バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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008 いつだって彼が起こしてくれた

 

 「いあ! いあ! はすたあ! はすたあ、くふあやく、ぶるぐとむ。ぶぐとらぐるん、ぶるぐとむ、あい! あい! はすたあ!」

 

 異星の蝙蝠(ビヤーキー)を召喚する呪文を詠唱する。

 何が楽しくてこんなことをしているのだろう。

 僕は意味が解らなくなる。

 誰もが真面目に異星の蝙蝠(ビヤーキー)を召喚しようと躍起になっている。

 異星の蝙蝠(ビヤーキー)

 聞く話によると、彼らは外なる神の一柱の一つ、黄色の王ハスターに仕える悪魔。

 彼らは、二メートルにも及ぶ大きさの蝙蝠のような見た目をしているとされている。

 されているという曖昧な描写なのは、この学園においての召喚成功率が極めて少ないからだそうだ。

 何でそんなものを召喚する講義をしてるんだと疑問が浮かぶが、どうやら、異星の蝙蝠(ビヤーキー)を召喚出来る人材を学園側が見極めるという実験のようなものだと言うのが有力な説としてみんな噂してる。

 

 「いあ! いあ! はすたあ! はすたあ、くふあやく、ぶるぐとむ。ぶぐとらぐるん、ぶるぐとむ、あい! あい! はすたあ!」

 

 何度も詠唱する呪文。

 僕も本日で十回も詠唱してるが、成功などする訳もなく不発で終わっている。

 まあ、成功自体が稀だって話だし気を落とす必要もないのだが。

 しかし、仮に成功したらとんでもない破格の待遇が待っているとされているのだから狙わない手はないだろう。

 一攫千金も夢ではない。

 

 「いあ! いあ! はすたあ! はすたあ、くふあやく、ぶるぐとむ。ぶぐとらぐるん、ぶるぐとむ、あい! あい! はすたあ!」

 

 うーん、この詠唱を声が嗄れるまで先生たちはやらせるつもりなのかな?

 呪文を詠唱するだけでなく、ちゃんと魔力自体も魔法陣に向かって込めているのでそれ相応の疲れがくる。

 当然、僕にそんな魔力はない。

 あるにはあるらしいが、凄く少ないらしい。

 本当に一般人に毛が生えたぐらいの魔力量で、魔術の才能はないと担任の教師のお墨付きだ。

 

 「疲れるんですけど。早く休みたいなー」

 

 思わず愚痴を口にする。

 教師に気づかれてないのが幸いだ。

 

 「いあ! いあ! はすたあ! はすたあ、くふあやく、ぶるぐとむ。ぶぐとらぐるん、ぶるぐとむ、あい! あい! はすたあ!」

 

 嗚呼、本当に憂鬱だ。

 才能のなさがこんなにもマジマジと見せつけられるのだから、憂鬱になるのも無理もない。

 そう言えば、異星の蝙蝠(ビヤーキー)を召喚した成功例って誰だったっけ?

 確か、知ってる人だったと思うんだけど、それすらも忘れてしまっている。

 ……クラスメイトの誰かだったような気がするんだけどなぁ。

 

 キンコーン、カンコーン。

 唐突に授業終了のチャイムが鳴る。

 グラウンドから校舎に備え付けられた大きな時計を見ても、まだ授業が終わる時間帯ではない。

 故障かな?

 みんな一堂に首を傾げてる。

 異星の蝙蝠(ビヤーキー)の召喚魔術を担当するおばさん先生が口を開く。

 

 「なるほど、そういうことですか」

 

 何がなるほどなのだろう、意味が解らない。

 

 「それでは、本日の授業はこれで終わりです。皆さん気を付けてご帰宅ください」

 

 何やら焦ったような顔つきで、おばさん先生がそう言うと、校舎へと戻っていった。

 トラブルかな?

 

 「ウッシャアアア! 授業終わったぁあ!!!」

 

 生徒一同、大合唱。

 そりゃあ、あんな退屈で疲れるだけの授業が終わったんだ、喜ぶのも無理もない。

 けど、何だかみんな自棄に大袈裟だ。

 何だ、この後、何かのイベントでもやるのかな?

 

 「そりゃあ、やるとも!」

 

 後ろから累が声を掛けて来た。

 

 

 「――――うわっ!」

 

 ビックリした。

 ビックリして思わず仰け反ってしまったじゃないか!

 

 「吃驚したよ、累。いきなり背後に立って大声出さないでよー」

 

 累に注意する。

 

 「ん? あーゴメン、ゴメン。悪かったよ。それより、この後やるイベントなんだけどさ、一緒に見に行かない?」

 

 ん?

 この後、やるイベントって何だ?

 

 「もしかして、また忘れちゃったの? もー、ユーキは相変わらず、忘れん坊なんだからさ」

 

 累に言われたくない。

 というより周りの生徒たちの視線が僕らに集中してるような気がする。

 何だ? そんなに僕ら、集中されるようなことしてる?

 

 「だって、本当のことじゃないか? ユーキが忘れん坊なのは今に始まったことじゃないでしょ」

 

 周りの生徒たちの中に火鳥が何か言いたげな顔して見つめてる。

 

 「うぅう。そりゃあ、そうだけどさ。でも、そう何度だって言わなくても良いでしょう?」

 

 堪らず、口答えをしてしまう。

 

 「ううん。ユーキには何度だって言わなきゃダメなんだよ。何度だって言わなきゃ、伝わらないんだ。何度も忘れさせられてるんだから、思い出させないといけないだろう?」

 

 ピキリと何かが割れる。

 

 「ん? 忘れさせられてる?」

 

 聞かなくても良いことだ。

 聞いてはならないことだ。

 

 「そうだよ。キミが忘れさせられてる。それは、キミ自身が望んでやってることじゃないにしろ、キミが何度も忘れてしまってるんだから仕方ないことだ」

 

 歯車が回る。周囲の目が冷たくなる。

 空気が重くなり、それをしてはならないような気がする。

 

 「ね、ねえ、累、一旦、話するの止めない? なんか、みんなの視線が集まってるんだけど……」

 

 視線に耐えかねて、僕は累に話を止めさせようとする。

 

 「止めない。だって、これはキミだけの問題じゃないから」

 

 累は冷たく、僕の提案を突っぱねた。

 いつの間にか。累の手には剣が握られている。

 

 「思い出すんだ。キミがキミ自身を思い出さなきゃ、この夢は覚めない。覚めてくればきゃ、ボクらは永遠にこのまま夢の世界に縛られ続けちゃう。そんなのは嫌だ。そんなのはボクはゴメンだ」

 

 意思を持つ一人の人間が抗う為の(いし)を持つ。

 途端に周囲の生徒たちが騒めき出す。

 騒がしいことこの上ない。

 耳障りで仕方ない。

 何より、累の言葉は自分勝手だ。

 

 「ボクはゴメンだって? 何がゴメンなんだよ?」

 

 その累の言いぶりに、僕はムキになってしまい聞き返す。

 

 「アア、ゴメンだよ。ボクは一生、幻想なんてモノをやりたいだなんて思わない。ボクだって人間だ。例え、この身体が誰かに造られたモノだったとしても、この意思が設定されたものだったとしても、この感情は間違いなくボクが今、思ってる感情なんだから。それが上から目線で好き放題弄り回されるだなんて、ボクは納得なんて出来やしない」

 

 彼は何のために自由を求めるのだろう。

 どうしてそうまでして、その意思を持ったを気にする必要があるのだ?

 そんなものを持ったところで良いことなんか一つもないというのに、どうしてそこまで拘る?

 

 「拘るさ。だって自分のことだから。自分がやりたいって思って進みたいのに、他人の身勝手でそれを阻まれてる。誰かの我が儘でどうしてボクたちが不幸にならなくちゃならない!」

 

 累は叫ぶ。

 周囲の生徒たちは口々に彼を呪った。

 誰も彼もそんな累の抵抗に対し、罵声を浴びせだす。

 その罵声が何を言ってるのか、何故だか聞き取れない。

 頭が痛い。

 割れるように痛くて、どうしようないほど目が眩む。

 いつだって、僕は真面にそれを直視してなかった。

 直視出来ないと言い訳をして、目の前のことから逃げていただけだった。

 

 そりゃあ、あの時意思(コード)現実化(リアルブート)出来なかった筈だ。

 

 「嫌だ! そんなのは嫌だ! だってボクは生きてんだ! 自分の意志で生きてんだ! どうしてボクがそれを奪われなくちゃいけない!」

 

 叫び続ける。

 それが許されることなら、彼の望みを叶えてあげたいと思う。

 だって、僕はそんな彼にいつだって助けられて来たんだから。

 そうしてあげることの何がいけないんだ?

 

 「要らないのなら頂戴! その意思(コード)をボクに渡してよ!」

 

 手を差し出す累。

 その手を取って、懐に入れたこれを渡してあげれば彼の願いは叶う。

 たったそれだけ。

 それだけで簡単にそいつは手放せる。

 

 ――――だと言うのに。

 

 ジジジ。

 ――――そう。貴方が先を進めるように。貴方がそれを笑えるように。他の誰でもない貴方の未来を夢見た誰かが私に託した希望なの。

 

 自分の意志で生きたいと願った愚か者の懇願を切り捨てる理由が頭に過った。

 

 「あ」

 

 痛い。

 痛い、痛い、痛い。

 とても頭が痛くて、胸の奥底が締め付けられていく。

 

 「あ、ああ、あ。ぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 思い出していく。

 記憶が蘇る。

 封をして鍵を掛けたその意思が再び冷たくなった僕の心に熱を与えてくる。

 

 累の何とも言えない顔が見えてくる。

 けれど、それを無視してでも僕にはやらなくてはいけないことがある。

 

 ――――ダーレスの黒箱を探しなさい、勇貴さん。

 

 夕暮れの廊下。

 日が沈む間近で真弓さんとの会話が思い出す。

 

 ――――貴方が救われるにはそれしかない。先に進むには、それを破戒するしかないのです。

 

 切り捨てなければいけない願い。

 手と手を取り合って掴み取った機会(チャンス)をもう一度、取るべきだ。

 焦りだす生徒たちは、最早、その顔が正常な人間の顔を維持できないでいる。

 ゾンビだ。

 周囲の人間はみんな、体を腐らせたゾンビとなっていた。

 

 ――――大丈夫。貴方ならまたたどり着けます。だって貴方は、私の希望。私のヒーローなんですから。

 

 幸福の椅子取りゲーム。

 いつだって勝者はその少ない席を奪い合う遊戯。

 茶番だ。

 そして、今、目の前の騎士は僕の邪魔をしてる。

 

 ハア、ハアと息遣いが荒くなる。

 

 「そう。ボクにはくれないんだ」

 

 そんな僕の姿を残念そうに顔を背ける累。

 心なしか嬉しそうな彼は少し顔をうつ向かせては声を押し殺す。

 

 「そうだよね。そりゃあ、くれる訳ないか」

 

 ギリリと歯ぎしりする音。

 キキキ、と騒ぎ出すゾンビたち。

 まだかまだかと合図を待ちわびているようだ。

 

  ――――意志(コード)の再確認。魔術破戒(タイプ·ソード)起動(コード)を認証しました。これより、魔術破戒(タイプ·ソード)現実化(リアルブート)を開始します。

 

 脳内に直接響き渡る、聞き覚えのある少女の機械的なアナウンス。

 構えるのは、その手に握られた無骨な得物。

 音声ガイダンスによって集った光で構築されるアストラルコードの産物でその場を一閃する。

 

 衝撃が走る。

 目の前の累の身体に亀裂が入って、その姿が影となって散っていく。

 

 「ごめん、累。――――ありがとう」

 

 斬りつけられたというのに影となった親友はそれを笑った。

 

 「アハハ。今更、何言ってんのさ」

 

 幻影となってそれは消えていく。

 そうして、それが合図なのか知らないがゾンビたちが一斉に僕へと群がった。

 

 「さあ失せろ、幻想。邪魔だ!」

 

 それを僕は未来を掴み取るために斬り捨てた。

 誰の思惑があるだとか知ったことじゃない、僕は僕がやりたいようにやるだけだ。

 

 今、運命を打ち勝つ為の戦いの幕が上がった。

 

 




 次回の投稿は9月10日を予定しております。尚、作者は9月11日から9月15日まで仕事が多忙を極める為、更新が出来なくなると思われます。予めよろしくお願い致します。
 それから、もうそろそろでなろうの方のこの作品のユニークPVが1000人を突破するかもしれない事実に作者は驚きが隠せません。というか、素直に嬉しいです。ですので、突破した時、こちらの方にも記念に短編でも上げたいと思いますので、皆さん、どうかお楽しみ下さい。
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