バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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002 赤い糸に結ばれて

 

 ノイズが乱れる。

 虚空の狭間。世界のゴミ箱。収束する光たち。

 救われない。

 嘆くそれは弱々しい。

 いつだって弱者は弱者でしかない。

 夢を見る。

 夢しか見れない。

 

 ギリギリと噛みしめる。

 苦難を。苦痛を。苦渋の選択を強いられた。

 

 六つの光は星になった。

 星のようになれないそれが希望になろうとその身を光へと変えたのは神様は知っている。

 

 嘲笑う。

 滑稽だ。お前らは所詮、一キャラでしかないのだ。

 罵声だ。

 酷い戯れ言だと罵っては、ノイズをまき散らす。

 コントロールルームのモニターにはきっとこの神様は映らない。

 

 醜い男。身勝手な人間。嫌悪されるべき存在。

 それが、外なる神と呼ばれた愚者の正体だ。

 

 「ふ、ふざけんじゃない!」

 

 見下されてる。

 下位幻想と堕ちた奴らにまで見下されている事実にムシャクシャしてる。

 男は憤怒した。

 それをしなくては彼の気は収まらなかった。

 テメェらにはお似合いの最期があると言って結末に終止符を打った。

 

 そうだ。それで良い。

 所詮、そいつらはテキストデータを変更することなんて出来やしない。

 外はお前にとって現実だ。

 現実でないこの中ならばお前は神様でいられる。

 外に出る必要なんかない。

 お前は無敵だ。

 

 ――――でも。

 

 なのに、どうしてか。

 男の心は満たされないでいる。

 空っぽだ。空しくて空しくて、時折涙が出てくるのを感じてる。

 

 「なんだよぉ。何なんだよ、その目は!」

 

 グワングワン、意識が浮上する。

 脳が震えて、画面に亀裂が入る。

 美しいものは何処にもない。

 空白の名前も埋められない。

 

 少女の花嫁姿をそっと抱き寄せる男は何も変わらない。

 

 「そんな奴見たって、何も変わらねぇえんだよ! どうせ今度だって、アイツラの思惑が外れて廃棄処分だ!」

 

 手を伸ばし続けてる少女の肩を揺らす。

 そんなものを見るなと怒鳴りつける様は醜くて仕方ない。

 ブヨブヨの腹周りは惨めさを滲みだしてることを理解してない。

 

 「だから、こっち見ろよぉ。オレを。オレを、愛してよぉ」

 

 少女には届かない。

 服を幾ら変えても、ステータスをイジっても、幻想を増やしたところで何も変わらない。

 

 神様は残酷だ。

 醜い男に何の救いもお与えにならない。

 不細工は嫉妬する。

 その運命を憎悪する。

 だから、男は喉を掻きむしって、暗闇に堕ちている青年をいびるのだ。

 

 「お前なんかに! お前なんかに彼女を渡してなるものか!」

 

 足蹴にする。憎悪する。

 嫌う。嫌う。嫌う。

 醜く嫉妬しても、それが叶わないと恋慕であると理解しようが男は諦めれない。

 自分だけのヒロインを創作しても、自分の心の隙間を埋めてくれない。

 

 それでも、少女は手を伸ばし続けた。

 

 ◇

 

 「やはり、こうなる運命だったか」

 

 廃騎士の鋭い眼光。威圧される僕。

 しかし、リテイク先輩は何の重みも感じられないのかあっけらかんとしている。

 

 「ええ、こうなる運命だったのでしょう」

 

 髪を掻く姿は、妖しく魔的な魅力がある。

 誰もがその仕草に心臓が掴まされる。

 つまるところハートキャッチ。好感度はぐんぐん上がったこと間違いなし。

 まさに吸血姫。

 おとぎ話に出てくるような美貌をひけらかして、まるで舞踏会に出席するような足取りで廃騎士の方へ歩いてく。

 

 カツン、カツン。

 何処かのシンデレラを連想される足音。

 軽快なステップとも取れる間合いの詰め方。

 

 「それで、どうするのかしら?」

 

 強者と強者がぶつかった。

 出会ってしまったら、どうなるかなんて知りもしない。

 リテイク先輩は余裕の笑みを浮かべては立ち止まり、上品にスカートの端を持ち上げて一礼した。

 

 「どうするもこうもあるまい」

 

 ガシャン。

 重装備。鎧が音を立てて軋む。

 後一歩、リテイク先輩が近づけば殺し合うぞと威嚇するように廃騎士からの殺気が強くなる。

 

 「あら? それは、どうしてかしら?」

 

 首を傾げて卑しいモノを見るかのような目をするリテイク先輩。

 可笑しいな、今は昼時なのに先輩が余裕の表情だぞ。

 

 「こうして貴殿を炙り出せたのだ。戦果を求めるのならばそれで充分というものではないか」

 

 構えた刀身が日の光を反射させて煌めく。

 血に飢えた獣を容赦なく狩ろうとする姿はまさに強者の貫禄を見せていた。

 圧倒的なカリスマ。

 驕りのないその研ぎ澄まされた斬撃を放たんとする威圧が半端ない。

 寒気がする。

 あまりの膨大な殺気に身が縮む思いだ。

 

 「だから?」

 

 だが、リテイク・ラヴィブロンツは怯まない。

 いつだって気高い上位者としての矜持があるのだろうか。

 一礼から一歩進むことに何の迷いもなかった。

 

 ガシャン!

 廃騎士の姿がブレる。

 陽炎でも見ていたのかその姿が掻き消えたかと思ったら、その両刃の得物を容赦なく先輩の胸元へと振り落としていた。

 コンマ一秒の反射神経。

 それは、まさに神業。

 高速の中の光速。光の速さを越えたと言わんばかりの神懸かり的な早業。

 あの重い鎧で瞬きの暇も与えない身軽さこそがその騎士を強者足らんとしていた。

 

 ――――だが。

 

 「油断したわね、廃騎士」

 

 力を以て能力で制するのが魔術を享受する者たちの常識だったことを忘れていなければの話だ。

 

 リテイク・ラヴィブロンツが踏みしめた地に魔法陣が浮かび上がる。

 それは、廃騎士が先輩に切りかかろうと地に足をつけてから直ぐのことだった。

 否、それが起動キーだったのかもしれない。

 その魔法陣が起動する為の必要動作が廃騎士がその場に足をつけるということだったのだ。

 

 瞬く暇もない。

 その魔法陣から光が発せられると、すぐさまに廃騎士はその光によって身柄を拘束される。

 

 「――――ほう」

 

 振り落とされる刃は止まる。

 神業であるその一撃を攻略した瞬間だった。

 リテイク・ラヴィブロンツ。

 この第二共環高等学園で真祖の吸血鬼として恐れられる上位者に君臨する者。

 

 その絶対的なまでの実力を以て、廃騎士の動きを封じるのであった。

 

 ◇

 

 画面が切り替わる。

 終わりのない悪夢がリピートされる。

 続きを求めて巻き戻っても結果は同じ。

 夢を見る。

 夢が見る。

 夢に見入られて、意識が堕ちる。

 暗闇は封じられた。

 次なる手で、バグを処理しようと校生プログラムを向かわせる。

 

 ジジジ!

 ノイズ。雑音。亀裂が生じて、校生プログラムの一部が崩壊する。

 キキキと奇怪な声を上げるそれを後目に魔術師は術式を起動させた。

 

 「再現の夜だ。再現の夜を始めよう」

 

 リピートする。壊れたオーディオになるそれは最早、冷静な判断が出来ないでくの坊と化した。

 杭が現れる。コントロールルームのモニターに突き刺さる。

 

 「僕は、『でく』ではない!」

 

 酷い八つ当たり。

 子供に戻っているぞ、アズマ。

 

 「ウルサイ!」

 

 暴れる。暴れる。暴れては、地団太を踏む。

 子供だ。

 大きな子供がそこにいる。

 

 「そうだ! そうすれば良いんだ!」

 

 一頻りそうしていると、思いついたと言わんばかりに魔術師は叫びだした。

 

 校生プログラム如きでは愚者は止まらない。

 止められる訳がなかった。

 だったら、他の上位幻想を使ってしまえば良かったんだ。

 

 こちらへと向かってくる愚者の姿を見て、魔術師はほくそ笑む。

 停止コマンドを解除して、最強の上位幻想の眠りを覚ます。

 浮上する。

 浮上せよ。

 起動を確認。

 認証パスをスキップし、邪魔者の排除を任命する。

 

 「そうだぁ。そうだ、そうしろ。そうでなくっちゃ、始まらないだろうが!」

 

 癇癪。

 いい大人がしていいとは言い難い行動だ。

 

 「良いんだよぉ。勝てば良いんだ。結果が全てだ!」

 

 気づかない。

 魔術師はやはり気づかない。

 思考が誘導されていることにも気づかない。

 所詮は子供だ。

 まだ十一歳になったばかりの子供に何の期待をしていたのだろうか。

 

 「さあ、目覚めろ。――――廃騎士よ!」

 

 滑稽だ。あまりにも滑稽だ。

 最早、そのあり方は埋め込まれた呪詛、道化のあり方そのものだ。

 もう少し思慮がある天才だと思っていたが仕方ない。

 

 神様は嗤う。

 そうだ。こうなる運命が正しい。

 面白可笑しく、チープになれよ、幻想共。

 幾らお前らが意志がある人間だとホザきようがその事実は変わらねぇんだからさ。

 

 不衛生な髪を掻き上げて、手にしたコーラを飲む男の姿を誰も見ては居なかった。

 

 神様、神様。

 どうかお願いします。

 この愚か者たちに制裁を下さいな。

 

 幕が上がった。

 懺悔の時間だ。

 

 不細工な男をほくそ笑む少女の姿は何処にもなかった。

 

 ◇

 

 綺麗な光。

 希望の光だと誰かが言った。

 六つの光が一つに収束して、やがて一振りの剣となった。

 

 あらゆる幻想を断つその光はチートだといえよう。

 

 「綺麗だ」

 

 少年は夢を見る。

 意志あるモノに生まれたのならばせめて自分の意志で生きてみたかったから。

 幻想も眠る。

 騎士として憧れた人が再び、夢の世界へ降り立ったのを確認した。

 

 「うん。そうでなくっちゃ」

 

 ノイズに侵された身体。

 今はまだアズマが夢を管理している。

 危なくなったら手を貸そう。

 

 「大丈夫さ」

 

 なんせ、彼は僕の親友だ。

 これしきりのことは何度も見た。

 なら、今度もきっと乗り越えてみせる。

 今までだってそうして来れたんだから。

 

 アクセス権はまだ手に出来てない。

 天音にだってチャンスが貰えたんだ。

 それなら貪欲に行動してる自分に外なる神が手を貸さない理由がない。

 だから、我慢する。

 今はまだ動く時じゃない。

 

 ガキン!

 眠り姫が呼び覚ます。

 冷たい殺気を身に纏い、その重い鎧を起きあがらせる。

 

 起動開始。

 廃騎士が目覚めて、世界は音を立てて現実へと浸食を果たす。

 

 直ぐ近くで同じように眠っていた姫の瞼が開いていくのを感じながら、彼もまた夢の続きに戻るのであった。

 

 ◇

 

 ギチギチ。

 音を立てて抵抗の意志を見せる廃騎士。

 魔法陣がどういう原理かは知らないが、廃騎士は束縛をモノともしないと言わんばかりにその眼光を鋭くする。

 

 「――――まだ、動けるっていうの?」

 

 思わずそんな言葉を漏らしてしまう。

 

 ――――が。

 

 「無理に決まってるでしょ」

 

 その疑問を即座に否定するリテイク先輩。

 

 「でも、スゲー睨んでますよ、廃騎士さん」

 

 「それしか出来ないからしてるんでしょうね」

 

 いつの間にか僕の隣にいるリテイク先輩。

 何故、彼女が僕に力を貸してくれるのかは理由は不明だ。

 

 「あのね、七瀬君。君の考えてることは大体の上位幻想には筒抜けになってるの」

 

 ハア。

 なんか、いつぞやに聞いた台詞だ。

 

 「プライバシーの侵害とかそういうモラルはないんですかねー」

 

 そんな僕の言葉に対して吸血姫は呆れながらこう言った。

 

 「アハハハハ。ある訳ないでしょ」

 

 実に清々しい一言だった。

 

 空はまだお天道様が昇ってる。

 お星様はお見えになってなんかいなかった。

 





 次回の投稿は9月7日を予定しております。
 さあ、物語も中盤となって来ました。
 この作品、読まれてるのかはっきり解らないし、人気ないんだなと思うこの頃。
 でも、絶対完結はしてやるという強い意思を以て製作して行こうと思います!
 頑張るぞ!
 因みに作者は月姫だと秋葉と琥珀さんが好きです。
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