人、助けてくれる誰か。助言をくれるだけで存在が消えていく現実。
どれもが現実のようで、それらが夢だったのではないかと疑ってしまう。
「そうだ。あれが全て夢じゃないのなら、持ってるんじゃないか?」
まだあの時間に僕が戻っていないのなら、制服のポケットにしまい込んでる筈だ。
まだ重たい身体を引きずって、ブレザーのポケットにしまい込んだモノを探す。
「有った」
お目当てのそれを取り出す。
黒くて、手の平サイズの罅が入った蓋が開かない箱。
無骨なそれを手に取って、全てが現実だったのだと悟る。
カチカチカチと時計の針が回る音。
まだ朝になっていないのか、カーテン越しの窓から見える景色は暗かった。
時計を見る。
時刻は、まだ五時になったばかりだった。
「今、一体、いつなんだ?」
正確な日付が解らない。
前も蜘蛛に殺されたのは、日付を確認しようとして部屋から出たのが原因だった。
なら、今は油断するべきじゃないと思ったけど、何故だか、中庭に向かわなくていけない気がした。
――――七瀬勇貴、コントロールルームだ。コントロールルームを目指せ。そこに奴がいる。
天音の兄さん、四葉さんが最期に言っていた言葉を思い出す。
そうだ。そこで、鍵を握る男が待っていると言っていた。
だが、今、その奴があの場所にいる保証は無い。
「いや、行こう」
どうしてか今、行かなければいけない。
今、行かなければ会えない気がして仕方ないのだ。
寝巻から制服に着替える。
その一連の動作をするだけなのに何故だか落ち着かない自分。
心が此処に在らずと言った感じだ。
どうにも落ち着かない。
ハヤク、ハヤク行けと本能が叫んでる。
ドアを開ける。
何時だって廊下には灯りが点けられていて、明るかった。
中庭に向かおうとして、そこで気づいた。
前の方に誰か人が立っている。
こちらを待つ誰かは、少女だ。
よく知る少女はそこで立って、走りだそうとする僕を待っていた。
「今日はまた随分と早い時間に起きるんだな」
前の時間の天音とは違う、いつもの天音。
それと同時に僕を殺した天音によく似ている天音が不満げな顔をしている。
「――――おはよう」
知り合いに会ったら挨拶をする。
それなのに、どうしてかそんな言葉を口にするのも億劫に感じている。
「ああ、おはよう。しかし、相変わらず鈍いんだな」
怒ってる。
天音はどうしてか怒ってる。
何がそんなに腹立たしくしてるのか、本当は僕もよく分かってる。
「知ってたんだ。この世界のこと」
本気で誰かを殺したいと思ってる人の顔。
憎悪している少女の想いを知らない振りをしたかったけど、それを許してはくれなさそうだ。
「知ってた。知ってるからなんだって話だけどな」
天音はこちらを殺す気で待ち伏せていた。
部屋から出なければ良かったんじゃないかと思ったが、それでも今、向かわないといけない気がした。
「退いてよ」
イメージする。
これまで通り、敵を殺してきた魔剣を
「――――退くと思う?」
多分、天音はコントロールルームにいる誰かを知ってる。
そうじゃなければ、こうして邪魔をしない。
それが正しい選択なのだと言うことがよく分かった。
「思わない」
悲しい。
ひたすらに悲しい。
何だって僕は彼女に剣を向けなければいけないのか解らない。
「でも、退いて貰わないといけない」
カチカチカチと神様は改竄する。
都合のいい世界へと今も変えていっているのだろうか。
それもこれも確かめるには、コントロールルームへとたどり着かなければならない。
「断る。此処で邪魔をすればアンタは夢を終わらせれない」
いつか見た
でもそれは、本人が望まない願いだ。
死者を死なない為にするだけの天音の身勝手な願望に過ぎない。
「そっか。それもそうだ。なら、やることは決まってる」
構える。
最早、話し合いは終わった。
決断は迷ったら、それこそ最悪な未来しかやって来ない。
そんなことはとうの昔に体験している。
夢の終わりを告げろ。
その剣を向けることは対象の死を意味してる。
構うな、それは相手も理解している。
迷うな、それは天音だって知っている。
さあ、救いを求めて剣を取ろう。
この世界を終わらせるにはそれしかないのだから。
「決まってる? 決まってるですって?」
だと言うのに
誰に聞かせることのなかった決意が吐き出そうとしている。
それを聞き遂げる必要はなかった。
「決まってなんかない。決まってるだなんて可笑しい。そんなの間違ってる!」
地団太を踏む天音。
空気が重くなり、何かが罅割れる音がする。
僕の言葉に天音の何かが気に障ったみたいだ。
無視して、身体の中のスイッチを切り替える。
天音の中にある殺意衝動が爆発寸前でいつ着火しても遅くない。
「間違いじゃない。間違ってなんかいない」
だから、天音の癇癪を突き放す。
駄々をこねるそいつの想いを無視して先を目指す。
在ったことを無かったことにするなんて間違いだと頭の中で理性が訴える。
「間違ってるだって? 間違いじゃない、これは間違いじゃない!
――――だって、あんまりじゃない、あんなのが最期だなんて」
声にもならない悲鳴、叫びが世界に響き渡る。
「お前に殺されて良かったなんて、あんまりじゃないか!」
膨れ上がった殺気が更に膨張するように、争いの火蓋が切って落とされた。
次回の投稿は9月2日を予定しております。
第2章も佳境に入りました。
いやー実に長かった。
ここまで書くのに時間を大分掛けてしまいました。
続く第3章も書き終わるのにどれぐらい掛かるのか想像できません。
作者としては、この『バッドエンド・ガールズ』は全5章で完結させる予定なんですよぉ……。