バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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 昨日投稿すると書いておきながら、投稿が遅れたこと、誠に申し訳ございません。
 前回のあらすじをざっくばらんに説明すると、

 ● 天音と決着!

 ● 中庭に行くとそこにはモブ生徒が交信の杖に行くのを邪魔してくる。
    ↓

   それをよく知る友達二人が助けてくれて、無事に交信の杖から中に入る。

 それでは、本編をお楽しみください。


019 吉と出るか、凶と出るか

 

 カツン。

 暗闇の底へ向かって降りる。

 閉ざされた門を後にして、目指す先に何を求める。

 踏み出す一歩。

 踏み出した一歩。

 その一歩、一歩の一つがとても重い。

 

 ――――カツン。

 階段を一歩を降りる度に見たこともない記憶が蘇る。

 

 誰もいない部屋。

 沈黙が支配する世界。

 独りきりの生活で、悩みは誰にも相談出来ない。

 

 「何で、なんだよ」

 

 ちっぽけなプライド。

 この胸を抉った古傷が疼く。

 

 ――――「大丈夫、大丈夫。コイツはそーいうのしないから」

 

 打ち付けられた心。

 もう痛まない心。

 その傷はもう見なくて良い悪い夢になったのだから。

 

 ――――「そうそう! だーかーらー、こうするのは正しいんだよぉお!」

 

 誰も味方しない。

 僕の心は誰も救わない。

 声がする。

 声たちが聞こえる。

 暴力だ。

 何もかもが無駄であると訴えるそれを前に僕は足を止められない。

 

 ――――「ギャハハハ! ぐぅえ、だって! 口をパクパクさせてやんの、金魚かってーの!」

 

 痛い。

 痛くて痛くて、頭が痛い。

 見たくないモノが見えてくる。

 胸にぽっかりと穴が開いたように虚しさばかりが溢れてく。

 

 ――――「おいおい、止めてやれよー。イテェんだってさ、このグズ言ってるよー」

 

 「何で、こんなことしか思い出せないんだよ」

 

 本当の僕って何だろう?

 本当の記憶って何なんだろう?

 問いかける。

 何度も、何度も心の中で問いかける。

 

 真実は正しい。

 だってそれは本物だから、正しい。

 真実とやらは、本物でとても眩しいものだから、きっと大丈夫。

 この一歩進んだ先に待つ誰かはその正しいってことを何よりも理解していることだ。

 間違いない。

 正しいから正しい。

 たとえ、それが自分が見たくないと閉ざした記憶だろうと僕が進むために必要な希望になると思うから。

 だから、間違ってなんていない。

 

 ――――「ハア、ハア」

 

 息遣いが激しい。呼吸することが困難だ。

 立ち向かおう。

 この夢を築く誰かと。

 立ち上がろう。

 見ない振りして逃げている僕が。

 

 馬鹿げてる。

 馬鹿げた話だ。

 

 ――――「ハア、ハア、ハア、ハア」

 

 胸が苦しい。喉が渇いてカラカラだ。

 どうしようもないことで。

 些細な勘違いで救われなかったとしても、この苦しみから逃れられるのならそれは、仕方のない処置だ。

 だから、この何もかもが嘘っぱちな世界をぶち壊してしまおう。

 

 ――――「やってられないよ」

 

 やってられない。

 それは、知らない記憶の何処かで僕が言っていた言葉。

 そして、それは今、僕が何故か口にした言葉。

 

 ――――「お前なんて死ねば良かったんだ」

 

 想像する。

 背後に警察官が僕を見ている。

 硝子の向こう側にいるよく知る母親が僕に向かって贈った罵声。

 死ねば良い。

 嗚呼、死ねば良かった。

 誰からも必要とされない自分など見向きもしないのだから、そうすれば良かった。

 救われない。

 救われなくて、とても悲しく痛かった。

 何故、自分だけがこんな辛い思いを背負わなくてはならないとは、なんて神様は酷い奴なんだと文句の一つも言いたくなる。

 でも言えなかった。

 神様なんて存在は僕の前に現れなかったからだ。

 

 「こんなことしか、僕には残されてないのかよぉ」

 

 誰の指図もない。誰の意図もそこにはない。

 只、僕が一番に印象的に残った記憶だからでしかない。

 名前よりも大切で、良かった記憶なんかよりも大事なことだったから、この記憶は僕の深層心理の中に残っているだけに過ぎない。

 それが、とても悔しい。

 それが、とても嫌だ。

 こんなことなら、僕のことなんか放っておいて欲しかった。

 

 カツン、カツン。

 暗闇を只管、下りていく。

 螺旋状の階段を下りては、こんな筈ではと後悔する。

 

 ジジジ。

 ノイズだ。ノイズが僕を狂わせる。

 いや、狂わせてなんかいない。

 僕が見たくないと願ったそれを見ない振りで解決させようとしているだけ。

 たったそれだけの思いやりだというのに、何故だか僕はそれを忘れてしまっていた。

 

 ――――「私の名前? ああ、そういえば教えてなかったっけ」

 

 始まりの僕。

 一度目の僕。名前は既に捨てた僕。

 記憶のない僕。

 僕、僕、僕。

 全て、僕がそれを願ったから、こうなった。

 

 いつの間にか頭の中を流れていた記憶が途切れ、見えなくなっていた。

 暗闇の底に着いたみたいで、どうやらこれ以上、下は無いらしい。

 

 ピーガガガ。

 

 灯りが点く。

 真っ暗闇のそこに明るさが取り戻された。

 そこには前に訪れた時と同じような大理石で出来上がった壁と柱で構築された部屋。

 その奥に真弓さんが寝そべっていた、祭壇が在った筈。

 でも、今は違う。

 そこには緑のドアがあった。

 あの時と違う、見たこともない鉄のドア。

 一部屋に続く扉がそこにポツンと備え付けられている。

 

 失った記憶、夢の世界を終わらす鍵、僕が知りたい真実を知る誰かがその先で待っている。

 そんな気がして仕方ない。

 胸が弾む。ドクドクと血液が血脈を通る。

 血が通って、心臓がドクンとポンプの役割を果たして鼓動を鳴らす。

 和太鼓を連想されるビートで脈打つそれを感じながら、奥へと足を進ませる。

 

 ザリ、ザリと足を擦らせ、扉の前に立つ。

 

 ――――奴だ。世界を終わらせる鍵を握る奴が待ってる。鍵はお前がよく知ってるモノだ。

 

 錻力(ブリキ)の手で堅苦しいドアノブを回す。

 ドアからは錆びた鉄の悲鳴が聞こえ、開けた先の光景を僕は見る。

 

 カチカチと画面が幾つもの映像を見せる巨大なモニター。モニターを監視する為に備えられたデスクとチェア。

 監視室。

 その部屋を一言で表現するのならば、そんな言葉が相応しい。

 思えば、コントロールルームと呼ぶと言うのに、部屋の内覧ぐらい想像できるものなのに何故、思い浮かばなかったのだろう。

 まあ、そんなことを考えたところで興味もないし、意味もない。

 

 そんなことより、今は目の前のそいつのことを考える方が先だ。

 

 「ようこそ、ドン・キホーテ。いやはや、関心したものだ。君がコントロールルームへ(ここまで)来てくれて、こちらとしては嬉しいよ」

 

 部屋の巨大モニター前に、行儀よく身構えている青年が一人立っていた。

 何処かでよく見る、ざっくばらんに切り揃えた黒髪の学生服。

 日本人独特の黒目に黄色の肌は健康そのものの色合い。

 鼻立ちは高くもなく、背丈も僕と同じものだと窺える。

 実に鼻につく言い回しをする口は、何処かで見たスマイルを浮かべそうで怖気が走りそうだ。

 

 「――――」

 

 声を聴いて益々、驚きのあまりに口が開く。

 青年の顔はとてもよく似た顔の人物を知っていたから、それも無理はない。

 寧ろ、こんな奇跡みたいな体験は滅多に体験出来ることもない。

 

 「まあ、驚くのは無理もない。オレもそうだったし、そんな反応をするなと言われれば、それは無理ゲーだと言いたい」

 

 薄ら笑いが気持ち悪い。

 わざとらしく咳払いをするのも気持ち悪い。

 呆然とする僕に向かってくるその姿勢の何もかもが吐き気がしてきて悍ましい。

 

 「――――お前は、誰だ?」

 

 後ずさる。

 その姿に徐々に恐怖が湧いて来る。

 得体の知れない存在に背筋がゾッとして身体が思うように機能しない。

 

 「聞きたい? オレの名前を?」

 

 アハハハと笑い声が部屋中に響き渡った。

 

 幻。

 これは、夢。

 現実として認識してるそれも、きっと誰かが生み出した妄想に過ぎないのは理解している。

 知識として理解出来るのと理性を抑えられるかは別物だ。

 それに対して、何の感情も隔たりも無くすのは果てしなく不可能に近い。

 

 「誰なんだ?」

 

 壊れたオーディオが、実に僕に相応しい。

 同じ問答を繰り返すしかないのだから、それもやむを得ない。

 そして男がそう言うように、そうなってしまっても仕方がないと納得もする。

 

 「良いだろう。教えてあげようじゃーないか。まあ、その為に君は此処に来たのだから、当然、オレには教える義務があるんだろーしね」

 

 カツン。

 静寂に響く乾いた足音。

 息遣いが聞こえる距離、そこまで来て漸く、彼は足を止めた。

 三日月のように歪んだ口元。

 スマイルゼロ円、良い響きだ。

 

 「六花(むつのはな)。六つの花と書いて六花で、傑作の優れるという漢字の意味合いで傑とした名前。それが今のオレの名前だし、それ以上の名前を持ち合わせていない。

  ――――もっとも、君が知りたいのはそんなことじゃーないだろうけど」

 

 惜しむべくもなく、躊躇うこともなく、涙など当然流すこともなく、気味悪い笑みを張り付けた顔は毎朝鏡で映る僕の顔だった。

 

 





 次回の投稿は9月5日を予定しております。
 毎日投稿出来たらしたいですが、やる気が続かない。というより、続きが上手く書けない。筆が止まる。
 このままエタって終わることだけは絶対にしたくないので、頑張ります。
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