バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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003 遭遇

 

 朝食を済ませた僕は授業までの時間を教室で過ごすことにした。

 

 「皆さん、おはようございます。点呼を取りますので──」

 

 やがて、頭のハゲた男の先生が来て点呼を取る。

 そのままクラス全員の名前を呼び終えると、黒板に手際よく魔方陣を描き出した。

 

 「この術式は、六つの魂を宿らせた箱という形を用いて成されるものであり──」

 

 それについて、ハゲの先生が熱弁するというのが此処──第二共環(だいにきょうかん)高等魔術学園の授業スタイルだ。

 魔術である、魔術。

 思春期の男子高校生なら一度でも患ったかもしれない厨二心(ちゅうにごころ)をくすぐるアレを真面目に取り組んでいるのだ。

 

 そして、僕は何故かそこの生徒をしている。

 

 さて、感の良い皆さんならお気づきだろうが僕自身は魔術師でもなければ、特別な能力を宿した超人でもない只の一般人である。

 何なら一ヶ月前までの記憶しか持ち合わせていなかったりする。……うん、普通に考えてヤバいと思う。

 だってこれ、ハードモード待ったなしのデスゲームにヒモ無しバンジージャンプしてる現状だよ。警察とか何してんのよ。

 

 ──と、まあそんな記憶喪失という特別そうなアイデンティティーを患った僕なんだけど更に驚愕の事実がある。

 実は、僕がどうやってこの学園に来たのか誰も知らないんだって。

 

 解る。

 解るよ、ハッキリ言って異常だ。

 そう、そんな僕に対する学園の待遇は普通の生徒と比較して可笑しいと言える。

 ……まあ、百歩譲って、どんな生徒であろうと受け入れる心優しいアットホームな学園だと過程してもね。

 

 学園という一社会を自称するんだから、学生の一人が居なくなったぐらいで普通は授業を中断したりしないだろ?

 魔術ってのはそれぐらい過保護になるものだから仕方ないって意見もある?

 でもそれ、僕がサボりを決行した時だけなんだよ。しかもクラス一同で捜索するという徹底ぶり。

 まるで何処かの国の王様みたいな、いや実験動物のような扱いって言った方が良いのかもしれない。

 

 ……本当、どうして僕には記憶がないんだろう?

 解らない。

 何をどう考えても記憶を探す進展が見つからないんだ。

 

 ────「私、待ってますから」

 

 「──っ」

 

 ああ、また酷い頭痛がする。

 過去を思い出そうとする度、決まって誰かの言葉が頭に響く。

 

 何処かで聞いたような優しい少女の声。

 影が掛かって顔は見えないが、大事な人ような気がするのに、それを覆い隠すような痛みが忘れようとする。

 

 人は過去に生きてないと言うけれど、別に未来へ向かって生きている訳でもない。

 所詮、今を縋って生きるだけの存在に過ぎないのに──。

 

 「仮想世界の魔術での記憶の引継を司るもので有りまして──」

 

 そんな僕に目も暮れず、ハゲの先生は授業を続けてる。

 

 ……クソったれ。

 

 ◇

 

 キーンコーン、カーンコーン。

 

 放送室から昼休憩のチャイムが鳴り響く。

 腹を空かせる狼となった生徒たちは我先に獲物を求め、食堂へと足を運ばせる。

 此処での飯の調達は、主に食堂か校舎から離れた位置にある売店で買うかの二択しかない。

 しかし今朝のことを考えると、食堂という選択肢に躊躇してしまう。

 

 けど売店で昼飯を調達するのも、いまいち出向く気分にはなれない。

 

 「仕方ない」

 

 なので、昼飯にありつけなくなってしまうのを避けるため、誰にも見つからないようにそそくさと教室を抜け出すことにした。

 トラブルを警戒しながら廊下を進んでると、

 

 「ねえ、ちょっと良いかな?」

 

 ──誰かが僕の肩を叩いた。

 

 一瞬、ドキリとする。

 

 後ろを振り返ると、そこには僕よりも背の低い少女が笑顔で立っていた。

 

 短く切り揃えた癖のある紫色の髪。

 露出した部分から見える肌は、血の巡りが見えそうなぐらい透き通った白。

 こちらを覗く真っ赤な瞳は、紅いダイアのようだ。

 うん?

 それらを揃えた、しかも気品ある貴族のような少女の立ち振舞いは何処と無く覚えがあるぞ?

 

 「──あ」

 

 ピシッ!

 途端に背筋が凍り、その場で固まる。

 

 唐突な話をしよう。

 この第二共環高等魔術学園には、関わってはいけない人が七人いる。

 それは、『吸血鬼』、『魔女』、『女郎蜘蛛』、『人形男』、『道化師』、『廃騎士』、『囁き屋』と呼ばれており。

 関わると碌な目に合わないとされた、学園最強の実力者。

 何の能力を持たない人間が関わったら殺されてしまうぐらいの危険度を持ち合わせてるのだ。

 

 いきなり、そんなことを説明してんのかって?

 それは目の前にいる女の子が、正にその中にいる『吸血鬼』の二つ名をしているからだ。

 

 吸血鬼こと吸血姫、リテイク・ラヴィブロンツ。

 

 それが今、僕に溢れんばかりの微笑みを浮かべている。

 

 ホラーだ。

 というより、彼女は僕に何の用があるんだろうか?

 

 「あ、あのー、差し出がましいのですが、リ、リテイク先輩は僕に何の用ですか?」

 

 何かの弾みで殺されるのはゴメンなので、恐る恐るそんな質問を口にする。

 

 「アハハ! 驚いた? まあ、こうして私から声を掛けるのもこれが初めてな訳だし、その反応も仕方ないっちゃ仕方ないんだけどね。でも、そんなに怯えられたらちょっとヘコんじゃうなー」

 

 事情を知らなければコロリと騙されそうな笑顔。

 その微笑みで一体、何人もの人間が騙されたというのだろうか。

 

 「いえ、驚いたと言えば驚きはしましたけど、そんなに驚きはしなかったですね。そ、それでワタクシメに何の用でござりますでしょうか!?」

 

 心臓が張り裂けそうになるほど驚いたなどと、とてもじゃないが僕は言えなかった。

 

 「へぇー」

 

 あら、そうと言いたげにリテイク先輩はそんな僕の横に立つと訝しげに目を細める。

 

 ……正直に言えば最初、彼女が吸血鬼だなんて言われても信じれなかった。

 だって、彼女からは吸血鬼らしい牙も夜の眷属だっていうオーラも感じられない。

 何処かのボンボン貴族のお嬢様だって言われた方がまだ真実味が増す。

 そんな彼女が一度、学園の生徒会長と死闘を繰り広げてる現場に僕は出会したことがある。

 その常人とは言えない力を目の当たりにしてから、彼女が吸血鬼だと言うことを信じるようになった。

 だから、天音や名城さんと比べると幼く見える外見だが、彼女は第二共環高等魔術学園の上位者なのだから警戒するに越したことはない。

 

 「まあ、良いわ」

 

 訝しげに目を細めた彼女はそう言うと、僕にまた微笑んだ。

 

 「別にそんな大したことじゃないわよ。七瀬君とは一度こうしてお話をしてみたかっただけなんだー」

 

 学園最強の上位者である彼女が、只のしがない記憶喪失者に何の話がしたいのか意図が掴めない。

 

 「──?」

 

 この時にした彼女の微笑が何だか不吉なように思えた。

 

 「これあげるからさ。ちょっと場所変えない?」

 

 おにぎりが数個入った袋を目の前にかざすとそんなことを提案してきた。

 

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