バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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第3章:終結螺旋
001 目覚める


 ズブズブ、ズブズブと底なし沼に堕ちていく。

 手を伸ばしても無意味。

 足をバタバタして足掻こうと無駄。

 暗い底に身体が堕ちていく。

 

 独りきり。寂しさと空しさも感じることさえ出来ない虚無の世界。

 そこに僕は一人取り残されてた。

 誰も助けになんか来ない絶望感がヒシヒシと心を蝕んでいく。

 夢だ。

 また夢だ。

 いや、夢じゃない。

 これこそが現実なんだと理解する。

 

 ジジジ。

 ザー! ザー!

 電波。電波。電波。

 砂嵐。ノイズ。雑音であり戯れ言。

 聞くに堪えない懇願が耳障りで他の声が聞こえない。

 

 見渡す。

 見渡しても、そこが真っ暗闇であることは変わらない。

 手を掲げる。

 その手に握るそれが何なのかを理解しろ。

 

 ドクン。

 心臓が鼓動する。

 ドクン、ドクン。

 血液を全身に送り込もうとそのポンプの役割を果たす。

 

 目を見張れ。

 その手にイメージするのは、いつだってあらゆる幻想を断ってきた僕だけのチートだ。

 

 ――――「勇貴さん、手を伸ばして!」

 

 夢から覚めたら、おはようを言う時間だ。

 その為には、この暗闇が邪魔である。

 

 現実化(リアルブート)した光輝く魔剣を振るう。

 そうすると、瞬く間も暗闇がかき消された。

 目に映ってきたのは、よく知る教室。

 机も、椅子も、黒板もロッカーも繰り返す度に何度もお世話になった。

 時間を確認。

 時計の場所は黒板の近くに立てかけられているからよく解る。

 時刻は、昼の二時を回っていた。

 

 「さーて、吉と出るか、凶と出るか」

 

 自分の未来だ。自分の力で切り開く。

 

 そう決意すると同時に電子音。

 ――――休息を終えるチャイムが校舎中に響きわたる。

 

 それはきっと、僕の意識が目覚めたことを知らせる合図。

 

 「キキキィイイ!!!」

 

 耳障りな雑音がやってくる。

 生徒の格好をしてやってくる。

 B級映画に出てきそうなゾンビとなって僕の目の前に現れた。

 

 さて、アズマとやらに文句を言おう。

 言いたいことは全部、そいつにぶちまけてやれば良い。

 

 「コントロールルームへ行こう」

 

 何となく、そこにアズマって野郎がいる気がする。

 

 ――――さあ、決着の時だ!

 

 ◇

 

 カチカチカチ。

 夢が始まる。

 夢みたいな現実に実験体の意識が戻るのを理解した。

 再構築しなくては。

 

 「愚者は愚者らしく寝ていれば良いのだ」

 

 あのお方を復活させなくては我らが悲願が成就しない。

 故に、邪魔だ。

 あの男の意識は邪魔な存在となった。

 そんなリソースはあのお方復活に必要ない。

 

 ズキン。

 頭が痛い。

 不必要な情報が脳を駆け回る。

 オートマンが殺された。ウェザリウスと  がこっちを見下ろして何か言っている。

 殺した。殺した。あいつらが私たちを殺した。

 不必要な記憶だ。

 あのお方が復活なされたら、この意味不明な記憶を消去して貰おう。

 そうだ。そうだ。

 私の王国を築こう。私だけの平和な楽園を作り上げれば、きっと上手くいく。

 死のない世界。争いが生まれない世界。誰も恨まないユートピア。

 望もう。

 望もう。

 望めば何だって、この夢の世界は実現してくれる。

 その為に再現をするべきだ。

 再現の夜を構築し、現実化(リアルブート)すれば全てが実現される。

 

 死体の山が詰まれてく。

 幾つもの骸を築いては屍の山に埋もれてく。

 理性が。理性が。理性が邪魔だ。

 本能で生きろ、七瀬勇貴。

 そうすれば、お前が望む夢が手に入るのだ。

 

 「その為には、邪魔だ」

 

 脳裏を霞む、グルグル回るメモリーを無視して私は愚者を待つ。

 コントロールルーム。

 私一人だけの城塞。

 さあ、来るが良い、ドンキ・ホーテ。

 お前の意志の(コード)を奪えば、再現の夜は完成するのだから。

 

 ◇

 

 純白の廊下。

 ガタガタと揺れる音。

 右も左も理性を失った学生たちで賑わっている。

 

 「キ、ィキキキイ!」

 

 ウッキャア、叫びたくなるゾンビの群。

 ブレザーを纏うだけで生気を失った亡者たちが襲ってくる。

 

 「邪魔、だ!」

 

 斬り裂く行為に迷いなんかない。

 有ったらそれこそ、今度はこっちがゾンビの仲間入りだ。

 

 「キリがない!」

 

 ゴキブリのようにうじゃうじゃ湧いてくるそれに嫌気が指す。

 二進も三進もいかない、味方もいない援軍も期待できない絶体絶命。

 それが僕の現状だし、それが僕の最大限の実力だ。

 どうしようもない圧倒的な力の差。

 それを前にしてるというのに諦める気が更々ない。

 

 こんな熱血漢ではなかったのに、一体、僕はどうしてこんなにも熱くなれるのだろう。

 

 「キィイ、ィキキキ!!!」

 

 キーキーしか言語を喋れないゾンビが隙をついてやってくる。

 腐乱臭はしないもののビジュアル的にグロテスクなそれに触れられるだけでも勘弁して欲しい。

 

 「うおっ! ラアアア!!!」

 

 向かってくるゾンビに一歩下がって、叩きつけるように刃を振り落とす。

 血しぶきは上がらない。

 塵となって消滅するゾンビと聞くに堪えない断末魔がこの場を支配した。

 夢に出てきそうだ。

 

 これでは、中庭までたどり着くに時間が掛かりそうだ。

 廊下を進む。

 ゾンビとなった生徒たちを切り倒して前へ進んでいく。

 

 そこで、気づく。

 不意に気づいたと表現するべきか。

 中庭に行くための廊下の先に光る何かが見える。

 

 「何だ、あれ?」

 

 目を凝らす。

 モブたちをかき分けて進んでいく時、それは現れた。

 

 ガシャン。

 鉄が擦れる悲鳴。重い何かが歩く。

 西洋の鎧を纏った騎士。

 空気が重くなる。

 それが日の光を反射してやってくる。

 こちらに向かってゆっくりと進むそれを僕は足を止めて見るしか出来なかった。

 

 銀のフルプレートは目映い光を一点に集めて、両刃の剣を携えている。

 

 ガシャン。

 一歩進む度にそれが可笑しいことに気づく。

 兜を被っており、顔は見えないのにその騎士が女性なのではないかと連想される。

 可笑しい。

 だって、その鎧姿だけでは女性を象徴するようなイメージが全く以て持てないからだ。

 

 ガシャン!

 十メートルはない。

 お互いの得物は届かない。

 だというのに、それの狂気が空気を通して伝わった。

 

 ゴクリ。

 息を呑む。

 会ってはいけない相手と遭遇してしまった感じ。

 蛇に睨まれた蛙のようで動けない。

 

 素顔は全く分からない。

 相手が笑っているのかも気配が分からない。

 なのに、それが見えるまで一切の気配も感じ取れなかった。

 

 剣の柄を強く握る。

 多分、次に動いたらそれが合図で騎士は襲ってくるだろう。

 それほどまでの殺気を纏わせてこちらの隙を突かない筈がない。

 騎士と呼んで良いのか分からないが、その姿はまさに騎士と呼ばれるものなのだからそうするべきだと本能が叫んでる。

 

 「――――ほう、仕掛けないのか」

 

 聞いたこともない女の声。

 凛としたその声は、女性のものだということが分かる。

 イメージと合致するその声色に瞬くも驚きが隠せない。

 

 「君は、誰だ?」

 

 微かに疑問を口にする。

 やっとのことで絞り出せたそれを噛みしめるかのように騎士は返答した。

 

 「誰か、か。名前など、とうに捨てた。捨てたが。ウム、そうだな。敢えて名乗るのであれば、こう名乗るのが筋であろう」

 

 一瞬。

 虹色に光る刃を振るい、こちらへと構える騎士。

 その隙のない構えを見て、自分よりも遙かに格上の相手だということが伝わった。

 

 構える剣の刀身に写るこちらの姿。

 不安げな僕の顔が見える。

 当たり前だ。

 これから自分が殺されるってのにそれを理解出来ないヤツはどうかしてる。

 

 「廃騎士(はいきし)。人は(わたし)のことを廃騎士と呼んでいる」

 

 全身フルプレートの鎧の騎士がそう名乗ると、大気が歪む。

 真夏でもない筈なのに、蜃気楼が見えたのだ。

 その歪んだ空間を見続けようとしたら、頭が痛くなる。

 ズキズキと痛みを訴え、平衡感覚が狂っていく。

 

 そして、そんな隙を待っていたかのように廃騎士がほくそ笑んだ。

 

 「――――では、参る」

 

 静寂を破る確かな女の声。

 無慈悲な殺人予告が告げられて。

 

 廃騎士は僕へと一撃を振るうべく跳躍した。

 

 ――――ガシャン!

 

 廃騎士が跳ぶ。

 走り幅跳びでも高く跳ぶには助走が必要なのは生物として常識だ。

 だが、そんな常識をモノともせず廃騎士の一歩は四メートルの間合いを縮めた。

 

 戦慄が走る。

 目の前がショートする。

 火花の幻覚が起こり、神経がスパークした。

 

 「――――っな!」

 

 息がつまる。

 深呼吸するなんて余裕はない。

 こちらは構えなどしていない絶好のタイミング。

 仕掛けてきた。

 廃騎士はこちらに剣を構える余裕さえ与えずに切り込んできたのだから当然だ。

 

 僕を仕留める猶予は三秒と時間は掛からない。

 その刀身が僕の首をはねるまで一秒を切った。

 タイムロス。

 臆病な僕には決して許してはいけない致命的な瞬間。

 

 結果は見えた。

 コンマ数秒の時が永遠に感じ始める。

 

 グラリと視界が歪む気がして、それは唐突にやってきた。

 

 「なーに、やってるんだか」

 

 久しぶりの感覚。

 懐かしい声。

 消去された筈の麗しの姫の姿が連想される。

 

 首が掴まれる。

 次に僕の身体がごみを捨てるかのようにその身が在らぬ方向へと投げ出された。

 投げ飛ばされ、柱にぶつかる五秒前で吹き飛ばされる中でそれが見えた。

 おとぎ話に出てきそうなお姫様。

 優雅にスカートを翻し、フワリと僕と廃騎士の間に入る女子生徒。

 サラサラとした紫の髪が風に靡き、透き通る白い肌が日の光を浴びてその幻想的な美しさを引き立たせる。

 そんな少女の姿に思わず魅入った。

 少女の美貌を一番象徴させる紅いダイヤの瞳が更にそれを助長させている。

 

 見る者を魅了させる絶対的上位者の貫禄を垣間見た瞬間だった。

 

 嗚呼、真っ昼間だというのに僕を助けに来てくれた。

 絶対絶命の大ピンチに彼女が助けに来てくれたことが、今はとても嬉しい。

 火花が起こる。

 刃が交える時に生じるそれが、その上位者によってもたらせたのだ。

 

 四秒が経過。

 

 「っぐぅ!」

 

 永遠でもないそれを確かめ、衝撃に苦痛を漏らす。

 殺されるよりもマシだが、痛いモノは痛いのだから加減して欲しいなと思う。

 

 粉塵が巻き起こる。

 突風で彼女の紫の髪が靡いた。

 

 「やはり来たか。吸血姫」

 

 重圧。膨れ上がる殺気。膨大なそれを前にこちらに腰を突きだしては、前かがみになる少女の姿が見れた。

 その小柄な身体の何処に僕を投げ飛ばせる力があるのか疑問だ。

 

 「ええ、来てあげたわよ、廃騎士さん」

 

 嘗て真祖と畏れられた吸血姫、リテイク・ラヴィブロンツがやってきた。

 その瞳を真っ赤なダイヤのように輝かせて、廃騎士に向かって睨むと人差し指を突きだしては微笑んだ。

 

 




 次回の投稿は9月6日を予定しております。
 ハーメルンでは人気がないこの作品ですが、なろうの方では一部の方ですが読者がついてきてる感じがしてとても嬉しいが複雑なこの頃。
 うぅ、ハーメルンとなろうとではルビの変換作業が面倒ですが、出来る限り同時投稿すると決めているのでしてます。
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